なつぞらダイバー 第9週 なつよ、夢をあきらめるな

別所高木

ようこそ、ムービーダイバーへ
ムービーダイバーは、お客様の希望する小説、映画、ドラマの作者、脚本家の傾向を分析し、AI化する事で、お客様の希望するストーリーの中に入り込む事ができる、
バーチャル体験型アトラクションです。

俺は、またムービーダイバーの店舗に入った。

「いらっしゃいませ。」
いつもの女性店員の声だ。
「こんにちは、記憶は戻りましたか?」
「いえ、ぜんぜんダメなんですよ。もう、外部から補填された情報で、なんとなく記憶が戻ったような気になってきます。
約束忘れてても、リマインダーが教えてくれるので大丈夫なような感じですよ。」
「なるほど、確かに普通に暮らしていても、物忘れなんてしょっちゅうあるからね。
昨夜の晩御飯のメニューとか、今日、朝ごはんを食べたかどうかとか・・・」
「お客様、それはそれでヤバイです!あっ!ヤバイじゃなくて、心配です。。。。」
「あぁ、ヤバイでいいですよ。でも、昨日の晩御飯は怪しい時はあるけど、朝ごはんを食べたかどうかはまだ大丈夫。冗談です。安心してください。」
「じゃ、大丈夫ですね。ほんと、ヤバイとか言って申し訳ありません。」
「いえ、謝るほどの事ではありません。気にしないでください。」
女性店員は、仕事モードになった。

「お客様は、今日はどの物語へのダイブをご希望でしょう?」
「今週も、なつぞらで、お願いします。できれば泰樹さんが昔、開拓に入った頃を見たいのですが。」
「はい、泰樹さんはキャラが明確なのでできると思います。でも、今週のなつぞら とは全く無関係のように思えますが、
大丈夫でしょうか?」
「そうなんですが、東洋動画の入社試験に落ちてから、なつの行動が成り行き任せで、不甲斐ない。
いろんな事情があるのはわかる。でも、泰樹さんのようになりたいと言って上京しているのに、
それは弱すぎではないかと、感じたので、是非、泰樹さんの乗り越えた苦労を見ておこうと思ったのです。」

女性店員はちょっと困った表情になった。

「お客様の想い理解しました。少々お待ちください。」
女性店員はささささっと事務所に入っていった。
女性店員はおもむろにヘッドマウントのゴーグルモニターを着けた。
「今週もドラマには全く映らないシーンね。
十勝 開拓 歴史 検索!」
いろいろ、苦労の連続なのね。。。。
こ・う・が・い?
へー、こんなのも日本であったんだ。
見せ方はどうすればいいかしら?
うーーーーん・・・
女性店員はヘッドマウントのゴーグルの眉間の部分に手を当てながら考えた。

「よし!」
何か決意したのか、ゴーグルを外し、事務所を飛び出した。


「お待たせしました、お客様。本日は泰樹さんの夢の中にダイブします。今回は夢なので、完全い見てるだけの状態になりますが、
よろしいでしょうか?」
俺は了承して、カプセルに向かった。


いつもの様に七色の光が消えると、見覚えのある、柴田牧場にやってきた。
そして、眠っている泰樹さんにダイブした。
しばらく視界はまっくらだったが、やがて見たことはないが、見たような景色が目の前に広がった。
目の前に小さな厩舎兼住宅があった。
周りの景色は柴田牧場だが、牛2頭馬1頭のこじんまりとした厩舎だ。
厩舎の周りには、畑が作られている。
キュウリ、トマト、カボチャ、ジャガイモ、トウモロコシなどなが、眩しい夏の陽射しに照らされている。

「泰樹さん、開拓団が勧めてくれた、野菜が立派に実ってきましたね。」
どこかで見たことがあるような、若い男が話しかけてきた。
戸村悠吉だ!
牧場で働いていた戸村親子の親の方だ。
若い!

ということは、ここは昔のしばた牧場に違いない。
泰樹さんが、昔のことを夢に見ているのだ。

「開拓団の言うこともたまには当たるな。」
収穫まじかの作物を見ながら泰樹も満足そうだ。

「そういや、道央の方では蝗害とか言って、バッタの大群に農地を遣られてしまうことがあるそうですよ。十勝はだいじょうぶですかね?」
悠吉が不安そうに言う。
泰樹は北の方の山々を見て、そして悠吉の方に振り向いて呟いた。
「まさか、日高を超えてくることはあるまい。」
だが、悠吉の表情がこわばっていく。
そして、一匹のバッタが、悠吉の頭に留まった。
「泰樹さん、あ、あれ!」
悠吉が泰樹の背後を指差した。

牧草地の向こうに黒い塊が波打っている。
イナゴの大群だ!
猛烈な羽音と伴にどんどん近づいてくる。
泰樹は、大急ぎで厩舎の扉を閉じて、真冬の様に密閉し、手に松明を持って畑に戻ってきた。

「くるぞ!」
泰樹と悠吉は全力でイナゴを叩き潰した。
しかし、大量のイナゴだ。
牧草も作物も次々に食べられていった。
二人は松明を持って追い払おうとしたが、全くの無駄だった。
どれだけの時間が過ぎただろう。
やがて作物はなくなり、イナゴもいなくなった。

全てが失われた。
春からの努力が全て失われた。

悠吉は涙を流している。
「ちくしょう!開拓団の奴ら、作物を作ると夏には実って、食料に困ることがないって、言ったのに、、、、
種の代金だって苦労して工面したのに、、、
絶対にゆるさねぇ。
泰樹さん、カチコミに行きましょう。」

泰樹は黙って、厩舎に向かった。
厩舎に置いてあった。
竹竿を2本取り出し、釣り道具を用意した。
足元に落ちているバッタを拾い集めている。

悠吉は、その泰樹の行動を見て頭にきた。
「泰樹さん、何やってんですか!こんな時に釣りなんて何考えてんですか!開拓団に文句言わなきゃおさまらねぇ!」
泰樹は悠吉の両肩を掴んで、真っ正面から悠吉を見つめた。
「もう、ここには何の食い物も残っていない。どこに行ってもないだろう。誰に文句を言ったところで、何も出てこない。
人に文句を言う暇があったら、生き延びる手立てを考えろ。今日を生きなきゃ明日は来ない。」

たしかに、今日の食料も残っていない。
悠吉は泰樹についていった。

川に到着した。
川面には、かなりの数のイナゴ等が浮いている。
バシャ!バシャ!
魚がイナゴを食べるために積極的に活動している。
泰樹が釣り糸を垂れると、即座に食いついてくる。

悠吉も見よう見まねで釣り糸を垂れた途端、オショロコマが食いついてきた。
「泰樹さん!釣れましたよ。」
悠吉は喜んで釣り上げたオショロコマを泰樹に見せた。

「よくやった!どんどん釣ってくれ!」

二人は短時間で百匹以上の魚を釣り上げた。
泰樹と悠吉は満足そうに眺めた。

「よし、すぐに持って帰って、干物にするぞ」
泰樹はすぐに立ち上がって、魚を集め始めた。

川からの帰り道、泰樹は悠吉に話した。
「十勝では、人の助けを求めても、誰も助けには来てくれん。
人の責任を攻めて、相手を謝らせても、この状況では何の食料も出てこない。
生き残るために、行動を続ける人間しか、生きていくことはできん。。。。」

泰樹の言葉に悠吉は自分が目の前の怒りに駆られ、我を失っていたことを恥じた。

「とにかく、この魚を干物にして、しばらくは食いつなぐ。
畑の地面の中には、イモもあるだろう。
8月の終わりには、サケもやってくる。
そこで、なんとか冬を越せる食料を確保する。
ギリギリの生活になるだろうが、必ず冬を乗り越えられる。」

悠吉はようやく、冬を越すために、綱渡り状態であることがわかった。

そして、この状況を乗り越えるために、どうすれば牛と馬の飼料を確保できるかも、
悠吉に語った。

その時、俺の視界は真っ暗になり、しばらく浮遊感に包まれた。

じいちゃん・・・・

急に目が覚めた。
周りを見ると、川村屋の寮のなつの部屋だ。
隣には、三橋佐知子が眠っている。

???
あれ?
なつだ・・・・

泰樹さんにダイブしたはずなのに???

そんな俺の疑問には関係なく、涙が溢れた。
「私は、落ちた理由を人のせいにしようとしていた。一生懸命後ろを向いて、人にあたって納得しようとしていた。。。。
まだまだ、ダメだなぁ・・・・早くじいちゃんの様に前に進み続ける人間にならなくては・・・」

視界が七色の光に包まれた。

気づいたら、カプセルに戻っていた。
「お客様、いかがでしたか?」
女性店員の声だ。
「確か、泰樹さんにダイブしたはずなのに、なぜかなつになってました。。。なんで?」
「そうなんです。夢の最後で、急に場面が十勝から東京に変わったので、びっくりしました。
でも、物語の世界では夢を共有することはよくある話なので、今回はそのパターンにハマったのかもしれませんね。」
「そうですか・・・わりとよくあることなんですか・・・・」
「だいたいは、ストーリーに書いてあるんですけどね。今週、なつが東洋動画に落ちた原因ははっきりしていったのに、
なつは、咲太郎を責めなかったじゃないですか。何かないかなって思って、この日を選んでみました。」

女性店員はすごく得意げな表情だ。

この人案外凄いなぁと思いながら、俺は店を後にした。

なつぞらダイバー 第9週 なつよ、夢をあきらめるな

なつぞらダイバー 第9週 なつよ、夢をあきらめるな

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
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