種族保存本能

種族保存本能


 窓の外に緑色の惑星が浮かんでいる。眩しいほどの緑色の光が目を射る。
 この惑星のある銀河系に入ると、暗い宇宙空間に緑色に輝くこの惑星と、この惑星が回る赤く光る恒星が、どちらが主人か分からないほどどちらも強い光を放ち続けていた。
 母船から離れ、調査船で近くまで来て、このように間近で見る惑星は、大気も地も緑色の物質で出来ているのではないかとすら思うほど緑である。地球は青かった、それは青色が吸収されずに反射するからである。この星の緑色は何がそうしているのだろう。地球での緑は植物の色である。
 見つめていると、身震いしてきた。
 「あの連中はこの緑色に殺されたのではないだろうか」
 つい、独り言を言った。この調査船は一人乗りの最新悦宇宙艇である。しゃべる相手が隣にいるわけではない。
 私は最近この星に降りたった二人のアストロノーツの写真を見た。どちらも先輩で、訓練中はよく教えてもらった。オールディスとバラードは新しがりやの二人らしく、その時としては最もすすんだ宇宙艇で意気揚々とこの星に降りたったはずだ。その後調査のため地上に出たことは分かっているが、そのまま二人とも消えてしまった。
 今までこの星で何人消えていったのだろう。それを解明しようと、あの二人は意気込んでいたはずだ。それがご他聞に洩れず行方知れずだ。それでも政府は懲りずに、この星に人を送り込もうとする。今回で十二回目だろう。なぜこの星にこだわるのか、地球政府は私にその理由をつげずに、任務につくように命令を下した。確かにやりがいのある仕事だが、自分の命がかかっており、かなり危険なことは分かっていた。
 この緑の下には何があるのか。彼らはどうなったのだろうか。今この惑星の周りをまわっている。あと一時間もすれば着陸態勢に入る。覚悟を決めなければならない。時計をみた。正式には五十六分三秒で大気圏に突入である。船内も緑で占められるだろう。緑のスペクトラムはクロロフィルに近いことが分かっている。
 母船からいろいろな形でこの星の探索を行なったのにもかかわらず、生き物がいそうだがどのような形で存在しているのか見ることができなかった。コンピュータがはじき出すデーターはすべて「緑」としかでてこない。超高性能の望遠鏡で見ても緑の大気の下を覗くことができなかった。軍事関係者は緑のバリアーをはっているのではないかと考えている。それもありうる、地上は綺麗な色に溢れているかもしれないのである。とすればかなり高度な生きものがいるはずである。
 ともかく地上に降り立ち、寸時でも地に触れて、すぐもどるように言われている。その間にこの星を見て情報を送れということだろう。
 私は今まで八十近い星の調査をしてきた。住人とコンタクトをとったこともある。いうなればベテラン宇宙飛行士である。三十で宇宙艇の船長になり、年に三つほどの星の調査をしてきた。今年五十を越した。そろそろ引退と思っていたところに、この危険な役割を与えられた。断ることも出来たが、データーを見せられ、想像力をかき立てられる魅力のある星なので引き受けた。緑の小人か、緑の巨人でも住んでいそうである。

 時間だ。体の固定バーを確認した。目の前の赤ランプが点滅を始める。下降のための噴射が始まっていることを示すものだ。すべて自動で行なわれるので、船長は計器類を見守っているだけである。船窓を見ても、べったり緑である。船がちょっと揺れた。今はその程度で大気圏に突入できる。緑色の雲の中を飛ぶ飛行機の窓から周りを見たときと同じように、緑しか見えない。大気の成分は地球の成分と変わりがないことがわかっている。なのにどうして緑だろう。空気に色をつけている。何が、こういっている間にも宇宙艇のコンピュータは外気の解析を行っている。
 どのようなところに着陸するのか。緑色が目を刺激して恐怖感が増す。真っ暗よりも怖い。
 独り言を言いたくなる。他の色が見たい。宇宙艇の中も緑色に輝いている。赤いランプの点滅も、緑色の点滅に見える。自分の手も、着ている迷彩色の服も、皆緑色である。
 目を閉じた。日の光があれば目を閉じてもまぶたを通して赤が目の中に入ってくる。真っ暗になってくれるのかと思ったら違った。緑色が新入してきた。目を閉じても脳は緑色を見ている。脳の中も緑色で埋め尽くされているようだ。目を開けても緑色しか見えない。
 着陸は自動で行なわれる。目を瞑っていると、周りの空気がざわついて、ジャングルの木々のすれるような音に聞こえる。白昼夢でなく、緑昼夢といったらいいのだろうか。緑色のツルがからだに巻きついてくる。細い緑のツルの先端が手を探っている。おでこに触れるものもある。目の上を緑のツルが撫でさすっていった。ツルの先が鼻の穴から、耳の穴から、口から侵入してくる。手の血管を探り当て、細く尖った先が差し込まれ、樹液が注入されると、赤血球が緑血球にかわっていく。私は蛹になった。緑に囲まれうとうとしていると、今度は緑から出たくなった。からだをひねらせ、脱皮をしている。
 目を開く。私の目の前には広大な大地が広がっていた。いつのまに宇宙艇は着陸した。
 白昼夢が続いているのだろうか。大地は緑色で、水らしきものは見られない。植物らしきものもない。ただ緑色の土で出来た台地である。コンピュータは外に出ても害がないことを示している。
 からだの固定バーが自動的に上がった。
 着陸が無事起きたことを母船に知らせるため、スイッチを入れた。しかし、スクリーンには緑しか映らない。音声も通じなかった。母船は三光年離れた一つの星の上に浮かんでいる。そこから、何箇所かに調査艇を送り出している。
 命令は降りたらすぐに戻ることだった。
 すぐ発進できるように、セッティングをした。とりあえず、船外の映像は捉えたので、それだけでも新しい情報になる。
 窓を見ると、緑色の土と思っていたところは苔のような細かい草が生えていることがわかった。サンプルを調査アームでとると保存するものと、今解析するものに分けた。解析結果はすぐでる。
 結果がスクリーンに映し出される。地球の植物と同様の細胞により構成されていることが示された。映像でも地球の植物の細胞によく似ているが、肝心の核がない。クロロプラストにより満たされている。クロロプラストにはDNAがある。地球のものと変わりないが、どうも核のかわりもしているようである。ということは細胞の生命をコントロールする中心となる。それにしてもなんら危険の要素がみられない。
 これならば、少しなら船外に出るのは問題ない。アストロノートとしてはやはり異星に降りたってみたいものである。
 外の空気をもう一度精密に解析したが、毒になる要素は何も含まれていない。クロロフィルもない。高度な生命体がいる様子もない。
 調査に必要なものを身につけ、宇宙艇の昇降機に乗るとスイッチをおした。昇降機は船底から地上に降りた。そこで初めて昇降機にあるハッチを開ける。危険を感知すれば自動に宇宙艇の中に収納される。
 何ごともなく、昇降機の扉が開かれ、緑の苔のような植物の上に足を下ろした。ふわっとして気持が良い。外気を吸った。気持ちがいい。周りを見渡す。それ以上危険なこともなかった。
 この星には高い山はなくなだらかな丘が続いているだけである。
 空は緑色だ。地上一キロほど上は一面緑色の雲である。その下にもすこし大きめな緑色の雲の塊がふわっと浮いている。この惑星のまわっている恒星はかなり大きく光が強い。緑色の雲を通して地上に光をもたらしており、大地は緑に輝いている。
 小高い丘に向かって映像を撮りながら歩いていった。
 丘の上に登るとクレーターのようにへこんだ円形の地形が見渡せた。ずい分大きなクレーターである。そのはるか遠くに、建造物のようなものがあるのが見えた。何百キロも先なのであろう。調査船に戻りそこまで飛行することにした。
 船ならば数分でそこまでいける。大気圏航行モードにセットし、発進させ上空から高性能の望遠鏡でそこを拡大する。
 緑のじゅうたんの上に、色とりどりの構造物があった。倍率を上げると、震えが走った。赤、黄、青、銀の宇宙船が林立していた。宇宙船の見本市だ。見慣れたものもあった。地球の宇宙船がある。オールディスとバラードの宇宙艇もあった。彼らの船は地球から直接来たもので、私が乗って着た調査船のようなものではない。
 驚くことに気がついた。ここにある船は地球のものだけではない。広い宇宙のどこかの星から飛んできたものが大多数である。奇妙な形をしたものもたくさんある。
 調査船をオールディスとバラードの宇宙船の脇に着陸させた。積んでいた偵察用のドローンを用意した。外気は我々も呼吸ができるものだ。ドローンをとばすこともできる。発射させた。
 ドローンから送られてくる映像を見ると、すごい数の宇宙船である。
 地球から今までこの星の探索に来た十一艘の宇宙船はすべて周りに確認できた。昔に来たものから新しいものまできちんとならべられていたのは何かの意思が働いている証拠でもある。
 それだけではない、とてつもなく大きく十階建てのビルのような宇宙船もあるし、ミニチュアの小さなもの、奇妙な形のものもある。この星にやってきたと思われる、たくさんの宇宙船が、整然とならんでいるのである。それらの宇宙艇、ロケットは、見た目にはどれも損傷がなく、すぐにでも動かすことができるような状態である。コンピュータがドローンの画像から宇宙艇の数を数えた結果では二千を超える。
 同じような形状のものがいくつか集まめられているということは、どの星も何度もこの星に調査のための宇宙船を送りこんだということだろう。異星人は蟻のように小さい人から、鯨のように大きな人までいるのだろう。会ってみたいものだ。
 今までに地球人が出会った宇宙の人たち、異星人はまだ百に満たない。一体宇宙にはどのくらいの高度な生命体がいるのだろう。
 それにしても、肝心のアストロノーツたちがいない。一体どこに行ったのだろう。この星の状態からすると、どこかで生きている。とするならば、異星人たちも一緒にいるのだろうか。ここの住人はどのような生きものなのだろうか。
 一度だけ外に出たい。降りたところに集まっている十一の地球の宇宙艇の中に入ってみたい。安全と判断したら、外に出ることは許可されている。ただ、地上におりたらすぐ調査船に戻るようには言われている。ここの状況から判断すると、安全である。これは私の長い宇宙での経験からの結論である。
 だが、万が一の時は自動で調査船が母船に帰ることができるようにコントロールパネルをセットした。外に出ても手元の無線ボタン一つで、自分が乗っていなくても、調査船が母船に戻れるようにしたわけである。
 ともかく、今までこの星に来て帰らぬ宇宙船の人たちの居所がわかりそうな、ちょっとしたサインでも探したい。
 そのままで呼吸もできる外気の状態だが、四方の映像が取れる撮影機がついた宇宙服もつけ、調査船から降りた。小さな草というか緑の苔のようなものが地表を覆っている。柔らかに靴を受け止めてくれた。
 足元を見ると、苔の中から小さな白い花が顔をだしていた。辺りを見ると、いくつか花が顔をだしている。緑の苔のような植物の花なのだろうか。苔がこの星のしゅじんとうことはあるまい。
 ともかく地球から来た宇宙船の中に入ろう。急いだ。
 地球から一番先にこの星に来た宇宙船はかなり大きなものであった。円筒形で、昔の絵に出てくるロケットに似た形をしている。周りの宇宙艇を見下ろすように立っている。ハッチは開いており、はしごが下りている。搭乗員が降りたときのままのようである。
 中に入った。旧式ではあるが、頑丈にきちんと作られている。今の量産のものとは違い手作りの匂いがする。地球ではもうこの形式のものは博物館にもないかもしれない。地球からここにくるまで、おそらく二十年はかかったのであろう。それでも光速の何倍かで飛ぶことができたはずである。次元空間を利用する最初のものだ。広い操縦室に入ると、書類カバンが無造作に椅子に立てかけてあった。この乗務員名簿があったので出してみた。ベルジュラック、ウエルズ、トーウェン、ドイル、この生物学を学んだ搭乗員は私の宇宙航空学校の学長室に名誉博士として写真が掲げてあった。その写真に彼らといっしょに宇宙船も写っており、彼らの足元には草の中から四本の赤い花が開いているのが印象的だった。旅たつ前の写真だろう。
 次の宇宙船にも知った顔のアストロノーツが乗っていた。やはり学校の写真でみた。先の宇宙船と違い、高さはなくなったが幅広くなっている。ガーンズバックとメリットがのりこんでいた。写真にはやはり赤い花が咲いていた。
 戻ることがなかった宇宙船はすべてそろっている。地球の者たちが知ると驚くだろう。その前後の宇宙艇にはよく知った先輩たちが乗っていた。キャンベル、ブラウン、クレメント、シマック、ウインダム、ヴォークト、次の宇宙艇はサーバー、ブラッドベリーである。あってはいないが私の先生たちといってよいだろう。私の宇宙艇まで4つというところにきた。スタージョン、シルバーバーグ、この人たちは顔を合わせている。生きていれば八十は越えている。次の宇宙艇の搭乗員は五人だった。その中に、一人私と同じ国の先輩がいた。アベコウボウである。私を手取り足取り教え、育ててくれた。
 その宇宙艇から降りた時、誰かが私を見ているような感じに襲われて振り向いた。誰がいるわけでもない。草の原である。五つの赤い花が輪になって咲いている。可愛らしいきれいな花だ。どこかなつかしい花である。花の真ん中にあるもの。そこから長い毛のようなものが無数に生えている。屈んで花に顔を近付けてみた。
 はっと、目を離した。そこにあったのは目玉だ。目玉の形をしたものが花の真ん中にある。しかし私を見てはいないようだ。五つの花を一つ一つ覗いた。青っぽいもの、茶色っぽいものがある。一つ真っ黒な目があった。その真っ黒な瞳を持つ目は自分の知っているアベのものにそっくりだった。
 オールディスとバラードの乗っていた宇宙船のおり口の下にも二つの花が咲いていた。やはり目があった。オールディスとバラードの目だ。彼らはよく知っている。
 しばたたきこそしないが人間の目だ。もう一度地球の他の宇宙艇の下を見た。緑の草の中に搭乗員と同じ数の花が咲いていた。
 近くにあった異星の宇宙船の周りも歩いてみた。その下に咲いている花の芯は人間の目玉ではなかった。ツルンとまん丸なものもあり、三角に飛び出しているものもあった。異星の搭乗員の目に違いない。
 どういうことなのだろうか。大きな何十階のビルのような宇宙船にいってみた。その下には無数の花が咲き乱れている。花の中を見ると目があった、丸い瞳の中に細長い瞳孔を持っていた。搭乗員は猫のような異星人だったのではないだろうか。この咲き乱れる様子では、自分の星を出て、どこか移住の星を探していた宇宙船がこの星により、大勢の異星人がここに降り立ったことをと示しているのではないだろうか。
 遠くにぽかっと浮かんでいた緑色の雲の塊がいつの間にか、宇宙船展示場の上にただよってきている。
 私はまた自分の宇宙艇のところに帰ろうと、草の上を歩いていくと隣の宇宙船の下が輝いた。何が光ったのかと行ってみると、二つの小さな赤い花の周りが緑色の光を強く放ち、小さな花がむくむくと拳ほどの大きさくなると私を見た。バラードとオールディスの目が私を見た。バラードの目と会った。
 その時、緑の雲が垂れ下がってきて私を包み始めた。おかしい。
 私はあわてた。走った.自分の宇宙艇に戻った。遅かった、緑色の霧にからめとられ、からだがふーっと宙に浮いた。私は非常ボタンをとりだすと押した。私の宇宙艇の昇降機が上昇し格納されると、宇宙艇が始動し始めたのを見た。情報を持って母船に帰るはずである。
 私のからだには緑色の霧が侵入し始め、細胞という細胞をばらばらにして、霧の中に浮遊させた。周りを見ることも、音を聞くこともなくなった。宇宙艇が無事にこの星を晴れたかどうかはわからなった。意識だけは存在しているが、からだはなくなっている。着ていた服の分子はばらばらになり、霧の中に浮遊した。持っていたものもすべて分子になり、私の細胞の中を飛んでいる。ばらばらになった私の細胞の中に緑の霧が入り込むと、細胞の核は追い出され分解された。細胞の中はクロロプラストが詰め込まれ、この星の植物と同じ細胞になった。
 私を包んだ霧は地上に降りた。やんわりと大地の中に浸み込んでいった。時間の感覚はなくなった。あれからどのくらいたったのか分からなかった。急に光が差し込んできて私の細胞が集まった。形作ると地上に向かって伸びていった。葉が出た。また出た。最後に私の意識は花となり顔をもたげた。緑色の空からの光がうれしい。
 脇に私が乗ってきた宇宙艇がある。飛びたつことができなかったのだ。自動に発進することはこの星に押さえられたようだ。
 ふっと上空を見ると、緑色の雲から宇宙船がおりてくる。次第におおきくなり、とうとう私が乗ってきた捜索艇の隣におりてきた。新しい形の捜索艇だ。地球のマークがついている。ハッチが開いた。
 二人のアストロノーツが宇宙服を着て降りてきた。
 「綺麗な星じゃないか、それにしても、宇宙艇がこのように集められている、どんな生き物がいるのだろうね」
 「これからゆっくり調べようや、今度は必ず戻って来いという命令をうけてるからな、この宇宙服は万能だ、安全に船に戻れるよ」
 「何が危険なのだろう」
 「分からんけど、あの勇敢で、最も信頼されていた先輩が戻ってこなかったのだから気をつけなければな」
 私の後輩の二人だった。ウルフとイーガンである。一緒によく宇宙を旅したものである。あれからどのくらいたったのか分からない、すぐ帰って欲しい、そうしないと私と同じ目にあう。
 彼らは私の宇宙艇の下に来た。
 私はまだ蕾である。その間に何とか戻ってもらいたい。
 二人で私の宇宙艇に入っていく。地上の映像を捉えたりしたデーターをしまっておいたのだが、おそらく、それらは分解されてなくなっているのだろう。
 しばらくすると彼らは私の捜索艇から降りてきた。
 「アニトはどこにいったのだろうな」
 アニトは私である。
 「他の宇宙艇の乗組員もどこに消えたのかな、他の星の宇宙艇がこんなに集まっているとは思わなかったな、中を見るのは楽しみだな」
 「ああ面白そうだ、ここは、宇宙の博覧会場だな」
 彼らは笑っていた。私はその時、すでに花を開いていた。小さいので彼らはまだ気が付いていない。
 「緑の星はやっぱり草の星だったな」
 イーガンが私に気が付いた。彼はアストロノーツになる前は植物学者だった。
 「やっぱり花をつけているよ」
 「草はあとで調べてみようや、とりあえず地球の宇宙艇を調べよう」
 「そうだな」
 二人は歩き始めたのだが、イーガンが戻ってきた。
 私は彼と目を合わせないようにうつむいていた。
 イーガンが覗き込んだ。
 「おかしな花だぞ、芯が目玉のような形をしている」
 ウルフがもどってきて覗き込んだ。
 私はからだがうずうずしていた。彼らの目をまともに見たい。だが、そうすると、私と同じこととなる。
 「本当だ、この目はアニトに似てないか」
 またイーガンが覗き込んだ。
 私は我慢が出来なくなってきた。からだのほうが勝手に動く。何とか花を無視して行動をして欲しい、しかし私の本能はどんどん強くなる。
 私の手が伸びた。すると私の葉っぱが緑に輝いた。
 二人がびっくりする。
 私はもう本能に従うしかなかった。私である花が大きくなった。
 「おい、花が大きくなってきたぞ」
 イーガンが私を見た。私もイーガンの目を見てしまった。イーガンが一瞬くらっと倒れそうになった。ウルフも私と目を合わせた。ウルフも一瞬立ち尽くした。
 空から緑の雲が降りてきて緑の霧が彼らを包み始めた。
 二人は、私より周りを見る時間がなかった。何が起きたか分からないうちにこの星の生物になるのである。
 この星の生命体は、他の星から来た人間を掴まえて、同化させ種を存続させている。種族保存本能の強い生き物である。これからもいろいろな星から調査船が来て、乗組員はこの星の住人となり、宇宙の宇宙船展示場を広げていくことになるのである。
 植物が一つの星の主人となるにはこうするしかないである。

種族保存本能

私家版初期(1971-1976年)小説集「小悪魔、2019、276p、二部 一粒書房」所収 
挿絵:著者 

種族保存本能

鳥人がある星に降り立った。その星の住人は終局を迎えた生命形態をしていた。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2019-04-19

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