投げゆく路地

投げゆく路地

   






(帰らなければならなかった、その既視感、夜に届けさせるために)


夕刻は、優しいはずだった

商店街の

ひときわ裏手

看板の白ペンキ

細やかな木目と

曇りの映えた擦りガラス

彼女が

追いすがる黒い形

いつも早すぎて

引き換える 小ぶりの蜜柑


(なにが残り続けたのだろう)


真実が皺の穏やかな手で切り売りされる


(どこからここへ辿ろうとした?)


ひとたちが

少しの歪で

よどみを射光に投げる

路地を辿る彼女

店を閉じて

弓なりの曲線の背だけ それがひとつだけ

擦れた革の折り鞄

彼女の生 小さく抱える


(必要としていたのは)

(必要なものにしたかったのは)


夕刻は、優しいはずだった


(ここから、ここからこそを、帰りたかったから)


夕刻の優しさだけを、

祈った。


  

投げゆく路地

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich

投げゆく路地

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-07-31

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