物語において悪役は必ず死ななければいけない

悪魔

「待ってたよ」
柱に寄りかかっていた彼が、私に声をかけた。
「よくもまぁ、のこのことやってこれたもんだ。どういう気持ちでここまで来た?うん?」
私は何も答えない。答えることはない。私は彼のもとへと駆け出し、ナイフで切りかかった。
「俺が黙って攻撃を食らうと思うか?」
彼は寸前でそれをかわし、私の耳元で囁いた。
次の瞬間、彼の攻撃が私の体を貫いていた。

真っ暗闇の中で、淡く光る小さな星がある。これはセーブポイントだ。
私が死んでしまっても、この星に触れた場所からやり直せる。
私は何度も何度もやり直してここに来た。今更後悔はない。

「待ってたよ」
柱に寄りかかった彼が、私に声をかけた。
そこからのやりとりは知っている。彼が話し終わると同時に、私は駆け出し、さっきと同じようにナイフで切りかかる。
彼は寸前でそれをかわし、私の胸を胸をめがけて攻撃する。もちろん私も交わす。
「!!」
彼が驚いているところにすかさず切りかかるが、それも交わされる。
「…驚いたな。お前はそうとう躍起になっているらしい。そんなに俺を殺したいか?殺した先に何が待つかも知らずに」
知ったことか。私はナイフを強く握りしめ、切りかかる。
「…物語において、悪は必ずやられる。最後に勝つのはヒーローだけだ」
彼は私の攻撃を淡々とかわしながら言う。
「だが、考えてほしい。何をもって悪と呼ぶのか」
私も彼の攻撃を寸前でかわしながら攻撃し続ける。
「俺はお前に、数々の同胞を殺された。だがお前は、ここにいた俺の仲間に何も奪われていない。お前は俺たちを勝手に悪とみなし、そうしてナイフを振り続けている」
何も聞こえない。聞きたくない。ナイフを振るたびに、私の手から滴る血が、彼の顔や服を汚す。
「もうやめよう。俺はこの世界のシステムをよく理解している。
「 今 こ う し て 、 ナ イ フ を 振 る お 前 は 、何 人 目 の お 前 な ん だ ? 」
その言葉を最後に、彼の攻撃が私の体をバラバラに吹っ飛ばした。

勇者

「待ってたよ」
俺は彼女にそう言った。
「さぁ、御託はいらない。始めようか」
その言葉と共に、彼女は俺に切りかかってきた。容易な攻撃だが、しっかりと殺意が籠っている。

もう何回彼女を殺したんだろう。
彼女は“やりなおす”たびに私の攻撃を避けれるようになり、懐に近づいてきた。
だが、やられるわけにはいけない。
物語において悪は必ず死ななければいけないからだ。
我々からすれば彼女が悪。我らの同胞を無差別に屠る無法者だ。
そんな奴を生かしちゃいけない。和解など、できない。

「待ってたよ」
俺は彼女が“やりなおす”たびにそう言う。

物語において悪役は必ず死ななければいけない

物語において悪役は必ず死ななければいけない

「なぜ悪は倒されなければいけない。屠ることが悪なのであれば、お前もたくさん屠ってきただろうに」

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-10-09

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