わにとチョコレート
わにが、あくびをする頃の、どうか、片隅から、世界が腐り果てませんようにと祈る夜の、さびしさをやわらげるためにたべる、ミルクチョコレートの、甘さ。バレンタインデーですが、チョコレートは自分で買いました、コンビニエンスストアの、レジのお姉さんの視線が、少しだけ気になりましたけれど、さいきんは、高級なチョコレートだって、コンビニエンスストアで買えるのだから、すごいですね。夜が明けるまでに、腐食がおわりますようにと思います。世界は、じわじわと、じりじりと、おわりにむかっているのだと、テレビのなかの、どこかの大学のえらいひとが云っていました。
きみが、ねむっている。
きみがねむっているところに、ぼくは、行くことができません。無数の花と、その蔓が、きみがねむっているところへ通じる扉を、塞いでいます。でも、それは、きみの、やすらかなねむりを妨げないための、ものなのです。いいのです、ひとり、静かに、やすらかにねむっていて。朝になれば、きみは、ねむりたりなくても、起きなくてはいけないのだから、世界は、片隅から、緩やかに腐り始めてはいるけれど、腐り果てるまでは、まだ時間があるので。いまは、どうか、ねむっていてほしい。(いや、ほんとうは、ちらりとでもきみの顔を、みたいとも思うのだけれど、ね)
赤い花の首を剪定鋏で、じょきん、と切り落としたひとのことを、こわい、と思ったことがあります。やさしいのが、どうぶつだけだったらいいのに、とも思います。やさしいにんげんは、やさしいあまりに、ときどき、じぶんを見失っているような気がするから、でも、どうぶつだって、そうなのかもしれないし、にんげんだって、どうぶつなのだから、おなじかぁ、なんて考えています。きみがいないときの、ぼくの思考は、こんな感じなのですよ。
夜空の星をかぞえながら、チョコレートをたべます。ゆっくりと、時間をかけて、チョコレートが、あっというまに、なくならないように。
わにとチョコレート