うそつき

ひとつうそをついた

日が明けた

わたしはうそつきになった

またうそをついた

また日が明けた

わたしは役をまっとうした

かなしさが わびしさが

さびしさが むなしさが

どっと胸におしよせてきた

から

から

わたしはうそをつくのをやめた

もう うそつきではないとおもっていた

ある日うそがまわりに知れわたった

軽蔑のまなざしで見られ

こう言われた

「うそつき」

うそつきというのは自分が決める役ではない

自分以外の人や人たちに貼られるレッテルだとはじめて気付いた

わたしはふたたび"うそつき"になった

うそをつかないうそつきは黙っていた

ずっと ずっと ずっと黙っていた

わたしの声そのものがまわりを不快にさせるから

させるとおもったから

うそをつかないうそつき

こえをださないうそつき

わたしはある日うそつきから解放された

ほかのうそつきがわたし以外にあらわれた

あきらかにわたしとは扱いが違うようにみえた

うそつきは周知されてから声を出してはいけないのだと盲信していた

通し抜いたうそはいずれ真実にかわる

だますほうもだまされるほうも

嗤う方も嗤われるほうも

完璧なうそのつきかたをしらない

うそつきは泥棒のはじまりではない

うそのつきかたをうそつきから事前に盗むのだ

うそつきから泥棒になるのではない

順序が逆だ

わたしは盗んだ 密かに盗んだ

ばれないように ばれないように

その子にだれも見向きもしなくなったころ

わたしはふたたびうそをついた

そして日が明けた

わたしはふたたび"うそつき"になった

うそつき

うそつき

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-08-03

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