放課後フルーツ牛乳

 廊下、放課後の、それは、少しだけ異次元。
 わたしが、なにかこう、例えがたい不安に、さいなまれているときに、きみは、すっと現れる。制服のリボンを、直してくれる。あたまを、撫でてくれる。からだがはんぶん、透けているきみは、一言もしゃべらないで、わたしが、いま、おそらく、無意識に求めているものを、察してくれる。
 こいびと、みたい。
 正体不明の、不確実な存在の、きみは、放課後の廊下に棲みついて、わたしは、放課後のたびに、意識的に、うまく言い表せない不安を、生んで、きみを呼び出す。ときどき、先生が、はやく帰れよ、というのを、適当に受け流して、夕暮れの、かげがさし、暗いところもある、廊下で、わたしときみは、こいびとのまねごとみたいなことを、している。
 今年のゴールデンウィークは長かったので、きみと、十日間も逢えなかった。
 わたしは、とびっきり重たい、不安を、想って、きみを呼んだ。わたしの、うぬぼれかもしれないけれど、きみは、いままで見てきたなかで、いちばん、嬉しそうな顔を、していた。
「さびしかった?」
 たずねると、きみは、わたしの髪に、触れ、指で、もてあそび、くちづけをした。はたして、ゆうれいみたいなきみには、わたしの感触が、髪のにおいや、髪の毛の質感が、わかるのだろうか。わたしは、自販機で買ってきた、紙パックのフルーツ牛乳を、きみにあげた。ちゃんと、持てた。
 半透明のきみに、フルーツ牛乳のパッケージは、よく映える。

放課後フルーツ牛乳

放課後フルーツ牛乳

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-07

CC BY-NC-ND
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