(2020年完)TOKIの世界譚稲荷神編『いなり神達の小さな神話』

(2020年完)TOKIの世界譚稲荷神編『いなり神達の小さな神話』

稲荷神達の間で流行っている信仰心を競う遊び、稲荷ランキング下位の落ちこぼれ稲荷神達が団結して上位に食い込む決断をする!
ゆるく、のんびり進む日常のようなお話です。

4月

4月

四月。
寒い日と暖かい日が交互に来るそんな時期。桜が舞う中を入学式の子供達が通る。
ここは河川敷で川に映るように桜が植わっており桜のトンネルが長く続いていた。
「はあー、お花見はいいねー。なごむねー。風が強いけど」
実は強風の中、いなり寿司をモグモグ食べながら花見をしている神がいた。
見た目は中高生くらいの女の子。
しかし、彼女は現代にはあまりいない着物でお花見をしていた。
頭にはピエロがかぶる帽子のようなものをかぶっている。パッと見て異様な姿だが河川敷を歩く人々には見えていないのか目線をうつすことなく去っていく。
「ウカちゃん、おまたせー!」
ふと、袴姿の青年が柔らかい笑みを浮かべながら少女に近づいてきた。少女はウカちゃんと言うらしい。
「あー、ミタマ君やっときたね。遅いからいなり寿司かなり食べちゃったよ」
「あー! ほとんどないじゃないかあ!!」
ミタマ君と呼ばれた若い男は悲しそうな顔でうなだれた。
ミタマ君は袴姿で頭にはナイトキャップを被っているというとてつもなく違和感がある格好をしていた。
「しかし、最近、稲荷神に帽子が流行っているとはいえ、ミタマ君のそれはなんだか変だよー」
ウカはクスクスと笑っていた。
「いやいや、ウカちゃんのそれは何? どこで見つけたの? それ」
同じくミタマはウカのピエロ帽子を見てゲラゲラ笑っていた。
正直に言えばどっちもどっちだ。
「もういいよ! とりあえず桜見よう! 稲荷クラブ専用の花見でふたりしかいないってなに?」
ウカは頭を抱えてため息をついた。
「イナは来るよ。そう言ってた。リガノも来るらしいけど……」
「遅いねー。寒いんだけど。風強いし……」
どうやらこの河川敷の脇でいなり寿司を広げて花見をしているのは稲荷神達のようだ。
稲荷神の本家は伏見にいらっしゃるが彼らはそれではなく、地方に沢山ある『人間により効果がプラスされた伏見の稲荷とは違う稲荷様』らしい。元を辿れば同じになるが。
稲荷神は人間には見えない。故にどれだけ変でも問題はない。
「じゃーん! イナだよー!! おまたせー! 花見! 花見! お寿司ー! あれー!? 全然なーい! ガーン!!」
しばらくして現れたのは巾着のような変な帽子に羽織袴を着た幼い少女だった。
目がドングリのように丸いやたらと元気な子供だった。
「イナー、おそーい! リガノはまだあ?」
「もういる。待たせた。すまぬ 」
「うわあっ!」
突然背後から現れた長身の青年にウカ達は驚いて腰を浮かした。
リガノという青年は羽織袴にキャスケットを被っていた。彼が一番まともな格好に見える。
目は鋭く近寄りがたいが実は良い神である。
「リガノも遅刻だよー」
「すまぬ。まさかこんな微妙な場所にいるとは思わなかったのでな」
ウカ達がいたのは桜並木の先端だった。桜は一本しかない。
「ど真ん中はちょっと抵抗があってね……」
「はじっこも抵抗あるけどね」
ウカの言葉にミタマは苦笑いをした。
「まあ、とりあえず花見といこうか! それいこう! やれいこう!」
手を叩いて盛り上げたのは小さな稲荷神のイナだ。
「ほんとはもっと来る予定だったけど皆忙しいみたいだし……縁結びだの食物神だの……暇なのはうちらだけよ。ちなみに暇でも寝てて来ないのもいるし……あの子は信仰心集めは大丈夫なのかなあ……」
「ああ、実りの神、日穀信智神(にちこくしんとものかみ)、ミノさんねー。あの神も稲荷神だった」
「まあ、今度声をかけてみるよ」
稲荷神達の花見が始まった。
イナは真っ先に残りのいなり寿司を口一杯に頬張り始めた。
「俺は人の願いを聞き入れてもうまく処理できぬ……皆はどうしてるのか?」
リガノの問いかけに一同は唸った。
「……」
そして沈黙。
「いやー、まあ、ここに集まる時点でわかると思うけど……」
「ねぇ?」
「……」
再び沈黙。
「つまり……」
「皆うまくいってなくて神社が閑散としてるわけだね!! あははは!」
「あはははは!!」
イナの言葉にウカ達は大爆笑。
しかし、
「はあー……」
すぐにため息へと変わった。
つまり彼らは落ちこぼれなのである。
「こないだの稲荷ランキングいくつだった?」
「俺は下から三つ目だ」
「私は下から二つ目」
「僕は一番下」
「私は下から四番目!」
ウカ達はそれぞれ手をあげて答えた。稲荷ランキングは別にどうということはなくて稲荷神達のただの遊びだ。願いを叶えた数を単純に競っているだけである。
しかし、低いことすなわち信仰心のない神社と言える。
「てゆーかさ、五番目まで同じ信仰心じゃなかった?」
「下から五番目はミノさんだったなあ……。つまり……」
「五番目まで皆最下位! あははは!」
「あははは!!」
イナの言葉にウカ達は大爆笑。
しかし
「はあー……」
すぐにため息へと変わった。
「まあ、今度、元号が令和になるじゃない? だから令和キャンペーンとかいいと思うんだけと」
ウカは気分を戻して提案した。
「例えば、名前に令とか和とか入ってる人は……」
「それ、人間がやってるサービスと一緒だよね!? てか、神社でそのキャンペーンやっちゃダメ! 誰の願いも叶えてあげるのが神社だと思うんだけど!?」
ミタマがウカの提案を慌てて却下した。
「でも五月から令和に……」
「だからなんだ……」
リガノもため息をついた。
「まあ、新元号になるし、ここでひとつ、団結して神力を上げるのはいかがだろーか!!」
イナが地面をバンと叩いて叫んだ。
「団結!?」
「そう! 皆でやれば急上昇!」
「おお!」
イナに乗せられた流されやすい稲荷神達はなぜか納得し拳を高く上げた。
そこに深い理由はない。
そこから花見が会議へと変わるのだがいなり寿司を新たに調達し食べる会になった。桜はどこにいったのか。
まあ、とにかく稲荷神はよく食べるのである。

そしてここから彼らの団結の一年が始まった。

5月

五月。
新しい元号に変わり、新しい時代が始まった。
新元号になって早々、真夏日が到来した。風があり、若草色の木々が揺れるが涼しさはなく、直射日光で顔がやられそうだ。
「あっつーい……」
稲荷神のウカは掃除されていない廃墟のような自分の神社で太陽を恨めしそうに見ていた。
「てか、掃除する気にもならない……」
ウカの神社は人が参拝にこないため、管理されておらず自分で掃除をするしかない。
「社も新しくしたいなあ……。ちゃぶ台と畳のせっまーい部屋じゃなくてもっと広くて冷暖房完備でお姫様みたいなベッドに天蓋つけて! 専属のシェフにシステムキッチン! ワインかなんか嗜みつつ夜景をバックに露天風呂を楽しむ……」
ウカはひとりで盛り上がり、やがてため息をついた。
「はあ……一回、人間みたいに生活してみたい」
「ウカちゃーん! 遊びに来たよ。ありゃ?」
グダグダしていたウカの前に現れたのは穏やかな青年稲荷ミタマだった。
「あー、ミタマ君。調子は?」
「ダメダメー。やる気出なくてね……」
「だーよねー」
ウカとミタマはお互い魂の抜けた声を出した。
「あれぇ!? ウカちゃーん、ミタマ君! グッデクデ!」
今度は元気な少女稲荷イナが現れた。後ろには寡黙で真面目な青年稲荷、リガノもいる。
「あー、また結局同じメンバー……。イナとリガノは最近なんか活動してる?」
ウカの質問にイナもリガノも首を横に振った。
「なんかいいお天気だからお昼寝がねー!」
イナが苦笑いでウカとミタマを仰いだ。
「やる気の出し方がわからん」
リガノは真面目な顔で真面目に答えていた。
「まあ、結局のところ……」
ミタマが渋い顔で頭をかく。
「皆、五月病だね!!」
ミタマの言葉を続けるようにウカが元気よく声を上げた。
「あははは!!!」
そしてとりあえず目を合わせて笑いあってから
「はあああ……」
と深いため息をついた。
「こんなんじゃダメだよ!」
イナが真剣な顔で叫んだ。
「じゃあどうする?」
「とりあえず、やる気を出す方法をネットで検索する?」
「人間くさいな……」
ミタマの発言をリガノがため息混じりにつっこむ。
「頑張るの、六月からでいいか」
「おいおい……」
「五月は休息月? やばいやばい! ずっとこうなるよ!」
ウカの発言にリガノとミタマは同時に声を上げた。
「だよねぇ……。あ、イナちゃん、リーダーでしょ!なんとか考えてよ。楽なやつで」
「えー!! ま、まあ私が同盟を組んだから私がリーダーか……。うーん……」
ウカに問い詰められイナは首を傾げて考えた。
「か、怪現象を起こしてみる……とか?」
「いたずら? おもしろそう!!」
「待て待て! 縁結びとか食物神とかなのに怪異はどうなんだ?」
喜ぶウカを慌ててリガノが止める。
「……まあ、地域の稲荷はなんでもありだし……たたりとか恐れられて祭られたりとかもあるよ」
「それは信仰心とは離れるんじゃないかな? 稲荷ランキングは信仰心だよ?」
ミタマの意見にウカ達は頷く。
「まあ、確かに……じゃあどうする? やる気が起きないんだけど……。あ! やる気の神様にお願いしてみるとか……?」
「やる気スイッチ探そう!! よーし!」
ウカとイナがそれぞれ声を上げた。結局はやる気から出すことになった。
「嘘だろ……信仰心どころか……やる気から……」
リガノは頭を抱えた。
「じゃあ、リガノ君はあれだね。『やる気出す方法』をネットカフェで検索だね。あははは……」
「嘘だよな……?」
ミタマの乾いた笑いにリガノは深いため息をついた。
「まあ、やる気出さないとできないことだからさ」
「……まあ……そうだな。うむ」
結局のところ、やる気の出し方を色々と試している内に五月の半分が終わった。
ウカ達はため息をつき、同時に「一体何をしていたんだ……」と声を上げるはめになった。
見てわかる通り、彼らはこうだから落ちこぼれなのである。
前半はこんな感じで終わってしまった。

五月後半。
「やる気の出し方を探すのにやる気を出してどうするの!!」
「ごもっとも」
再び集まったウカ達はあまり意味のない会議をしていた。
「はあ……逆に疲れたよ……」
ミタマがため息をつくと皆も一斉にため息をついた。
気分が落ちているところに珍しく参拝客が来た。
「おお! 参拝客かも!」
ウカは気分を一転させ狂喜した。
参拝客はおじいさんだった。杖をついている。ウカの神社は山の中腹にあり、そこまで石段をのぼらなければここまで来ることはできない。それも不人気のひとつか。
ともかく、珍しいことだった。
この辺にある集落の住人かもしれない。
おじいさんはお賽銭を賽銭箱に投げ入れて何かを祈っていた。
「ウカちゃん! テレ電!」
ミタマが叫び、ウカが慌てて社の電話につないだ。しばらくぶりだったので願いの聞き方を忘れていた。慌てて思い出して繋ぐ。お賽銭は神様との電話代である。お賽銭を入れると神様の社からテレパシーで神様に願いが届く仕組みだ。
「えーと……」
回線を繋いでおじいさんの願いを聞く。
しかし、ノイズが入っていて聞き取れない。
「まずい! 社の回線をクリーンにしとくの忘れた!! 全然使ってないからメンテナンスしてなかったよ!えーん……」
ウカがしくしく泣いている内におじいさんは去っていった。
「あーあ……」
他のメンバーのため息がむなしく響く。
「あ! 待って! 追いかけて観察したら願いがわかるかもよ!」
イナが足をバタバタさせながら叫んだ。
「そうか!!」
ウカは走り出した。リガノとミタマ、イナも追いかける。
「そういえばリガノもミタマも回線のメンテナンスした?」
「いや……どうやればいいのかわからんから放置で……」
「すっかり忘れてたから放置で……」
二人から呆れた言い訳が返ってきた。
「そういうイナは?」
歩きながらミタマが尋ねる。
すでにおじいさんには追い付いていた。
「私は同居してるヤモリがやってくれるもーん!」
なぜか自慢気にイナは答えた。
現在イナの神社は家守龍神(いえのもりりゅうのかみ)、通称ヤモリという神の神社と同じ神社の敷地内にある。
「自分でやってないんかーい!」
遅れてミタマが突っ込んだ。
「ちょっと! 皆静かにしてよ!」
ウカは自業自得でいらついていた。
「しかし、追いかけても神社での願いを口にすることはないと思うぞ……。口にすると叶わないと言われているじゃないか」
リガノの言葉にウカは足を止めた。
「だよねー……。なんでそんなルールにしたのよ! 人間のバカー!」
「おいおい……お前のせいだろう……」
「わかってるわよ……。悔しい!」
リガノに答えたウカは地団駄を踏んだ。
「ま、まあまあ……几帳面な人間ならばまた願いに来るんじゃないの? 叶ってないよって」
「そうだよねー……。皆もちゃんとメンテしてきなよ……。しょぼぼーん……」
ウカはひとりトボトボと神社へ帰っていった。
「あーあー……」
他の皆もウカを励ますべく、とりあえずウカを追いかけていった。
彼らの頑張りは続く……。

6月

六月。雨がシトシトとふっている。
稲荷神のウカは社の自室でゴロゴロしていた。五月病を乗り越え六月に入ったが困ったことが起きた。
六月病になったのである。
「やる気が出ない……。雨降ってるし休んでもいいよねー。テレパシー回線はこないだ掃除したし、やることもないし」
万年床になりつつある布団の上を右へ左へ動きながら心地よい雨の音を聴く。
「六月は梅雨明けの準備期間だし、私も夏に向けてパワーを蓄えないと……」
「おっはよー!」
ウカがゴロゴロする言い訳をつぶやいているとやたらと元気な声が響いた。ウカの顔付近で仁王立ちをしている元気な少女にウカはため息をついた。
「ああ……イナ?いつ社内に入ったの?ごめん、今日は超眠い。どーせ参拝客は雨だから来ないでしょ。七月から本気出すから」
「いつまでも本気出ないやつ!!あはは!私もやる気が出ないから皆で雨の遊びをしようと……」
イナは笑いながらトランプやらボードゲームやらをガシャガシャ出し始めた。
「ほぉ……いいかもねー。このまま寝てたらキノコ生えそうだし。布団あげてちゃぶ台出すね……」
ウカは半分眠りながら布団を丸めて脇に避けるとちゃぶ台を真ん中に置いた。
するとすぐに障子扉を叩く音がし、若い男二人が入ってきた。
「あー、ウカちゃん、ちゃんと布団あげたんだね」
「参拝客が来ない故、息抜きに来たぞ。神社の掃除ばかりするのも疲れたのでな」
「いらっしゃい、いらっしゃい。ミタマ君とリガノ君。リガノは参拝客で忙しかったんじゃなくて掃除で忙しかったんでしょう?」
「……バレたか……」
「ま、結局、皆ダメだったって事か……。何がダメなんだろー……。もー、わかんなーい。ま、いいわ!ゲームしましょ!ゲーム!」
「……それがダメなんだと思うけど……ま、いっか」
音を立てながらトランプを配るウカにミタマはため息をついた。
「何する?ババ抜きでいいかしら?」
「さんせー!!」
イナは元気よく手をあげた。

白熱のババ抜きが始まった。
ちゃぶ台にそれぞれ座り、トランプを無言で抜き差し。
「皆……表情に出さないねぇ?」
イナが邪悪な笑みを周りに向けながら意地悪そうにつぶやいた。
「そりゃあね。ババ抜きだもん。ババ抜きは神にとっては心理戦みたいなもん!」
ウカは無表情のままイナに答えた。
「しかし……ほんとに誰がババを持ってるかわからんな……」
リガノがミタマからトランプを一枚抜き取る。
「ねー、これじゃあ表情が動かないからおもしろくないよー」
とかいいつつミタマは黙々と手を動かし、イナにトランプをかざした。
「ふむふむ。ミタマ君、ババいるでしょ!」
「いないからどれ取っても安心だよー」
イナはミタマを警戒して慎重にトランプを選ぶ。
イナはウカにトランプをかざした。
「皆、テレパシー回線オフにしてるでしょー!心が読めないじゃんか」
ウカは愉快に笑いながらイナのトランプをひいた。
……うっ……
ババが回ってきていた。
……回線オフにしよう。悟られる!
ウカは回線をオフにし、トランプをリガノにかざす。
「……む……残りが三枚か……。怪しいな……」
リガノは怪しみながらババを持っていった。
……よし!
ウカは顔に出さないように心でつぶやいた。
刹那、カランカランと賽銭箱にお金を入れる音が響いた。
「えっ!ちょっと待って!」
ウカが叫んだ時、ミタマが頭を抱えていた。
「負けたー!皆強いよー。テレパシー回線オフにしたら表情も心の声も聞こえないじゃない。あはは!」
「あはは!」
「えーん!!」
「え??」
愉快に笑うミタマ達の脇でひとり泣き始めたのはウカだった。
「ちょ……ウカちゃん?なんで泣いてるの?どういう心境?」
「勝ったから感動泣きとか?」
「違うだろ……また、やったんだ……。なぐさめよう……」
ミタマとイナが首を傾げる中、リガノだけは呆れていた。
「調子に乗って回線オフにしちゃったから参拝客の祈りを聞き逃した……えーん!せっかく来た参拝客なのにぃ!!」
ウカは両手で顔を覆いながら声を上げて泣いた。
「あーあ……せっかく回線をクリアにしたのにー」
残りの三人はため息をつきつつ、ウカをなぐさめた。
「皆ずるいよー!皆も回線オフにしてたじゃなーい!!あたしだってやりたかったのよー!えーん!」
ウカの叫びに一同は固まり、ミタマはきっていたトランプを落とした。
「……あ……」
そして同時に声をあげ、
「あああ!!まずいまずい!!」
「うちらもこれじゃあ祈り聞けないじゃん!ヤバイじゃん!」
「早く回線をオンにしろ!」
皆でパニックに陥った。
慌てて回線をオンにした一同は皆で一緒に泣いた。
外の雨は本降りになり、彼女達の雨もしばらく続きそうだった。
ウカ達の奮闘はまだまだ続く。
「結局何もやってないんだけどね……」

7月

「あついー!あついあつい!」
神社の石段を文句言いながら掃除中の少女。
彼女はこの神社に住んでいる稲荷神のウカである。
現在は梅雨が終わり、とても蒸し暑い時期が到来中だ。
「今年は梅雨が長かったじゃないの!もっと梅雨が続いてれば良かったのに!涼しかったしよく寝れたのにー!」
なんだか神様らしくない言い分を叫んでいるが彼女は人間には見えないので声も聞こえない。故にどれだけ叫んでも大丈夫だ。
まあ、参拝客はいないのだが……。
「ウカちゃん!休む気満々じゃん!」
ふと石段下から数人の話し声が聞こえた。
「あー……」
ウカはあきれた顔で石段下を覗いた。誰だかはわかっている。
この神社に来るのは類友しかいない。
「やっほー!偉い!掃除してるよ!」
ひときわ小さい稲荷神の少女イナは満面の笑みでウカを仰いでいた。
「けっこうやらかしてたからね……僕達……」
優しそうな青年稲荷、ミタマは今までの事を思い出しながらため息混じりに答えた。
「今日こそ何か祈りを叶えられればと願う……。叶える方なのだが……」
真面目そうな青年稲荷、リガノは腕を組んで頷いた。
「こんにちは。皆、いつも通りだねー。七夕過ぎちゃったねー……。まあ、私達には関係ない神様だけど」
真夏の太陽の下でありえないくらいどんよりした空気が流れた。
「暗くなっててどうする!じゃーん!」
イナは鼻息荒く持っていた風呂敷包みを開いた。
「ん?あー!アイスだー!」
包みの中を見たウカは跳び跳ねて喜んだ。
包みの中には高級そうなアイスキャンディが四本入っていた。不思議と溶けていない。
「……ちょっとまて……。イナ、これどうしたの?あんたも人に見えないでしょ?」
しばらくして疑問が沸いたウカは訝しげにイナを見た。
そんなことを言ってはいたがもう素早くイチゴ味のアイスキャンディを手に持っていた。
「同居してる友達の神からもらった!神社にアイス持ってきた参拝客がいたんだって!まあ、神社に勤めてる人間に持ってきたみたいなんだけどね」
イナが軽く笑いながらオレンジのアイスキャンディに手を伸ばす。
「まって、まって!それ、はやいもん勝ちなの!?僕達、まだ選んでもないんだけど!!」
ミタマが残った二本のアイスキャンディを持ちながら慌てた。
ひとつはぶどう味、もうひとつは唐辛子味だった。
「……」
ミタマは無言で唐辛子味をリガノに渡した。
「ちょっ、ちょっ……お前ら!話し合いをしよう!しかし、なぜアイスキャンディで唐辛子……」
リガノは受け取ってから焦って間に割り込んだ。
「それ、ロシアンアイスキャンディなんだよ。皆に分けるために四本引っこ抜いて持ってきたんだ!」
「これ、外れだよな……。わかってて持ってくる異常性を感じる……」
「わかったわよ。じゃあ、ロシアンしましょ!風呂敷にアイス入れて棒だけ外に出して……棒を入れ換えて混ぜる!」
ウカは全員分のアイスを風呂敷に包むと棒部分だけ出して入れ換えをして手で風呂敷の口を押さえた。
「はい。じゃあ、皆取ってー!」
「せーのっ!」
三人は一気に引き抜く。
イナはイチゴ、リガノはオレンジ、ミタマはぶどう。
「おー!やったー!皆当たりー!」
しばらく盛り上がった後に真っ赤なアイスキャンディを半泣きで見つめているウカに気がついた。
「あ……」
「えーん!私はどーせ運が悪いわよ!!参拝客なんて来ないんだからー!」
ウカはしくしく泣き始めた。真夏の太陽の下、さらにじめじめした暗い空気が纏う。
「……皆で半分ずつ食べ合うのが良さそうだね。リガノー、女の子を泣かせちゃダメじゃないか」
「何を言う……。お前なんか俺に最初に唐辛子渡しただろ……。お前が最初にウカを苦しめたのだ」
暑さのせいかミタマとリガノは謎のいがみ合いを始めた。
「もー、うるさいなー!リガノもミタマもウカちゃんに『あーん』って言いながら食べさせなよー!」
「あーん……!!」
「あー……ん……!?」
イナの発言にミタマとリガノはなんだか変な想像をしたのか頬を赤く染めて黙り込んだ。
「ま、まあ……とりあえず……皆の分を割って……ウカ、皿を……」
「はーい!」
動揺したリガノはアイスキャンディを割ることにした。
ウカは機嫌を直し、社内からお皿を四つ持ってきた。
「あれ?四つ?」
ミタマが首を傾げているとウカが素早く皆が持つアイスを奪い全部粉々に砕いた。それを四等分に盛る。すべての味が混ざったレインボーかき氷のようになっていた。
「ちょっ……まてー!!!」
「ウカちゃーん!」
「やめでー!!」
三人はほぼ同時に悲鳴を上げた。
「こうなったら痛み分けよー!!」
そう、彼女は唐辛子アイスまで四等分して砕いた。
混ぜ混ぜ……混ぜ混ぜ……。
「ちょっ……話し合おう!早まらないでくれ!」
「ぼ、僕が悪かったです……」
リガノとミタマに動揺が広がる中、つまみ食いしたイナだけは満面の笑みでこう言った。
「あー!意外においしい!」
「うそぉ!?」
「はーい、できた!皆食べよ!」
ウカは額に汗をかきながらそれぞれに粉々アイスを配る。
リガノとミタマは恐る恐る口に入れた。
「……お……?……ん?なんか……スパイシーな感じが意外に邪魔してない……」
「あ、ほんとだ!こりゃうまい」
「はじめから混ぜときゃ良かったのよ!」
ウカの発言に二人は同時に声を上げた。
「それはない!!」

※※

七月後半。
アイスキャンディ騒動から二週間が経った。あの時よりも暑く、夏本番を迎えた。セミがかしましく鳴き、ただでさえ暑いのにさらに太陽が焼けるように照らしていた。
「あー、もうダメだ……。暑すぎるわ……。スーパーに避難っと」
ウカは近くの大型スーパーに逃げ込んでいた。ここはエアコンがかかっていて最高に気持ちが良い。
ウカは人には見えないためずっといてもなんとも思われなかった。
「あれー?ウカちゃん?」
急に誰かに話しかけられた。
油断していたウカは驚いて飛び上がってしまった。
「ん?ん?あ、ミタマ君かー。驚かせないでよー。あー、また皆いるのね……」
ウカは話しかけてきたミタマの後ろにいつものメンバーがいることに気がついた。
「ま、まあな……」
「あっついからー!」
リガノとイナがそれぞれウカに挨拶をした。
「で、最近はどうなの?」
ミタマの言葉にウカはため息をついた。
「誰も参拝に来ないわ……。こんな暑かったら来ないわよ……」
「夕方とか来るかもしれないよ?」
「まあ、それはそうかもしれないけど、暑すぎてなんもしたくない」
「だよねー」
ウカの言葉に三人とも同じ言葉を発した。
「そういやあ、ウカ、一度参拝にきたおじいさん、あれからどうなったの?」
ミタマが興味本位で突然にそう尋ねてきた。
「ああー、先月やったババ抜きの日にも来ていたらしいのよ。私が回線オフにしちゃってたからなー……」
ウカは落ち込んでいた。
「あの時の参拝、あのおじいさんだったんだ!ウカちゃん!じゃあまた来るかも!これはチャーンス!」
イナが満面の笑みでウカの背中を叩く。
「しかし……願いが2ヶ月近く叶わないとはな」
リガノはため息混じりにつぶやいた。
「まあ、確かにまた来るかもだから回線も準備してるし、どーんと来い!なわけよ」
「ウカちゃん、その調子!で、そのおじいさんの願いを叶えるの、皆でやらない?」
意味もなくやる気なウカにミタマが意味深な提案をしてきた。
「皆で?」
「うん。願いが叶ったら信仰心を山分けするのさ」
「ああ、そういうこと。まあ、うちらはライバルじゃなくてチームだからいいわよ」
ウカはあっさりとミタマの提案に乗った。皆、本当に参拝客が来ていないらしい。
「ありがとう!ウカちゃん!!そうとなったら皆!ウカちゃんちに泊まるぞ!」
「おーっ!!」
「ちょーっと待て!!」
リガノとイナの掛け声をウカはすばやく制止した。
「ん?何?」
「ちょ、ちょ……うちに泊まる!?う、うちは狭いし、プライベートな空間なんてないわよ……」
「ウカ、私は夜は自分の神社に帰るよ。同居してる神がいるからね!」
イナは同意はしたものの、ウカの神社に泊まる気はなさそうだ。
「じ、じゃあ、男二人と私じゃないの!!」
「おー!最近はやりの逆ハーレム!大丈夫だよ!ゲームとか漫画だと男七人くらいと女の子一人で隔絶空間にいたりするし」
「そりゃ漫画だから!!だいたい私はね、『内気で男が苦手な設定』なのに大量の男と同室または同居できる主人公の女の頭をいつも疑っているのよ……」
ウカは呆れた顔でイナを見た。
「まさか……ウカちゃんは内気で男が苦手な設定……」
ミタマが驚きの顔でウカにつぶやいた。
「なによ……その驚き……。それから設定とか言うな!!だって、寝てる時とかお風呂にいる時とかムラムラっと襲ってくるかもしれないじゃないの」
「……俺達は獣かなんかか……?」
ウカの言葉にリガノはガックリと肩を落とした。
「獣と言うよりキツネ!」
「わけわからなくなるから黙って」
ミタマの発言をウカはすぐに切り捨てた。
「とにかく!うちはちょっとねー……」
「ウカちゃん、男好きじゃなかった??こないだ神々の書籍販売店でイケメン男子神の『夏真っ盛り編』買ってたじゃん。あの肌色感が凄まじいやつ!ヨダレ出して眺めながら完熟度計ってたじゃん。『んー、この男はまだまだ青いわね』とか。……あー!この手の本が押し入れに隠されてるから泊めたくないのか!」
「コラ!!イナ!!それ以上言うな!やめてよ!!」
ウカは顔を真っ赤にしつつ、イナの口を塞ぐ。
「な、なんか……別の意味で……」
「俺達のが危ない……のか?」
ミタマとリガノはじりじりと後退りをはじめた。
「あー!もう!!泊まりたいなら泊まれば!もういいわ。吹っ切れるから」
ウカは真っ赤になりながら叫んだ。
「り、リガノ君……どうする?」
「そう言われると……迷いが……。社外で生活するか?」
まごまごし始めた二人をウカは見据えながら
「もう、カミングアウトしたからいいわ。ちなみにあんたらの身体には興味ないから」
とスッキリした顔で答えた。
「じゃあ、同居してみたらー?あ、大丈夫!私も毎日軽く遊びに来るから!」
イナは満面の笑みでリガノとミタマに頷いていた。
「好きにしなさいよ……」
ウカはイナにため息混じりに答えた。
「きょ、興味ないなら大丈夫かな……。大丈夫だよね??……じ、じゃあ、よろしくね。自分のとこの回線もオンにしておくから僕らの参拝客もシェアしよ!」
「……ウカに襲われる事を考えたくはないからあえて行こう……」
怯えながらミタマとリガノは頷いた。
「三人よらば文殊の知恵ってとこ?いいわよ。助け合いだわね。……じゃあ、うち来る?」
「いくいくー!」
「……なんかどっかのテレビ番組みたいなんだけど……ま、いいわ。ちなみに、私も獣じゃないから!どこでも男をハントするわけじゃないんだからそんなに怯えないでちょうだい!」
「だ、だよな……。何をビビってんだ。俺……」
「まあ、ビビりたい気持ちはわかるけど」
リガノは呼吸を整えて頭を正常に戻し、ミタマは半笑いで小さくつぶやいた。
こうして7月の後半、のんびり平和なお泊まり会がスタートした。
しかしこの後、のんびりできない事態が起こることにウカ達はまだ気がついていない……。

8月

八月。
夏真っ盛り。蝉さんのタガが外れたらしい。拡声器をつけて歌っている。
そして体が蒸発する勢いで暑い。
眩しい日の光が反射しカゲロウのようにゆらゆらと……
「あつーい!!考えるだけでもあつーい!!」
稲荷神ウカは自分の社内であまりの暑さに放心状態だった。
「ほんと……暑いね……ここは……」
「な……」
会話少なげに隣にいた青年稲荷ふたりも団扇で仰ぎながらぼうっとしている。
現在ウカの神社に泊まっているミタマとリガノである。
「まさか扇風機とかまでないとは思わなかったよ……」
ミタマは半泣きで冷たい場所を探していた。
ここはウカの神社内部にある霊的空間だ。この空間はデータとして存在している神だけしか入れない。ある一定のデータが鍵となり中に入れる。ウカの場合は鏡とお酒だ。幸い近くの神社の神主さんが毎回お酒を持ってきてくれていた。鏡は社内にすでに飾られている。
「窓が開いていても意味ないな……こりゃ……」
リガノは着物を一枚脱ごうとしてやめた。
ちらりとウカを見る。
「ひっ……」
リガノは顔を青くした。
ウカは目を輝かせてこちらを見つめていた。そのうち写真を撮り始めそうだ……。
「そんな変態じゃないわよ!!」
知らずに声が出ていたらしいリガノはウカに思い切り怒鳴られた。
「す、すまん……な、なんだか恐ろしく脱ぎにくくてな……」
「リガノくん、もう神社帰ろうか……」
ミタマがいたずらな笑みを向けてきた。なんだか嫌な笑みだ。
「いや……泊まる」
「あー、これで僕の勝ちだと思ったのに」
よくわからないがここにいる内にお互いだんだんと意地になって泊まり込んでいるようだ。
どちらが先に泣いて帰るかの勝負事になっている。
「お前も暑いなら脱げばいいんだ」
リガノの言葉にミタマは横目でウカを見る。
「いぃっ……!?」
ミタマは後退りを始めた。
ウカは目を輝かせて期待を込めてこちらを見つめていた。
「興味がありすぎて怖いー!」
「あ、あんた達に興味はないわよ!!前も言ったじゃないの!」
ウカは慌てて目をそらすと顔を真っ赤にして怒っていた。
顔の赤みは怒っているからか恥ずかしいからか……。
どちらでも構わないがとりあえず、ウカは男好きなのである。
「そ、そんな大胆なことやってないのになんでそんなに避けるの……」
ウカは悲しみを含んだ目で顔を手で覆った。
「ご、ごめんよ。いや、なんか顔が……」
「そう、顔がな……大胆な事が恐ろしくて聞けないが……」
ミタマとリガノは慌ててウカを慰めるが慰められているかは謎であった。
しばらく蝉の鳴き声だけが響いていたが突然に蝉の声を掻き分けるように大きな声が響いた。
「じゃじゃーん!!イナチャンさんじょー!じゃーん!!今日も蒸し暑いねー!」
社の扉を思い切り開けたのはチビッ子少女稲荷イナチャン……もといイナであった。
「ありゃ?またウカちゃん泣かしたの??」
「泣かしてない!」
「誤解だ!」
「というか、『また』とかつけるな!」
イナの言葉にヤイヤイとふたりはやかましく騒いだ。
「あー、イナいらっしゃい」
ウカはため息混じりにイナを招き入れた。
「てかさ、リガノもミタマもそんな着て暑くないのー?」
「暑い!!」
イナが発した当然の疑問に着崩していないふたりは同時に即答した。
「なんかふたりとも私の前で脱ぐの嫌がるのよね。オトコノコって難しいわ」
「おぅい!!!」
ウカのさりげない言葉にミタマとリガノは同時に頭を抱えた。
「まあまあ、じゃあ外に行こうよ!!外のがこのクッソ暑い神社よりも涼しいよ!」
「あんた……けっこう口悪いわよね……」
ウカはため息をついてから再び口を開く。
「で?このクッソ暑いのにどこ行くわけ?」
「お前も口が悪い……」
リガノもすばやく突っ込んだ。
「まあまあ、とりあえず、ミノさんとこに偵察にいかない?って話」
イナは一同をなだめつつ、ビシッと指を立てた。
「このクソ暑いのに!?」
今度はミタマが叫んだ。
「どいつもこいつもクソクソと……お前ら……太陽神様をお助けする神としてかすってるのになぜ、太陽を貶めているのだ……」
「あちゃー……」
リガノの言葉で一同は口をつぐんだ。
「ま、まあ……でも暑いじゃない?そこまでして行く必要ある?」
ウカが汚い言葉を取っ払い仕切り直した。
「実は……」
突然にイナが真顔になり顔を近づけてきた。皆もとりあえず、イナに近づく。
「あの例のおじいさんがミノさんの神社付近に現れたらしい……」
「なんだって!!」
イナの告白にウカ達は目を白黒させて驚いた。
「……まずいわ……持っていかれる!十月にあるカムハカリの中間発表までにミノさんが願いを叶えてしまったら……」
「僕達の負け……」
ミタマの声がか細く流れた。
「こうしちゃいられないわ!皆、偵察よ!!」
ウカは元気を取り戻しすばやく立ち上がると社の扉を開けた。

※※

うだる暑さの中、四人は稲荷神にかすっている穀物神ミノさんの神社までやってきた。
酷暑のようで誰も歩いていない。
ミノさんの神社は商店街の先にある大きなスーパーの裏手にあった。大通りの裏側なのでもともと閑散としている。
山がそこだけ残っており長い階段の上に鳥居があった。
「ぜぇ……はあ……ぜぇ……」
ここまで歩いてきて息の上がった面々は最後の階段を半分死んでいる顔で見上げた。
「嘘でしょ……マジもう無理なんだけど……」
「やっぱこんなクソ暑い日に来るのが間違いだったね!人歩いてないし」
ウカの言葉にイナが自慢げに胸を張って答えた。
「イナちゃん……」
ミタマは暑さで溶けたドロドロな顔でため息ついた。
「もう、ここまで来ちゃったから気合いで行くわよ!ミノさんちに着いたらお茶飲ませてもらいましょ!」
なんだか目的が変わっているウカが皆を奮い立たせた。
「よし!」
暑さのせいでおかしくなっていたウカ達はミノさんの神社にお茶を飲みに行くという謎の目的のために階段を上る。
息が上がり、汗でドロドロになった時、ようやく階段を上りきれた。
「やったー!!やりきったぞ!!上りきったぞー!!」
イナがすかさず拳を天高く上げた。
「いえーい!!」
異常な雰囲気が渦巻く中、この神社の祭神である狐耳の男神、ミノさんは賽銭箱から怯えた顔を覗かせてこちらをうかがっていた。
きれいな水色の瞳に濃い金色の短い髪、狐の耳に赤いちゃんちゃんこの若い男である。
「あ、あの……おたくらは……どちらさんで??」
ミノさんは恐る恐るウカ達に声をかけてきた。
「あ……」
ウカ達はミノさんの声に気がつき振り向いた。
「あー、あたしはウカよ!」
「イナチャン!!」
「ミタマっす」
「リガノだ……」
ウカ達はそれぞれ挨拶をした。
「あー!おたくらあれだな!最下層の!!」
「最下層言うな!!」
「す、すまん……」
ウカに鋭く怒られミノさんは小さくなってあやまった。
「で……おたくらは何しに?」
「何ってお茶を飲ませてもらいに来たのよ」
「はあ??」
ウカの発言にミノさんは思わず苦笑いをした。
ミノさんの目は「何言ってるの?こいつら……」と言っている。
「お茶を飲みにわざわざこのクソ暑い中を……」
ミノさんがそこまで言った時、我に返り正常に戻ったミタマが叫んだ。
「ウカちゃん!違うでしょ!」
「あ……」
ウカは固まった。
「ああー!!監視するはずだったのにー!!」
「監視ってなんだよ!?」
ウカの言葉にミノさんは再び怯えの色を見せた。
「ああ、ミノさんってば引き締まったいい体してるんだね……」
ぼそりとつぶやいたウカにミノさんはさらに怯え始めた。
ちなみにどうでもいいがミノさんは鍛えてもいないのに細マッチョである。
「ま、まあなんでもいいんだが……お茶飲むか?」
「飲むー!!」
ミノさんにウカ達はそれぞれ必死に声を上げた。
ミノさんは一同を社(やしろ)内部の霊的空間に案内するとちゃぶ台を出してから冷たい麦茶を持ってきた。
ミノさんの社内部は畳のワンルームだ。少し男くさい匂いがした。
「おやつなんかないの?水菓子とか!氷菓子とか!」
余裕が出てきたイナが余計なことまでミノさんにねだる。
「ねーよ……」
「ちぇ……」
「なんだかすまぬ……」
リガノがイナのおねだりに対しミノさんにあやまった。
「まあ、なんだかわからんが……なんで俺を監視するとか言ってるわけ?」
ミノさんは呆れながらちゃぶ台のわきに座った。
「そう!それよ。あんたんとこに人間のおじいさん来なかった?」
ウカは麦茶を豪快に飲むとミノさんに詰め寄った。
「うぇ?人間のじーさん?来たが……それがなんだ?」
「やっぱり来てたね。ウカちゃん」
ミタマにウカは小さく頷いた。
「そのおじいさん、なんて言っていた?」
「うーん……大変申し上げにくいんだが……」
「なによ」
ミノさんが浮かない表情だったのでウカは言葉の先を急かした。
「テレパシー回線をクリーンにし忘れててだいぶんノイズが……」
「なんだってぇ!?」
ウカが鋭く睨んだのでミノさんはさらに小さい声で同じ言葉を発した。
「あの……回線をですね……クリーンにし忘れて……」
「あーんーたーねー!!あたし達が何のためにこんな汗たらしてっ!!」
ウカがちゃぶ台をバシンと思い切り叩いた。ミノさんの肩がはねる。
「ウカちゃん、落ち着いてー……ウカちゃんもひとのこと言えないでしょ!」
「うっ……」
ミタマの言葉にウカは一瞬詰まった。
「……一体なんだっていうんだよ……」
ミノさんは戸惑い声をあげた。
「いや、なんでもないわ……。もう、とりあえず帰るから……」
「そ、そうだね……帰ろうか」
ウカは麦茶ごちそうさまと言うと立ち上がった。ミタマもリガノもミノさんにひとつお礼を言うとウカに続き、はにかみながら社外へ出ていった。
「作戦会議だー!」
最後にイナがなぜか楽しそうに跳び跳ねて行った。
「な、なんだったんだよ……一体……」
ミノさんはひとり呆然と開け放たれた社の扉を見つめていた。
「うーん……」
社外に出たミタマは倒れそうな日差しの中、思う。
……おじいさんは運がない……
……きっと願いがいつまでも叶わないからミノさんとこにいったんだろうし……。
「このまんまだと上司の高天原北に叱られそうだぞ……」
「ミタマ君!暑いから早く帰ろ!」
急かすウカにため息をつきながらミタマは歩き始めた。

9月

九月になった。
だいぶん風が冷たくなり蝉から秋の虫に鳴き声が移り始めた。
遠い空にアキアカネが飛んでいく。
「はあー。過ごしやすくなったものねー」
相変わらず稲荷神のウカは社内でゴロゴロしていた。ちなみに朝の九時過ぎである。布団を敷いて大の字で秋の涼しさを満喫する。
……幸せ……
「ちょい、ちょい、ウカさん??」
ふと台所の方からウカと同じ稲荷神のミタマが割烹着姿で顔を出した。
「ん?」
「いや、『ん?』じゃなくて……暇なら月見団子作るの手伝ってよー」
「えー、だってやってって頼んだじゃないの」
「いや、あのさ、頼んだら誰でもやってくれるわけじゃないんだけどね?」
ミタマは布団にくるまるウカを呆れた目で見据えた。
「おい、ウカ!団子を食いたいなら手伝え……世の中甘くはないぞ」
ミタマの影からエプロン姿の稲荷神、リガノが不機嫌に顔を出した。
「甘いのがいいわ。あんこ入れてって言ったじゃないの」
ウカは呑気にそんなことを言った。
「はあ……」
リガノとミタマは同時にため息をつき、目を合わせた。
「やるぞ」
お互いに頷き合うと真顔でしかも無言でウカに近づいた。
「え?え?ちょっ……」
いつもと違う彼らの行動に戸惑い、怯えた表情のウカはふたりの顔を交互に見つめていた。
「成敗!」
ミタマとリガノは同時にウカが寝ていた布団をひっくり返した。
ウカが「あーれー」と転がりながら壁にぶつかる。
それを最後まで見ることなく二人はテキパキと布団をきれいに片付けた。
「ちょっと!何すんのよ!」
「布団があるからダメなんだよ!怠けるし!」
「布団は夜寝る時以外は出してはいけない!」
ふたりに同時に叱られてウカはしゅんと下を向いた。
「……わかったわよ……お団子手伝うわ。というかあんたら……そんなにやる気だったっけ?」
「たぶんウカちゃんがなんもしなさすぎて逆にやる気がわいたんじゃないかなあ……」
「……変な効果がついたわけね……」
ウカはため息混じりにつぶやくと重い腰を上げた。
本日はお月見である。
月神様達はウカ達とはあまり関係はないがこういう行事は楽しんでいる。
「ウカちゃん、アンコ、お団子に詰めといて」
「はーい。そういえばあんたら、料理できるのね……。最近毎日食事も作らせてる気がするけど……」
「今は男も料理できなきゃあ、モテないんだよ」
ミタマは軽く笑った。
ウカの社に泊まり始めてから一ヶ月が経つ。その期間にミタマとリガノが毎日せっせと食事を作っていた。宿泊料にしてくれと嫌な顔をせずにウカの分も作ってくれる。
ウカからすると助かっているし、なによりひとりの時よりも楽しい。
団子に美味しそうなアンコを詰めながらふと思う。
……私ってそういえば何もやってないわよね……。
……皆こんなに頑張っているのに。
「ねー、私ってさ、何にもやってないわよね」
ウカがつぶやくと
「そうだね」
「そうだな」
とそれぞれ容赦のない言葉が飛んできた。
「とほほ……」
半分涙目でウカはアンコを詰めていく。
……な、なんか私もおじいさんの情報を集めないと。
あれからパッタリとミノさんの神社に彼は来ていないらしい。
……どうしたらいいかしら?
……おじいさんの家を特定して調査、困りごとを予想する感じが一番いいかもしれないわ。
「ウカ、アンコ詰めすぎだ……」
ふとリガノに声をかけられて咄嗟に手元を見た。
「あ……」
アンコがお団子の半分以上を占めていた。
「はあ……」
仕方なく多い分のアンコを食べておいた。
「……よし。こんなとこかな!」
ミタマができた月見団子を満足そうに見つめながら微笑んだ。
「お月様みたいでキレイ!」
「ふむ」
ウカもリガノも高く積まれたお団子を見て大きく頷いた。
「後はススキとか栗とかがいるね。今日は晴れだし名月だよ!」
「あ、じゃあ私がススキとか栗とか用意するわ!」
ウカはすかさず手を上げ、外に出る準備を始めた。
「え?ちょっ……」
ミタマとリガノが慌てている内にウカは「いってきまーす」と出て行ってしまった。
「ちょっと!ウカちゃん??」
「そこはかとなく嫌な予感がするな」
ミタマとリガノは割烹着やエプロンを素早く脱ぐとため息混じりにウカを追って社外に足を進めた。

ウカには違う目的があった。
それは内緒でおじいさんの情報を集めること。
……まあ、ずっと干物なわけいかないし……。
どうやら涼しくなってやる気が出てきたようだ。

「さあてと、まずは……」
ウカはてきとうに歩きつつ、おじいさんの行動を考える。
……おじいさんはうちの神社の他にミノさんのとこにも行っている。
うちとミノさんの神社はそんなに離れていない。
つまり、この辺の人。
……てか……範囲が広すぎる……。
ここら辺は田舎でもなく都会でもない。ミノさんの神社方面はどちらかといえば都会だ。駅が近くてショッピングセンターや商店街、学校などがある。
少し離れると田んぼや畑が残る住宅街に出る。その辺がウカの神社だ。
しばらく唸っているとウカの横をアキアカネがすぃーっと通りすぎていった。
「……ダメ元で赤トンボについてこう……」
頭を使ったことがあまりないウカは運任せでアキアカネを追った。
アキアカネは空き地を通りすぎて近くにある林に入っていった。
「うそ……林!?」
ウカはため息をつきながら必死に林の中へ入った。
なぜこんなに必死にアキアカネを追っているのか自分でもわからない。
ふと、横を見るとススキが生えていた。
「あ、ついでに」
ウカはちゃっかりススキを二、三本いただき、持ってきていたカゴバッグに入れる。
アキアカネを見失わないように素早く済ませると奥地に進むアキアカネを追った。
「どんどん山の中にはいっちゃうんですけどー……」
不安になってきたウカは小さい声でアキアカネに話しかける。
しかし、アキアカネは答えることはなかった。
しばらく歩くと少し開けた草原に出た。
ここでもススキが沢山自生している。
アキアカネは他にいたアキアカネと混ざり飛んでいってしまった。
「……はあー、私、何してたのかしら……馬鹿馬鹿しい……」
ウカがため息混じりに言葉を紡ぐと帰ろうと踵を返した。
しかし……
「あれ……ここ、どこ??」
夢中でアキアカネを追っていたため場所がわからなくなってしまっていた。
「しまったわ……どうしましょう……」
急に不安になり辺りを見回し始めたウカは呆然と佇んだ。
とりあえず、山を降りようと元来た林に戻ろうとした刹那、何かに思い切り頬を叩かれた。ウカは勢いよく跳ねてススキの中に落ちた。
「い、痛い……な、何?」
殴られた左頬を押さえながら襲ってきた相手を探す。
「俺の神社によくも入ってきたな……なまけもんの稲荷がっ……」
男の声が聞こえた。
「だ、だれ……」
「ほんとは殴ってやろーかと思ったがパーにしといてやったぜ。天御柱(あまのみはしら)様との約束があるからなー」
ウカの前に赤い髪の少年寄りな青年が現れた。
目付きは鋭く、鬼のお面をしている。
「はっ……」
ウカは雰囲気と天御柱神(あまのみらしらのかみ)という単語で厄神であることにすぐに気がついた。
「ここは俺の神社だ。高天原北のしもべが何の用だよ?返答によっちゃあ……消すぞ……」
赤い髪の少年は狂気的な笑みを浮かべるとポキポキと指を鳴らした。
「まま、待って!ごめんなさい!すぐに出ていきますから!」
ウカは怯えながらあやまった。
よく見ると遠くに手入れされた小さい社があった。
鳥居がこじんまりと建っている。
「じゃあさっさと出ていけ!お前んとこで祈りにきたじーさんが叶わないから俺んとこに来たんだ。厄まみれだったぞ。厄神にわざわざ祈りにくるなんざ、手当たり次第回ったんだな。そこにいるアホ稲荷のせいでな。お前の顔なんざ見たくねぇんだよ!このクズ!」
「……そ、そんな……」
厄神に怒鳴られウカは涙を浮かべた。
「早く出てけよ!ぶん殴りたくてしょうがねーのを抑えてんだからよ!」
「そ、そんな……殴るなんて暴行はっ……」
逃げようかと思ったが腰が抜けてしまい、ウカは逃げられなかった。
「天御柱様には女を殴るなとか制約をつけられたが蹴るならいいのかな?」
「ちょっと待って!それもダメだと思う!」
ウカは狂気的な笑みを浮かべる厄神に必死に叫ぶ。
「ウカちゃん!」
「ウカ!」
絶体絶命な時にミタマとリガノの声が聞こえた。
「……うえーん……」
ウカは声のした方を向いて姿を確認した時に子供のように泣きじゃくった。
「まったく……俺達がウカの神力を追えなかったらどうするつもりだったんだ」
リガノは呆れた声でウカに言った。
「ここ、山が意味深に残されてると思ったら厄神のたたり神がいたかー。人間に恐怖心で信仰させている神……。まあ、とりあえず……女の子に暴力は許せねーな」
ミタマはいままでにない静かな怒りを見せていた。
「なんだと思ったらダメ稲荷か。そこの女は契約通り殴ってねーよ。ぶっ叩いたがな。ひひひ……」
「ひどいやつだな」
狂気に笑う厄神にリガノもイラついた顔を向けた。
「お前、風渦神(かぜうずのかみ)だろ。アマテラス様と同等の輝照姫大神(こうしょうきおおみかみ)サキ様をたいそう苦しめたそうだな。で、天御柱神(あまのみはしらのかみ)様に厳重注意を受けた。お前もクズ厄神だ」
ミタマの挑発に少年、風渦神は「上等だぜ」と怒りをあらわにした。
「俺達、けっこう喧嘩は強いぞ」
「……そうだね。意外にね……」
武者震いをしているリガノとミタマの迫力にウカは圧されたがこのままでは解決しないので決死の覚悟で睨み合っている男達の間に入った。
「ちょっと……やめようよー……」
「ウカちゃん、邪魔だよ」
「怪我するぞ。ウカ」
なぜか仲間のミタマとリガノからも厳しく睨まれてわけわからなくなってきたウカはとりあえず、泣いた。
「うえーん……こわいよー……」
「うるせーんだよ!邪魔だ!!」
「ひっ……」
風渦神は気分が高まったのかウカを再びひっぱたいた。
乾いた音が響き、ウカがまたも地面に飛ばされる。
そこでミタマとリガノの理性は完全に怒りで吹っ飛んだ。
「上等だよ!!二回も女の子の顔を殴るなんて最低だな……このクソヤロウ……」
「またもウカを許さん……」
風渦神と稲荷神達は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「ちょっ……やめなさいよ!だ、誰か……誰か止めて!」
「おーい……」
ふと間の抜けた声がした。
振り向くとミノさんとイナが怯えつつ立っていた。
「やめろよー……」
ミノさんの声は消え入りそうで全く聞こえない。
「み、ミノさん、もっとおっきな声で……」
イナも消え入りそうな声でミノさんに指示を飛ばしていた。
「頼むよー……やめろー……怖いー……」
覇気の欠片もないミノさんは遠くから小さい声で喧嘩しているミタマ達に注意をする。
「……やっぱり……私が止めるしかないか……」
ミノさん達を見てダメだと悟ったウカはもう一度、男達の中に入ろうとした。
「お、おい!それは……だ、ダメだ!ち、畜生!俺が止めるぜ!もうー!!女が男の乱闘を止めようとすんじゃねーよ!!あぶねーぞ!」
ミノさんは涙目になりながら渦中に割り込んだ。
「や、やめろぉー……」
とても情けない声を出してオドオドと両者を止めようとする。
しかし、止まるどころか攻撃がミノさんにいってしまった。
「うぐああ……うえーん……痛い……」
「げっ……」
ミノさんにパンチをしてしまったミタマは慌てて手をひいた。
「うっ……」
ミノさんに重たい蹴りを入れてしまったリガノも慌てて足をひいた。
「邪魔だ!この怠け野郎!そこの女みてーにビービー泣きやがってよ!!」
風渦神はウカを睨み付けるとミノさんを拳で思い切り殴った。ウカの時よりも本気だ。
「いてーよ!!この野郎!」
しかし、ミノさんは倒れなかった。彼は意外に丈夫である。
「ウカを泣かしといてこの女だと!!」
「女を泣かせるなんて最低なんだよ!このクズ!」
「この暴力野郎が!!」
さらに火がついてしまったミタマとリガノは半分キレたミノさんと共に風渦神を攻撃し始めた。
「かかってこいよ!オラ!全員まとめて消してやるよ!」
「え?えー!!な、なんでこんなことに……なんにも解決しないじゃないの!!」
「う、ウカちゃん、ウカちゃん……に、逃げよう!ひとまず」
イナが素早く近くに寄り、腰の抜けたウカを引っ張り、慌てて林の中へと入っていった。

イナに連れられ山を降りたウカは幾分か冷静さを取り戻していた。
「ウカ、だいじょーぶ?」
イナが心配そうにウカを見上げた。
「大丈夫だけど……あの喧嘩、どうするの?ひきがねが私だからなんとかしないとダメよね……?」
ショックから立ち直れていないウカは青い顔でイナに尋ねた。
「たぶん、喧嘩が終われば冷静に山を降りてくるんじゃないかな……」
イナは終わるまで待つ提案をした。
「怪我しちゃうじゃないの……。……というか、イナはどうやってあそこに?なんでミノさんと……」
落ち着いてきたウカは始めに質問するべき内容を尋ねた。
「あー、ウカちゃんと遊ぼーと思ったんだけど途中でミタマとリガノに出会ってさ、慌てて山に入っていったからなんかヤバイのかと思ってミノさんを呼び出してからふたりを追ったわけ。そしたら気性の荒い厄神の神社にぶち当たったわけよ」
「あ、なんかごめんね……。助かったわ……」
「でも、なんで昔ながらの厄神に憧れてるあいつの神社に行ったわけ?方向性間違えててけっこう壊れてる神だよ?あの方。ウカちゃんまさか闇落ち!?」
イナは目を丸くして驚いていた。
あの神はこの辺では有名らしい。
「いやいや……知らなかったのよ……。ああ……怖かった……」
「でもさ、勝手に結界を越えたからっていきなり殴るなんて酷いよね」
イナはわかりやすく眉をつり上げて怒っていた。
「いや……たぶん、そうじゃない……」
「え?」
「彼はおじいさんの件で怒っていたのよ」
「んー?」
状況が読めていないイナにウカは説明を始めた。
「あの神社におじいさんが祈りに来たらしいわ。私達がいつまでも叶えられないから手当たり次第に回っているそうよ……。厄神の神社に行くほどに」
「……んー……、あの神は商業的に厄除けになっていたりしない純粋な厄神だよ……。人間も山を切り崩せないほどに恐ろしい存在で厄が来ないように半ば封印するような形で社を建てたから祈っても叶わないし……」
「……私のせいかな……おじいさん、厄を被ってるみたいなの」
ウカは泣きそうな顔でイナに助けを求めた。
「……ちゃんとやんなきゃいけないヤツだったかもね……」
「……まだあきらめないわ……十月のカムハカリで高天原北のアマテラス様に繋がる冷林様にあやまって頭を下げて助けてもらうのよ」
ウカは決意を胸に空を見上げた。
イナも横で深く頷く。
「じゃあとりあえず、神社に戻ってお月見の準備して彼らを待とうかしら……」
「よし!そうしよう!!栗とサツマイモは私が持ってるから」
「助かるわ」
イナの言葉にウカはやっと表情を緩めた。

※※

月が出始めた頃、ボロボロになった三神がウカの神社に帰って来た。
「あー……派手にやったねー……」
イナが呆れた顔でミタマ、リガノ、ミノさんを見据えた。
ミタマもリガノもミノさんも全身泥と血にまみれ、ひどい有り様だった。
「久方ぶりに喧嘩したよ……はは……」
「俺もだ……」
ミタマとリガノは苦笑いをイナに向けた。
「おかしいな……俺は止めてたはずなんだが……」
ミノさんはひとり首を傾げていた。
「もう……男が本気で喧嘩してるのを近くで見てるのは怖いのよ!私は仲を取り持とうとしていたのに……」
ウカは目に涙を浮かべつつ三人につぶやいた。
「ごめん……」
「すまん……」
「いやー……俺は止めようとしていたはず……」
ミタマ、リガノは申し訳なさそうにあやまり、ミノさんは居心地悪そうにはにかんだ。
「まあ、助けに来てくれてありがとう。……で、頭は冷えたのかしら……」
ウカは怒っていた彼らの怖い一面が頭から離れず怯えながら尋ねた。
「……ほんと、ごめん……。怖かったよね……。ウカちゃんを守ろうとしただけだったんだけど……」
「いつの間にかカチンときててな……」
「そういやあ、おたくら俺を殴っただろ!ああ、それがキッカケだよ。この野郎!」
反省の意を見せるミタマとリガノにミノさんは思い出したように叫んだ。
「もう……やめてよ……」
「ウカちゃん、大丈夫だよ」
震えるウカの背中をイナがさする。それを見たミノさんは顔を曇らせて「すまん……いや、ほんとに……」とあやまった。
「……で、風渦神とはどうなったのよ?」
皆がしおらしくなった所でウカは尋ねた。
「喧嘩は続いてたんだが……」
リガノが言いにくそうに切り出し、ミタマが続けた。
「ヤツが『邪魔なんだよ!出てけよ!二度とツラ見せんじゃねーよ!』って言ったから『ああ!出てってやるよ!もう二度と来ねーよ!』みたいな感じで別れたって言うのかな……?」
「……呆れた……」
ウカは思わずつぶやいてしまった。
つまり、口喧嘩しながら殴りあってて言葉の弾みで簡単に喧嘩が終わったらしい。
……一体なんだったんだ……。
「まあ、それよかウカちゃんが言ってたんだけどね、あのおじいさんが風渦神のとこにも来たんだって」
「なんだって!?」
イナの言葉に一同はドロドロのまんま叫んだ。
「そうなんだけど、とりあえず……体の血とか泥とか落としてから話すわ……。うちのお風呂貸すから流してきて」
「あ……ごめん」
三人はウカの言葉に頷くと苦笑いのままウカの社に入っていった。
「あー、ビックリした!とんだお月見だね!」
イナが男達が消えてから大きくため息をついた。
「そうね……。はあ……」
ウカもため息で返した。
しばらくして男達がサッパリした顔で戻ってきた。
「いやー、サッパリ!ああ、ちゃんと三人でお風呂掃除しといたから。ごめんね」
ミタマが代表してあやまる。
「まあ、それはいいんだけどお月見しながら怪我の手当てをしましょ」
ウカが高く積まれた月見団子を賽銭箱に置いてから消毒薬を持ってきた。
「高天原製だから効くはずだから……」
「すまん……」
「すんません……」
リガノとミノさんも先程からあやまってばかりだ。
気がつくと鈴虫やコオロギが鳴いており、まん丸の大きいお月様が満天の星空の中、狂おしく美しく輝いていた。
「わあー、キレイ!」
イナは月を見て感動しながら手では団子を摘まんでいる。
食いつきが凄い。気がついたらなくなっていそうだ。
「じゃあ手当てしながらさっきのやつ話すから聞いてよね」
「うん」
「おう」
「へーい」
ミタマ、リガノ、ミノさんがそれぞれ返事をした。
しっとりとしたお月見には似合わない傷だらけな男三人を相手にウカは先程のおじいさんの件を話した。
……ほんと、とんだお月見だったわ……。
ウカはため息混じりに夜空に輝く月を見上げていた。

10月

風が冷たくなり、朝晩は冷え始めた十月。知らぬ間に秋の虫が鳴き、とっても風流だった。
ピエロの帽子が特徴的な稲荷神の少女ウカは神社内の霊的空間で布団にくるまっていた。
「なんかさっぶ……今日はお鍋とかうどんとか食べたいなあ……」
「ウカちゃん……カムハカリには行かないの?」
ウカと同じ稲荷神のミタマはゴロゴロしているウカにため息をついた。
「なんかさー、私達の上司の冷林様じゃなくて、現太陽神トップの霊的太陽の頭、サキ様だけ捕まえればいい気がしてきた」
「捕まえるとかいっちゃダメ! 冷林様に助けを求めるんじゃないの? え? カムハカリに行かないならどうするの? サキ様に会っておじいさんのことを頼む? 風渦神の事があってやる気が出たんじゃ……」
ミタマは呆れた顔でウカを見据えた。
「だからカムハカリに出発しそうなとこで割り込むの。サキ様は忙しいから十月丸々あっちにいないでしょ?たぶん。もしかしたら早い段階でトンボ返りみたいにするのかも!」
「まあ、本来はダメなんだろうけどサキ様ならやりそうだ……」
ウカは布団から出ず、やる気だけはあった。
「と、その前にさ、布団から出ようよ……」
「あ、そうだ。ハロウィンだわ!」
ウカは思い出したように声を上げた。
「ハロウィンだから何?」
ミタマはあきれつつ尋ねる。
「お菓子ちょうだいってサキ様にねだりに行くついでに例の件を話せば……」
「……ちょっとよくわからない……」
「だーかーらー」
ウカが詳しく駄策を説明しようとした刹那、キャスケットを被った青年稲荷のリガノがお買い物袋を抱えて帰って来た。
「太陽の市場に行って野菜を買ってきたぞ」
リガノは買い物袋内を見せた。ネギやらニンジンやら白菜やらがごっちゃに詰め込まれている。
「あー、ごくろー」
ウカ達は人間には見えない。別に食事をしなくてもいいのだが腹は減る。そこでそういう神々用にスーパーが用意されていた。あちこちの霊的空間内で木種の神々などが運営している。
「干し椎茸で出汁をとって鍋にでもしようかと」
「わーい!」
気がつくといつの間にか料理担当がリガノになっていた。
「ああ、そうだ」
リガノは思い出したようにウカ達に振り向いた。
「ん?」
「サキ様が近所のハロウィン祭りに参加するようだ」
「なんだって!?」
ウカとミタマは驚いて目を見開いた。
ちなみに太陽神のトップである輝照姫大神(こうしょうきおおみかみ)サキはアマテラス大神から『こちら』の世界を任されアマテラス大神の神力を一番持っている少女なのだ。なぜか人間の目に映る神でもある。ちなみに、稲荷の上司、冷林は安徳帝であり、本来のアマテラス様の部下である。
「じゃあ、行かなきゃ!変な計画たてて捕まえる必要ないわね!」
「また捕まえるって……はあ……」
ウカはようやく布団から出た。現在お昼近く。少しだけ暖かくなっているからかすんなり起きた。
「イナを連れてこうか!子供だし!サキ様からお菓子もらいにいくってな感じで」
「サキ様、ほんとすんません……」
無礼なウカにミタマは心から謝罪した。
「で、行くならばどうする?仮装するのか?」
「うちら、このまんまでもよくない?」
リガノの言葉にウカは軽く笑った。
その後すぐにチビッ子少女の声が響いた。
「こんちはー!今日は近くでハロウィン祭りが……」
「イナだ!」
ウカが叫んだ時、かわいらしい幼女の稲荷が引き戸からひょっこり顔を出した。

という事でいつもの面々は揃ってハロウィンイベントに来ていた。
小さな商店街はカボチャや絵に描いたコウモリ、月や影絵のような建物がそこらに貼り付けられていた。仮装した子供達が商店街を回りお菓子をもらっている。
「健全なハロウィンだわね」
「ん?健全ではないハロウィンはあるのか?」
ウカの言葉にリガノは首を傾げた。
「ええ。仮装大会になってるだけのわけわからない集まりも都会に行けばあるのよ」
「ほう……」
リガノはウカの言葉に興味深そうに頷いた。
「ねー!ねー!かわいいカボチャがある!!」
少女のイナは始終気分が上がっておりかわいくアレンジされているカボチャを細部まで眺めていた。
「サキ様に会うんでしょ……」
ミタマは話を元に戻した。
「そうだわ!探しましょう!」
ウカはとりあえず辺りを見回した。サキは人間に見える神だから霊的着物にはなっていないはず。
霊的着物を着ると人間に見えるサキでも人間には見えなくなってしまう。
人間のイベントに参加しているのだから人間に見える格好をしているはずだ。
「……まさかお菓子もらって歩いてる方じゃないはず……。年齢的には高校生よね?」
「それくらいの外見をしているみたいだね」
ミタマもウカにならってサキを探す。
ちょうど商店街の一角で子供の集団が群がっていた。よく見るとお菓子を配っている若い女がいた。黒い長い髪をウェーブで流し、ネコのような愛嬌ある目をしている。
「あ!」
ウカはすぐに気がついた。
「サキ様だわ!!」
「では行くか?」
リガノはカボチャに食らいついているイナを引っ張りながら尋ねた。
「行くわよ」
「ウカちゃん、捕まえないでよね」
走り去るウカをミタマとリガノは慌てて追いかけた。イナもなんだかわからずついていく。
「サキ様!覚悟!」
「ウカちゃん!!落ち着いて!」
ウカはサキに必死で言い放った。言葉が色々とおかしいのでミタマが飛びつく勢いで制止する。
「かたきみたいになっちゃってるから!」
ミタマ達の声でサキが顔をあげた。子供達にお菓子を配ってから揚々とウカ達の元へやってきた。
「えーと、稲荷ちゃん達かい?元気だねぇ。お菓子をもらいにきたのかい?」
サキは微笑みながらサバサバと尋ねてきた。
「はーい!そうでーす!イナチャンにちょーだい!!」
すぐさま声を上げたのはイナだ。
ウカは慌ててイナの手にサキが持っていたクッキーを置くとさっさと話を進めた。
「これで静かになる。それでサキ様、ちょっと大事な話がありまして……」
「大事な話?なんだい?」
「この辺の神社をまわってお願いをしているらしいおじいさんの願いをまだ聞けてないんです。厄神の神社まで行っているみたいで……」
「……」
サキはウカの言葉に顔を曇らせた。
「あ、あの……」
「そいつは賽銭泥棒だね」
「え?賽銭泥棒?」
ウカは驚いて聞き返した。
「そうさ。律儀に盗みますよって報告して盗むんだよ。どうも人気のない神社ばかり狙うらしいよ」
「なんでまた……私達底辺を狙ったって何にもないのに……」
「片っ端から回ってるらしいんだ。たまに人気がなくても銭を投げて願いにくる人間が沢山いる神社もある。ただ同じとこばかりまわるとバレるから微妙にルートを変えたりしているみたいだけど。有名なじいさんさ。あたしからするとそこまでして小銭を集めなければならないほどに生活が困っているのかと黙認している状態だよ。ほら、杖もついてるじゃないかい?」
「……たぶん同じおじいさんだわ……」
サキの言葉にウカは深く頷いた。
その後すぐにミタマが気がついて声をあげた。
「そうか!だからアイツ、怒ってたんだ!!」
「え?アイツ?誰よ?」
ウカはよくわからず眉を寄せて聞き返した。
「風渦神だよ!あそこの神社は厄を持ってこないでくださいと願う神社!賽銭箱は一応ある。アイツも堂々と中身を盗まれたんだ」
ミタマは興奮ぎみに言葉を紡ぐ。
「賽銭箱の中身を……風渦神の神社は確かに不気味だから人がいないわね。だからああ言っていたのか。お前らがなんとかしないから俺のとこにきたじゃねーかって……でも……願い事を叶えないから怒っているとも言っていたわね」
「え?じゃあ、本人は気がついてないの?」
ミタマは驚いたように聞き返してきた。
「そんなの私がわかるわけないでしょ!もう聞きに行きたくないし」
「だよねー……」
ミタマはため息をついた。
「まあ、なんだかわからないけどさ、彼らがなんか……」
サキは苦笑いで隣のお店にあったお菓子ボックスを指差す。机の上にお菓子ボックスがあり、その前に「ご自由にどうぞ」の紙が置いてあった。いつの間にかイナがお菓子を暴食しておりリガノが止めている。
「ちょっと……なにやってんのよ……」
「イナの食欲が止まらん……怖い……。誰か止めるの手伝ってくれ」
リガノは困ったようにイナを引っ張っていた。
「ぐっだぐだじゃん」
ミタマは冷や汗をかきながら苦笑いをした。
「えーと……」
サキが困惑しながら再び口を開いた。
「じゃあ、君達、なんか暇そうだから賽銭泥棒について調べといておくれ。あたしは帰るよ」
「じゃ」とサキはあきれたため息と共に手を振り去っていった。
「……」
ウカとミタマは呆然と立ち尽くした。
「……え?」
サキがいなくなり我に返ってきたウカは疑問の声をあげた。
「……ちょっと待って……え?」
「僕を見ても……」
ウカは半笑いのままミタマを仰ぐ。
「サキ様、なんて言ってた?」
「賽銭泥棒について調べてねーって」
ミタマの言葉にウカは再び沈黙した。
「ねぇ、私、なんかサキ様にやったかな?失礼とか」
「……まあ失礼すぎたよね」
ミタマはさらに苦笑した。
「おい!お前達!ぼーっとしてないでイナをなんとかしてくれ!」
リガノの悲鳴が聞こえたので二人はイナを見た。
「あー!あっちにも無料お菓子!」
イナは目を輝かせながら少し先の八百屋前にあったお菓子ボックスを見つけていた。
「もういい加減にしなさい!!……クソッ!なんでどれも『お一人様一個まで』と書いていない!」
リガノはイナを抱えてなんとかイナの食欲を抑える。
「まあ、こんな食べる稲荷がお菓子を全部持ってくなんて誰も考えないから」
ウカは頭を抱えた。
「……だね。じゃあ帰ろうか。イナになんか食べさせよう!」
ミタマはリガノと頷いた。
「イナ、今日は鍋なのだ。食べるか?」
リガノは冷や汗をかきつつイナに尋ねる。
「食べるー!」
イナはすぐに鍋の単語に食らいついた。
「はあ、じゃあ帰りましょ……。なんか大変な事になっちゃったし。でも挽回のチャンスだわ!」
ウカは鼻息荒く頷いた。
「またいきあたりばったりになりそう……」
ミタマが心配の声を上げるがウカは鼻歌を歌いながら先に歩き出したリガノとイナを追った。
この後事態は不思議な方向へと行く。彼女達は少しだけやる気になっていた。

11月

冷たい風が吹き、落ち葉が舞う。
山の中腹にあるウカの神社は落ち葉だらけだった。空は快晴。うろこ雲がかなりの速さで通りすぎていく。
「あー……さっぶ……」
ウカは箒で大量の落ち葉を掃きながら震える。ちなみにまだ冬は来ていない。
「ウカちゃーん、終わった?」
ウカと同じ稲荷神のミタマがヘラヘラした顔で社から顔を出した。
「おわらなーい!」
「参拝客が足を滑らせないように落ち葉は掃いておいた方がいいよー」
ミタマは呑気に言うが彼は現在ウカの神社に居候中だ。彼の神社は大丈夫なのか?
「ミタマ君のとこは掃除しなくて大丈夫なわけ?」
「大丈夫!大丈夫!うちはじゃんけんで負けたリガノ君が……」
ミタマが不気味に笑う中、息を上げた青年稲荷リガノが戻ってきた。
「ぜー……ぜー……お前は鬼だな」
「ごくろう!」
「うわ……ひどっ……性格わる!」
ウカはどんよりした顔でミタマを睨んだ。
「……そ、そこまで言わなくても……。なんかグサーっといったな……今」
ミタマはしゅんと落ち込んで目を伏せた。
「ウカ、これはいいんだ。じゃんけんで負けたからな……」
真面目な青年稲荷はため息をついた。
「じゃあさ、うちのもじゃんけんで決めよーよ!負けた神が落ち葉の掃除、それから賽銭箱磨いて部屋の掃除、それとー……」
「ウカちゃんのが鬼!!」
ミタマがリガノに向き叫んだ。
「あら?それはダメなの?」
「……自分が負けたら自分でやるんだよ。それならいい」
きょとんとしているウカにミタマはイタズラに笑う。
「よーし!じゃあ気合い入れちゃうね!」
ウカはただのじゃんけんに本気を出した。三人は勢いよく利き手を繰り出す。
「じゃんけん……ポン!」
ミタマがパー、リガノもパー、そしてウカはグーだった。
「うわーん!!」
ウカはわかりやすく落ち込んだ。
「……ウカ……なぜ自分が苦手なじゃんけんで勝負をしようと思った……」
リガノが呆れ、ミタマは……
「ウカちゃんは集中すればするほどグーしか出さないよねー」
と笑いを必死で堪えていた。
「……はあ……」
ウカはなんだかせつなくなりながら何も変わらずに箒を動かし始めた。
「……でさ、リガノ、賽銭箱どうだった?」
ミタマは表情をもとに戻しリガノに尋ねる。
「……少しだけ動かされた形跡があったな。昨夜、じいさんらしき者が神社に来たんだろう?」
「そう。『いただきます』とテレパシーで声が届いた。ウカちゃんちにいるから姿の確認はできなかったけど……うちは誰も参拝に来てないからもちろん痛手はないけどね」
ついこの間発覚した賽銭泥棒の行方と真実を彼らは追っていた。
「……とりあえず間違いないのは賽銭泥棒だったということさ」
リガノは眉を寄せた。再び冷たい風が吹き、落ち葉が舞う。それからウカの「もー!」と怒る声が聞こえ、そろそろウカを手伝ってあげようかと思い始めた頃、突然に少女の声が響いた。
「大変ー!!」
「ん?」
ミタマとリガノ、ウカは鳥居を潜ってきた幼い少女稲荷に目を向けた。
「イナ!遅かったわね」
「大変!大変!箱からおじいさんがバーンでおじいさんのお金が走り去って瞬間移動でおじいさんがシュッと!!」
イナはそれどころじゃないと変なジェスチャーをし始めた。
「ちょっ……ほんとにまったくわからないから落ち着いて説明して!」
ウカの言葉にとりあえず息を吐いた稲荷のイナは目を忙しなく動かしながら説明を始めた。
「う、うん。……よし。例のおじいさん、うちに来た!!」
イナは興奮ぎみに叫んだ。
「イナちゃんのとこにも来たんだ。僕のとこにも来たんだよ」
ミタマが戸惑いながらつぶやくとイナは「それだけじゃない!」と続けた。
「おじいさんがね、同居している龍神の神社のお賽銭を持っていこうとしたの!でも警報が鳴ったからおじいさんは慌てて去っていったんだ。でね、次の日におじいさんがまた来てさ、賽銭箱にお金いれて当たり前みたいにお願いしてったの!」
イナの言葉を聞いた一同は唸る。リガノが代表して声を上げた。
「……奇妙だな……。盗みに来ているのに次の日に賽銭入れて願いを叶えにきたか。……なんてお願いだったのだ?」
「それがね……ほんと、他愛もなくて……平和に暮らせますようにって願いで社務所で御朱印もらっていたよ……?私の神社には来なかったんだけど」
イナは動揺しながらウカ達を仰ぐ。
「……わからないわね……。……まさか……」
ウカの言葉に一同の視線がウカに向く。
「別の人……」
「……別の……。あ!双子!!」
ミタマは閃いて叫んだ。
「双子か……しかし、両方とも足を痛めているのか?」
「まあ、偶然でもその可能性があるね。ウカちゃんちにだいぶん前に来たのはどっちなんだろ?」
ミタマがウカを見るがウカはあの時に回線をクリーンにしておくのを忘れ、おじいさんの言葉はなにもわからなかった。だから見られても困った。
「……盗まれるものなかったしわかんない……トホホ」
「だよね……」
なんだか傷に塩を塗ってしまったミタマははにかみながらウカの頭を撫でた。
ウカがしばらく落ち込んでいるとスマホのバイブが鳴った。
「ん?……ミノさんからだわ」
ウカがかかってきた電話を取る。ちなみに神々もスマホを使っているがミノさんはなぜかガラケーであった。神がスマホを持つと現実にあるものとは少し変わるため壊れない。姿形はそのまんまだが中身は物体がないデータになっているからだ。追加で言うと神々はスマホを使わなくてもテレパシーで会話ができるが疲れるためスマホなどを頼ったりする。
「ミノさん、どうしたの?」
「……ああ、ウカ!あのじーさんが来てる!今すぐ来れるか?」
ミノさんは緊迫した雰囲気で話していた。
「なんだって!行く行く!それまで持ちこたえなさい!」
「ちょ……どういう内容!?」
ミタマは「持ちこたえる」という言葉で顔を青くした。ウカは電話を切ると慌てて言った。
「おじいさんが来たみたい。高速でミノさんの神社に行きたいわ!」
「あ、ああ……そういう内容……」
「じゃあ、キツネ使う?」
イナの言葉に一同は深く頷いた。
「そうだ。キツネを使おう!……てかな、あの真夏の時になぜ使わなかった……」
「あの時は気配でミノさんにバレちゃいそうだったでしょ?今回は人間だし、姿は見えないもん」
頭を抱えたリガノにウカは自信満々に言うとキツネを呼んだ。
キツネはすぐに来た。霊的キツネは人間には見えない。そして稲荷神四柱でも乗ることができるくらいに大きい。
「わあー!ネ○バスみたーい!」
すでにキツネに乗り込んだイナはモコモコの背中と上下する背骨に大興奮だ。実際に彼らは緊急の用事がないため、この霊的なキツネは全く呼ばれない。故に呼んだことがない稲荷神も多く、こんな初々しい感想になってしまう。
「うわっ!不安定だなぁ……こっわ!!」
ミタマはぷるぷる震えながら毛をぎゅっと掴んでいた。
「振り落とされないか?俺は高いところが苦手で……」
リガノは青い顔で今にも落ちそうなくらいフラフラしている。
「なっさけない!キツネちゃん!ミノさんの神社まで『光速』で!」
「ちょっ……ウカちゃん!『高速』な!!光の速さは……ってどわー!!!」
命令を受けたキツネが光の速さで走り始めた。ミタマは叫びながら毛にしがみつく。リガノは毛を握りしめたまま気絶。イナだけがすごく楽しそうだ。
「いっ……これは速すぎ……」
ウカも目に涙を浮かべ必死に食らいついている。キツネはさらにスピードを上げ、周りの風景がなんだかわからなくなり風は顔に当たり痛くて手を離したら間違いなく百メートルは飛ばされるだろうというくらいになり、手がキツネの毛から離れてしまいそうになるところまで行った辺りでキツネは唐突に止まった。止まった衝撃でウカ達は前に投げ出されて尻から落ちた。
「……ぐぅ」
呻くウカ達を見据え、キツネは頭をひとつ下げると颯爽と去っていった。
「生きてる!」
「生きてるー!」
ウカとミタマが叫ぶ。
「あいつ……絶対にわざとだろ……」
リガノが口元を押さえながら苦しそうにつぶやき、イナが楽しそうな声を上げる。
「あー、おもしろかった!!帰りも乗ってく?」
「い・や・だ!!」
イナの嬉々とした表情に残りの三名は必死に抗議した。
「だいたい、ウカちゃんが光速とかいうから!!光の速さなんてバカでしょ!!」
「あんなに速いとは思わなかったんだもん!」
「まあ……三十秒辺りで着いたんだからいいじゃないか……。もう二度と嫌だが」
ミタマとウカの言い合いをリガノが止めた。
「ねー!とりあえず、行こ!」
イナにもそう言われ、ウカとミタマはため息をつきつつ頷いた。
石段を上るとすぐにおじいさんがいた。辺りをキョロキョロと見回している。ウカ達の姿は見えていないので後ろに立っても気がつかれない。
「おい!こっち来い!皆で賽銭泥棒を見届けるんだ!てか、来んの早ぇえな!!」
社付近でミノさんが叫んでいた。
ウカ達はおじいさんを観察しつつ、とりあえずミノさんの方へ歩いた。おじいさんは杖をついており、やはり足が悪そうだ。
「……なんか……違和感……」
ウカはおじいさんを観察しながらなんだか変な感じを抱いていた。
……そう。
なんというか杖が逆……というか。
「あ……」
ウカはミノさんのところにたどり着いてから叫んだ。
「杖持ってる手が逆だわ!!」
ウカが突然に声を上げたのでミタマ達が飛び上がった。
「ちょっ……びっくりしたぁ……」
ミタマ達の他にミノさんも驚いていた。
「な、なんだ?」
「杖が逆なのよ!うちに一度来た時と今が!!」
最初にウカが会ったおじいさんは杖を右手に持っていた。だが、今は左手だ。
「……やっぱり双子かもね」
イナが呟き、一同はおじいさんを見つめる。一様に思うことは一つ。
……どっちだ……??
「賽銭泥棒か普通のおじいさんか……」
ごくりとリガノが唾を飲み込む音がする。おじいさんは杖をつきながらゆっくりこちらに近づいて来た。心なしか動きがゆっくりだ。
おじいさんは賽銭箱の前に来ると小銭を投げ入れて二礼二拍手した。そしてまた一礼してきびすを返し去っていった。
「あ……あれ?泥棒じゃないの?」
「ミノさん、さっきの人何言ってた?」
ウカがズルッとずっこけてイナがミノさんに尋ねた。ミノさんはなぜか冷や汗をかいていた。
「ミノ……さん?」
「……平和に生活できますように……と『弟は悪事を働いていますか?』だ。……おじいさんには厄を感じた……」
「……弟……。つまり賽銭泥棒は双子の弟。厄を感じたっていうのは風渦神(かぜうずのかみ)も言っていたわね。弟が心配すぎて厄がたまったんだ……。かわいそう」
ミノさんの返答にウカは眉を寄せた。
「まあ、さっきのは賽銭泥棒じゃない方のじいさんだっただけだな。それからあのじいさんは弟の悪事を完璧には把握してないこともわかったな」
リガノがため息をつく。
「まあ、無駄足にはならなかったね。間違いなく双子ってわかったしさ。で?次はどうする?」
ミタマがウカに目を向けた。
「うーん……また来るのを待つ感じで、なんか疲れたからミノさんちで緑茶と紅葉まんじゅう食べるわ」
「さんせー!!やったー!おやつぅ!!」
ウカの言葉にイナが反応し飛び跳ねた。
「おーい!!後半ちゃっかりしてんぞ……」
「お腹すいちゃったのよ。早く来いって言うからー」
とぼけた顔しつつウカはミノさんにおやつをねだり始めた。ミノさんはため息をつくと「紅葉まんじゅうはねぇが、団子はあるぞ」と言ってきたのでいただくことにした。
ミタマとリガノもちゃっかりミノさんの社に上がり、くつろいでいる。
「……おたくら……ここまで来たのにまだ休憩を挟むのかよ……。まあ、俺もひとんこと言えねーが」
ミノさんはため息をつきながら社の霊的空間内にある台所に入るとやかんを火にかけた。

12月

十二月に入った。まだ雪は降っていないが葉は全部落ち、冷たい風が落ち葉を巻き上げている。現在の時刻は夜の八時過ぎ。
天気が良かったので空には満天の星が輝いていた。
「……やっぱり寒い冬は鍋だねぇ!」
参拝客もいない寒い神社の社内では稲荷神達がお鍋を囲んでいた。
「このキノコうまっ!!」
ナイトキャップに袴という恐ろしいほどアンバランスな格好をしている青年稲荷、ミタマはお鍋内でぐつぐつ煮えている椎茸を摘まんだ。
「この出汁、何?」
ピエロ帽子に着物という、ある意味映える少女稲荷ウカもうまそうに頬を緩ませながら、キャスケットに袴の青年稲荷リガノに尋ねる。
「ああ、これは……昆布と鰹……鳥だな」
リガノは台所から顔を出し、そう言うと自身もお椀と箸を持って席についた。ここはウカの社内。部屋はこの部屋しかなく畳とちゃぶ台のみだ。
「おかわりー!」
ウカの横で白米をかっこんでいた幼女稲荷イナはお茶碗をリガノに思い切り差し出す。
「もう飯は空だ……」
リガノはため息混じりにつぶやき、代わりにうどんを鍋に入れた。
「へー、うどん入れるのアリだわ」
ウカは白菜を咀嚼しながらほくほく笑う。
「薬味いれなくてもじゅうぶんうまいなあ……。寒い夜は鍋だなあ。はあー、食べた食べた。僕はごちそうさま」
ミタマはお腹をさすりながら手を合わせお椀やお茶碗を片付けに行った。ウカの神社に泊まり込んでから四ヶ月近く経過している。もう昔から住んでいるみたいな雰囲気である。
「はあ……しかし、今年ももう終わるぞ?じいさんの件どうするんだ?」
リガノが鱈を箸でつつきながらウカに尋ねた。
「……うーん……だって神社に来てないんだもの。どうもできないじゃない。おじいさん、足が悪かったから……これから雪降るんだし、来るのは無理でしょ……」
「無理だねー……。やっぱ風渦神のとこにもう一回行く?情報収集のため」
イナがうどんを勢いよく吸い込みながらおずおずと尋ねた。
「……んー……」
ウカは乗り気な顔をしてなかった。以前、怖い思いをしたからだ。
「……ウカちゃん、僕らで行ってみようか?もう喧嘩、しないからさ」
「ああ、俺達で行こう……」
「やだよ……。絶対喧嘩してくるから」
ミタマとリガノの言葉をウカはすぐさま否定した。
「でもさ、あの神に詳しく話を聞いてなかったよね……。私も行きたくないけど」
イナは最後のうどんを腹に入れ、お腹をさすりながらウカを見た。
「あいつは暴力的だ。僕は嫌いだ。だけど手がかりがない以上、接触するしか……」
「……とりあえず鍋、なくなったね。片付けよ?」
ミタマが唸っている横でウカは自ら鍋を台所へ持っていった。
「リガノー、鍋置いとくー」
「……洗ってはくれんのか……」
リガノは呆れた顔でウカを仰いだ。
「……わかった。洗うわよ」
苦笑いしたウカは鍋を洗い始めた。
「ねー、ねー、ウカちゃん、やっぱショック受けてたみたいだね?」
イナが小声でミタマとリガノにささやいた。
「そりゃあな……」
珍しくミタマとリガノの声がかぶった。
「やっぱ怖かったんじゃね?めっちゃかわいそう」
「ああ……かわいそうだったな」
「あ、あのさぁ、それはいいんだけど……縁結びの私の能力がなんか発動してて……」
二人を見据えながらイナが言いにくそうにつぶやいた。ちなみにイナは縁結びの力が特に強い。
「ん?」
「いままで縁結びが発動しなかったんだけど、なんかのアンテナが今夜、あの厄神のとこにおじいさん来るよって伝えてるの……」
「なんだって!?」
ミタマとリガノは同時に声をあげた。
「ちょっと何話してるのー?後で教えてよねー!」
ミタマとリガノの声を聞いたウカが台所から声を張り上げていた。
「イナちゃん……まさか……」
「なーに?」
「こないだミノさんとこの神社で願いに来たおじいさんとの縁を知らぬ間に結んじゃった?あのおじいさんの願いを聞いたの、あれが初めてだったじゃん?」
ミタマの言葉にイナは深く頷いた。
「たしかに!」
「イナちゃん、これは使えるよ!これから予測ができるかも!」
「……予測かあ……」
イナはぼんやりそうつぶやいた。

「……今夜、風渦んとこ行ってみるか?」
リガノが声をさらに小さくしてミタマとイナに尋ねた。
「やっぱ行ってみた方がいいよねー……」
「……イナちゃんはおうちに帰りな。危ないから」
ミタマはそう言うがイナは首を振った。
「行くよ!おじいさんの状態を見ないとね……」
「あいつは危険だからお前はここにいろ」
リガノもイナに強く言い放つ。
「えー……ミノさん連れてくからいいでしょー!」
「あいつなんかもっと不安だ……」
リガノは頭を抱えつつ、ちゃぶ台をしまった。
「……なーに?皆であの怖い神のとこに行く話してる?」
いつの間にかウカが戻ってきていた。
「……ああ、そうそう。ウカちゃん、イナがさ、今日の夜におじいさんが風渦のとこに行くみたいな予言をしたんだよ」
ミタマが仕方なく代表で答えた。
「……行かなきゃダメそうだわね……」
ウカは顔を曇らせた。
「皆で行けば怖くないって!」
イナは腰に手を当てて鼻息を吐いた。おじいさんが来る以上、行かなければならなくなりミタマもリガノも顔を歪めながら頷いた。
と、いうことでウカ達は夜な夜な社外に出た。冷たい空気が肺に入り込む。今夜は雪が降るかもしれない。月がきれいな夜なため、かなりまわりは明るい。
「さっぶ……」
ウカはくしゃみをするとぶるるっと震えた。
「行こうか……夜の散歩だと思えば楽しいさ……」
全く楽しそうでないミタマに連れられてウカ達は歩き出す。以前、ウカが赤トンボを追って入り込んだ森付近まで来るとウカは震えながらミタマにしがみついた。
「ウカちゃん、大丈夫。僕らがいるよ」
「さっ……寒い……」
「……寒いだけ!?」
ウカに突っ込みを入れたイナはブツブツと続ける。
「普段から外に出ないから寒さがわからないんだよー」
「まあまあ、俺の羽織を貸そう」
リガノがイナをなだめつつ、羽織をウカに被せた。
「リガノくん、寒くないの?」
ウカが逆に心配したが酷く寒がっているのは自分だけだった。
「皆、強いのねー……」
「僕のも着てよ」
ミタマもウカに自分の羽織を被せる。
「あ、ありがとう……皆」
なんだか情けなく思いつつ、ウカは好意に甘えておいた。
林の中に入り、しばらく進むと開けた場所に出た。奥に不気味な鳥居が見える。この辺りだけ風が強く、神社を一層冷たくしていた。
警戒を強め辺りをうかがっているとおじいさんの姿を発見した。
「……いた」
リガノが短く言葉を発し、一同はおじいさんの動向を見守る。
おじいさんは辺りを見回しながら賽銭箱を探していた。
それよりもウカ達には驚いた事があった。
「え……?」
「待て……あれは……杖をついていない!?」
おじいさんは何故か杖をついていなかった。
「まさか……賽銭泥……」
そこまで呟いた時、賽銭泥棒は杖をついていた事を思い出した。
……違う!
「あれは誰!?」
「三人目の……おじいさん?」
まさかの三人目のおじいさん登場か?
「え……やだやだ……怖い怖い!」
いままでを整理してみる。
ウカ達が出会った最初のおじいさんとミノさんの所で出会ったおじいさんは杖の持ち方が逆だった。
で、今回のおじいさんは杖すら持っていない。
「よく見て!顔!」
イナが叫ぶのでウカも観察してみる。なんだか微妙に出会ったおじいさんと違う。
おじいさんは風渦神の社で手を合わせると社付近に何か置いて去っていった。
「……なんか置いたわ……」
「見に行っ……ぎゃ!!」
イナが最後まで言い終わる前に何かに弾き飛ばされた。
「いっ……イナ!」
ウカは地面に倒れたイナを慌てて抱き起こした。
「……?」
驚きつつ、前を向くと月明かりに照らされた風渦神が、恐ろしい形相で立っていた。
「俺の社にまた入ってきたか!しかも近くまで来んじゃねーよ!」
「……でたな……!今度はイナを突き飛ばしたな!」
「……許さん」
再び喧嘩モードに入ってしまったミタマとリガノをなだめてウカは尋ねる。
「き、気になることだけ答えて……。そうしたら出ていくから……。あのおじいさん、なんて言っていた?」
「ああ??よくわかんねーよ!!金だけ置いていきやがって!……ここには賽銭箱はないようだが盗んだかもしれないから……とか言っていたが正直迷惑だ!!わかったら消え失せろ!クソ稲荷どもめ!!」
風渦神は激昂しつつ、ウカに叫んだ。
「ひぃ……そんな言わなくても……」
「ウカちゃん、行こう。目的は達成したからね」
ミタマが細い目をわずかに開き風渦神を睨み付けると、ウカとイナを守りながら背を向けた。リガノは三人のしんがりで、臨戦態勢を崩さないままゆっくり風渦神から遠ざかる。
「もうくんじゃねーぞ!!」
ウカ達はわめき散らす風渦神の声を受け流し、もと来た林を抜けて一般道へ戻ってきた。
「はあ……はあ……」
「イナちゃん大丈夫?」
ミタマが、先程倒されたイナに心配の声を上げた。
「大丈夫、大丈夫……。びっくりしただけ」
「しかし、あいつはナイフのようなやつだな……。鞘のない刀と言うか……」
リガノがため息をつきつつ、続ける。
「だが、興味深いことが聞けたな」
「そうだねぇ。盗んだかもしれないって……賽銭泥棒じゃないよね?あの人」
イナが首を傾げた。
「賽銭泥棒じゃないよ。お金置いてってる」
ミタマが唸りながら歩き出したので一同も追う。
「わかった事はおじいさんが三人いること、それから……『あのおじいさんは賽銭泥棒を知ってる』ってこと。ミノさんとこに来ていたおじいさんは賽銭泥棒について推測でしか知らないみたいだった」
ウカの言葉に全員がため息をついた。
……結局、ほとんどわからず、謎が増えただけ……。
「ま、まあいいや!帰って寝よ!」
「そうしよ!!」
イナの言葉に一同は深く頷いた。空には満天の星空、澄んだ空気がとても気持ちが良かった。
状況は気持ちが悪かったが。

1月

寒さは本格的になり、雪がぱらつく日が出てきた。稲荷神達は皆で年越し蕎麦を食べ、無事に正月を迎えていた。元旦の今日は快晴で現在の時刻は朝八時。
「そういえばさ、正月ってなんか良い感じに毎回晴れない?」
こたつに入りながらうまそうに雑煮を食べつつ、ウカは皆に話しかけた。
「あー、確かに。てかウカちゃん、餅食べてゴロゴロしてると太るよ」
青年稲荷ミタマがおせちを取り分けてウカの所に置いた。
「ミタマくん、正月だけのお楽しみのお雑煮、奪わないでね。今は楽しみたいんだから現実的なこと、言わないでよ」
「今は楽しんでいいけど、後で散歩とかしなよ。たぶん、僕らのとこは参拝客来ないから暇でしょ」
ミタマは餅を口に含み、幸せそうな顔をした。
「……参拝客、来るかもしれないじゃない。ねぇ?リガノくん」
ウカは隣でおせちをつついている青年稲荷リガノにわかりやすく絡んだ。
「……まあ、一番忙しそうなのはイナだな。イナというか、イナと同居している龍神が忙しいのか。同じ敷地内だとイナのとこにもついでに参拝客が来そうだな」
リガノは今ここにはいないイナに向かい、羨ましそうに呟いた。
「まあ、イナのとこは地味に人がいるからね……。なのに、ランキングが下とかイナ、サボってたんじゃないの?」
「……皆、サボっていたから下なんでしょ。イナちゃんを羨むなよ」
ウカをビシッとミタマが叱る。
「……わかってるわよ。怒らないでよ」
ウカが苦笑いを浮かべた辺りで、ちゃりんと小銭が落ちる音がした。
「はっ!」
ウカは慌てて集中を始める。
誰かがお賽銭を入れたようだ。テレパシー回線を繋ぎ、お願いを聞く。
ミタマとリガノにも緊張が走っていた。ここ一年のおじいさんの件が頭をかすめたからだ。
しばらくしてウカの緊張が緩み、誰かが去っていく音がした。
「なんだった?」
ミタマが細い目をわずかに開いてウカに先を促す。
「……おじいさんだったわね。兄が盗んだかもしれないからと……。兄を見つけてくれって」
「……兄?」
ミタマが首を傾げているとリガノが外を見ながら叫んでいた。
「杖なしだ!風渦のとこにいたじいさんだ!」
「ということは……双子の他に弟がいる!?」
「おかしくはない。三人兄弟なんだ」
ミタマが呟いた刹那、社内の扉が勢いよく開いた。
「ひっ!?」
三人とも息を飲んだが目の前に立っていたのは少女稲荷イナだった。
「大変だよ!!」
イナはなぜか興奮していた。
「な、なんだ……イナか。そんなに勢いよく開けなくても……扉、立て付け悪くないわよ……」
「違う!おじいさんが警察に!!」
イナは必死な面持ちで言い放った。
「警察!?なんで?賽銭泥棒捕まったの?」
「違う!願いに来た方のおじいさんが捕まった!!」
ウカに掴みかかる勢いでイナは叫ぶ。
「願いに来た方の……って」
「平和になりますようにって願いに来た方だよ!」
イナに言われてウカ達は納得した。
「大変!」
しかし、納得した後に一同は混乱し始めた。
「どうする!?」
ウカが慌てて声を上げた時、リガノが顔を曇らせていた。
「リガノ!?どうしたの!」
「あー、いや……うちに泥棒が来たようだ……」
「え……」
一同は絶句した。リガノの神社に賽銭泥棒が来たらしい。
「ねぇ、どうする?」
「リガノのとこには監視カメラあるか!?」
戸惑うウカを落ち着かせながらミタマはリガノに問う。
「……ない。カメラはついていない」
「……じゃあ、証拠にならないな。平和を願いに来たおじいさんが捕まっている時、リガノの神社で賽銭泥棒がきた。監視カメラがあるならすぐに無実のおじいさんは解放されるはずだったけど……」
「だいたい賽銭がない」
リガノの一言でウカ達は同時にずっこけた。緊迫した状態が無駄に終わった。
「ないんかい!じゃあもう泥棒じゃないよ!盗んでないし!」
「だが、盗みますよとテレパシー電話をしてきた」
リガノは眉間を指で揉みながら小さく呟いた。
「確か、そのおじいさん……わざわざ私達に盗むって言っていくんだよね?なめてるわ」
「試されてるのかもね」
ミタマはウカに振り向くと薄く目を開いた。
「……試されている……。神なんていないだろと思われているということ?」
ミタマはウカの言葉に無言で頷いた。
「これはいいチャンスかもしれない」
ミタマが苦笑いをすると賽銭箱からお金が落ちる音がした。

「来たよ。ウカちゃん」
「あ、ああ……はい」
ウカはミタマに促され、慌てて回線を繋いだ。
年配の女性の声だった。
……旦那が捕まってしまいました。ここにも盗みに来たかもしれない。でも、あの人はそんなことしない!神様……助けてください……。
子供達にも影響が……。
女性は涙声で神様との通信を切ると一礼をして去っていった。
「……」
女性の声を聞いたウカは悲しそうにうつむいた。
「ウカちゃん、なんだって?」
イナが眉を寄せながら尋ねてきた。
「旦那さんの冤罪を解いてくれって……解決できれば私達、初めて願いを叶えられるんだけどね……」
「……うーん」
ウカの返答にイナは唸った。どうすればいいのかわからない。
「どうする?賽銭泥棒を捕まえるには……」
ミタマはこめかみを指で叩きながら考える。
「……誘導する」
ふとウカがつぶやいた。
「誘導?」
「そう。監視カメラがある、イナと同居しているあの龍神の神社に誘導するのよ」
「ふむ。そりゃあいいな!……どうやって?」
ミタマはウカの言葉をまるで予想できなかった。
「賽銭泥棒のおじいさんの家を突き止める。それからイナと同居してる龍神に協力を仰ぐ」
ウカは人差し指を上げて力強く答えた。
「あー、地味子は人間に見える神だった!」
イナは同居している龍神を地味子と呼んでいた。名前なのだろうか?地味な感じなのだろうか?
「地味子のあだ名、酷いだろ……。ヤモリと呼んであげてくれ。家守龍神(いえのもりりゅうのかみ)だろう?民家を守る神で人間に溶け込んでいる神だから人間の目に映るらしいな。お前より神格高いだろう?変なあだ名で呼んではいけない」
リガノがイナをたしなめるように言った。地味子はあだ名だったようだ。
「そうそう、ヤモリは人間に見えるけど神だと名乗ってない。人間は、神がそこらを歩いてるとはどうしても思えない生き物だから自分が神であることを言ってないんだよね」
イナは静かに頷いていた。
「うん、その龍神に人間として動いてもらうのよ」
「つまり、人間として龍神さんがおじいさんに近づき、盗むように言うってこと?そんで監視カメラに映らせる?無理じゃね?いい作戦な気もするけどさ」
ミタマがため息をついた。
「それは無理かもだけれど、警察に行くように説得するくらいはできるんじゃない?」
「……その前に、おじいさんはまた賽銭泥棒をすると思うか?」
リガノがミタマとウカの会話に入り込んできた。
「……しないかもね……。無罪のおじいさん、捕まったし」
「ちょっと!ウカちゃん!おじいさんまた来たよ!杖なしの……」
「えぇ!?」
イナの声にウカ達は驚いた。
「待って……よく見ると右手に杖を持っていたおじいさんだわよ!賽銭泥棒の!!」
しかし、杖をついていたはずのおじいさんは杖を持っていなかった。
「足、悪くないのか?」
リガノも眉を寄せながらおじいさんを睨む。おじいさんはお金を入れずに乱暴に鈴緒(すずお)を掴むと本坪鈴(ほんつぼすず)を強引に鳴らした。(鈴緒とは賽銭箱の上にある鈴を鳴らすための紐、本坪鈴は紐の先にあるガラガラ鳴る鈴)
ウカは頭を抱えながら仕方なくテレパシー回線を繋いだ。
……よう、神様!ほんとに何もしねぇんだな!善良なやつが捕まったぜ。
「ぷっ……くくく」
おじいさんは愉快に笑うと手を振って去っていった。盗みは働かなかった。
「うう……」
ウカは怒りで拳を握りしめる。
「ちょっと!ウカちゃん!何してんの!追いかけるよ!」
イナに言われて我に返ったウカは悔し涙を拭うとおじいさんを追いかけ始めた。
おじいさんを追いかけながらミタマとリガノがウカを慰めてくれた。
「大丈夫!僕達であいつを捕まえよう!」
「そうだぞ!ウカ、皆で力を合わせる時だ!」
「うん……」
しばらく歩くとひときわ大きな家についた。おじいさんは足早にその家に入っていった。
「すっごい家……。お金持ち?あんなに早く歩けるんだし、本当に杖がいらなかったんだね……」
イナが広い庭付きの玄関をこそこそ眺めながらつぶやいた。
「ただの遊びで神社のものを盗んだのかな。酷いよね」
「……兄弟家族皆でここに住んでるのかな……」
ミタマは塀をよじ登り庭に入って行った。
「ちょっ!ミタマ君!」
ウカはミタマを青い顔で見つめたがミタマは当たり前のように玄関先を物色し始めた。鍵はかかっていなかったようで、ミタマは勝手に玄関を開けて中に入った。
「ちょっと!ミタマ君!」
「ウカ、落ち着け。ミタマはすぐに出てくる」
リガノの言うとおり、ミタマはすぐに玄関扉から顔を出した。そのまま庭を歩き、塀を登ってウカ達の元へと帰って来た。
「……なにしに行ったのよ?」
「靴を見ていたんだよ。普段使いしている靴は一足。あのおじいさんはこの家に一人で暮らしている」
ウカの質問にミタマは腰に手を当てて胸を張った。
「こんな大きな家にひとりかあ……」
イナは二階建てで広い庭付きの豪邸をぼんやり眺めていた。
「まあ、おじいさんの家は突き止めた。これからどうするか考えよう」
「そうだね。私、近々誰かの神社に三人目の弟おじいさんが来る気がするんだけど」
ミタマに相づちを打ちつつ、イナが眉を寄せてそう言った。
「……近々か……。そのおじいさんの家も調べておく?」
「調べておこう」
ミタマとリガノが頷き、とりあえずウカの神社へと帰り始めた。
「ウカちゃん!帰ろ!」
イナがウカに声をかけてから、心配そうにミタマ達を追う。
ウカはイナの遠ざかる背を見てからもう一度、豪邸を見上げた。
「……私は許さない。絶対に……許さない。覚悟してなさい」
ウカは神力(しんりょく)をわずかに解放させ、豪邸を睨み付けてから着物をひるがえしてイナ達を追っていった。
ウカが去った後、豪邸の屋根に使われていた瓦が二、三枚勢いよく地面に落ち、音を立てて割れた。

2月

「鬼は外!福は内!!おじいさん帰ってこーい!あいつ捕まれー!」
山の中にある神社の一角でこの神社の祭神ウカは大豆を撒いていた。
本日は二月三日。日本は節分である。厄除けのために扉という扉から豆を撒く行事。ちなみに現在、暖冬らしく、雪がまるでない。
「ちょっとウカちゃん……そんな敵意丸出しで豆を投げないで!」
ウカの神社内の台所から顔を出した青年稲荷、ミタマは恵方巻が乗った皿を机に並べながらウカに注意をした。
「へーい……って、恵方巻だわ!!おいしそう」
「今は日本全国どこでも売ってるよね。これはイナちゃんからもらったんだよ」
ミタマは微笑みながら長い恵方巻を一人分ずつ皿に置いた。それから台所で他のおかずを準備していたもう一柱の青年稲荷、リガノが顔だけ覗かせてきた。
「ほぅ……かんぴょうに卵、きゅうり……バランスが良さそうな太巻きだな」
「桜でんぶがないじゃない!」
豆を乱暴に投げ捨てたウカは恵方巻を見つめて叫んだ。
「いやあ……あの、イナちゃんと同居している龍神さんが桜でんぶ嫌いみたいでさ……。恵方巻はイナちゃんからの差し入れっていうより……地味……あ、いや龍神さんの差し入れっていうか」
ミタマの言葉にウカは機嫌悪そうに唸った。
「地味子でしょ。えーと、本当の名前はなんだったかしら」
ウカが歯に何かが挟まったような何とも言えない顔をしつつ考えていると、社(やしろ)の扉が勢いよく開いた。
「私はヤモリ!!さっきから聞いてるけど失礼だよ!!」
「うわっ!」
鋭い声と共に地味めな少女が腰に手を当てて中に入ってきていた。
「あー……えーと」
「皆、ヤモリ連れてきたよ!」
慌てた一同に嬉々とした表情で少女稲荷のイナがそう言った。イナのおかげで混乱せずに話が次に進みそうだ。
「い、いらっしゃい……」
ウカが代表で龍神ヤモリを迎え入れ、空いている座布団へ座らせた。ヤモリは麦わら帽子に淡いピンクのシャツ、オレンジ色のスカートを履いていた。
……やっぱり少し地味めな……。
「地味じゃない!私はヤモリ!そこそこ信仰だってあるんだから!地味じゃない!」
「いや、言ってないわ」
……ちょっと思ったけど。
「それより、おじいさんの件で話があるの?イナから聞いたよ」
「ああ、そうそう!」
ヤモリの言葉にウカはこないだの事を思い出した。
「とりあえず恵方巻食べよー!」
ウカが話し始めようとした矢先、イナが恵方巻に話を持っていってしまった。
「イナちゃん、恵方巻は無言で食べなきゃダメなんだよ。だから、会話しながら恵方巻は無理なんだよ」
ミタマがイナをなだめ、ウカに先を続けるよう促した。
「全く……。ああ、それで……」
ウカは呆れつつヤモリの前にお茶の入ったゆのみを置いた。
「うん」
「捕まったおじいさんを助けようと思うんだけど、もうひとりのおじいさんに接触してほしいのよ。家はわかってるの」
「……えー……」
ヤモリはウカの言葉にあからさまに嫌な顔をした。
「じゃあ、悪い方のおじいさんじゃない方に接触する?たしか……弟さん」
「弟……」
「そうそう、こないだイナの予知能力でミタマ君の神社に弟さんが現れてね、家を突き止めておいたのよ。賽銭泥棒の近くに住んでいたわ。家族と一緒に」
ウカは恵方巻の付け合わせのおかずである豆腐ハンバーグを摘まみながら、ヤモリに語った。
「はあ……稲荷神ってやる気があるんだねぇ……。私はそのうち、おじいさん解放されると思うんだけど」
ヤモリはお茶を飲みながらため息をついた。ほっこりするような昼過ぎである。
「……私達は困った人を助けるのよ!それが神でも人でも動物でも当たり前よ」
ウカの発言に後ろにいたミタマとリガノは苦笑いをしていた。
「信仰がほしいだけだよね」
「うるさい!そこ、黙る!」
ウカが睨み付けてきたのでミタマとリガノは目線を外して黙った。
「まあ、とにかく……協力するよ。私はその弟さんに接触してみようかな」
ヤモリはウカの眼力に怯えつつ協力を約束した。
「ねぇ、私達はどうすればいいかしら?」
「ウカ達は賽銭泥棒に罰を与えてればいいんじゃない?軽い怪現象起こして賽銭泥棒に恐怖を与える。元々、土地神になっている地方の稲荷は恐怖の対象になっていたりするんだから、自首するように仕向けるのもアリかなとか」
「やっぱりそうなるか」
ウカが腕を組みながら頷いていると、痺れを切らしたイナが「恵方巻は!?」と騒ぎ始めた。
「恵方巻ー!!早く食べようよ!!おなかすいた!!」
「イナ!いいとこだったのに!」
「まあまあ、もう大方決まったんだから食べようか」
怒るウカをなだめ、ミタマは今度こそ恵方巻を差し出した。
今年の方角、西南西を向き、恵方巻を食べる。途中イナが笑わせにきたがウカは我慢して食べきった。
「ぷはー!食べきった!おいしかったー!……イナ!余計なことしないでよ!」
ウカは食べた瞬間にイナを睨み付ける。
「いやあ……なんか笑わせたくなってさ。自爆しないで良かったよ」
イナはお茶を飲みながら、先程自分がやったことに対し、笑いを堪えていた。
「皆、食べたね」
ミタマが手を合わせて「ごちそうさま」をするとお皿を流し台に持っていった。
「ところで……怪現象とは何をすればいいのだ?」
リガノがお茶菓子のお饅頭を並べながらのんびりヤモリに尋ねた。
「そうねぇ……。今日は節分だから『鬼が来たぞ!』とか……。あ、いや……忘れて……。ガラス窓を揺らすみたいなちょっとした事しかできないでしょ」
ヤモリは饅頭をさっそく頬張りながら答えた。
「うーん。ガラスを揺らす……。メッセージ性が皆無だわね」
ウカは唸りながら饅頭を咀嚼(そしゃく)する。
「メッセージ性がほしいなら……メッセージにすればいいよ」
ヤモリは思い付かずにそんなことを言い、食べたお饅頭のお皿を台所に持っていってから、伸びをした。
「メッセージにする……怪現象?」
「じゃあ、私は弟さんに接触してみるから場所教えて」
「え?あ、ああ……うん。えーと」
ヤモリは「ごちそうさま」と声をかけると場所を教えてもらってから去っていった。
「メッセージ……」
「ウカちゃん……何するつもり?」
なんだか嫌な予感がしたミタマはウカに恐る恐る尋ねた。
「自ら警察に行くようにする」
ウカは軽く笑うとお茶を飲み干して勢いよく外へと飛び出していった。
「何するかわからんが……追いかけようか」
「そうだね」
リガノとミタマも慌てて支度をし、ウカを追った。
「あー!待って!イナも行くー!!」
お饅頭三個目を口に運んだイナはお饅頭四個目も口にしてから五個目を頬張って彼らを追いかけた。

※※

ミタマ達が賽銭泥棒の家にたどり着いた時、ウカが意気揚々と家から出てきた所だった。
「……な、何したんだと思う?」
「さ、さあ……」
ミタマの発言にイナとリガノは同時に苦笑いをした。庭の柵をよじ登って戻ってきたウカは得意気に語ってきた。
「お風呂に入るところだったみたいでお湯が風呂釜に張ってあったから、おうちにあったオブラートの紙に『自首するように!』って書いて沢山浮かべておいたわ!頭良いでしょ!文字が浮いてるみたいになるわ!怪現象よ」
「……高度なのかなんなのかわからない……」
ミタマははにかみながらつぶやいた。
稲荷神の小さな怪現象は果たして意味を成すのか成さないのか。
しかしこの後、事態は思わぬ方向から解決するのである。
賽銭泥棒との一騎討ちが始まる……。

3月

だいぶん、暖かい日が増えてきた三月。寒桜が咲きほこる中、麦わら帽子にピンクのシャツ、オレンジ色のスカートを履いた少女、ヤモリは賽銭泥棒ではない方のおじいさんと話していた。
知り合いである稲荷神達は賽銭泥棒に遭っており、その泥棒がまさかの双子で、おまけに泥棒ではない方のおじいさんが賽銭泥棒に疑われて警察に連れていかれた。
そのおじいさんを助けるため、ヤモリは双子のおじいさんの弟に接触していた。
「あんた、よく知ってるな……」
弟さんはヤモリの話を聞いて目を見開いた。
「え、ええ……はい。あの神社で巫女のバイトをしていたので」
「巫女さんだったか! 通りで詳しいわけだ。しかしまあ……最近な、ちょっと問題が起こっていて……」
弟さんの表情が暗くなり、声音を小さくして話し始めた。
「……問題とは?」
「いやあ、信じらんねぇんだけど……兄の家の風呂釜にな、『自首しろ』って文字が浮いていたんだとよ。オブラートの包みがあけられてて、悪質なイタズラだって兄は怒りまくりで、俺を疑ってんだよ。でもな、俺はやってないんだ。不思議だろ?」
弟さんの発言にヤモリの眉が動いた。なんとなくだが、それをおこなった者に目星がついていた。
「……それは不思議ですね。あなたはやっていないわけですよね?」
「やってねぇんだ。兄が嘘をついている可能性もあるが……、賽銭泥棒だったのは双子の兄のうちのひとりでもう捕まってる……。犯人が捕まっているのに『自首しろ』とはなんなのか。だがまあ、捕まった方の兄はそんなことする人じゃないんだけどな。巫女ちゃん」
弟さんが肩を落として歩き出したので、ヤモリも後を追った。

……オブラートを浮かべたのはウカ達でしょ……。何やってんの。逆効果じゃない……。

ヤモリは深い深いため息をつき、散る寒桜を疲れた顔で見つめた。

※※

「あかりをつけましょ、ぼんぼりにー」
稲荷神のウカは気分よく歌いながらお雛様の前にひなあられや菱餅を置く。
ここはウカの神社内の霊的空間だ。
「ウカちゃん、ちらし寿司は?」
台所から顔を出した、青年稲荷ミタマは眉を寄せてウカに尋ねてきた。
「え? 知らないわよ。なに?」
「ちらしを作った寿司桶丸々ないんだよ」
「知らないわ。食べてないわよ」
ウカは困惑した顔でミタマの方へ向かう。台所に行く途中、障子扉から小さい影が去っていくのを見てしまった。
「……ああ」
ウカはあきれた顔をし、方向転換して外に続く扉を開いた。
「ひっ!」
「イナぁ……。ちらし寿司は皆で食べるのよぉ……」
ウカは凄んだ顔で小さい影を睨んだ。小さい影とは幼女の稲荷神で名前はイナという。
イナは寿司桶に入ったちらし寿司を半分ほど食べてしまっていた。
ちなみにこの少女イナは大食いである。
「えーん! だっていつもくれる量じゃ全然足らないんだもーん!」
「全然足らないってお茶碗五杯でも足らないわけ?太るわよ」
「太ってないし」
イナが口を尖らせて抗議をするが、ウカは寿司桶を奪い取り、再び神社内へ入っていった。
「あーあ……半分くらいになっちゃってる……」
肩を落としながらウカは台所へ戻った。
「うおっ! なんで半分ないの?」
ミタマは何かに吸いとられたかのように、半分だけきれいにないちらし寿司を見て顔を青くした。
「イナ。イナが食べた」
「えー……イナちゃんが!? って驚くほどでもないや。イナちゃん、異様に食べるからね」
ミタマはため息混じりに頷くとウカから寿司桶を受け取った。
「ねぇ、リガノは?」
「ああ、リガノは賽銭泥棒の動きを見に行った。そろそろ昼飯だから帰ってくるんじゃないか?」
ミタマはお皿にちらし寿司を盛りながら言う。
「ずっと動きがなかったわよね。オブラートじゃダメだったのかな」
「まあ、あれは唐突だったよねー。はい、運んで」
ミタマはウカにお皿を渡した。
ウカがお皿をちゃぶ台に並べていた刹那、青年稲荷のリガノが慌てて帰ってきた。
「おい! 大変だ! 賽銭泥棒のじぃさんと弟のじぃさんが!」
「ん!?」
ウカ達は同時に驚きの声を上げた。


ちらし寿司をいったん保存器に戻してから、ウカ達はリガノに連れられて問題の場所に向かった。
賽銭泥棒とおじいさんが対峙していたのは賽銭泥棒の家の前だった。なんだかお互い喧嘩腰で怖い。
「おお……中々に修羅場……」
ウカ達は人に見えないため、隠れる必要もなく、困惑しているヤモリに堂々と近づいた。
「ヤモリ、どういう状況?」
「……なんか、たまたま会っちゃったみたい」
ウカの質問にヤモリは小さく答えた。
「だから俺じゃねぇって言ってるだろ!」
弟さんはオブラートの件を否定しているようだ。
「あんな悪質なことやるの、お前しかいねぇだろ!だいたいあいつが犯人だ!」
賽銭泥棒は相当頭にきているのか弟さんに怒鳴り散らしている。
「……やばい。私のやったやつで、まさかここが揉めるとは……」
ウカは頭を抱えて苦笑いをした。
「むしろ、これはチャンスだ」
ふと、ミタマが目を細めて笑う。
「チャンスか?」
リガノが呆れた目を向けるが、ミタマは微笑を浮かべつつヤモリに耳打ちをした。
「ねぇ、ヤモリさん」
「……?」
「あの出来事は神がやったことだと言ってみてよ」
「はあ? そんなこと言ったら私が変人扱いされる!」
ヤモリはミタマの言葉にすっとんきょうな声を上げた。
刹那、おじいさん二人がこちらを向いた。
「……誰と話していたんだ? お嬢さん」
「え……あ、いえ……その」
不気味そうな顔をこちらに向けるおじいさん達にヤモリは動揺し、先程ミタマに言われた事を言うしかなくなった。
「神々がやった事なのではないかと……。そして神がとても怒っていて……」
ヤモリの言葉におじいさん達はさらに眉を寄せた。
ヤモリが誰かから話を聞いているように見えたからだ。実際はヤモリの耳元でウカやミタマが言ってほしいことを耳打ちしていただけであるが、おじいさん達にはそれが見えていない。
「えー、ある神がオブラートを浮かべたのは私だと言っています。
伝言です。あなたが賽銭泥棒なのはわかっている。見ていたからね。ずっと見ていたから。杖がいらないのにわざわざ杖を持っていたでしょう? 私達は知っているのよ。あなたがあのおじいさんと杖を逆に持っていたことも、全部。……本当に何もしねぇんだなって言ったわよね。腹が立ってオブラート浮かべたのよ」
ヤモリの言葉に顔色を青くしたのは賽銭泥棒のおじいさんだけだった。口にはしていなかったはずの神社での言葉をヤモリが話したからだ。
「お嬢さん……なんでそれを……」
「私は知りません。隣にいる神々が言っています。捕まったおじいさんはあなたの罪を消そうと厄神の神社にまでお金を置いていきました。つまり余計な厄を被ってしまった。それで捕まってしまったんでしょうと。ただ、おじいさんは私達稲荷神の神社にもあなたの尻拭いをするためにお金を置いていっています。つまり、縁を結び良いことが起こるはず。……しかし……」
ヤモリは表情なく賽銭泥棒を見据え、続ける。賽銭泥棒は顔を青くしながらヤモリの瞳を見ていた。
気がつかなかったが、人間の目ではないような気がした。
「しかし、あなたは悪行しかしていない上に、神達に喧嘩を売りました。それで稲荷神達はたいそう怒っています。あなたが自首しなくても近い未来にあなたには負のなにかが起こります。負の感情を発生させたら、その負の感情は自分に戻ってきます。神を信じていないのなら、それはそれでいいのですが、彼らは見えないだけで存在していますので、喧嘩を売った事実は消えませんよ」
ヤモリの言葉に賽銭泥棒は軽く震えていた。本当は気が小さいのかもしれない。
「……証拠がないだろ」
「証拠……。実は家乃守神社(いえのもり)に監視カメラがありましてね。逆にいつもお参りにくる、優しいおじいさんは映っているんですよ。警察の方に杖のつき方や歩き方で気がついてもらえるように提供しようと思うんですよね」
「……!」
賽銭泥棒の震えが酷くなり、その場に膝をついた。
「ねぇ、ねぇ、マジでカメラあったの?」
「……」
隣にいたウカが小さく声をかけるが、ヤモリは冷や汗を浮かべつつ微笑んでいた。
「にいさん……」
弟さんは「やはりそうか」と頭を抱えていた。
「ああ、俺だよ。別に金に困っていたわけじゃねぇんだ。双子の兄が嫌いだったんだよ。それだけだ」
投げやりな態度で賽銭泥棒は歩き出す。
「にいさん……」
「自首する。神さんに手を出したのが悪かったか。監視カメラもないし、嫌がらせにはちょうどいいと思ったんだがな」
「なんで、こんなこと……」
「昔、ガキの時にやられた事をやり返しただけだ」
賽銭泥棒が捨て台詞のように吐いて去っていってしまったので弟は不思議そうに首を傾げた。
そして、しばらくして二人が仲悪くなった原因を思い出した。
「二人が喧嘩になった時に、双子の兄が親の財布から金を盗んで双子の弟の持ち物に入れたやつだ」
弟さんは呆然とつぶやいた。
「……それはお兄さん、最悪ですね」
ヤモリはとりあえず相づちを打った。
「ああ、あの時は優秀な兄を疑う人はいなかった。疑われたのは、そのまま金を持ち出したと思われた双子の弟の方で。兄は『ざまあみろ』と思っただけで忘れていたが双子の弟の方はずっと根に持っていたのか。親父から暴言を吐かれて竹刀でぶっ叩かれてもあの人は『自分じゃない』と言い張っていた」
「どんな家庭? ちなみにそれを話せるならば、あなたはお金を持ち出したのが、双子の弟さんではなかったと知っていたんですね?」
ヤモリの言葉に弟さんはゆっくり頷いた。
「知っていたよ。見ていたから。親父は怖い人だったから言えなかったんだ。ちなみに昔はけっこう体罰はあったんだよ」
「はあ……、思ったよりもせつないですね。双子のお兄さんに復讐した感じなのでしょうか。あのお兄さん、今はそんなことしなさそうですが」
「しないよ。あの人はもう、子供がいて孫もいんだからさ。いつの間にかほっこりしたじいさんになっていたんだ。変わってないのは弟の方だよ。兄に対抗するためか、一人しか住んでないのに大きな家買ってさ……」
弟さんは肩を落としながらつぶやいた。
「お兄さんが……そのことを覚えていて、あやまっていたら変わっていたかもしれませんね」
「どうだかね……。いつもネチネチしていたからあの人は」
弟さんはため息をつきながら歩き出した。
「あ、あの……」
「……お嬢さん、ありがとう。嘘か本当かわからないけど、助かった。神さんにもありがとうって言っておいてくだせぇな」
「ああ……はい」
去り際に弟さんは軽く微笑んだ。どこか安堵した雰囲気であった。

※※

「けっこうあっけなかったわね」
再び、ウカの神社に集合した稲荷達はちらし寿司を頬張りながら先程の反省会をしていた。
「あっけなかったねー!」
ウカの言葉にイナはちらし寿司を食べながら答えた。
「ちょっとイナ! さっき、半分食べたじゃないの!」
「ちょっと動いたらお腹すいちゃって……」
「ウソでしょ……」
吸い込むようになくなるちらし寿司をウカは蒼白で見つめていた。
「嘘じゃないよ。イナはそれくらいおやつだから」
イナの横でお茶をすすっていたヤモリがため息混じりにつぶやいた。
「それよりも、あれでいいのか?」
リガノがちらし寿司を食べながら控えめに尋ねた。
「いいか悪いかはわからないけど、泥棒は捕まったし、ひとまずは安心かな」
ミタマがひなあられの包みを開けながら答える。
「なんか、泥棒さんもかわいそうだったね」
イナがひなあられも摘まみながらせつなそうに言った。
「まあ、なんでも盗みは良くないよ。桜餅もあるけど食べる?」
ミタマの発言にイナは目を輝かせて大きく頷いた。イナは食べ物の事になると悲しい感情が吹き飛ぶようだ。
「単純だわね……」
ウカは小さくつぶやくと部屋の中からでも見える賽銭箱を見つめた。

……お兄さんと仲良くできるかな。これから……。でも、私達は応援するぐらいしかできない。

ぼうっとそんなことを考えていたら、リガノが軽く背中を叩いてきた。
「ウカも桜餅食べるだろ?」
「……え? あ……うん」
きっと大丈夫。あのお兄さんならきっと気がつく。
ウカはそう思うようにし、大皿に盛られた桜餅を手に取った。
後から
「稲荷はよく食べるね……」
と、呆れているヤモリの声が響いた。

エピローグ再び花見に

あれからホワイトデーをすっ飛ばして四月。
暖かい春の風とピンク色の桜の花びらが散っていく。
ウカはシートを広げて一年前と同じ場所でお花見をしていた。
「今日は稲荷の信仰心ランキング発表の日!」
ウカはお重のフタを開けて、おいなりさんを並べる。
「ウカちゃーん!お待たせ」
しばらく待っているといつもの稲荷達が到着した。今回はなぜかミノさんもいる。
「場所取りはできてるわよ。……で、ランキング出た?」
「出た出た!見て!」
ウカが尋ねるといなり寿司に手を伸ばしていたイナが、同時に一枚の紙を渡す。
「電子紙だから手を離したら消えちゃうからね」
イナが早口で言うと、いなり寿司を二つ持ち食べ始めた。
「お!」
「気がついた?ウカちゃん」
ミタマが愉快な雰囲気で笑う。
「私達皆、信仰心が上がってる!」
「まだ、相変わらず底辺だが……」
今度はリガノがランキングの部分から右側を指差した。
「ん?」
「特別賞。賽銭泥棒を捕まえ、さらに周りの人の願いを叶えた」
リガノが指差したところを読む。
「嘘!やったあ!別で名前が載っているじゃない!」
ウカは半泣きで喜んだ。
「努力がむくわれたね!」
イナもいなり寿司を頬張りながら涙ぐむ。
「僕達の同盟はまだまだ続きそうだけど、一矢(いっし)むくいた」
「……誰に反撃したのかわからんがな」
気分が上がっているミタマにリガノは冷静に突っ込みをいれた。
「ああ、これもな」
盛り上がっているウカ達を呆れた目で見据えながら、ミノさんが地方新聞をウカに放り投げる。
「……ん?」
ウカは新聞の一ページに目を落とした。
そこには、
『賽銭泥棒が自首。藤井洋介容疑者(70)の知られざる苦悩』
との見出しがあった。
その後の記事に目を通す。
『藤井洋介容疑者(70)は双子の兄、藤井圭介さん(70)に罪を着せ、逃亡していたが、突然に自首をした。この奇妙な事件には裏があったようである。
藤井圭介さんが幼少の時の喧嘩が原因だったのではと藤井洋介容疑者に尋ねた所、藤井洋介容疑者は目に涙を浮かべ「ふざけんなよ。覚えていたのかよ。お前のせいだ」と怒鳴り散らした様子。その後、藤井圭介さんが涙ながらに謝罪すると、藤井洋介容疑者は拳を握りしめ、下を向き黙ったとのこと。しかしながら、その表情にはどこか安堵のようなものを感じたそうである。続いて、この現象について専門家の……』
「……そっか。『和解』できたんだね」
「できたかどうかはわからねぇが、温かい人間の心を感じたな」
ミノさんは軽く微笑むと、手を振り去っていった。
「ちょっと待って!お花見は?」
「俺はいい。暖かいんで寝る」
ミノさんは背中越しでそう言うとさっさと歩いて行ってしまった。
「行っちゃった。ほんと、ナマケモノみたい」
「ウカちゃん、あいつにはかわいい彼女がいるのさ。その神と花見するんじゃないか?寝るなんて嘘だよ」
ウカ達はミノさんが道の角を曲がるまで見届けると、宴会を始めた。
「よーし!ウマイいなり寿司で盛り上がろう!」
「いえー!!」
「お酒飲んじゃう?」
「お前、飲めんだろ」
暖かい春の風が通りすぎ、桜の花びらが舞い上がる。
稲荷達の宴会はいつも以上に長く続いた。

彼らはきっと本気を出せば頑張れるはず……。
ただ、頑張らずにのんびり過ごすのもいいのかもしれない。
彼らは賽銭泥棒の件を一年も続けていた。目の前で助けを求める者達しか救っていない。
大きなことは考えるな。
人間もこれくらい力を抜いても誰もきっと咎めない。
不器用な者は目の前で助けを求める者達を必死で救え。
それが連鎖すれば、世界を救うこともできるかもしれない。

(2020年完)TOKIの世界譚稲荷神編『いなり神達の小さな神話』

身の丈にあったことをしよう!みたいな内容になりましたね笑。彼らのように力を抜いて生活すれば、さらにより良い生活ができそうですね。
書いていてなかなか楽しかったです笑。

(2020年完)TOKIの世界譚稲荷神編『いなり神達の小さな神話』

稲荷神達の間で流行っている信仰心を競う遊び、稲荷ランキング下位の落ちこぼれ稲荷神達が団結して上位に食い込む決断をする! ゆるく、のんびり進む日常のようなお話です。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-04-13

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

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