詩人予定表。

 【予定調和だ、つまらない】
 【は?】
 まるでゴムのように伸縮性があり、とんだりはねたりして揺り戻しのあるものだ、新人エメラはそう思った。
そうだ、たいていのことはそのようにできている、だからやっと落ち着いてきた日常を、編集者アマンはとても納得していたし、満足していた。
けれどここ最近なんだか、詩人エメラの様子はおかしかった、毎日早起きをしてパンをがぶがぶといくつもたいらげるし、その種類もフランスパンや、フレンチトースト、サンドイッチまで多種多様で、さらに野菜のジュースをごくごくとのみほす。暴飲暴力といっても過言ではない。けれどそんな事はどうでもいい、彼の作品はいつも面白いし、しかもさらに、今はとても仕事が軌道にのっている、また妙な事を試されて、下手な探偵業でもやられた時には、編集者としてのアマン自身の立場がなくなってしまう、そこでレディーススーツをみにまとい、釦がひとつのショートジャケットの裾のあたりをまさぐり、ハンカチをとりだし、7月の陽ざしをあびてひたいに浮き出た汗を払った。
 【予定調和なんだよ、今までは、必死だった、なぜならその必要があったから、それは誰のせいともいわないし、何のせいともいわないが、ハイリスクハイリターン、それにもいいところがあったなあ、ただ単に、ちょっとそう思っただけだ】
 編集者アマンはこんなことを思った。そうだ、いつか兄妹が、私の兄さんが川幅の大きな河川をひとっとびてとびこえようとして、頭をぶつけて血を流したことがあった。それだけではない、私はあのときから兄さんをどこかでばかにしていたが、なにかにつけて兄さんは挑戦の欲求がつよく、中学も高校も一流の進学校に進んだ。だから、私は今安定を求めているのかもしれない、ひょっとしてあの兄さんの失敗と成功をどこか鼻で笑うような性質の怠慢がそこにあるかもしれない。しかし、それに反して、エメラはこんなおかしなことをいった。
 【けれどそれにもまして、今はすばらしい、安定している、だが時折自分は自分の健康に反している事をしたくなるのだ】
 なるほどな、と思った、この詩人は、私の小さな頃にそっくりだ。そう思った。

詩人予定表。

詩人予定表。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-03-30

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