よるにカラスはいない

花野 尋


 カラスがとことこと駐車場を歩いている。彼は、飛べない、ではなく、飛ばない、んだ。
あ、女の子だったらごめんね。

飛べる、という選択肢があって歩くのはどんな気分なんだろう、、。そんなことを考えながらアパートに囲まれた小さな公園でコーヒーを飲む。
太陽が出たり隠れたりを繰り返すのは風が強いから。

 3月21日。31歳。4月から休みが週4になる。人件費削減、バイトの身分だから仕方がない、、。

 いい天気、今日は本当に風が強い。コンビニで買った100円のコーヒーを半分ぐらい飲んだころ、空を見上げた。雲がすごいスピードで流れていく、それをずっと見ていた。

空になったコーヒーの紙コップが風で飛ばされてベンチから落ちた。拾おうとしたけど、風が吹くたび円を描いてごろごろ転がるだけなんでほっといた。

カラスが鳴いて、飛んでった。
やわらかい陽射しに照らされて紙コップが気持ちよさそうにごろごろ、ごろごろ、、。


 「俺んち着いたら電話して!」
そうLINEで年下に告げ、紙コップを拾って家に帰る。ずっと、テレビとシェーバーを見たいと思っていたので年下をコジマに行こうと誘った。

 年下が家に来て、僕はシャワーを浴びて支度した。20分ぐらい。その間年下は、僕の部屋で携帯ゲームをして待ちながら1人でブツブツなにかを言っていた。

玄関のドアを開けると景色はまだ夕暮れで、こんな中歩くのは気持ちがいいだろうなと思った。しかし、酒も飲まずに男2人で歩くのはいつ以来だろうか、、。少し不思議な気分だった。

 コジマは隣町にあるので15分ぐらい歩いた。コジマで定員さんに、録画ができてテレビの線をつながなくてもいい大きめの画面のテレビはありますかと問うと、無い、と言われた。

人は都合のいい妄想を抱くものだ。
触れるだけでドアが開く冷蔵庫に年下と感動して、コジマを後にした。


 「行ったことない居酒屋1軒行って帰ろか」
と年下に言った。年下とはいつも最寄り駅周辺で飲むので隣町では初めてだ。

ぶらぶら歩いて、いろんな店を見て、どこで飲むかを厳選した。20分ぐらい歩いた。結局僕が昔1回行ったことある居酒屋に行った。

どこかで安心感を求めているのだろうか。
それとも美味しかったという記憶を、脳ではなく心に焼き付けていたのだろうか。

 店に入って定員さんにUの字のカウンターの端に案内された。僕はカウンターの端が好きなので嬉しかった。店にはテレビが1台あって、イチローの試合が放送されていた。

 「イチロー引退するらしいですよ」
と年下が言った。
僕は4月から週4で休みだ。
鳥刺しをつまんで、生ビールを1口飲んだ。


 20時半ぐらいに店を出て、ぶらぶらと歩いた。風は止んでいて、夜のほうが寒くなかった。
夜の灯りがぽつぽつと、穏やかな気候と寄り添って、それがなんだか心地よくて、生きていることが少し、嬉しく感じた。

「いや~良い居酒屋日和ですね、もう1軒行きましょうか~」
と年下が言った。

それを聞いて、さらにもう少し、生きていることが嬉しく感じた。

よるにカラスはいない

よるにカラスはいない

  • 小説
  • 掌編
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