今からそう遠くない未来の世界のこと。

今からそう遠くない未来の世界。
“おはよう”
――“僕は僕にそうよびかけた”
 過去を思い出そうとする、自分の人体が脳からその細かな部位、はたまた脊椎や手足につたわって、地団駄を踏むように無駄な動作をくりだした。
“おはよう”
 そういうと、僕は頭を抱えた。自分の過去には、良い事もあったし、悪いこともあった。ただそのことを思い出しただけなのに、何もない部屋の空白によびかけた、おはよう、それがかえって来ない事の意義が思い出せない。寝室には簡素で清潔な白いベッドとほかに読みかけの本が布団の上に放り出してある。それ以外に何もない、あたりまえで、誰もいない。
“おはよう”
 でも僕は、なぜ僕にこれを?寝室のドアをあけてリビングに転がり込むように急いで、台所のわきにある壁掛けの鏡に顔を寄せた。思い出した、これ、この顔、心臓から鼓動がきこえた。自分はまた、おはようと頭の中で繰り返し唱えた。その言葉の意味は、いつか死んだ肉体を機械に置き換えた自分にたいする、新しい朝がきたという合図のために、私は独り言をつむいたのだ。これからも、これまでも。

今からそう遠くない未来の世界のこと。

今からそう遠くない未来の世界のこと。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-13

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