番号札をお取りください

雑踏をさけてるうちに透明なクラゲの中で生きていました

証明用写真に同じ顔並び矢印に沿ってお進みください

互換性のない人になり孤立する動く歩道はすぐに満員

バスに乗り移動するときバス停のひとつ分ほど遅れる気持ち

どれくらい座っていればこの席の模様になってしまうのだろう

デパートの物産展で売っていた見たことのないふるさとの味

デパートの行くことのないフロアーで働く人と出会わず終わる

呼びだしの音声割れてこのビルの天井はひびだらけじゃないか

キシキシキー奇怪な音をさせながらわたしを守るはずの兵隊

透明なクラゲが空を覆う日はみんなランチを軽めに済ます

隙間からこぼれてましたいちまいのいっしょに写るわたしとあなた

鮮血が次第に朽ちてゆくような道に並んだ鶏頭のあか

青空はただつるつるに磨かれて慈悲のないまま見おろしている

影として生きろよ子猫三千年たてば巨大な獣になれる

ごろごろと後ろ回りで転がって下り坂ならもっと怖いね

なんとなく触れないのはどの土もきっと何かが死んでいるから

何層も積み重なった死者たちの上で呪いのように棒読み

掘りだしたあばらの中に閉じこめた天使はただの合成写真

天使使いを名乗る男が駅前で手渡してくるおちかづきのしるし

逃げるのも追いかけるのもどうでもいい位置で迎えたレース終盤

延長コードつないでやっとつながればもっと遠くへ離れてしまう

それぞれにブランコ揺らす夕暮れにわかりあえないことだけわかり

カレンダーのいらない国で暮らします偶然会う日を楽しみにして

閉じられた窓と閉じた窓のあいだにずっと泣いてる子供がいても

完璧な戸締りをして寝てますが全然信じてないわけじゃない

この街は電波時計が蔓延しひとり真実を知る鳩時計

電波時計はすべてが同じ時を打ちひとり遅れてゆく鳩時計

隣人に内緒で壊す鳩時計これから長い嘘の始まり

バランスの良い生活は綱渡り落ちて死ぬまでお元気ですか

未来へのひとつしかない入り口の秘密について御存知ですか

コンビニの弁当に居るシバ漬けが懐かしいのに思い出はない

ソーセージ軽い気持ちで炒めれば裂けてあふれて中は冷たい

狂暴な気持ちに気づき生玉子電子レンジで爆発させる

コーヒーの湯気に飛び込みコーヒーへ落ちてゆくとはどういう仕組み

暗転した液晶画面に映りこむ省エネモードの亡霊がいる

ぐるぐると回るあいだは時計ですやがて自転も止まってしまう

その怨みお金で晴らしてあげましょう番号札をお取りください

あらかじめ透明な血と入れかえて切り刻むので放送できます

声はなく呼びあう気配だけがする青い月夜に呼ばれた鳥が

つきたてのおもちみたいに溶けだして月が悲鳴をあげる、ふざけて

夜を飛ぶ見えない鳥が落ちながら散らばる羽根は渇いたしずく

ちゃんとした罠などなくて隙間にはただ穴がある歩くな夜は

またたけば夜の音色は羽根の色誰が拾ってまたまき散らす

光る星見えたらいいね船にもう乗れないことに気づいたあとで

キラキラと光と水が弾きあいもしもし存在していませんか

偶然の取り皿の上浮かぶ虹丸く輝くあなたは自由

ありがたいほどこしとして日が昇りそれはいやだね二度寝三度寝

パタパタと隠しトビラが飛びまわるチャンスタイムに飛び道具なし

忘れられた島の鳥にも雨は降る飛ぶのをやめて木の陰にいる

ひとりではぽかんと広い空でしょう嵐のあとに生まれた揚羽

番号札をお取りください

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「第1回笹井宏之賞」に応募した短歌50首です。

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-06

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