バットデイ。

 細く。切るんだ。その後も細く切る。それからも細く切る。そんでもってやっぱり細くきざむんだ。タマネギの微塵切りなんてめじゃないね。どうしてこんな事を言うんだって思うかい? そうだね。それは僕が君を見て思ったからなんだ。君が今日、こんな形で僕の前から去ってしまうなんて思いもしなかった。例えばアフリカに行ってアフリカの沼地の真ん中で消えてしまうとか、南極大陸に研究目的以外で勝手に入った後に、(これは非常に不味いんだが)スコップを持ってザクザクと掘っている途中、氷の中のアメーバを口に入れた所為で消えてしまうとか、そう言った部類。僕が何を言いたいかって、つまり、人は何処かに行く事によって消えてしまうなら僕は許せる。何故なら、とてもロマンチックだと思うからだ。だってね。それが足跡のある旅であるなら、旅のゴールでパッと散るんだ。タンポポの種が風に乗って宛先のない大地に向かって消えるように。でも君は違かった。蝋燭の火が消えた。それでただの人だった記号として残るだけなんだ。それって実に悲しい事だ思うんだ。うん。本当にね。だから、僕は思いついたんだ。君を永遠に永久に分割してしまおうとね。ずっと分割する、ずっとだ。そうなると君はどうなるんだろうか? 細胞の核? 分子レベル? でも、それを越える事は出来ない。原子レベルを越える事は不可能であると或る科学雑誌には書いてあったけど、僕はどうも納得ができない。そう。永久に、最果てに、千切れる筈なんだ。そうすれば見えてくる。必ず君の結晶が。キラキラとグラスが割れた破片が人の表情や口元を反射するかのようにね。つまり、反射するんだ。君の結晶は過去から今までの映像を一つ一つ。それは突然として消えてしまった水銀灯のランプとはわけが違うんだ。頬の感触がある。粉ミルクのような君の匂いがある。こっちを見てうらめしそうに文句を言う君の視線がある。生きているんだ。
 ああ。どうしてこんなにも夜に聞く反響はしんしんとしているんだろうなぁ。何時もなら、こんな下らない話をすると真面目な顔で「馬鹿だな君は」と吐き捨てていたけど、それも遠い昔のように感じてしまうよ。それと今度は緋色の硝子の話を聞かせてね。おやすみなさい。もう夜明けだけど。

バットデイ。

原子以上に細く出来ない事を知って、それは本当の事なのか? と思い。感想を書きましたとさ。

バットデイ。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-01-28

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