詠嘆庵

 簡単に話すとすれば、それは学校の裏門の正面に駄菓子屋があって生徒たちが集い、菓子を食べているのが何時もの光景であった。しかし今日は何時もとは違っていて、青いベンチに女の子が一人だけ座り水飴を舐めていた。僕はその女の子を横目で見つつも通り過ぎようと歩いていたが、ラッパを鳴らすかのようにして女の子は僕に声をかけた。けれども女の子は何を喋っているのか、僕には理解ができなかった。青い目をしていた。その女の子が舐めている水飴と同じカラーリングであった。僕は女の子に向かって視線を投げた。何を返答すればいいのか分からなかったので、僕は視線を投じる事しかできなかった所為もある。女の子はまた口を動かして喋った。でも僕は黙って見ていた。駄菓子屋の奥からはヒンヤリとした冷気が流れていた。女の子は今度、立ち上がって喋った。やはり僕はその言語が理解できなかったので青い目の方を見つめていた。すると、女の子は僕が被っていた野球帽をサッと掴み取って走り出した。まるでそれはエイリアンの飛来で羊か山羊を瞬間的に連れ去るように僕の野球帽は言語の通じない奴に奪われてしまったのである。それで僕は走って逃げる女の子を追いかけた。
 これが簡単に話した内容である。僕はその女の子を追いかけた結果として一本の柱からなるとても高い、そう、とても高い茶室に登って休んでいた。学校の裏山を上がった先に段々とした畑があり、その天辺に一本の柱で支えられた茶室があった。誰が何の目的でこの茶室を造ったのかは分からないが、僕の野球帽を盗った青い目の女の子はそこに登って行った。僕は高いところはあまり好きではないが野球帽の為にそこを登り茶室に入った。
 茶室の中は狭く、女の子はいなかった。真ん中の囲炉裏のそばに僕の野球帽は置いてあった。僕は野球帽を拾い上げて下に降りようと思ったが、どうも様子がおかしい。下が遠くなっている。と言うのも、茶室は宙に浮いていた。いや。浮いているのでない。飛んでいるのだ。まるでスペースシャトルが真っすぐに直線に大気を突き抜ける、あの、映像のように空を飛行していた。このまま、宇宙へと行くのか? 嫌な予感がした。それから囲炉裏方へと振り向くと青い目の女の子が座って赤い水飴を舐めていた。
 もう一つ加えるなら、おでこから二つの触覚が生えていた。

詠嘆庵

詠嘆庵

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-04-22

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