Tokyo young story 5

Shino Nishikawa

Tokyo young story 5

29才の女性のラブストーリー

Tokyo young story 5
「桃子、一体、今までどこにいたの?」
お茶の間の机で、桃子の母と妹は聞いた。
「えっと‥。生きてた。」
「生きていた?一体どこで?」
「忘れちゃった。」
妹の早苗が聞いた。
「そこに戻らなくていいの?」
「うん。神様の導きで戻ってきたんだから。」

「5年前、お姉ちゃんが交通事故で亡くなってから、家はいろいろあったんだよ。私、変な人と結婚しちゃってね、もう子供がいるの。」
「ええ?」
「でも、もう2人の事を捨ててくる。一緒に暮らそう。」

「うん。」
桃子はにっこりと笑った。
桃子は29才。5年前に他界したが、また舞い戻った。

桃子は綺麗な女性で、桃子が事故死した事で、周りの男たちは自暴自棄になり、みんな変な女と結婚して、子供を設けた。
でも、桃子が舞い戻ったことは噂になり、みんな、家庭という物にやる気をなくしてしまった。
お母さんが聞いた。
「桃子、仕事見つかった?」
「うん。カフェで働くことにした。」

桃子はカフェで働き始めた。
「えーと、オレンジジュース一つで、いいかな?」
「かしこまりました。」
注文をしたのは、近藤君久だ。
君久は、国家公務員という職を離れ、祖母の実家のある長野県の桃子の町で働いている。

君久は、オレンジジュースを飲みながら、働く桃子を見つめた。
そして、落ち込んだ。『自分に、もう家族がいるなんて‥。』

「桃子さん、俺、もう結婚しちゃったんだよ。」
桃子の旧友の山口マサルが話しかけた。
「そうですか。でも、結婚は大事な事ですから。」
桃子は言った。


「いらっしゃいませー!いらっしゃいませー!」
東京のデパートで働く慧は、ハッピを着て、大声を出していた。
今では慣れてきたが、接客業の仕事前の発声というのは、少し異常なものを感じた。
東京でお洒落に働きたいのに、なぜ、こんな事をやらされるのだろうか?
「俺は劇団員じゃないぞ。」
慧は、接客用語の紙をくしゃっとした。

お得意様のお嬢様が買い物に来ると、慧が始終、付き合ったり、出口まで荷物持ちをするのは、耐えられない事だった。

この日、桃子は、東京に来ていた。
慧は、桃子を見て、綺麗なお嬢さんだなと思った。
いつもの気持ちの悪いお嬢様よりも上品だし、もっと上のお家の方かもしれない。
「あの‥。」
慧は、桃子に話しかけた。
「はい?」
「何かお探しですか?」
「あの‥スカーフを。」
「スカーフでしたら、こちらです。」
慧が案内してくれたが、桃子が思うより、高価な物だった。
慧は、桃子にスカーフを当てたりした。

桃子は愛想笑いをし、慧も売るのはやめることにした。
慧に他の客が話しかけたので、桃子はふらふらと立ち去り、慧は後ろ姿を見つめた。

東京の本屋に来た時、桃子は君久を見かけた。
桃子も君久のことは気になっていて、仲良くなれそうだなと思っていたので、君久に家族がいる事は、残念に思った。
君久は、大学時代に面倒を見ていた女の子達に会い、優しい言葉と笑顔を浮かべた。
女の子達は、国家のために、君久が別の人と結婚したと思い込んでいる。

鷹雄と一郎と秀は、久しぶりに、慧と優斗と君久とジアを呼んで、食事をすることにした。
今回は3人のおごりで、少し良い店を予約してある。

君久が、変な女と結婚した時は辛かった。結婚は大切な事だが、ファンが多い自分達が出来る事ではないので、君久が犠牲になったと思うと涙が出た。
ジアは治療のかいがあり、歩けるようになった今、盲学校の教師を始めた。

7人は世間話や近況報告をして、とても和やかな時間を過ごした。
現在、7人は、37才である。
でも、見た目は、とても若い。自分の時計が止まっているかのようだった。

慧は、桃子に吸い寄せられるように長野の町に行き、案の定、桃子を見つけた。
桃子には、夢で何度も会っているような気がしていた。
慧は、桃子の手を握り、言った。
「僕と付き合いませんか?」

桃子は一瞬、空を見た。
冬の始まりの美しい碧空を、今でも覚えている。

桃子は、死んでからの間、どこで誰と過ごしていたのか、はっきりと分かっていた。
もう戻ることが出来ない事もわかっていた。
そして、自分が死ぬ前に、誰のことが好きで、自分が何をしていたのか、分かっていた。

次郎は鋭い目をして、桃子を見ている。桃子は次郎が好きだったが、素直になれなかった。
絶対にここで会いたいという公園で、桃子は、次郎に告白の練習をした。

その後、桃子は車にはねられたのだ。不良の小僧が運転する車だった。
小僧が桃子に土下座したのを覚えている。きっと、スナックの女の人に相手にされず、むしゃくしゃしていたのだろう。
桃子は、恋について、あまり出来なかったので、切なく思った。

慧の手を温かく、人間味を感じた。でも、慧の顔は人間顔ではなかった。
なんとなく、本物の肉体でない感じがする。
でも、それならそれで、一度死んだ人間が付き合うには、もってこいの男のように感じた。

慧と桃子は、付き合うこととなった。
慧はまだ、東京での仕事が残っている。桃子のために、この町に慧が引っ越してくるのは、大それた事に感じた。

「お姉ちゃんって、彼氏いる?」
早苗が聞いた。
「うん。」
「えっ、どんな人?」
「東京で働いているんだけど、こっちに引っ越してくるんだ。」
そう言うと、お母さんはニコニコとした。

桃子は、次郎を想うと胸が痛んだ。でも今は、お互いに幸せになる必要があると思った。
次郎が、桃子を想ってくれている事を分かっていたが、もしも、次郎が、桃子が知らない所で、女の人と会ったり、嫌な人間だったのなら、嫌いになれるので、楽だと思った。

慧は、本当にこっちに引っ越して来た。
鷹雄たちに何も言うつもりはなかったが、東京から出て行く寸前で、鷹雄と一郎と秀に出くわしてしまい、恋人のために長野の町に引っ越すことを打ち明けた。
3人は息を飲んだが、赦すしかなかった。
でも、3人とも、恋に本気になる慧の事が、なんだか恥ずかしくて、泣いてしまった。
それほどまでに、3人は、アニメに恋をしていた。

優斗もジアも、夜、布団で大泣きした。なんとなく、慧がやる事が哀しかった。

何度か、この町に足を運んでいたが、引っ越して見ると確信した。
『長野に住んでいる。』と言っていた君久は、この町に住んでいる。
慧は気まずいと思い、冷や汗が出た。
昔から、好きになるタイプが同じだったので、慧が本気で惚れている桃子の事も、気になっていると思った。
慧は、メモ帳に書いた。
『君、モモ子』
君久の前で、桃子と仲良くしない約束だ。


5年もの間、死んでいたので、仕方ないが、桃子は何もできなかった。
日本一になる、世界一になるというのは、どんな感じだろう?
この前、カフェに、オリンピックで金メダルをとった体操の足立選手が来たのだ。
いつものようにカフェに来た君久と、挨拶を交わしていたので、桃子は安心した。
近くにスポーツの強豪高校があるので、ジャージ姿の若者がよく来る。

当然のように、世界に出るという事は、どんな感覚なのだろうか?
桃子が一番憧れの世界は、映画のアカデミー賞の世界だった。
短大に通っていた頃に、一人暮らしをしていた時に、テレビで観た。
桃子なら、いつか行ける気がしたが、この狭いアパートで暮らしていては、一生無理な気がした。

慧との待ち合わせ場所は、もう閉まって暗い市立図書館の前だ。
少し危ない気もするが、桃子は、真っ暗な図書館の前で、座って、慧を待った。

中古でも綺麗な青い車が、黄色のライトを光らせて、こちらに来た。
バン
慧が降りてきた時、桃子は、世界一について、まだ考えていた。
内心、『慧も日本一にも、世界一にもなっていないから、可哀想。』と思った。

「ごめん、待った?」
「ううん、そこまでは待っていない。」

慧は、先に歩いて、少し切なくなった。
高校生の頃、こういう暗い場所で、彼女と遅くまで一緒にいたものだ。
桃子は、大人だし、大人の行動をして、良い子に後ろについてきている。
桃子は29才とはいえ、まだ自分達は付き合っているのだから、少しは袖を引いて、キスをねだってもいいと思った。

桃子がお気に入りのファミレスで食事をする。食事代は割り勘だ。
慧はもう、37才なので、親父が店主の古くさい食堂が好きだったが、この前、桃子を連れて行ったら、キョロキョロとして、少し合わないようだった。

でも、その食堂で、慧はビールを頼み、桃子に、37才らしい会話ができたと思う。
多少、桃子は引いていた。でも、これが今の慧には向いているし、少し嬉しかった。

慧は、酔いに任せて、慧は、桃子に、初めてのキスをして、ハグをした。
桃子はびっくりしている感じだった。
でも、素直な感じだったので、慧は安心したし、嬉しかった。

日本一や世界一には、慧は、若い頃はよく憧れていた。
鷹雄たちは、アニメを作っていて、いつかは世界一になれそうだ。
優斗は、新聞社に勤めているので、世界一に近い場所にいる。

「結局、俺には、能力が足りないんだよな。」
慧は、狭いアパートの窓辺で、タバコをふかした。
何度も、ヤクザになり切って、怒鳴ろうとした。でも、周りに迷惑になるので、心の中で怒鳴った。
一度、声が出てしまって、すぐに隣人がドアをノックした。
それ以来、ヤクザになり切る時は、手で口を抑えることにした。

「信じられないだろ。デパートのクソ良い男が、こんなボロアパートに住んでいるなんてさ。」
慧は、タバコを持って、ボロアパートから、外を眺めた。

銀行に貯金に行くとき、スーツや、上品な服を着て行った。
慧は営業スマイルで、定期預金の相談をした。
さすがに、インフルエンザの時は無理だった。
ハンテンのまま、タクシーに乗り込み、病院のベンチで、口を抑えて咳をした。

鷹雄たちはすごい仕事をしていたが、ジアや、仕事がギリギリの君久もいる。
だから、安心した。障害があるジアは、何よりの希望そのものだった。
そんな事を言っては、いけないかもしれない。
でも、劣等感を抑えて生きてこられたのも、全ては、ジアのおかげだったのだ。

20代の頃は、美男コンテストなどのチラシが入ってきて、少しどうしようか迷った。
もしかしたら、日本一になれる。でも、やめた。日本一になる事は、ものすごく、社会に対して、気まずい事のように思った。

慧は、OLさんに誘われて、食事をしたりした。
流れに身をまかせて、ホテルに行くのも、悪くはなかったが、慧は愛想笑いで断った。
デートの後は、無性に辛くなるのも、嫌だった。

『俺、国家公務員をやめることにするよ。』
君久は、夢の中で、慧に言い、ハグをした。
こういう事が出来る君久は、一流の人間なんだなと思ったが、君久が、変な女性と結婚すると言った時は、心底落ち込んだ。
確か‥、5年前くらいのことだ。
もしかしたら、桃子が関係していると思うと、寒気がして、桃子を乗せて信号待ちをしながら、慧は腕をさすった。

慧も、桃子も、デートの後、家に戻ると、幸福だが、満足できていない感覚になった。
そして、お互い、一人でデートの続きをした。

実際会っている時よりも、慧と桃子は、夢の中での方が、いろいろな話が出来ていた。
「お前が、死んでいたなんて、嘘だよなぁ?」
夢の中で、慧は、桃子の髪の毛をなでた。

「本当よ。」
「それじゃあ、今までは、どこにいたの?」
「男の人と暮らしていたわ。」
「えっ‥。」
慧は息を飲み、桃子は笑った。こういう話は、実際に会っている時には、よくできていない。
慧の布団でも、一緒に寝たりした。夢の中での事が、印象的すぎて、2人の関係は、実際はそんなに進んでいなかった。

慧と桃子は、また、古くさい食堂に来た。
慧が聞いた。
「ビール飲む?」
「いいえ。私、お酒は苦手なのよ。」
「へぇ、意外なんだね。」

「うん。私は、あと1カ月で30才になる。ようやく29才って感じがしてきたのに‥。」
「30才になるまでに、完璧な29才になれれば、それでいいんだよ。」
慧は笑った。

「あっ、いけね。」
車の所に来て、慧が言った。
「車だったの、忘れてた。‥桃子さ、運転できる?」
「うん。免許も持ってるし。」

桃子が、慧の車を運転して、暗い山道を走り出した。
「あれ‥。あの人影なんだろう?」
「バックする?」

「あぶねっ。」
桃子が、スピードを出して、バックをしたので、慧は声を出した。

「お爺さんだ。」
夜道に立っていたのは、老人だった。慧は車を降り、声をかけた。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
「うん‥。」
「どうして、こんな場所に1人でいるんですか?」

「え‥?」
老人は、突然立ち上がり、放尿を始めた。
「うわぁ!!」
慧は車に戻り、言った。
「桃子、すぐに車を出してくれ。」
「わかった。」

家の近くまで来て、慧が言った。
「俺たちさ、遠出した事ないだろ?今度、2人で東京に行かないか?俺たちが、初めて会った場所だし。」


東京では、鷹雄と秀と一郎と優斗が、カフェで話していた。
鷹雄が言った。
「結局、いつものメンバーだよなぁ。」
「仕方ないじゃん。みんな忙しいんだし。」
秀が言った。

「でもさ、また7人で、何かやりたいよな?」
「もう無理ですよ。ジアと慧も恋人がいるし、君久君なんか、あんなに大変な女性と結婚してしまったのだから。」
一郎が言った。

「君久君は、大学のアイドルだったのに、信じられないよ!」
優斗が言った。
「そうだよなぁ。」
鷹雄が言い、秀がアニメ関係の事で、鷹雄に何かたずねた。
優斗が聞いた。
「○○って何のこと?」
「新しい企画の事だよ。ずいぶんと張り切ってくれている人がいる。」
「でも、誰かが頑張らないと、何事も成功しませんから。」

「うん。だけど、僕たちの仕事は、夢を与える仕事だからね?自分の人生に大きな負担をかけて、仕事をしないといけない。」
「どんな仕事でも、人生の負担になる。」
鷹雄が言い、一郎が言った。
優斗が聞いた。
「つまり、君たちの仕事は、結婚したら、終わりなのかい?」
「そんなわけないさ。でも‥。」
「うん、無理だよな?」
鷹雄と秀が言った。

一郎が言った。
「それなら、僕はいつか、会社をやめるだろう。最近、明代さんと会っているんだ。」
「ええ?会っている?」
「うん、おそらく、付き合う事になると思う。」

「ええっ。」
3人は驚いた。
「でも、よかったねぇ。ついに、愛が結ばれるんだ。」
「うん‥。今までありがとうね。」
「いやいや、まだ僕たちとお別れってわけじゃないんだから。」


桃子と慧は、東京に来た。スポーツの強豪高校に、『日本一おめでとう』の垂れ幕がかかっている。桃子はうっとりとして、日本一の文字を眺めた。
慧は、少し顔をしかめて、桃子を見た。
『もう29才なんだから、日本一を目指すなんて、無理だぜ?』

『まぁ、俺にとっては、桃子は世界一だけどね。』

―俺だって、美男コンテストで日本一になれたんだぜ。
その言葉は、はっきりと、慧の心に響かなかったが、ふと思い、ハッとして、周りを見た。
人が多く、緑がない東京に来て、精神が一瞬にして、やられはじめているのを感じた。

桃子は、うつむいて、何かの考え事をしながら、歩いている。
2人は電車に乗り、銀座に移動した。
途中、駅に鷹雄たちがいて、電車の中の慧は、目をそらした。

「慧?!」
「えー、彼女、超かわいいんですけど!」
秀と優斗と一郎が、大きな声を出した。
鷹雄は、桃子をじっと見た。
『似ている。』

まるで、桃子を運命の相手かのように感じてしまった。
光子になんとなく似ていたのだ。
「大人になったら、光子ちゃんは、ああなるかな?」
秀が聞いた。
「まさか、光子ちゃんが、小学生まで戻ってしまうなんて、信じられないよな。」
優斗が言った。

「ああ。きっと、藤倉さんが亡くなった時に、光子は一度死んだんだよ。」

「まぁ、元気出してよ。」
秀が言った。

銀座では、日ごろのストレスと、久しぶりの東京で少しだけ精神がいかれた君久が、ドレス店で、ダンス衣装を見ていた。
君久は、社交ダンスをテレビでしか見た事がないのに、一人で社交ダンスのステップを踏んだ。店員が声をかけた。
「お上手なんですね。」
「いえ。」

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更新日
登録日 2019-08-13

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