こんふぃでんすの徒

「は、 閣下。わたくしめのような猿臣民に口があるかと申しませばそれはありませぬが閣下のようなお方の前にこのむさ苦しい猿めが出るなどのような今この機会、いえ機会など失礼致し、このような光栄、もうあとどんなに畑を耕してもありますまい。は、いえ、わたくしは農民ではないであります。は、言葉ですか、わたくし幼きいたいけな小さな天使だった頃母親にどうも悪い事を致したようで、ええ、はい、分かっております。言葉がおかしい事は。は、それは残念ながら聞いて頂かないと閣下はうん、と申しますまい。もう少しの辛抱を。ひとり、いいえ、一匹の猿めの身の上話に閣下のような生まれる前から神の伽藍の光に照らされた選ばれ尽くした方の耳をこの時間だけでも汚すなどもっての他、それこそお神に一万年とわたくしの子孫は祟られる事でありましょう。が今は申さねばならないのであります。さて何だったか、は、そんなに顔にシワを寄せる事もない、おっと失礼、そうです、わたくしにも天使であった頃がございまして、勿論閣下が綿菓子のような天使の羽であったとしますればわたくしは背中に一本毛が生えていただけでございますが、まあとにかくですね、ああ、面倒になってきた。は、いえこちら汚い身内の話、お手洗いの穴の話で。は、失礼致しました。まあとにかくわたくしは馬鹿ではありません。どうもまあその一本毛が背中に生えていた頃、どうもですね、ええ、それがどうもとしか言いようがない。覚えていないんだもの。どうも我が美しき慈しみの母、、聖母に悪い事を致したようで、それからというもの、脳のですね、この辺りなんですが、まあひとりの医者が言う事ですから少しずれているかもしれないとわたくしはずっと前から疑っているのですがね、ドクターの固有名詞を出しますと話がすらすら行きますのでわたくしも使ってるだけなのですが、そのまあ、多分この辺りがちょっとイカレたようで、ええ、イカレた、で結構でございます。わたしはわたしの話を聞いてくれさえすればイカだろうがタコだろうが構わない。はい、まあそういうわけがちゃんとあって言葉がちょっとおかしいのです。どうも天の上に上がれば上がるほど指摘されますので、いわゆる謙譲語、ですか、まあ丁寧に丁寧にした奴がニガテらしい、と自分では思っております。ふう。少し疲れました。ああ、どうも。これはこれは閣下のしもべから水の杯を頂けるとは、え、はい確かに申しましたとも。しもべ、でしょ。有り難くここは頂きます。あれ、本当に水か、しけてやがる。どうもありがとう。下僕。申し上げます。実は閣下が見ているのは本物ではないのです。ああ、いきなり結論から入っちまった。本当に参ります。この、ここの辺ですね。ええ、これも又つまりイカレたタコのところがさせるわざでして。でもその方が話が早い。閣下も早い方がよろしかろう。もう閨の時間ですかな。女が待ってましょう。へへ、その辺は心得ております。は。閣下が蝶々さんだと思っているのは実は影でして。はい。影と申しました。つまるところ本当の実体は閣下の見えない箇所にありまして、あなた様が見ているのはそれの作る影なのです。はい、申し上げます。それというものわたくしめにはそれが見えるのでして。は、蝶々さんですか。蝶々さんはわたしには見えない。あまりに閣下が毎日騙されているのにわたくしこの猿、いい加減腹が立ちまして。いえいえ、閣下にではございません。そやつにです。ええ、蝶々さんです。閣下には残念ながら見えないのでチョウチョ、さんに致します。そのチョウチョ、さんに閣下は騙されている。その臣下、水くれた友達、もう友達ですね。友達も騙されている。正確に言えば騙されたフリをしているわけで。ねえ、きみ、何本当の事を言っても大丈夫。閣下の心は我々が思っているより広いのだ。広大な原っぱだよ。ナニモ住んでなくてもネ。ので、この暑い中、こんな辺鄙な場所までですね、ああ、思い出しても背中が無くなりそう。いやもう大変でした。汗泥どころじゃない。虫も食わねばならなかったし、又その虫に毒さえもらって下すこと下すこと。ここから我が家はとんでもなく遠いのです。こんな遠いとは思わなかった所為でこんな遠い所まで来れた、あ、成る程、今納得いきました。まあきっとそういうつくりになっているのですね。あ、特にうん、と頷かなくても結構でございますよ。ここは。まあもう嫌だ。ええ、人生いくらでも使ってやります。モウ、てね。よくよく省みればモウ、がせいかつというものですね。ああ、全く然り。もうもう嫌でございますよ。これから又あの道のりにこの身を駆るなど。わたしは使者だ。神の使いなのです。わざわざチョウチョさんのことあなたに申し上げる為に嫁も捨て、子も捨てた。だってわたしは神の使者だもの。致し方がなかった。よもや閣下があんな発言なさるとは。この猿、心に決めましたもの。これは一国の一大事。いえそれよりも閣下がこのような詐欺にひっかかっていたとは。なりません。勿論なりませんとも。わたしの愛する閣下でありますからね。ああ、言っていいですか、モウ疲れました。さっきの水が酒ならもう少し上手く喋れたんですがね。と、いうわけで、と、いうわけだ。あなた、もはやここまできてわたくしに帰れとは言えますまいて。恩に着せるかどうかはあなた次第。とりあえず閨の時間だ。さあ売女の所へお行きなさい。わたしは友達の友達に酒を持って来て貰って、ここでのんびり待っています。私はちゃんとこのプレイスに居てあげますから。安心してお行きなさい。」

こんふぃでんすの徒

こんふぃでんすの徒

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-09-06

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