進藤 海 作

雫

 一雫の雨
 それは僕らのすべてのはじまり

 5月の緑道に舞い降りた君の姿は
 これからやってくる爽やかな夏の日々を予感させた

 梅雨の雨が植物を育てるように
 君は僕を成長させた

「雨はいつか降り止むの」

 寂しげに空を見る君の後ろ姿

「僕らはいつまでも一緒さ」

 雨宿りしたあの日の黄昏は
 燃え続ける太陽を賛美するような
 とても美しい眺めだった


 一雫の汗
 それは僕らのひと夏の思い出

 8月の灼熱に照らされても
 僕らは夢を見るように笑い合った

 打ち上げ花火が何でもない日常を彩る
 その光に映し出される暗闇の君を
 僕はそっと抱き寄せた

「離さないでね」

「僕を信じて」

 永遠の時間を手に入れたような
 そんな気分が僕らを包み込んだ


 一雫の深紅(からくれない)
 それは君なりの僕に対する強がり

「隠すつもりなんてなかった」

 そう言う君の顔を僕はまともに見れなかった

 嫌な想像ばかりしてしまう頭の中
 振り払おうとする変わりようのない事実

 短い時間しか残されていなくても
 君を支えようと決めた秋の夜
 満月を期待した空には欠けてしまった三日月


 一雫の哀れみ
 それは神が僕らにくれた最後の優しさ

 クリスマスで色めき立つ街をよそに
 僕らは静かな病室で二人きりの時間を過ごす

「デートしたかったなあ」

「早く治して出かけよう」

 本当は場所なんて関係ないんだ
 こんな風に君と一緒にいられたら


 一雫の涙
 それは僕らのすべての終わり

「今までありがとう」

「さよならなんて信じない」

 僕の未熟な声までも
 君は受け入れて優しげな瞳を揺らす

「忘れないでね、私のこと」

 奇跡を願った僕の想いは
 2月の雪道に埋もれゆく

 電気ストーブで得られる暖かさなんて
 君の温もりの足元にも及ばない

 空洞の気持ちを
 冷たい風ばかりが通り過ぎていく


 一雫の希望
 それは春を感じさせる季節の変わり目

 今日も何かを告げる雫を
 心の何処かで求めている

 ふと空を見上げると
 南の雲が新しいはじまりを予感させる


 こうやって世界は繰り返されても
 君と過ごした日々の雫を
 僕はずっと大切にするよ

 この体に この心に染み込んだ
 君だけの一雫を

それは僕らを繋ぐ一雫。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-03-15

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