マスター、ミルク、ロックで

出崎真純

題名:マスター、ミルク、ロックで
作者:出崎真純

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※本作における著作権管理・利用について
本作は著作権フリーであり、サークル活動、無料放送、商業目的問わず自由にご利用下さい。
また、いかなる目的での利用においても報告は不要であり、必要に応じて改稿・編集をして頂いても構いません。

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時間:10分弱

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※配役(男女比:2:3 ※兼役含み)

△男性

名前:マスター
年齢:20~30代
概要:紳士的な青年、或いは中年。

名前:幼児/ナレーション
年齢:5歳
概要:幼稚園のマドンナに手玉に取られている哀れな恋する幼児。

△女性

名前:幼女
年齢:5歳
概要:幼稚園の男達を手玉に取る妖艶な幼女。

名前:赤ん坊/猫
年齢:推定8ヶ月/2歳
性格:恋多き人物。恋愛に造詣が深い。/道端を歩く猫
※「女」と兼役で男女比(2:2)でも問題ありません。

名前:女
年齢:20~30代
性格:マスターの元恋人。結婚を控えているが、過去を捨て切れていない。

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※本文

N「昼下がり、往年のヒットジャズが流れる店内」

SE:カランカラーン

マスター「いらっしゃいませ」

幼女「マスター。ミルク、ロックで」

マスター「かしこまりました」

幼女「えっと……あら?」

マスター「どうされましたか?」

幼女「はあ……丁度切らしちゃったみたい。幼稚園終わりは一服決めたいのに」

マスター「店にあるもので良ければ、いかがですか?」

幼女「あら、気が利くのね。ありがとう」

マスター「お口に合うと良いのですが」

幼女「ふう……うん、良いチュッパチャプスね」

マスター「それは何よりです」

幼女「はーあぁ……」

マスター「お疲れのようですね。どうぞ、ミルクのロックです」

幼女「聞いてくれる? 今日ね、幼稚園で家族の絵を描かされたの。自由に描きなさいってね」

マスター「それはそれは」

幼女「いや、自由に描けと言われてもね? 色々難しいのよ」

マスター「そうなんですか?」

幼女「あれは入園したての頃かな。家族の絵と聞いて私が真っ先に思いついたのは、キティちゃんだった」

マスター「ええ、それで?」

幼女「描いたわ、力いっぱいね。それこそクレヨンを全色使って・・・・・・で、それをママに見せたの」

マスター「どうでしたか?」

幼女「はは、怯えてたわ。こんなもの家の何処に居るのってね」

マスター「ええ」

幼女「……つまり。自由だなんだと言っても、その実、大人の理想図を描かせたいだけなのよ」

マスター「私は美術に心得はありませんが、何となく分かります」

幼女「画用紙にママとパパと私を描いて、端っこに無難な犬でも並べておく。こんな形式的なもの、美術とは言えないわ。それじゃあタダの、作業じゃない」

マスター「仰る通りですね」

幼女「はあ。ねえマスター。私、いくつにみえる?」

マスター「4歳程、でしょうか?」

幼女「ふふ。もう、お上手なんだから。5・さ・い・よ」

マスター「お若く見えますよ」

幼女「あらそう? でも、私も年を取ったわ。弟なんて、もう立って歩いているのよ?」

マスター「時が過ぎるのは、早いものです」

幼女「そうねぇ。ええ、その通りだわ。今日はもう行かなくちゃ」

マスター「なにかご予定が?」

幼女「ええ、バラ組の鼻垂れボウヤに誘われているの」

マスター「良いですね、デートですか」

幼女「良くないわよ、あの人私を何処に誘っていると思う? 公園の砂場よ?」

マスター「なかなか楽しそうではありませんか」

幼女「マスター? あなた、もう少し女心を分かった方が良いわよ。なんてったって今の流行は、滑り台よ」

マスター「失礼致しました。精進致します」

幼女「まあ、今日は砂場で許すことにするわ。男のはしゃぐ姿を見るのって、嫌いじゃないもの」

マスター「お優しいのですね」

幼女「いけない、また話し込んじゃった。マスター、おいくら?」

マスター「30円です」

幼女「はい、丁度ね。それじゃあまた来るわ」

マスター「ええ、お待ちしております」

SE:カランカラーン

N「昼下がり、何処かで耳にしたボサノヴァが流れる店内」

SE:カランカラーン

マスター「いらっしゃいませ」

赤ん坊「だあ、だあ」

マスター「失礼、お席まで抱っこ致しますね」

赤ん坊「だあ、きゃあ」

マスター「いえいえ。お客様をお運びするのも、私の仕事です」

赤ん坊「ばぶ」

マスター「リンゴジュースですね、ストレートでよろしいでしょうか?」

赤ん坊「だう!」

マスター「かしこまりました」

赤ん坊「ばぶ、ばあぶ」

マスター「えぇえぇ、今日はそんなことが」

赤ん坊「だうあうあ、あーう」

マスター「男らしいのですね。憧れます」

赤ん坊「あうあー」

マスター「またまた、ご謙遜を。どうぞ、リンゴジュースのストレートです」

赤ん坊「んく、んく……ばあぶ」

マスター「よろしければ、口元をお拭き致しますが」

赤ん坊「だあ」

マスター「では、失礼して」

赤ん坊「だうあう、ばぶ」

マスター「私ですか? いえ、今は居ませんよ」

赤ん坊「ばーあーぶ」

マスター「……そうですね、昔は居ました。ええ、とても愛していましたよ。とても」

赤ん坊「あぶ?」

マスター「ははは。いえ、昔の話ですから。今は、彼女が誰かと幸せに過ごしていると願うばかりです」

赤ん坊「だあ、あぶあ、ばぶ」

マスター「私はそこまで大人ではないですよ。今でもたまに、夢にみます」

赤ん坊「ばぶあ」

マスター「そうですね。良い出会いを待ちます」

赤ん坊「あう、ばぶあぶ」

マスター「ああ、お相手を待たせて居たのですか」

赤ん坊「あぶ、きゃあ!」

マスター「ええ、私などの話で良ければ、またいつでも」

赤ん坊「ばぶばぶ」

マスター「いつも通りツケで。かしこまりました」

赤ん坊「あぶあー!」

マスター「またお越し下さいませ」

SE:カランカラーン

N「昼下がり、胸に響くブルースが流れる店内」

SE:カランカラーン

幼児「やあ」

マスター「いらっしゃいませ」

幼児「ふう……いつもの、頼めるかな」

マスター「オレンジジュースですね。ショットでよろしいですか?」

幼児「ああ」

マスター「かしこまりました」

幼児「はあ……」

マスター「どうぞ、オレンジジュースのショットです」

幼児「ありがとう……」

マスター「いえ」

幼児「んく、んく……ぷはぁ」

幼児「――今日ね」

マスター「ええ」

幼児「……振られたよ」

マスター「そうですか……」

幼児「はあ、どうしてなんだよ……幼女ちゃん」

マスター「どうぞ」

幼児「ん? これは?」

マスター「店のおごりです」

幼児「……ありがとう、マスター」

マスター「男同士、分かることもありますよ」

幼児「聞いてくれ、砂場の何が悪いっていうんだ? 最高のデートスポットじゃないか」

マスター「ええ、そうでしょうとも」

幼児「だろう? なのに彼女と来たら、つまらなさそうな顔をして……」

マスター「そうでしたか」

幼児「なあマスター、彼女にどう接すれば良いと思う?」

マスター「そのお方のこと、本当にお好きなんですね」

幼児「もちろんだ! 僕がいつから彼女を好きだと思う?」

マスター「さて、いつからでしょうか」

幼児「入園した日からだ! かれこれもう二年半になる」

マスター「大恋愛ですね」

幼児「ああ、僕の全てを賭けた大恋愛だよ。信じられるか? ポケモンシールを全部貢いだんだ!」

マスター「……一つ、よろしいでしょうか」

幼児「なんだい?」

マスター「これはあくまで聞いた話なのですが……最近の流行は、滑り台と聞きます」

幼児「でも、それは!」

マスター「ええ、ただの流行です。しかし女性というものは、時に流行に身を任せたいのだそうですよ」

幼児「幼女ちゃんも然り、か」

マスター「私の口からは何とも言えませんが、その方も一人の女性、というのは確かでしょう」

幼児「……もう一度彼女を誘うよ。滑り台にね」

マスター「ええ、応援しております」

幼児「よし! 今日は門限まで飲むぞ! マスター、おかわり!」

マスター「かしこまりました」

幼児「大体女っていうのは良く分からないよ。口を開けばプリキュアだなんだって、あんな物の何処が良いんだい?」

マスター「女性にしか分からない世界でしょうね」

幼児「そう! そこだ。女のことは女にしか分からない! なのに肝心なことは何も言っちゃくれないんだ」

マスター「ごもっとも。どうぞ、おかわりです」

幼児「全く。本当に女はよく分からない」

マスター「そうですねぇ」

ナレーション「夜、心地よいシティポップが流れる店内」

SE:カランカラーン

女「あいてるかしら?」

マスター「っ! ……いらっしゃいませ」

女「久しぶりね……」

マスター「こちらへどうぞ」

女「ええ――おすすめは何かしら?」

マスター「マティーニはいかがでしょう」

女「……覚えていたのね、私の好きなお酒。じゃあ、それを」

マスター「かしこまりました」

女「久しぶりね」

マスター「ええ、お久しぶりです」

女「突然来て、驚いたかしら」

マスター「そうですね、多少」

女「友達からね、あなたがお店をはじめたって聞いたものだから」

マスター「どうぞ、マティーニです」

女「ありがとう……ふう、美味しいわ」

マスター「お口に合って何よりです」

女「……あれから、何年?」

マスター「5年です」

女「本当に良く覚えているのね」

マスター「もちろんですとも」

女「……ふふ」

マスター「どうされましたか?」

女「いえ、似合ってるわ、その敬語」

マスター「申し訳ございません。仕事中なもので」

女「いいの。5年も経っているんですもの」

マスター「ええ」

女「あ、聞いたわ。あなた昼もお店を開いているんですって?」

マスター「道楽のようなものですよ」

女「そう、頑張っているのね……そっかそっか」

マスター「次はどんなカクテルを? モスコー・ミュール、ブルームーン」

女「いいえ、もういいわ」

マスター「かしこまりました」

女「――私ね」

マスター「はい」

女「結婚するの」

マスター「――おめでとうございます」

女「ありがとう……」

マスター「いえ」

女「ふふ、笑えるわよね。あんなに遊びまわっていた私が、結婚よ?」

マスター「ドレスが良く似合いそうですよ」

女「そうね、私、美人だもの。そうでしょう?」

マスター「ええ、悔しい程に」

女「あはは……はは、は……ねえ、私、まだあなたの――」

マスター「結婚式には、花を贈りましょう」

女「え?」

マスター「綺麗な花を」

女「……はは、そうね。じゃあ、造花をお願い」

マスター「造花、ですか?」

女「いつまでも、枯れないから」

マスター「かしこまりました」

N「白昼、物静かな店先」

猫「にゃあ!」

マスター「ああ、こんにちは。ただいま掃除中でして。砂埃が目に入りませんでしたか?」

猫「んみゃう!」

マスター「それは大変失礼致しました。お詫びといってはなんですが、中でミルクでもいかがですか?」

猫「にゃう」

マスター「かしこまりました。では、中へ」

幼女「ミー子、なにしてるの?」

マスター「ああ、お連れ様ですか?」

幼女「うちの猫なの」

マスター「可愛らしいお連れですね?」

幼女「ふふ、それはどっちの事を言っているのかしら?」

マスター「さあ、どちらでしょう。続きは、何か飲みながら」

幼女「ええ、そうさせて貰うわ」

マスター、ミルク、ロックで

本作は、作者が数年前SSとして掲示板に投稿した物を声劇台本としてリビルドした作品です。

マスター、ミルク、ロックで

声劇台本

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
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