幽閉空間

 真っ白い空間。無機質な鉄格子に隔てられた君と私との距離感。そんなものだけで構成されるのが、この世界だ。
 白い壁を見て、白い天井を見て、黒い鉄格子を見て、その向こうにいる青年を見る。彼は白いシャツと黒い髪の、特にこれと言って特徴のない人だ。私も白いワンピースを一枚着せられただけの、黒い髪の少女で、それ以外に特徴というものはない。ここには、なんにもないがありふれている。
 時間の長さに辟易としてしまう。ただここには何もないから。私も何もないをしている。時の経過を待ちながら、変化の無さに目を回す。
 眠ってしまえば、まだ夢の世界の方が何かで溢れているから。あのキラキラした荒唐無稽の物語の中を宛もなく揺蕩っていたいのに、まだ瞼は重くならない。夢という逃げ場すら私には用意されてないらしく、また途方もない時というものに嘆息してしまう。
 せめて青年が何かをしてくれれば、この退屈とも距離を置けるかもしれないのに。青年は黙って壁を見つめたまま。本当に壁を見つめているだろうか。彼は置物のように動かず、その視線もどこに向けられているのかよくわからない。もしかしたら、その黒い硝子玉は何も写していないのかもしれない。半透明の黒は虚空に向けられているだけで、世界を見つめてなんていないのかも。
 青年を観察し続けて、そんな妄想をしてみて、少しの退屈しのぎにはなったけれど。それだけ。青年は動かない。かと言って、私は声を掛けようともしない。だから私の見る世界に変化は起こらない。きっと私が何もしないから、世界はこのままなのだ。
 声を出してみれば。鉄格子に触れてみれば。何かと世界を変える動きをすることは可能だったけれど、私はそれをしないのだ。する気が起こらないから? 彼もまた動かないから。世界というのは、こういうものなのだ。私は変化を望むくせに、変化を拒んでいる。それは不思議なことではない。怠惰なだけなのだ。臆病なだけなのだ。何かが変わってしまうことは、どこか期待通りでありながらもどこか恐ろしいことのように思える。だから変えたいのに、変わりたいのに、変わらないままを好む。
 ずっとこのまま、鉄格子に隔てられた世界に私と君がいるだけで。それだけでいいのだ。
 朝が来たのかもわからない。夜が過ぎたのかもわからない。時の経過を感じながら、時の経過を確かめることもできないこの空間で。私はただ、ここにいたい。

幽閉空間

幽閉空間

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-01-22

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