太古の火の中チョコクランキー。




部室は暗くて窓が高い。
小さい面積に光量は充満して
分厚過ぎるカーテンレースみたいだ。
外がない。






試合後の私は腕を下げてまだ私服に
着替え終えていないから
外に出るには早過ぎる。
シャワールームは満室中。
人数分には足りない。
色々な考えが考えられて
喧々諤々もあったかもしれない
(単に他に
習っただけかもしれない。)。
そう思うと納得出来る。
半裸で私は使えるシャワールームを待つ。







配役のヒロインは未決定。
事情はそういう事だろう。
部室は暗くて高い窓だ。
小さい面積を通って外光は
部屋の内でも光である。
当たるスポットには誰もいない。
そしてシャワールームは満室だ。
通る蟻ぐらいは居るかもしれない。
お菓子の滓は残ってる。
でも蟻の配役って何だろう?
スポットライトは強く
お菓子への道は正しくここだと言わんとばかり。
通る蟻の触角は動きっぱなし。
止まってるところも見て見たくなる。
保健室が実施する
(いつもそう思ってる。),
視力検査を思い出す。
通る蟻の触角は右を向きました。
左を向くかは視力検査じゃ取り扱えません。
通る蟻の触角は右を向きました。
それはお菓子の
道なのだと思います。







お姉ちゃん私,
チョコクランキーは食べたよ。
部活でもう使っちゃって糖分でも返せない。







お姉ちゃん私,
部室に居るよ。
チョコクランキーの袋が転がってる。







所在無げな台本に似て
男子マネージャーの筆跡はオドオドしていた。
内容ははっきりとスコアを残しているのに。
黙読する数字。
体内に溜まる。
快調な胃は今か今かと消化を待ってる。
秘密の暗号でもない?とキャプテンは言う。
応えようと思う。
部室の薄い暗さを払おうと目を凝らす。
ポカリは慢性的に減り続けているという。
レモンと蜂蜜はいつも一緒だ。
これをメンバーに置き換える想像は
先にシャワーを使うと告げる声に散った。
半裸の私は窓辺に近い。
外にいけない体だ。
キャプテンは電気をつけるには早いと言った。
返事はまとめた。
了解。
それは返事にはなった。
空いたシャワールームは直ちに満室になった。







石で作られた部室は保温に向かない。
ウェアは重くなってもう一度は着れない。
汗を吸ったのだ。
機能性に偽りはない。
シャワールームだってまた空くだろう。
木のベンチを立ち上がり,
半裸の私は壁の落書きに向かった。
落書きはFight!やガンバ!と私を応援する。
取り壊しを免れれば応援する落書きは
相合傘も混じえて
このまま何十年経っても変わらずにいれると思う。
半裸でも私はミイラになれる自信はない。
木のベンチを温めたお尻の温もりはもう何処か行った。
お湯を用いてもその継続時間は
ヌードルを作れない。







お姉ちゃん私,
チョコクランキーは食べたよ。
部活でもう使っちゃって糖分でも返せない。







お姉ちゃん私,
部室に居るよ。
ヌードルはここでは出来ない。







太古の洞穴でくべられた火を思う。
真ん中に集められた手と手は
火傷をせずに温まれる距離を探って
行ったり来たりもした。
囲まれた石の中の,
足りない火の中で,
思って書いた絵を見る。
パチパチって火の粉も散った。
隣人の寝息は思うより早く近いから大きく聞こえ,
揺れる火で絵は動く。
薄暗さが刺激したイマジネーション。
世界を夢見る。
朝を迎えれば夜を無事過ごせたことを思い
大きく歩いて長く進んでそうして夜を迎える。
パチパチっていう火の粉。
たまには人影も踊る。
手拍子は
石の洞穴の中で木霊する。






残響は枕になって眠りに誘えば
火は消えて洞穴に朝陽は射し込む。
炭として割れた木は役目を終え
部室の落書きみたく壁画は浮かぶ。
Fight!とガンバ!はエールを贈る。







お姉ちゃん。
チョコクランキーの袋が転がってる。
少しは綺麗にしとかなきゃね。
お姉ちゃん私,
部室に居るよ。
半裸で壁の
落書き見てる。







薄暗さが刺激したイマジネーション。
皆の無事を知りたく思う。
ブラジャー姿は恥ずかしくなんてない。
微笑み返せる火をくべよう。
キャプテンの許可は得た。
部室の電気を点けた。
太古の火より明る過ぎて
代わりに相合傘は良く見えた。
ハートの雨が降っていた。
Fight!やガンバ!は応援していた。







テニスボールはてくてく転がった。
真っ直ぐな床は不思議そうだった。
立て掛けたテニスラケットは斜めだ。
ボールだって転がるだろう。
シャワールームにも泡は増える。
きっと1人ぐらいは眼を瞑ってる。
今から食べるパフェーを浮かべ
使ったシャンプーの泡を意識せずに,
排水溝を踏んづける。







汗が流れるためにスポーツ飲料は減っていき
レモンは余って齧るしかない。







シャワールームに空きが出来て
使ってイイよと声をかけられた。
サンキューと答え
半裸の私はチョコクランキーの袋を見た。
チョコを思わせる茶色の基調。
円で囲まれた謳い文句。
拾って裏にはバーコードと成分の表示があった。
内容はシンプルで
その仕組みと意図が複雑だった。
脱衣所の1つのゴミ箱に生理用品に混ぜて,
袋を一緒に捨てた。
最後にはまた円で囲まれた謳い文句が踊った。
サクっとした食感を伝える。
オレンジジュースは合わなかった。
個人的事情を超えない概ねの事。
確かめてとオススメは,
あまり出来ない。







お姉ちゃん。







入ったシャワールームは端っこで
ここも部室の中だから暗くて窓は高い
(多分お風呂のプライベートも保護してる。)。
外はよく分からない。
外光が顔に丁度当たってる。
眩しくて目が開けられない。
チョコクランキーの袋は捨てた。
匂いなんてしなかった。
現実にシャンプーを泡立てた。
だから記憶の中のチョコクランキーもいなくなる。







お風呂あがりのメンバーが流行りの曲を口ずさむ。
新たな落書きも増えたかもしれない。
マジックペンの匂いが浮かんではやはり泡とともに流れた。
排水口の渦巻き。
グルグルしている。
回ってる。







温かくなってきた腰の辺りを撫でる。
糖分はもう私の中にない。







火をくべるお姉ちゃん。
手は差し伸べられる。
私は何をしよう。
次に向けて素振りでも,
していようかな。







太古の洞穴でくべられた火を思う。
真ん中に集められた手と手は
火傷をせずに温まれる距離を探って,
行ったり来たり。
囲まれた石の中の
足りない火。







だからチョコクランキーは溶けない。
サクッとして甘くも美味しい。

太古の火の中チョコクランキー。

太古の火の中チョコクランキー。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-15

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