水漏れ

水洗いだけで並べる古タオル色とりどりに色褪せている

ひるがえる旗はすっかり色褪せて飛んでいきたいそして果てたい

新しい朝と昨日の接続を失敗するとトカゲの記憶

三階で水漏れが起き一階のエントランスがびしょびしょになる

日曜の駐車場では白線が取り残されてあきらめている

ふむ人とふまない人と白線はずっとそれだけ考えている

丸窓の中でふりまわされているあれは服だと信じて過ぎる

花のタネを希望と呼んで渡しても何色なのか誰も知らない

湿っぽい土が花壇をはみだして境界線をあいまいにする

無遠慮に奥からしべを突きだしてサクラは春にやることがある

やんだあとたたんだ傘を心から好きと思えぬような裏切り

この傘は余計に水をはじきます楽器になるのはあきらめました

ひとりなら無敵の獣雨の中足手まといと共に滅びる

たっぷりと月の光が降る庭で滅びた魚だから泳ごう

閉ざされたレースを月はすりぬけて静かに老いた青白い薔薇

目が覚めるたびに冷蔵庫をのぞく大丈夫いっぱいの卵

ドアにあるのぞき穴へと見せつけて空のカバンに盗む消火器

カバンにはだんだん砂がたまるものもう空っぽにはなれないカバン

ドアの外もやはりどこかの中だった放り出された先に青空

頂上が怖いところと気づかずに観覧車にも乗ったのでした

遠くから手を振っているそのわけを知りたくて手を振り続ける

どの家も電信柱につながれて檻から逃げた猿に怯える

夕方を助けるために斬りましただいだい色がずっと見ていて

充分に光をためた水槽に死ぬことのないものだけ入れる

透明なグラスに澄んだ水を入れ飲み干したあと残った指紋

破裂した水道管から噴きあがり尊い姿をお見せになった

水源が細い流れであるように風のみなもとになりなさい、歌

まっしろな羽根が空から落ちてきたら花瓶に挿して窓際に置く

真上から見下ろしたときだいたいの人は中型犬の大きさ

少しだけくだものの味がする水の味わいかたはよくわからない

水漏れ

水漏れ

「第62回短歌研究新人賞」に応募した短歌30首です。

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-24

Copyrighted
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