中毒男

ファンタグレープ

珈琲を飲みたい。

珈琲を飲むと、一般的な人よりも脳が覚醒して、活動的になる。
気分が良くなり癖になる。

しかし入院する原因になる可能性がある。

ここ最近は薬を飲むのも煩わしい。

飲んでいないわけではないが、飲むのに嫌悪感を覚える。
身体が薬を拒絶しているのかもしれない。

頭の片隅では自販機に並ぶ缶珈琲の絵柄が浮かんでいる。
人は何かに依存していなければ、生きていけないと言うけれど、この男の場合は珈琲で間違いない。
珈琲が男の手元にやってくるまでに葛藤はあったが、時間は掛からなかった。

男は缶珈琲を手にしてちびちびと茶色い液体を啜った。そして30分が経過した頃だろうか。

男は途端に別世界へと運ばれていった。

そこはどんな世界だろうか。空気が淀んでいると言えるかもしれない。男の視点からの景色だが、全ての物体が男のほうに向いているような気配さえ感じられる。
もちろん、人の視線もそうだ。常に何かに監視されていて、誰もいない部屋の中でぽつりとソファに座っていても、落ち着かない。
なぜなら誰かが男のことを見ているようだからだ。

覚醒しているときは、何とも気にならないのだが、覚醒が徐々に解けていき、カフェインの成分が抜けてくると、急に恐怖心を抱く。
こんなことなら珈琲を飲むんじゃなかった。後悔に苛まれている。

カフェインが抜けるのを助けてくれるものがある。

それは水だった。
水を飲むことによってカフェインが体から抜けるのを知っていた。水道水をがぶがぶ飲むこと、10分間。
男は急に寒気を覚えた。悪寒だろうか。
全身が強張り、吐き気がする。

これは危ないからもしれない。
そう感じた男は救急車を呼ぶことにした。119番をして、珈琲を飲んだことを告げると、その後に何かされたか尋ねられた。妄想をして、部屋の中でじっとしていただけだ、と告げた。その他には? としつこく尋ねられると。何もしてない。あえて言うならお腹が痛いくらいだ、男は電話口の人に言った。

救急車が到着すると、すぐに救急隊員は気付いた。男の下腹部が膨れている。これは水中毒に違いない。

中毒男

中毒男

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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