*星空文庫

茸寿司

草片文庫(くさびらぶんこ) 作

茸寿司

茸不思議小説です。縦書きでお読みください


 友人が電話をかけてきた。
 「面白い回転寿司があるんだがいかないか、ただし、今度の土曜日の七時だ」
 「いいよ」
 私はなにも聞かないで返事をした。回転寿司屋なら高いわけはないし、友人のあの食いしん坊がいこうというのだから美味しいのだろう。
 「ちょっと遠いがいいかい」
 「どこだい」
 「高尾山だ」
 「高尾山にそんな店があるのかい」
 「ああ、人に紹介されてな、一見さんお断りなんだ」
 「回転寿司で一見さんお断りというのは珍しいな」
 「そうだろう、俺もはじめて聞いたんだ、偶然、新宿の飲み屋で一緒になったじいさんが知っていてな、しかも、その常連で、紹介してくれたってわけさ」
 ということで、土曜日、新宿の京王線改札口で彼と落ち合った。
 彼はいつものように、大きな体を揺らして予定の時間を十分過ぎて現れた。
 「よー、遅れてすまん」
 「はは、いつものことだ、ところで、なんて言う店だ」
 「幻(げん)茸(じ)」っていうんだ。
 「回転寿司なのに、どうして一見さんお断りなんだろう」
 「味の判る人が食べると、もう病みつきになるそうだ、一週間に一度は食べなきゃならなくなるそうだよ、そこの主人が、味の判る人だけに来て欲しいといっているそうだ、それで、常連がこれはと思う人だったら、紹介で受けるということにしたようだよ」
 「その、新宿で会った人は、おまえを通だと思ったわけだ」
 「へへ、そうだ、まあ、食べるのが好きだし、すこしは判るつもりだがな」
 「いや、そんな意味で言ったんじゃないんだ、その人の目が大したものだと言いたかったんだ、ただがっついて食べているのではないと言うことがわかったんだからな」
 「何とも、褒められているのか、貶されているのかわからんけど、きっと悪くないのだろう」
 「そうだよ、でも俺が行ってもいいのかな」
 「一人連れていっていいそうだ、それに、おまえさんいつもグルメグルメって言ってるじゃないか」
「いや、そんなに自信があるわけではない」
 「ま、今日はもう紹介してもらったわけだし、堂々と行こうよ」
 「うん」
 高尾山まで、電車に揺られながら、回転寿司の旨い店について話し合った。回転寿司でもずいぶん上等なネタを使う店がある。寿司が回転もしているが、半分は注文で握っているような店が多くなった。近頃は、椅子の前に液晶パネルがあり、食べたい寿司にタッチすると、目の前に寿司が現れて止まるという近代的なものもあるが、なんだか味気ない。回転寿司がでた頃は物珍しさとある意味での気楽さからよく行ったが、最近はあまりいかなくなった。普通に握ってくれる店でも、結構安くて旨い店があることを知ったからだ。それにしても会員制に近い回転寿司屋とは想像がつかない。
 「その幻茸はどんなネタがいいんだい」
 「それが、彼はそこを教えてくれなかった。ただ旨い、としか言わなかった」
 「ふーん」
 特急の高尾山口行きに乗ったのであまり時間がかからなかった。
 「店は歩いていけるのかい」
 「場所は知らんが、タクシーに店の名前を言えば連れてってくれるそうだ」
 高尾山口にはタクシーはあまりない。案の定一台も止まっていなかった。
 タクシーを待っていると、茶色の車が駅の前に横付けされた。かなり旧式なサニーである。ドアに「幻茸」と書かれている。運転席からすらっとした髪の長いきれいな女性が降りてきた。女性はすたすたと我々の前にくると、
 「幻茸でございます、お待ちしておりました」と頭を下げた。
 「どうぞお乗りください」車を指さした。
 「あ、あの、我々のことをご存じで」
 「はい、今日はお越し下さいまして有難うございます」
 女性は大きな目で我々を見た。友人などはぽーっとなっている。
 我々はそういうことで、旧式のサニーに乗った。古い型だが、座席が皮でできていた。特注の車だ。
 「これから山道を登ります。ほんの十五分ほどで着きますので、ご辛抱願います」
 女性はなめらかに車をスタートさせた。
 甲州街道を少し行くと山の中に入っていく道があった。大きな墓地の脇を上っていくと、林の中になり、やがて一軒の家が見えてきた。
 農家風の茅葺きの建物である。
 サニーはその家の前で止まった。入り口は障子戸になっており、明かりが漏れている。店の名前もなにも書かれていない。
 車を降りると、女性が「どうぞ」と先にたって、障子戸を開いてくれた。中に入ると十畳ほどの部屋の真ん中に四角に仕切った周りにカウンターがあった。四方にそれぞれ2つの椅子が用意されている。
 中で寿司を握るのだろうか。だが、どこにも回転寿司の仕掛けがない。
 女性が進めてくれた椅子に座って、カウンターの中を見た。何もない。
 「飲み物はなににいたしましょう」
 友人は「ビール」と答えた。どこのビールともなにも聞かない。寿司にしてもなにも聞いてこない。それを察したかのように、女性は、
 「お寿司は、お任せになっております。もうすぐ、主人が参ります。ちょっとお待ちください、今日はお二方のみですので、どうぞおくつろぎください」
 と奥の部屋に入って行った。
しばらくすると、もんぺ姿になった女性が、陶製のコップに入ったビールとお通しを持って現れた。
 このビールはうちで造っているものでございます。幻茸ビールと申します。この作り方は、神世の時代より伝わっているものでございます。お通しは一夜茸の味噌づけでございます」
 女性はそういうと、ビールとお通しを我々の前に置いてさがった。
 早速、友人と乾杯し、これから始まると思われるなにかしらに期待した。
 「こりゃうまいビールだな」
 「ああ、今まで飲んだ地ビールの中で一番味がいい」 
 「だが、奇妙だな、何で回転寿司なんだ、回転の台がないじゃないか」
 「うん、そうだな」
 一夜茸の味噌づけを口に運んだ。
 「これも旨いな」
 「うん」
 といっていると、カウンターの中に椅子に腰掛けた老人がせせり上がってきた。まさに、歌舞伎の競り上がりである。
  白髪の長髪を後ろで一本に束ね、頬はこけているが、鋭い目が我々を見た。やはりもんぺ姿である。
 「お客人、よくこられた。これから、順に握りますで、楽しんでくだされ、日本酒もここのがございますので、お試しくだされ、飲み物は後ろに控えている赤にお申しつのほどを」
 後ろを振り向くと、先ほどの女性が、後ろの椅子に腰掛けていた。ついでに、
 「その、お酒もお願いします」というと
 「はい、すぐに」
 と、銚子と大振りの猪口がでてきた。
 カウンターでは、老人が、ガリを我々の前に盛ると、ささっと握り、
 「最初の握りでございます」
 と、我々の前に赤身の握りを二巻ずつおいた。
 「赤茸にございます」
 小皿に入った醤油もおかれた。
 「醤油も私どもで作ったもので、幻茸醤油でございます」
 私は、握りを手に取り、醤油を少しつけ、口に入れた。いいしゃりを使っている。これはなんであろう、じゅうっと舌でとろけるような旨さがある」
 「これはなに鮪でしょうか」
 老人は表をかえるでもなく、くるりと椅子ごと回転して、足下にあるものを取り出した。またこちらを向くと、
 「赤茸でございます、ここでも採ることができます」
 「茸ですか」
 「へえ、ここは茸の回転寿司屋でございます」
 「とてもおいしい、茸とは思えない」
 「なぜ回転寿司というのですか」 
 「ははは、儂が回りますのじゃ」
 老人は椅子を回転させた。お客は八名様まで、今日はお一組だが、四組の時には、儂が次々に握りますのでくるくる回ります」
 老人は笑った。確かに回転寿司である。
 面白い、ともかく茸を握る寿司屋である。
 老人は鳥貝のようなものを握って出してきた。これも醤油をちょっとつけて一口で食べた。
 歯ごたえがあり、しかしさっぱりしていて、とても茸の味ではない、本当に貝のようだ。
 「何の茸ですか、本当にうまい」
 「これは、信じられんでしょうが、椎茸なんですわ、ただ、内の裏においてある、柘榴のほだぎで育てました」
 「ほほう、なぜ柘榴がいいんでしょうか」
 「柘榴は人の味、とり貝をかんだ感触は人の皮膚をかんだ感触、ザクロで育った椎茸は、柔らかく、だがなかなか噛みきれずくにゃくにゃとなり、そのうえに、柘榴の実のパックリと赤く割れた肉の感触と味が育つようですな。その上で、儂の味付けということですわ」
 すごいものである。
 ガリを摘んでみた。ただのガリとは違う。さくっとした歯ごたえはちょっと足りないが、味はふつうのショウガではない。老人はわれわれの考えていることがわったのであろう、
 「それは、訟露をスライスして酢づけにしたものでな、酢はトリュフを発酵させて作ったんじゃ」
 「ふーむ、すごい、トリュフそのものも握ったらいい寿司はできませんか」
 「だめだね、ありゃ駄茸だ、酢にするにゃよかったがな」
 友人はなにも言わずに食べている。そういうときはとても満足しているときである。
 「さ、これはどうでしょうな」
 我々の目の前には今度は茸とわかるものが握られてでてきた。
 「これは網笠茸ですね」
 「その通りですじゃ、これは旨い茸で、ヨーロッパでは好まれるみたいですな」
 「ええ、私も仕事でフランスに行ったときに、乾燥したものを買ってきました」
 「儂は、春に全国を歩いて、育ちのいい網笠茸を採りますじゃ、それを冷凍にしておく、春ならそのままだしますがな」
 網笠茸はシチュウなどの洋風の料理に向いているがどのような寿司に仕上がっているのだろう。
 私は期待して、醤油を少しつけると口に入れた。
 「あ」
 「あっ」
 私も彼も思わず言葉が漏れた。網笠茸を口に入れたとたん、とろりと舌の上で溶け、ご飯粒の間に広がっていった。トロである、しかも中トロと大トロのあいだといったところで、脂肪臭さのない、もっとも上等なトロの味である。
 「まさにトロです、中トロか、大トロか」
 「旨いでござんしょう、網笠茸を、トロトロと煮込むのですわ、なにで煮込むかは企業秘密ですな」
 老人は椅子を回転させると脇の下の方から茸らしきものを取り出し、包丁を入れて、握った。塩を軽く振ると、私たちの前に酢(す)橘(だち)と共に置いた。
 「これは松茸です、酢橘をかけてお召し上がりのほどを」
 酢橘をしぼった。口に入れた。松茸の香りがするが味は秋刀魚だった。なんと旨い秋刀魚だ
 ビールが進む。友人は日本酒を何回もおかわりしている。
 「箸休めにどうぞ」と、老人は我我の前に、ふんわりとした卵焼きをおいた。これは茸ではないだろう。
 口に入れてみた。卵の味であったが、匂いは違っていた。
 「これも茸」
 友人は一気に口に入れた。
 甘すぎず、堅すぎもせず、柔らかすぎもせず、おいしい卵焼きである。
 「それは、八種類の茸をすりつぶして作ったもので、卵は使っておりませんですわ」
 老人は手を休めている。
 「この味がでるまで、何種類もの茸を組み合わせて作りましてな、ずいぶん苦労しましたわ」
 女性がお茶を運んできた。
 「卵焼の後は、ちょっとお茶をお召し上がりを」
 わたしは、出されたお茶をすすった。上等な抹茶だった。卵焼きの後にとてもあう。
 「おいしいお茶ですね、どこのお茶ですか」
 私が尋ねねると、老人ではなく、女性が答えた。
 「ここでとれたのですわ、私が摘んで、発酵させて、乾燥し、作ったものです」
 「どこのお茶の木でしょう」
 「いえ、お茶ではありません、万年茸の若いものを採って発酵させたのです」
 「これも、茸、信じられない」
 私たちは顔を見合わせた。
 「このお茶は家内の赤しか作ることができませんのじゃ」
 女性がほほえんだ。あの女性がこの老人の奥さんか、私は声には出さなかったが、友人とまた顔を見合わせた。入ってきた時、確かにすぐに主人が来るといった。しかし、店の主人だと思っていたのである。
 「さて、次にいきましょうかな」
 老人は白い茸を握って前に置いた。一見鯛である。
 「塩と酢がかけてありますので、そのままでお召し上がりを」
 口にもっていくと、まさに鯛である。
 「このお酒を召し上がりください」
 赤が、暖めた二合徳利をもってきた。
 「サービスでございます、古代の茸を生やすことができました。化石の中に胞子がふくまれておりまして、水に漬けておきましたら生えたのでございます。その胞子は化石の中で生きていたのです。その茸を発酵させて作りました」
 白いお猪口が配られ、女性が次いでくれると、真っ赤な透明の酒が満たされた。
 一口飲んでみたところ、辛口の上等すぎるほどの酒であった。
 「うまい」
 「さ、これもどうぞ」
 老人が寿司二人の前にをおいた。真っ赤なものが握られている。口に運ぶと、どこかで食べたことのある魚の味がした。さっぱりしているが、脂がのっている。
 友人が「金目だ」とうなった。
 「そうですな、さすがに食べることのお好きな御仁だ、金目茸と名付けましてな」
 主人は次の握りをだした。
 「さ、これもどうぞ」
 だいだい色の茸が握られてきた。どんな魚の味かするのかと、期待して口に入れると、蛸であった。
 「玉子茸を少し干して、火を通して、発酵させ、るとこうなりますじゃ」
 本当に珍しい、それだけではなく、美味い。
 その後は、紫かかったものがでてきた。
 「お次はちょっと、おわかりにならないでしょうな」
 刺身状に切られたものが篠焼きの皿の上に乗せられている。老人は
 「へい、握りのほうもどうぞ」
 と皿に乗っているのと同じものを握って我々の前に置いた。
 「醤油をつけてお召し上がりを、刺身は生姜がよいと思われますな」
 ということで、まず、刺身をつまんだ。
 「お、鯨だ」
 友人が声を上げた
 私も食べてみたが、確かに鯨である。古代茸の酒に合う。寿司も食べた。かなりうまい。鯨もあまり堅くなくトロっぽい鯨だ。
 「これも茸ですか」
 「へえ、肝臓茸といいまして、外国じゃよく食べるようですが、日本では食べませんね」
 それが鯨になるとはおもしろい。ともかくどの茸も味が良く、酒、ビール申し分なしである。
 次に軍艦巻きにした一見いくらである。海苔までは茸ではあるまい。
 しかし、食べてみると、海苔の匂いはあまりないが、味が海苔の味である。そして、いくらの味だ。
 「これも想像がつきませんね」
 「いくらはキクラゲを刻んで、玉子茸から染み出した赤橙色の液につけ、海苔は榎茸をのして、重ねて押しつけて、黒棒という茸を混ぜまして、板海苔状にしたものです。海苔の香りはしませんが味は似たものです。
 「次はちょっと面白い美味しい握りです」
 老人は三種類の握りを我々の前にそれぞれに置いた。
 「その真ん中の刺身を手で囲ってみてくださいな、こうやって」老人は両手で寿司を囲み覗いて見ろと言った。要するに暗くしてみろということらしい。友人も私もいわれた通りにやってみた。あまりはっきりしない。
 「赤、電気消しておくれ」
 「あい」 
 彼女が電気を消した。真っ暗になると、真ん中の寿司ネタが青白く光った。
 「おわかりかな、召し上がれ」
 端から食べてみた。どれも河豚のようだ
 「河豚ということはわかったがおまえどうだ」
 私が友達に聞くと、
 「左端はトラフグ、真ん中はわかんないが、右は小波(さざなみ)河豚」
 友人はよくわかっている。
 「よくおわかりのようですな、真ん中は普通食べませんな、小さいし、北枕という猛毒な河豚です」
 「え、食べちゃった」
 私が言うと、友人は、
 「一番うまかったのが真ん中だ、茸だから安心しろよ」
と私を慰めた。
 「そうですな、左から毒紅茸、月夜茸、笑い茸から作ったのですよ」
「ほら、茸だ、大丈夫だよ」
「だけど、それみんな猛毒じゃないですか」茸のことは私の方が詳しいようだ、月夜茸は青白く光る、だから光ったんだ。
 「そうですな」
 それを聴くと、今度は友人が驚いた。それを察して、老人は、
 「河豚と同じで、儂も毒キノコの調理の免許を持っている」と言った。
 「ほ、一安心ですな、それにしてもよくできています。河豚を食べているのとかわりがない」
 「次はこれです」
 でてきたのは、刺身だった、二種類の魚が乗っている。白身の魚と、一つはよくわからない。食べてみると白身の魚はキスのようでもある。もう一つは貝の仲間だろうか。
 「なんです」
 「魚の方は衣笠茸から作りましてな、貝のようなものはスッポン茸から作りました」
 なるほど、スッポンだったのだ。
 さて、最後になりますが、何か食べたいキノコがおありですかな」
 「私は舞茸けにしましょう」私は言った。彼は占地にするといった。あまり茸の種類を知らないから、スーパーで売っているものの名前しか出てこない。
 舞茸のにぎりは味の深みのある魚の味がした。何の味だろうと考えていると、老人が
 「八角、といって深海魚ですわ、食べたことはありませんでしょうな」
 「ええ」
 「こちらは何でしょう」
 友人が聴いた。
 「それも深海魚で、竜宮の使いですわ」
 「旨いね」
 「そうでしょう、では最後になります、その前にお勘定をいただきますが、その方がゆっくり味わうことができますでな」
 「そうですね」
 ちょっと変わっているが、いくらか聴いた。
 「一万八千いただきます」
 私がとりあえず四万円を女性に渡した。
 「いえ、お二人で」ということで二万二千円もどってきた。
 「ずいぶんお安いのですね」 
 「まあ、趣味でやっております」
 ご王人が、薄黄色、薄緑色、薄赤色のの魚の三つの握りをそれぞれのまえにおいた。
 「左から順にどうぞ。塩が振ってありますのでな、そのままお召し上がりください」
 冷たいビールもでてきた。
 友人と私は順番に口に入れた。さっぱりした魚の味に二番目は少し舌がしびれるような味が加わり、最後の握りを口に含むと、ふーと気持ちよくなってきた。 
 それっきりである。

 回転寿司の赤と呼ばれた女性が老人に声をかけた。
 「ジイ、今日もご苦労様でした、なかなか、味のわかる客でしたね」
 「そうですな、特に、太った方はよい舌をもっていますな」
 「ええ、さて、女郎蜘蛛の姉さんと、鬼蜘蛛の兄さんを呼びましょうか」
 「そうですな、おーい、蜘蛛たち、赤姫様がお呼びだよ」
 と、女郎蜘蛛と鬼蜘蛛が、一族をひきつれてやってきた。
 「へい、頂に参りました、ジイの握った茸を食べた人間の体液といったらたまらなくうまい」
 鬼蜘蛛の兄いが言った
 「赤姫さんも毎日よく働くね」
 「はい、楽しくてしょうがないのです」
 「それでは、胞子をここにおいておきます」
 「へい、そいじゃ、みんな、この胞子を口にいれろ」
 蜘蛛たちは胞子の入った器に口をつっこみ胞子ふくんだ
「そいじゃ、あっしらは、この人間の体液のごちそうになります」
 鬼蜘蛛と女郎蜘蛛の一族は友人と私の服の中に入り込み、かみついて体液を吸った。
 「美味いね」
 「ほんと」
 「幻茸寿司を食べた人間の体液はたまらないね」
 「だけど、こいつは図体が大きいのにふぐりは小さいわね」
 「おい、おまえどここに潜り込んだんだ」
 鬼蜘蛛の兄いが女郎蜘蛛に聞くと、
 「いやさズボンの裾から入っちまったらここに来ちまったのさ」
 「ばか、汚ねえところに入るんじゃない」
 といいながら、蜘蛛たちは腹一杯吸った、そのついでに、茸の胞子も友人と私の体に植え付けたのである。
 しばらくすると、蜘蛛たちはわれわれの体からでてきた。
 「姫さん、爺、ごちそうさま、また明日もたのみますね、別の連中を連れて来る」
 「そうじゃな、胞子を用意しとくよ」
 
 壊れそうな古い屋敷に、背広姿の二人がいびきをかいて寝ている。その周りに赤鼠と年とった大黒鼠がチョロチョロと周りを片づけていた。
 赤姫が言った。
 「黒ネズミの兵隊たちお願いしますよ」
 天井裏から、黒ネズミの兵隊たちがたくさんおりてきて、二人の人間を持ち上げた。
 「そうだね、今日は、地蔵の脇に捨てておいで」
 「はい」
 蜘蛛たちが吸ったくらいじゃ人間の体液が無くなる訳はない、蚊に刺された程度のかゆみは残るだろう。
 黒ネズミたちは我々の体を持ち上げたまま、外にでて言われたところに、捨てた。
 酔っぱらいが二人、地蔵の脇で寝ている。
 
 あの二人は、寿命がつきるとき、茸を生み出すだろう、赤鼠の赤姫は、あやかしの頭領として、そして、幻茸一族を守る役割をになっている。幻茸一族が絶えないように守っているのである。
 赤姫とじいは今の世にも生きている。

 (この話は幻茸城の今である-幻茸城:第一茸小説(連続小説))
 

『茸寿司』

『茸寿司』 草片文庫(くさびらぶんこ) 作

茸を握る寿司屋。その主人の正体は

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-12-07
Copyrighted

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