つめたい町

 たくさんの夢を、みているあいだに、町は、氷漬けになり、おかあさんは、おとうさんは、おとうとは、となりの家の犬は、きみは、どこにいったのか、まさか家や、ビルや、コンビニエンスストアのかんばんや、学校なんかといっしょに、こおってしまったのか、と思っていると、氷漬けになった町を、監視しているというひとと出逢い、町のひとは、みんな、地下のシェルターにいる、というので、つまり、おかあさんも、おとうさんも、おとうとも、はすむかいの家の猫も、きみも、氷漬けになった町の地下のシェルターに、避難しているということだった。
 けれど、監視をしているひとは、淡々と続けた。
「にんげんと、にんげんに飼われているペットは、シェルターのなかに入れるけれど、野生のは、だめなんだ。シェルターに入れない。動物園や、水族館のもみんな、こおってるよ」
 町を監視しているひとは、監視しているだけあって、双眼鏡を持っていて、その双眼鏡で、あしもとの(氷漬けになった町は、ぼくたちのあしもとにあった)、透明の、氷のなかを、覗いて、あすこにスズメがいる、と指さした先の、電線に、スズメがとまっているのだそうだった。あしもとにひろがる、氷漬けになった町は、ぼくらの町のなかで、いちばん高い建物(都会からすれば、まるで低い)まで、すっぽり氷のなかだった。地下のシェルターとは、しかし、ほんとうに安全で、快適で、みんなはちゃんと、無事なのだろうか。ぼくは、氷漬けになった町の上を歩いて、歩き回って、あしもとに、きみとよく行った水族館をみつけて、きみが好きだった、あのシャチも、水槽のなかで、きっと、こおって、つめたくなって、うごけなくなっているのだろうと想ったら、泣けた。

つめたい町

つめたい町

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-03-21

CC BY-NC-ND
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