呼吸する町
ロイヤルブルーのスカートを揺らして、踊る。きみ。
わたしたちの住んでいる町にいつのまに教会が出来たのか、きみが教会に通い始めてからその存在を知ったのだけれど、もともと教会はこの町にあったのか、さっぱりわかりませんで、とりあえず、きみが、わたしと遊びに行くことを断ってまで教会に行っているという現実に、わたしは、教会に対して嫉妬心のようなものを抱いている。建造物に対して。
この町は、どこか秘密めいているよ。
生まれてからずっとこの町に住んでいるが、ときどき、この町のことがよくわからないことがある。それは恋人の、ミステリアスな一面を垣間見たときの感覚に似ている。知っているようで、知らない。わかっているようで実はぜんぜん、わかっていない。町は息をしていて、にんげんとおなじく生きている。いきもの。きのうまでなかったものが、きょうになってある。うまれている。うまれて、死んで、またうまれる。教会もきっと、そうなのだろうと思っている。小さな町に、とつぜん現れた教会。うまれた、教会。
「あなたも来ない?とてもドキドキするわよ」
教会に行くと、ドキドキするのか。
わたしはきみからの誘いを丁重に断り、他の友だちと遊びに出かけた。どういうドキドキなのか、いいドキドキなのか、わるいドキドキなのか、はっきりしなかったから。きみの、ドキドキするわよ、という言い方は、少し興奮気味だった。その感じが、やっぱり嫌なのだ。きみが、わたしではなく、教会を選ぶという事実が。わたしと一緒にいる時間よりも、教会で過ごす時間を優先している、きみが。
教会のことは、行ったひとにしかわからない。行ったことのないひとたちには、未知なる領域で、そして、近寄りがたい場所でもあった。
「誰が行ってもいいのよ」
きみはそう言ったが、なんだか選ばれたひとしか行けないような、そんな神聖さを感じていた。いつのまにやら現れたのか、それとも、いままでひっそりとたたずんでいたのか。
三角屋根の教会。
三角形の天頂のところにある丸窓の、うつくしいステンドグラス。
教会に行くときの、きみの足取りは軽く、まるで跳ねるように歩く。
ロイヤルブルーのスカートを翻して。
わたしをおいて。
呼吸する町