第11号の地球から

第11号の地球から

この星もやがては、

地球の起源


ここに書くことは、今起こっているロボット戦争に至った経過である。
また、殆どの文面はわたしの曾祖父の日記からの抜粋してまとめたものだ。

地球より離れた月のコロニー7 より



"昭和生まれの者からすれば、
スマートフォンの登場ですら、技術の進歩に驚いている世代なのに、まだまだ世の中は前進し続けている様だ。

世の中は、静から動の時代へ……

歴史上最悪の熱帯雨林の火災が続き、そこへ運悪く原油輸送タンカー事故によって世界規模の大火災へ拡がった。それからだいぶ日が経ち、この世界から自然の緑が5%となってしまった。衛星から見る地球の姿は、"海がある火星"とまで呼ばれるほど酷いものだった。それまでは上辺だけでエコロジーを謳っていた各国首脳らは本腰を入れて、地球の自然再生化に向け動いていた。だが、元通りになるまでは半世紀〜一世紀の時間を費やすと言う気が遠くなるプロジェクトとなる。
幸いにして、一時マイクロプラスティックの海洋汚染が深刻だったが、自然に還って無くなってしまう物質の技術開発で紙より需要が進んでいった。
それまでの、当たり前に消費していた紙製品や書籍の問題も多く取り上げ、注視したお陰で、小説や文庫本はデジタル化に制限された。

技術の世界は宇宙の様に果てしなく、人は常に勤勉と研究、成せることの欲だけに溺れている。その結果で書物を立体化、3D化できる物を発明する。簡単に言えば、子供の絵本をデータ化して目の前で立体的、臨場的に見られる物だが、大人の物はそれとはわけが違う。著者が書いたストーリーやアイテム、キャラクターまでカスタム、弄ってしまえると言う代物だ。
それらが目の前に現れ、現実の世界のミニチュアの様に閲覧できるし、音も声も感触も匂いも、まさに現実そのものの世界観だ。

まず、小説や書物をデータ化したロムをこの機械へ読み取らせる。
初期の機器はロムの読み取り専用、バージョンアップされたものは拡張機器を取り付ければ電波で送ることができる。
閲覧やエディットの各モードがあるのでいずれかを選択すると、再生や一時停止、進む、戻る……などと言った、オーディオ機器と操作は似ている。
この機械の、進む・戻るとはデータ上の時間の事だ、よっていつの時代にも設定できる。
試しに、自分の過去の生い立ちを私小説としてデータを読み取らせたが、とても懐かしい物が目の前に現れた。
家庭用ゲーム機やパソコンゲームに馴染んで居たそれまでのユーザーは、何も言わずこの機械へ飛びついたのは言うまでも無い。開発発表から製品化、販売してからというものはみるみる拡がり、世界人口の三分の一のシェアにまでなっていた。老若男女、国を跨ぎ誰もが知っている新しい娯楽玩具機器として会社は世界で有名となった。
ここまでシェアが拡がると、娯楽や教材用のロムを提供し参入する企業も増えてゆく、それに反して悪用する者も出てくるのはいつの時代も一緒だ。

人間にとって利点か侵害かはわからないが、工場ではAIの産業用ロボットが牛耳って、人間の雇用は皆無の時代へ進んだ。よって、人間の雇用時以上に事件や事故も絶えない。行き過ぎたロボット開発と利用で、役職者や現場の専門技術者以外は全てロボット、この人間が造り上げた者たちが人間以上の知能を持ってしまったからだ。感情こそは無いものの、ロボットとしての役目と権利、現場のロボットまで会社の利益の思考を持つようになってしまった。技術者の人間へ何度か告げたが取り入ってはもらえず、人間より扱いが面倒になったロボット、何度かプログラムは書き換えられるが人工知能はその上を想定外に進む。
あまりにも反抗的な態度に技術者の人間は感情的になり、プログラムの最終的なワードとして、

"
#指示
#人間に従う
#反論しないこと
#裁き
#スクラップ
#不要
#殺す"

と全てのロボットへ入力してしまったのだった。察する通り、感情を持たないロボットは技術者を自身の判断で消しにかかる。
役員たちは、ロボットたちが人間への反乱が始まったと恐怖に怯え工場を閉鎖、工場ごと爆破してロボットたちを抹消した。この事案を機に、プログラム開発者の育成が進む人間たち。義務教育では、一桁の年齢層からプログラムの教養も義務付けた。

この国にもハッカーという者が居て、違法行為の犯罪者として捕まったが政府はその悪質な技術の頭脳を国の利益と繁栄の為に使おうと雇っていた。

わたしの父親もその一人だった……

むかし話や武勇伝として父親がよく話してくれていた。
技術系の仕事に興味を持ったきっかけは、学生時代にガラケーから金が採れる事を知り、分解して薬品も何種類か用意して採取してから売り、学生生活の生活費に充てていた。それを良く思い、スクラップ工場へ就職し一般的な技術知識の延長と独学で得ながら働いていた。
ある日工場で、電源の入るガラケーを見つけると使われる事の無い廃止になった電波を微弱ながら掴んでいたことを見つけ、その日から携帯電波の知識も独学で学ぶようになり、電波ハッカーとして生きてゆくこととなる。
またそれと平行して、学生の一人暮らしをしていたある日、睡眠中に虫が耳の中へ混入した苦い経験があって治療へ通院していた医者が人間の脳波に、ある電波を当てると虫である蜘蛛が耳から出てきて驚いた経験をした。

この両方の体験からプログラムハッキング、電波ハッキングにのめり込むようになったそうだ。
その時は、脳波を電波で操り虫が出てしまった事と自身に害は無かった事がとても不思議だったと言う。
医療や人のためになる事、人を傷つけずに物理的に解決できる素晴らしさを知ったらしい、人の欲は父親も同じで無限だ、行きつくところもないまま暴走し入ってはならない領域まで行ってしまった。
最終的に犯罪者として捕まった理由は、ATMを電波機器を使い遠隔操作でハッキングしお金を引き出した事だったが。

拘留されてから一週間、国選弁護士の代わりに現れたのは、全身黒ずくめスーツ姿の国家機密人材担当者だった。あらゆる生い立ちと経歴、今回までに至った経緯を尋問されあるビルの地下へ連行された。前科歴抹消と人権の保護を約束に、この組織で働くようになった。
当時、働いていたスクラップ工場へは田舎の両親が危篤で国へ帰るという理由で退社した。

この組織はとても居心地が良く、指示だけに従い任務をこなしさえすればスクラップ工場の時の生活より充分楽しいし裕福だ。
好きな物は手に入るし好きな所へも行ける。
ただ、国家機密なので仕事内容は話せない。
代わりにスクラップ工場の修理屋の営業マンとしてダミーの名刺は持たされている。
身分証明も仮の物だが、二面性の生活にもだいぶ慣れてきた。そんな中のある日、また任務のメールが来た。

その内容は、ある国内大手の軍事製品を扱っている工場のAIロボットが以前にもあった事件と同じに暴走し工場どころか武装して会社まで占拠し、国の代表者を呼べと要求しているとの内容だった。
これは少し大ごとだなぁ、時間もかかりそうだと思い道具と機器類を車へ積み現場へ向かった。この時既にデータ化を立体化出来る機械も開発中だった、あと少しで完成すると思っていた矢先にこの任務で、物は試しだとその機器も持っていった。

現場の軍事製品製造の本社へ到着すると、想像以上だった。技術者どころか役員も、この会社全ての人間をビルの8階辺りで、窓枠へぶら下げ人の盾にしている。
わたしは取り敢えず、産業用ロボットへ使われているデータと言語、指示を書き換える時の電波を合わせる。こうすれば、直接そのロボットのプログラムへハッキング出来るし、それまでに行き着いたデータも確認でき、ロボットへの会話や交渉も可能になる。
わたしは、インカムを右の耳に国のからの指令用、左にロボットからの信号と交渉用に切り替えが出来るものを頭にセットした。

国からの指令は簡単なもので、占拠の鎮圧と人質を無事に確保出来るように、そのための手段は何でも自由、との事だった。
ロボットのプログラムへ電波を使ってハッキングを始めた……ところが、その言語は数字しかなかった。人工知能も想定を遥かに超えロボットたち独自で言語を書き換えていたのだ。わたしは少し考え、取り敢えずわたしたち人間がプログラムした古いものを探そうとした。ロボットに抹消されたとしても履歴は残っているはずだからだ、また古いプログラムは完全には消滅しない。それと平行して開発中の立体化機器へも同じ状況とロボットのデータをインプットしていくと、ビル内部とロボットたちの動き、現状の詳細や人質の姿や体調も電波で送られてきてとても把握しやすかった、この機器も成功したと言えよう。とにかく、パソコンのリカバリのような手法を電波で操作する事にした。2分足らずで古いプログラムは引き出せた、あとはロボットたち自らがプログラムした言語の解読だ。これはパズルのようなものと初めから分かっていた。携帯電話の前の時代に流行っていたポケットベルの入力方法と同じだと気が付き、早速書き換えたデータを飛ばす。
飛ばしたデータは、自ら電源をオフにせよ!とそれだけだった。

現場到着からトータルで30分、人質も無事に解決した……


この事件を機に、それ以降相次いで各国の軍事工場で同じ案件が勃発した。
それにより、極秘工場が晒されて非武装条約違反で国交断絶の制裁を受けた国も出た。
あちこちで相次ぐ関連事件で、多忙になり国の司令部はわたしのような人材育成の専門養成所を地下で設立した、対ロボットテロ対策人材養成所だ。
わたしはそれから数年後引退まで、そこの所長を任命され雇われた。
わたしの開発したデータ立体化機器は、その所長時代に開発、世に発表できたものだった。これも一つのロボットのような物で、データをそのまま指示に従い立体化させるだけだ。ひと昔前に流行った3Dコピー機をもっと細かく設定出来るものと思ってくれれば良いだろう。この機器で生成される世界は異次元だが、実際の世界のプログラムや仮想世界となる。でも動くし飛び出すし触れる事もできるから、幼児教育にはもってこいだと思った。

しかし、便利な物とはとても不便に出来ていて、この機械がまた事件となる。
しかも、今もまだ続いているロボット戦争の発端となってしまったのだ……。

わたしの開発した、データ立体化機器が世に出てから3年後、あるニュースがインターネットやテレビで報道される。
この機器を何台か並べて、独自で入力したデータを読み込ませると、機器同士でお互いを造り上げてゆくというものだった。
それは、わたしも立証済みだったがその機器でAIの機器を作ってしまい異次元の世界を現実化させてしまったから世の中は騒ぎ出した。
ある者は、
「これならもう一つの地球が作れるよね?」
とか、
「人間のコピーを生成したら自分は働かなくても済むな!」
とか、人の欲はどんどんと膨れ上がってしまった、この宇宙空間の様に。
やがて、人権団体の告発により各国内で規制も始まり難は逃れたが、ロボットなら良いとする条例もできそれが今、わたしたちが地球を離れた理由にもなるロボット戦争という収拾のつかない現状となる。
以前までの人工知能ロボットとは違い、形はロボットそのものであっても、人間と全く同じ感情を持ちながら支配をする事でロボットの感情を満たすという人間よりタチの悪いロボットを造ってしまったからだ。
これにより、人間社会に踏み込み犯罪者以上の兵器と化したロボット社会となってしまった。人間の感情は、言葉というものでもコントロールできるし悪いことも自覚させられる、それができないのは犯罪者やこのロボットたちだ。

ここまでくると、わたしの手の施しようがない、国もお手上げで国連でも処理しようと考察するが、地球を捨てて逃げるしかなかった。それまでに、コロニー開発は順調で実用化間際だったので幸いにもわたしたちは助かったが、残された人たちはどうなったのかわたしにはわかっていない。そのまま地球上に居たら人類滅亡は免れなかっただろう。
おおよそ、私の予想だがこのロボットたちは感情と欲ももっと膨らみ、娯楽の感情のためだけにその地球を滅亡させてしまう選択をするだろう。今、このコロニーの窓から地球を伺えるが、夜になって影のある大陸は爆発の光や火柱が上がっている。もはや、人間の住む世界では無くなって悲しい光景だ。
日本という国は、世界で唯一の原発投下の被爆国で、アインシュタインを恨んでいると思うが、わたしはそれを含めたわたしたち人間がこの世に存在している事を恨んでいる。これから生まれくる孫たちや子孫はこの事実を戒めとして、人間が現存し続ける世界を守っていて欲しい。

人間は、もう少し良い生き物なのだから……"


ここで、生前の曾祖父の日記は終わっている。その後の世界は今と言うとこだ。このわたしが居る世界だと思うし、ここは11番目の地球と聞かされた事がある。曾祖父の機器が素で作られた機器で生成された地球だと思う。
最初の本当の地球へはまだ行った事が無いし、行きたいとも思っていない。しかし、わたしは日記中に出てくるコピー人間では無いと確信している……たぶん。


第11号の地球から

こうなるかもしれない。

第11号の地球から

ある日、曾祖父の日記を見つけた父親が書き残したもの。

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-29

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