ぼくもあなたの花になりたい
ひまわりの花が、瞳のなかに、咲いて、眼球に、刻まれているみたいに、あのひとのからだのなかで、花が、咲いたのだと思うと、打ち震えるの、変態だなんて、言わないでほしいよ、ぼくが、あのひとと、おなじ空の下に生まれた瞬間に、こうなることは、決まっていたのだと思う。
からすが、かあ、と鳴いて、朝。つめたくなった心臓に、火をともすように、あのひとと、くちびるを重ねる。読み止しの本は、陳腐な恋愛小説。ぼくの夢は、いつも赤い。トマトをぐちゃぐちゃに、つぶしたみたいな、赤。あのひとの瞳には、ひまわりが、肺には、アザレア、吐息は微かに、紫色。夕暮れ時の、凪いだ海の様子が、映像となり、ぼくのあたまのなかで再生されるとき、世界は、少しだけ、ぼくにやさしい。起き抜けの、あのひとが淹れるコーヒーは、ブラックコーヒーなのに甘く感じるから、ふだん、ミルクと砂糖をたっぷり入れないと飲めないぼくでも、ふしぎと飲めるのだった。
どうか、ギターを、かき鳴らして。
子守唄であってほしい、あのひとの、歌声が。
くちびるは、薔薇色。
「終わった世界の話をしようか」
そう言って、あのひとが、コーヒーカップのふちを、指でなぞる。
ぼくは、知っているのだけれど、ふたりで、いっしょのベッドで眠ることを覚えてしまうと、もう、ひとりでは、眠れないことを、知っているのだけれど、知らない方がよかったと、思うこともある。
終わった世界の話も怖いので、あまり聞きたくないのだけれど、だって、きっと、ぼくらの住んでいる世界だって、ゆくゆくは終わりが、来ると思うので、
(だから、ほんとうは、耳を塞いで、しまいたい)
あのひとが、歌うように、語るから。アザレアの、紫色の花弁を思い出すような、色づく吐息と共に、発せられる言葉が、ぼくの肉体を、思考を、そっと撫でて、染めてゆく。あのひとの色に、染められてゆく。
自由を奪われる。
しかし、あのひとに、すべてゆだねることを幸福としている自分が、いる。
昨日は雨だった。
今日も雨で、明日も雨予報で、しかたない、いまは梅雨だから、梅雨が明けたら、夏が来る。あのひとの、瞳のように、ひまわりの花が咲き誇る、夏がきて、ぼくも早くその一部に、なりたいと祈る。
ぼくもあなたの花になりたい