迷子

デパートの中
四、五歳の子供

衣料品の迷路の中を
ふらふらと歩き回っている

ワゴンの前に立ち止まって
少々ごちゃついたその中身を覗き込みながら
子供は手を伸ばして
かたわらの女性の手をつかんだ

「あら?どうしたの。お母さんじゃないわよ。間違えちゃった?」

声を聞いて通路の向う側にいた女性が目を向ける
子供はパッと手を離して
通路の向う側の女性の後ろへ走って行き
女性は軽く頭を下げた


だってあの人もお母さんじゃない

衣料品の迷路の中を歩き回って
目の前のコートの袖をつかまえた

ぷらぷらと腕を振ると
コートの腕も一緒に動く

お手てつないで帰りましょ

ただ思ったんだ
この人の手は暖かそうだなって

お母さんじゃないとダメなのかな?

カラスと一緒に帰りましょ

ぽん、と投げ上げるようにコートの袖を離す
コートの中は薄っぺら

だとしたら
僕の暖かさはどこにあるんだろう?

迷子

迷子

#メンヘラ#子供の記憶

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-13

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