心の花

その少年は いつも窓辺にお気に入りの椅子を持ってきて 一日中窓の外を眺めていた

窓の外には 大きな木があってその葉を通して吹く風が 少年は 大好きだった

春がきて夏を迎え秋がきても また冬を待って ずっと外のあの山を眺めていた

少年は本当は空の向こうに見える あの山に行きたかったのだけれども

ちょっと 臆病でやさしすぎたから いつも眺めるだけで終わっていた


少年は木漏れ日の落ちる昼下がりの窓辺も好きだったけれど

雨よりも大きいしずくが風にゆすられて葉から零れ落ちる 雨上がりの夕方も 好きだった

あるそんな 夏のはじめの夕方に 一羽のハトがやってきて 雨に打たれた羽を休めに 窓辺に舞い下りた

少年には 雨のしずくがきらきら輝いて 光のかけらが降りてきたように思えた

あまりにきれいなそのハトを 少年は部屋に招き入れて あたためてあげた

その日から ハトは毎日 少年の窓辺に来るようになった


ハトはある日 一輪の花を持ってきた

その花は 少年が悲しい時に は悲しい色に うれしい時にはうれしい色に変わる不思議な花だった

少年は その花を窓辺において 大きな木の向こうにつながる草原に出てみることにした

ハトが空で大きく輪をえがきながら 少年の頭の上をとびまわった

窓の外の空気に 草のにおいを感じて 幸せな気持ちになった


その日から少年は 歩き始めた

毎日少年は ハトの飛ぶ空の下で すごした

大きな空の下は 気持ちよかったし 熱い日差しに疲れた時は 大きな木の影で休んだ

窓辺で 夢見ていたもの 心に映ったすべてのものを感じながら 幸せな時間が過ぎていった

そして そのどんな時も 花は少年の心を映していた

不思議なことに 花はいつまでも枯れなかった



どれくらいの時をすごしたのだろう…気がつくと 季節が変っていた

もう 冬も近い夕方の空に雲は流れ 少年の好きなあの山もきれいなシルエットになっていた

少年は ちょっと考え事をした



今まで過ごした時間が一瞬だけ止まった



そして いつものように 一日を一緒に過ごしたハトは

すこしだけ 振り返ると 茜色に染まって空に消えていった


その次の日から ハトは来なくなった


大きな木の葉も枯れて 少年は また窓辺に座るようになった

少年は 茜色に止まってしまった時間のことを ずっと考えていた

花も その色にそまった



しばらくして 少年は あの山に登ろうと思った

いつかハトが持ってきてくれた花を心にしまって…

心の花

心の花

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-11

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