あるピエロ。

わしはなあ、古くからこのナンセンスミームの地でピエロをやっているものじゃ、
名前をピエロ・エロ・エルという
だ、だれがエロじゃ。エロじゃよエロ、えぐちと読むんじゃ、間違えるでないぞ。

ピエロは道化じゃ、踊らねばならぬ、そして大道芸を披露しなくてはならない。私はある場所、ナンセンスミームの噴水のあるその場所にいつも身を寄せている。ワシは常に道化じゃった。休日、広場に集う人々の疲れ、またはすくいを求めるその姿をみて、それに見合う対等の対価を支払わなければならぬ、なにせピエロとして職を持っている身であるからのう。

先週一羽のカラスがショーにまじってきた。ワシはそれはとても厄介だとおもった。ハト、そうだよ、よくあるやつじゃろ、大道芸人がハトを取り出すマジック、そう花束を添えてだな。

ワシャのう、ピエロ・エロ・エルなんていう名前だから子供の頃から名前の事をからかわれていた。そう、普通によめば、エロになる、だからこれは親の罪だ、自分の罪だと思っていたのじゃ。その運命を厄介におもっていたのだ。だから大道芸は救いだった。笑いという物のもう一つの側面をしった。なぜならそのミジメな運命を、娯楽に変える事ができるからじゃ。
 でじゃ、先週のカラスの話に戻る。カラスは人に忌み嫌われておる、人の生活にぶらさがり、人の生み出すごみにたかる。だがのう、そのからすに、ある面では、同情の想いを抱いてしまったのだ。彼はつねにいたずらに、私の用意をした風船をわったり、むらがる観衆の中を羽をばたつかせさわぎまわっていて迷惑をかけていた。

先週のナンセンスミーム広場での講演は、ほとんどが失敗だった、私が生み出したハトはその厄介者のカラスに追われて、どこかへ逃げ出してしまった、その途中で慌てて落した羽や、散乱したトランプを客たちが拾い集める、大惨事であった。
 だからわしはみじめでみじめで、化粧をぬらして泣きながらおどったのだ、これでもか、これでもか、っと、観客たちはその自分の哀れな姿をみて、わらっていた。そこでカラスが首をかしげているのをみた、ステージの横で、彼は首を傾げて、こっちをみつめていたのじゃ。いつものようにおひねりをもらう事もできんかった。

 カラスは、いつしかわしのマネをしていた。観衆はいつのまにかカラスをみて、わいやわいやと喜び拍手をしてたたえた。私はそのカラスが憎く思えていた。さっきまでかかえていた同情はどこへやら。憎しみだけが私の心をしめていた。
 いや、しかしそのときさとったのだ。ワシには絵があった。ピエロになる前、小さなころからだれにもだまって、好きな絵をかいて過ごしていた。いわゆるぼっちじゃ、その時の事をふとおもいだして、カラスの絵をかいてみたのだ。
 カラスの絵は、その場である紳士にかられた、紳士は、こういった。
“問題ない”
言葉の意味はわからないが、ショーの成功と失敗、そしてきっと私の悔しさをくみ取ってくれたのだと思った。カラスの絵の値段はきっちり、わしの毎週のその大道芸に捧げられるおひねりと同じ値段だったよ。

 話しはこれで終わりじゃ、なんてったって、このピエロ・エロ・エルなんていうふざけた名前もこの話も、たったいま、路地裏のカラスを見つめていた時に思いついたものでしかないのだからな、ハッハッハッハ。常に道化でなくてはならない自分の人生を想ってこの話を今作り上げたのだ。

あるピエロ。

あるピエロ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-04

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