冬の風鈴

わたしの怠惰のせいで夏が終わってもひさしにぶら下がり続けていた風鈴がついに痺れを切らし、このまま冬を越えることを決意したそうなのでそれを見守ることにした。風鈴はわたしを責めるどころかなぜかやる気に満ち溢れていて、こたつから一歩も動けないわたしに、見てろ見てろとこころなしか嬉しそうにしている。雪を知らせたいのだ、と風鈴は云った。冬に吹く風など情緒の欠片もない(わたしはそうは思わないのだが)、と云うのでじゃあ何のためにそこに居続けるのだ、もう勘弁したから取り外させてくれ、と云ってもきかない。それから12月に入りクリスマスも過ぎあっという間に大晦日目前だ。もう仕事も収めた暮れのことだったので、昼に起きてだらだらと遅刻気味の年賀状を書いていた。突然耳鳴りがしたかと思うと、それはすぐに透明な輪で広がる和音になり、輪唱し、ひとつひとつの音は明らかな冷たさ(或いは、冷ややかさ)を持ってわたしの体を通り抜けて行った。わけもわからずに閉じた目を開くと、窓の外で風鈴がふわふわと揺れている。その周りでちらつく雪が各々の結晶の、その「かたち」を婉曲した風鈴の硝子に反射させているのが見えた。つまり風鈴は、雪の知らせとして結晶を奏でていたのだ。
疲れ果てたのか何も云わなくなった風鈴をひさしから外した。ここにぶら下がってから実に数ヶ月ぶりのことである。あえて色による装飾を避けて無色透明な風鈴を選んで正解だったのかもしれない。奏でられた結晶の、不思議で複雑な模様がかすかに硝子面に刻まれているのがわかった。これが次にくる夏にどんな音を奏でてくれるのか、暑い夏のひそかな楽しみにしておくことにする。

冬の風鈴

冬の風鈴

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-12-15

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