冷却ファンが回っています

雨を待つ気持ちになって空を見る約束なんてなくても同じ

動かない時計のせいにしていても後ろめたいさ明らかに朝

広すぎも狭すぎもしないこの部屋がぴったりという感じもしない

知らないでいてもいいってことなのか朝のゆかでは虫大量死

均等な優しい灯りに照らされて隠れる場所がなくなっている

寝る場所はあるのに座る場所はなく行く場所があるように歩く

垂直に上昇下降を繰り返しやがて骨格から崩れる

とびあがる勢いのまま落ちてゆくトランポリンがあると信じて

雨ばかり降る国ならばあきらめて失くしたものは忘れるだろう

忘れてもなくならないしふるさとの花といえども待たずに咲くし

本当は朝が来るたび古くなる思い出さないためには生活

足先にきつくモグラが咬みついてどうして僕は裸足でここに

その道を生きて還れる人の数ロードマップに明記しといて

近道のために入ったトンネルのカーブの先がずうっとカーブ

弦楽器が隠れて僕を見張ってる同じ形で違うサイズの

のぞきこむ顔がいつでも笑ってて天井が遠ければ病室

まるまったまんなかにある空白を埋めきるためにイチゴクリーム

口にする言葉がないとあきらめて晴れてはいない乾いてはいる

傾いた姿勢のままで立つことが抵抗と言って言えなくもない

雨はまだ降りだしません静音で冷却ファンが回っています

充電が切れたら困るふりをして子猫のことは見るだけにして

何度でも子猫を見捨ててしまうので死後の世界はあるほうがいい

空想で作った愛の詩のように若い海から生まれた命

嵐にも気づかぬような深さから浮かびあがって吐いた内臓

長雨に溺れながらも魚人へと進化できたら選ばれている

新しく生まれた人は同じ顔集会場は静まりかえる

このパンは人が食うしかないパンだこんなに甘くしすぎたパンは

新しい扉はここに見つからず入口だった出口を抜ける

あいまいな境界線に近づいておおい来てみろこれは鏡だ

光には寄り添うように「かげ」のルビ見つめあえずにいても仲良し

冷却ファンが回っています

冷却ファンが回っています

「第30回歌壇賞」に応募した短歌30首です。

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-01-20

Copyrighted
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