ちぐ はぐ
水の底から、いつも誰かが見ていた。
毒があると知りながら、きみはあの花を摘んだね。摘むだけなら問題はないけれど、花びらを銜えてみてごらんよ。一瞬で、きみは果ての躯。ロングブーツの女がヒールを擦り潰しながら街を歩いている。ぼくが信じていたのは背中の翼。もう、消え失せたけれど。
(破壊といっても創造までがセットであり粉々に壊したものを一から生み出して原形を求め構築してゆく完成すればまた壊すのかと問われればそれは神さまの気分次第と答えよう世界とおなじさ)
世界がひとを殺して生むのだと言ったのは美術の先生だったか、学校のグラウンドで飼っていたウサギを溺愛していた生物部のひとが生物室の水槽にいた水生生物を眺めているときと白いウサギを抱きかかえているときの眼差しは異なり、執着に宿るのはその者の命であり生を燃やして誰かを(または何かを)愛する行為をぼくは素晴らしいとは思わない。
真夜中のダムは静かで、繁華街は騒々しい。学校は死んだように眠り、公園は息を潜めて何かをじっと見つめている。
微生物たちの呼吸。そのなかにきみはいるのか、いないのか。
にんげんの徘徊。暴力的な気持ちを隠している。少年少女の自殺をかなしむオトナにぼくはなれるのだろうかと考える二十五時のきみの部屋は、海。
ネオンカラーの洪水にのまれた、きみがあの花の花びらを食んだのならばぼくの心臓はきっとこんなに穏やかでないだろう。廃墟となった遊園地に転がっていたパンダの乗り物をいつかきみは家にほしいと云った。業務用のアイスクリームをきみはひとりじめしたいとも云った。きれいなものだけを愛でていたいとも。あの花は毒があるが、確かにきれいだ。ならば、醜いだろうぼくを、きみが愛でることはないということだ。
宇宙に行きたいだなんて呟いてみたりする。
ハートの数がすべてではないけれど。
空から落ちてくる何かしらの生命体を想像する日のどうしようもない嘔吐感に、笑ってしまうくらい寂しいときの飲み終わったラムネ瓶のなかのビー玉みたいな気分をミックスしてもプラスにはならないって。
ぼくは生きてる。
きみも生きてる。
それだけではなく、もっとこう、さ。
ちぐ はぐ