花火

ー羽美

まとわりつくような暑さの中、蝉の声が響き渡る。
もう夕暮れ時だというのに、蝉はとても元気だ。
頭が痛くなるような音の雨。
蝉時雨とはまた綺麗な言葉にしたものだと感心させられる。

扇風機は音こそ威勢が良いものの、送り込んでくる風はベタベタして生温い気がする。

これでこそ夏だ。
私は冷凍庫からシューアイスを取り出して食べる。
夏はシューアイスが一番美味しい季節だから、嫌いではない。

今日は地元の花火の日。
そろそろ支度して出掛けないと。
今年も何人かに誘われたけど、ほぼ毎年一人で見に行く事にしている。
簡単に身支度を整えた私は、花火を見る為に出発した。

花火会場は人で溢れ返っていた。
少し出発が遅かったのだと思う。

人混み自体は活気があって好きなのだけど、どさくさに紛れて悪い事をする輩もいるから油断出来ないのが面倒だ。

あまり人がいない所に行くのも怖いので少しだけ人が少ない所に落ち着くと、間も無く花火が上がり始めた。

立ったままのんびりと花火を見上げている私は、この花火に関する逸話を思い出す。

ー花火が上がっている間、死者と会える
幼い頃に聞いた話だ。
一人で花火を見に行くと会えるらしい。私はきっと、それを信じてしまっているのだろう。

どうしても会いたい人が居るわけではないけど、会えるものなら会ってみたい人が私にも居る。

石田さんは、私が幼い頃目の前で亡くなった人だ。後から知ったのだが、過労が原因らしい。

亡くなる一月程前、私は石田さんの休憩時間を奪ってシューアイスの事を聞いていた。
牛の話を詳しく聴きたがった私の為、石田さんは牛がどのような生き物なのかをわざわざ北海道にまで見に行ったと聞いている。

よく知らない私の為にそこまでしてくれた人がいた事は、幼い私に大きな衝撃を与えた。

更に凄い事もある。
私がその辺りの経緯を詳しく知ったのは石田さんの仕事の仲間から聞いたからなのだけど、その人も石田さんの代わりに牛の事を私に伝えるために北海道に行ったというのだ。

同僚にもここまでさせた石田さんに、私は敬服してしまう。やはり会ってみたい。
会って一言お礼を言いたい。
それは叶わないのだろうけれど。

夜空を花火が彩っている。
私も死者と会えるなんて逸話を100%信じているわけではない。
勿論今年も会えないのだろう。
そう思いながら周りを見渡す。

この花火に一人で来る人は、やはり少なくはない。
皆、会いたい人が居るのだろうと思う。
何だかやり切れない気持ちになって花火に視線を戻そうとした刹那、近くで花火を見ている一人の男性に視線が止まる。

似ている…。幼い頃の記憶だ。
もう顔なんて覚えているか怪しかったけど、何となく分かってしまう。
あれは石田さんだ。

心臓が跳ね上がる。え、幽霊?
話しかけて良いのか分からない。
怖いという思いも少しある。
けど足は少しずつ石田さんの元へと向かっている。
あれが石田さんなら、会えるのは花火が上がってる間だけだ。

「石田さん、こんばんは…。」
声が裏返らないように気を付けながら恐る恐る石田さんに声を掛ける。

石田さんはこちらを振り返り、少し驚いたような顔をしながら「こんばんは」と返してくれた。記憶通りの声だと思う。

「私の事…分かりますか?」
何を言って良いか分からない私の頭を差し置いて、質問が口をついて出る。

石田さんは少し考えた後、
「ごめんなさい。俺の事を知ってるみたいだけど、思い出せないですね…。」
と申し訳なさそうに答えた。

人違いだろうか。そもそも全然亡くなってる人と話している感覚がない。
私は勘違いで声を掛けてしまった可能性の方が圧倒的に高い事実を、改めて思い出す。

亡くなった人のわけがない。
謝って去ろうとも思ったが、ここで去っては一生後悔する気もする。

「あの…。私は蔵元 羽美です。アロエクリームでシューアイスを作ろうとした…。シューアイス、今は私の大好物なんです。私の為に北海道まで行ってくれた石田さんですよね。」

自分の言う事が普通に考えるとおかしな事である自覚がある。自信なさげに小声で話す私の言葉に、石田さんがはっきりと驚いた表情を浮かべる。

「コンビニの子か!こんなに大きく…」
石田さんは言葉を一瞬止めた後、続ける。
「…一瞬でなるわけないよな。思い出した。俺はきっとあの時…。」

石田さんは花火を見上げる。
何と声を掛けて良いのか分からない。

「ありがとう。確か最後に空が見たいと思ってたんだ。まさか花火を見れるとは思わなかったよ。そうか、花火が終わったら俺はまた…。」

石田さんが寂しそうな笑顔を浮かべながらこちらを見る。その時に気付いてしまった。
私は今から石田さんに二度目の死を経験させる事になるのだ。

「私、あの時の御礼が言いたくて…。ごめんなさい…。」
目から涙が溢れる。
私の勝手な都合で呼んでしまい、今から消える事まで自覚させてしまった。
どれ程の絶望感があるのだろうか。
罪悪感に圧し潰されそうだった。

「泣かないで。花火も見れたし良かったよ。
御礼の為に呼んでくれたとか感無量だしね。これ、例の死者に会える花火だよね。本当に会えるんだなぁ。」

私を気遣って掛けられた言葉に涙を流しながら頷く。
花火が始まってしばらく経っている。
もうあまり時間がない気がする。

「そうそう、牛なんだけどさ。俺の語彙力では表現出来ない。実際見た方が良いよ。
全く役に立てなくて申し訳ないけど。
何となく人生を変えられそうな生き物だった。」
石田さんは努めて明るく言ってくれている気がする。
気を遣ってくれているのだろう。

「私に石田さんの事を教えてくれた同僚の方も、同じような事を言ってました。
北海道にはいずれ行きます。」

私は笑顔で答えた。
花火はそろそろフィナーレを飾ろうとしている。

「奥村かな?
そう言えば俺の名前も、北海道に行った事も、言ってないのに知ってたもんね。
余計なお節介焼いてるなあいつも。」

石田さんは笑う。言わなきゃ。

「あの、本当に有難うございました!
私も石田さんみたいな大人になります!」

私の声は届いていたのだろうか。
最後の花火が上がる姿に一瞬気を取られている間に、石田さんは元々そこにいなかったかのように消えてしまっていた。

ー千佳

「ただいまー。」
羽美が帰って来たみたいだ。
今年も一人で花火に行ったのだろうか。
いつもより声が少し暗い気がする。
風呂上がりに飲んでいた缶ビールを置いて声を掛ける事にする。

「おかえりー。何かあった?」
こういう時はストレートに聞いて反応をみるに限る。
案の定、海の表情が曇った。
何かあったのだろう。
一人で花火になんか行かせるんじゃなかった。

「石田さんに会えた。」
しかし、返って来た答えは予想外だった。
石田さん?誰だっけ。
少し遅れて答えに行き着く。

「え!?石田さんってシューアイスの!?」
亡くなった人と会えるという花火。
羽美が何故に執着しているかはわからないが、目の前で亡くなったという石田という人に会いたがっている事は知っていた。

「うん。なんか全然はっきり顔とか覚えてたわけじゃなかったけど、ちゃんと会えたよ。」
羽美は何だか普通の事のように話している。
グラスに氷を入れて麦茶を入れようとしている羽美の姿を見ながら、私は少し混乱していた。

毎年羽美が一人で花火を見に行く事を強く止めなかったのは、石田さんという方の死を自分自身で受け止めて欲しかったからだ。
まさかこのような話になるとは思わなかった。

「よく似てる人だったりしない?見ただけ?足ってあった?」
いつも通り麦茶にガムシロップを入れている羽美に質問を投げかける。
麦茶にガムシロップは絶対におかしいと常日頃から指摘しているが、今はそれどころではない。

「そう思うでしょ?石田さんだった。
ちゃんと話し掛けたし、答えてくれたよ。
足もあったんじゃないかなー。
自分が亡くなった事を最初は分かってなかったみたいだけど、私が大きくなった姿を見て思い出したみたい。」

羽美はその人が石田さんだと確信しているようだ。幻覚やただの思い込みではないという自信があるのだろう。

死者と会えると聞いて、実は私も一度だけ一人で花火を見た事がある。
けど何もなかった。
羽美はガムシロップ入りの麦茶を美味しそうに飲んでいる。

「…もしその人が石田さんだとしてさ、なんで今年なんだろうね。」
羽美は毎年花火を一人で見に行っている。
もし仮に本当に石田さんだとしたら、何故今年なのだろうか。
心に引っかかるものがある。

「分からない。けどさ、死んだ人に勝手に会いたがっちゃダメなんだなって思ったんだよね。」
羽美が表情を曇らせる。
そう言えば折角会えたというのに暗い表情をしていた。
私は黙って話を聞く。

「自分がもう一回消えてしまうのって凄く怖いと思う。石田さんはこの花火の事知ってたから、凄く悪い事をしてるって思っちゃって…。」

成る程と納得する。
この子の優しい部分が表情を曇らせていたと分かり、少し安心した。

「けどさ、私がその石田さんだったらきっと喜ぶなー。少しの間とはいえ、自分の死んだ後の世界で花火が見れるんでしょ?
それに世界一可愛い羽美に呼ばれるとか最高じゃん!」

私がもし死んで羽美に呼ばれたら、きっと本当に嬉しい。

「そういう問題じゃないよー。
けど、石田さんも花火を見れて良かったとは言ってくれてた。ありがと千佳さん!」

羽美の表情が少し柔らかくなった所で、
マロンが鳴きながら歩いてくる。
「んにょむにょむにょむ…」
餌が欲しい時の呼び声。
相変わらず変な鳴き声だが可愛い。
羽美がキャットフードを取りに行ったようなので、この話はここまでだろう。

千佳さん、か。
「お母さん」への道はまだ遠いかな。
少し寂しい気持ちが残るが仕方ない。
時間を掛ければ何とかなるのかな。

それにしても先程の話、何かが引っかかっていた気がする。

そうだ、あの花火を見た人は遠くない未来に死ぬという噂ではなかっただろうか。
背中を冷たいものが走る。
本当に石田さんを見たというなら、その噂も無視は出来ない。

珠代に後で相談しよう。


ー羽美

昨日、石田さんに会えた事は夢だったのかな。
カーテンから差し込む朝日の光が、花火の余韻を消していく。
きっと夢ではないのだろう。
ちゃんと御礼を言えたと思う。

時計は朝の7時を指していた。
枕を下にうつ伏せになったまま、上体反らしストレッチをする。
眠気覚ましによくやっているけど、
朝から爽快になれるのが良い。

ドインドインドイーーン!
目覚まし時計から警告音のようなアラームが鳴り、7時10分を知らせる。
今日はお弁当を用意して海を見ながら食べる予定だ。
気分良くベッドから降りて部屋の外に出ようとした時に異変に気付いた。

ドアに爪でガリガリ引っ掻いたような跡があるのを見つけた。
マロンのイタズラだろうか。
充電器からスマホを引き抜いてカメラに爪痕を収める。
後で千佳さんか珠代さんに相談しよう。
私はお弁当を作りに台所に向かった。

千佳さんと珠代さんの分までお弁当を作り終えた私は、既に出勤している二人の職場に届ける事にする。
いつもなら職場にお邪魔するのは迷惑だけど、今日は予め伝えてあった。

まずは千佳さんに届けよう。
私は千佳さんの勤めるペットショップへと向かった。

今日は仔猫フェア。
小さな猫は存在自体があざとい。
いつ来てもペットショップは癒し空間だと思う。

売れなかったペットがどうなるかを想像するだけでも、辛い仕事である事が分かる。
けど千佳さんはペットショップの仕事について前向きな事しか言わない。
私がペットショップを好きで居られるのは千佳さんのお陰だと思う。

「羽美!お弁当ありがとう〜。」
千佳さんが近寄って来る。
とても忙しそうだ。

「千佳さん!お仕事頑張ってね!」
私は仕事の邪魔にならないよう、
お弁当箱の入った袋を渡して私はすぐ帰ることにした。
千佳さんに爪痕の事を相談し忘れた。
まぁいいか。珠代さんに聞いてみよう。

次に来たのは薬局だ。
私のもう一人のお母さんである、珠代さんが勤務している。

「あら、羽美ちゃん!こんにちは。
今日もお届けもの?」
受付の人が声を掛けてくれる。

「はい。お弁当を届けに来ました。」
お弁当、くらいの所で受付の人は珠代さんを呼ぶ。いつも凄くせっかちだなぁと思ってるけど親切な人だと思う。
奥から珠代さんが出てきた。

「羽美じゃん。今日だっけお弁当の日?
わざわざありがとね!」
珠代さんはお弁当を私から受け取ると、頭を撫でてくる。

「まーた子供扱いする〜。
そうそう、マロンって最近爪切ってない?
私の部屋のドア引っ掻かれてガチャガチャになっちゃってるんだけど。」

私の問いに珠代さんが少し考える。
「一昨日あたり千佳が切るって言ってなかった?あいつサボったかな?
何にせよ後で見るわ。」

「そう言えば昨日の花火さ、とうとう石田さんに会えたよ!ヤバくない?」

興奮する私を珠代さんは鼻で笑う。
「死んだ人は蘇らないの。あんた詐欺にかかるよその内〜。」

珠代さんはそう言いながら事務所から何か持ってくる。
「求肥。お土産でたくさん貰ったから、おやつに持って行きな。海は暑いから気をつけてね!」

私は求肥を貰って大人しく外に出る。
忙しい人に話す話題じゃなかったかな。
また後でゆっくり話そう。

今日は多分記録的な暑さだ。
海を見ながらお弁当を食べようとしてたけど、無理な気がしてきた。

大人しく家に帰る事にする。
家にはマロンがいるので、涼しい居間が迎えてくれるはずだ。

しかし家に着いた私を迎えたのは、強烈な違和感だった。
…何かおかしい気がする。

荒らされたりしている様子もないし、
これといって見た目に大きな違いはない。
けど、まるで空気の色を変えられてしまったような感覚。

「マロン…どこ…?」
私は心細くなってマロンを探す。
いつもならソファの上で丸まっているはずのマロンがいない。

すぐにでも家を出て行きたいけど、
マロンの無事を確認しないわけにはいかなかった。

その時、ソファの下からガリガリと何かを引っ掻くような音が聞こえた。
一瞬マロンかとも思ったけど、その瞬間にドアにあった爪跡を思い出してしまう。
嫌な予感がしてソファの下を覗く事が出来ない。

スマホをバッグから取り出し、履歴から千佳さんにコールする。

お願い、出て…。
後で怒られても良いから窓から飛び出そうと考えた私から悲鳴が漏れそうになる。

知らない女性が窓からこちらをじっと見ていた。憎々しげにこちらを見る顔には、生きているような気配は一切ない。
「怨霊」という言葉が思い浮かぶ。

一体何で…。
祟られるような事をした記憶は一切ない。
石田さんに会ったのがいけなかったのだろうか。コールは無情にも留守番電話へと変わった。

とにかく離れないと…。
私は震える足で玄関から向かおうとする。
マロンを気にかける余裕は最早ない。

足が動かない。
見ると、足首が掴まれている。
反射的に腕の持ち主を視線が追ってしまう。

腕は3メートル程離れたソファの下から伸びていた。
持ち主はニタニタと笑う高齢の女性。
物凄い力でソファの下へと引っ張られる。

私は悲鳴をあげながら二人の母の名を叫んだが、そのままソファの下の闇へと飲まれてしまった。

ー珠代

千佳から「羽美が居ない」と連絡をうけたのが20時頃の事。
相変わらず過干渉だなとは思うが、確かに羽美は遅くなる時に連絡をしないタイプではない。

千佳には
「彼氏でも出来たんじゃない?もうちょっと待とうよ。」
と言ったが、私も冷静にはなれそうになかった。

私は千佳と長い恋愛の末に結婚した。
まだ多少の偏見があるものの、
概ね社会は私達を受け入れてくれていた。
ただ、子供はどうやっても得られない。

私は千佳との二人暮らしで一生を終えても良かったが、千佳がどうしても子供が欲しいと言っていたので養子縁組を行った。

そんな羽美が、今となっては私にとっても目に入れても痛くない存在だ。

羽美の身に何かあったのだろうか。
やはりじっと待つのは無理だ。
私は羽美が居なくなった事は伏せて、
上長に早退を申し出る。
今日もお弁当を届けに来た羽美の事をべた褒めしていたこの人の事だ。
羽美の事を言ったらきっと凄く心配させてしまう。
私は急いで家へと向かった。

家に着いた時にまず最初に感じたのは、
「何かまずいものがいた」
という感覚だ。嫌な予感しかしない。
私の第六感が恐怖を感知する。
慌てて居間に行くと千佳が憔悴し切った顔で私を迎える。

「珠代!どうしよう私…羽美まだ戻ってないの!マロンもいない!
どうしたらいいのか…。
珠代が警察に電話して良いと思う?」

主語がめちゃくちゃだ。
千佳は激しく動揺している。

「うん。私が警察には行ってくる。
何も無かったら謝れば良いし。」

今の千佳に任せる訳にはいかない。
私から警察に連絡をする事にする。

家に入った瞬間の嫌な感覚を思い出す。
何か危ないものが居た事は間違いない。
けどそんな強い霊が今更何で…。
もう関係はないはずなのに、嫌な予感が募っていく。

警察署に着いた私は
「友達の家に行った可能性も」
「同性婚ご家庭だと多感な時期だから」
などの意見を撥ね退けて粘り強く捜索を依頼する。

羽美の特徴などを伝え終え、焦燥感と侮辱的な発言を思い返してイライラしながら待っていた私に伝えられた言葉は、あまりに恐ろしいものだった。

「失礼ですが蔵元 羽美さんでお間違えないですよね?同居のご家族にそのような方がいるという確認が取れませんでした。」

養子にした際に何か手続きに誤りがあったのだろうか。
慌てて千佳に連絡してみる。
「千佳!羽美の事で今警察に来てるんだけど、警察の人が…」
急いで伝えようとする私の言葉を、千佳が遮る。

「珠代、話を切ってごめん。海って何の事?何を言ってるか分からないんだけど…。
酔ってる?警察?何かやらかしたの?」

一体千佳は何を言っっているのだろう。
私は何が起きてるか分からなくなる。
ハッと気付いてスマホを見ると、電話帳から発着信履歴まで羽美が全て消えていた。

とりあえず酔っていたと嘘を吐いて謝り、
警察署を出る。

何が起きているかを整理しなくてはならない。私は家に直ぐに戻らず、コンビニに寄ることにした。

コンビニの前でコーヒーを飲みながら出た結論は最悪だった。
羽美の存在が消えている。

羽美の存在自体が私の妄想である可能性を自分で疑ってしまうくらい、何も残っていなかった。
けど羽美は確実に存在したはずだ。

信じたくはないけど、恐らく家に入った時感じた「まずいもの」が羽美の存在を消してしまったのだと考える。

私はたまたま「そういう存在」に慣れていたから羽美を覚えているのだろうか。
しかし、私がかつて霊を祓っていた時期にはそんな次元の霊は居なかった。

そこまでの霊となると、今の私を消す事なんて造作もない事だろう。蟻を潰すようなものだ。
羽美が味わった恐怖を想像するだけで胸が押し潰されそうになる。

なんで羽美が…。
私の目から大粒の涙が溢れる。
羽美が居なかった事にされるなんて絶対許せない。許せるわけがない。

両手の掌を上にして眼を瞑ると、少しずつ鬼灯が象られていく。
完全に現れたそれを八相に構えると、鬼灯が微かに青く光り始めた。
これが私の奥の手だ。

必ず羽美の存在を取り戻してみせる。

ー1年後

花火だ。
私の目の前には花火が広がっている。
何でここにいるんだっけ。
…まぁいいか。

綺麗だなぁ。
それに何だか懐かしい気がする。

「羽美…!」
後ろから呼ばれたので振り返ると、
珠代さんが驚いたような顔で立っていた。

「珠代さん、なんか痩せた?大丈夫?」
言い終わる前に珠代さんに抱きしめられる。

どうしたんだろう?泣いてる?
何だかお母さんって感じだ。
私は幸せな気分になり、目を瞑った。

花火

花火

Twitterのタグで考えた作品です! #リプで来た単語を使って長文を作る 以下が頂いた単語です。 石田、敬服、扇風機、 ドインドインドイーーン、 ペットショップ、八相、氷、 求肥、警告音、奥の手、 上体反らしストレッチ、 お弁当箱、充電器、爪、 蟻、花火、カメラ、 ガムシロップ、 薬局、鬼灯、 んにょむにょむにょむ 主語 皆さま有難うございます!

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted