煙草のこと

生まれて初めて吸った煙草はSeven Starsだった。
冬空は曇天で、それでも子どもたちが元気に走り回っていた公園の隅で火を着けたことを覚えている。

1時間だったか2時間だったか、駅で待ちぼうけをくらった。
帰るね とだけ男にメールをした後で初めて煙草を買った。Seven Starsは男が好んでいた銘柄。

苛立ちとやるせなさと自己嫌悪だったか
そんな気持ちが煙草を買わせた、ような気がする。

つまり、もう思い出せない程遠く昔のこと。
同時に酷くどうでもいい思い出だということ。


Peaceを買ってみたのはまた別の男が吸っていたからだ。
なぜか目をかけてくれ、なぜかいつも難しい問をかけてくる師が吸っていた銘柄。

当時の私は相当にひねくれていたが、彼もまた相当に変わり者だった。

頭の中で親を殺せ

どうやって殺す?

問われた私は撲殺を選んだ。

講習を別の男子学生と抜け出したことがバレた時は、丸めたパンフレットで頭を叩かれ

バレないようにやれ

と言われた。

ついでに男子学生に向かって

こいつ、いつか一緒に死のうと言い出すぞ

そう言った。

先生、私は今その彼と暮らしています。
先生、そして彼はPeaceを吸っています。

先生、あなたも頭の中で誰かを殺したのですか?
あの頃の私が聞けなかったことを思う。


その後吸った銘柄は片手で数えられる程か。

可愛げのない銘柄ばかりだ。

それにしても随分値上がりしたものだ。
世は嫌煙ムード。そして電子タバコ。

それでもまだ私は煙草を止められずにいる。
惰性と依存と。

口の中に残る不快なものを消すこと、涙を止めることに煙草はとても役立つ。

もう何年も変わらず愛煙している今の銘柄は
ある小説に出てきたことがきっかけで手を出したもの。

浮気することは、きっと、もう、ない。

煙草のこと

煙草のこと

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-03-22

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