TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』(H31執筆)

ごぼうかえる 作

TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』(H31執筆)
  1. 一話
  2. 二話
  3. 三話
  4. 四話

短編で12話で終わります。
お人形ランド!という盛り上がりがないレジャー施設があった。文字通り人形を展示しているだけの工夫もなにもない寂しい施設。そこで人間達は鳥居を建てて神様を祭りレジャー施設の活性化を試みた!縁結びの神、ブンバボンバだよ!という看板を建てたら本当に縁結びの神様が住みはじめた!その人間には見えない神様と九十九神化したドール達のドタバタなコメディ。
人間達の信仰を集め、お人形ランド!の活性化を頑張るよ。主にドールが。

他の短編や長編などで出てきた登場人物もいますがこの短編から読んでも大丈夫です。
関連性とか気になったら他の短編もどうぞ!

一話

『お人形ランド!』
そういう名前の少女向けエンタメ施設があった。
「くそ……経営不振だ!なにがいけない?イケイケでキラキラな女の子に寄り添ったお人形の国だぞ!」
この『お人形ランド!』を作った中年の男性社長は頭を悩ませていた。社員を社長室に集めて傾く会社をもとに戻そうと絶賛会議中だ。
「社長、もっと少女に寄り添ってください。ドールの展示だけだとオカルト人形館のようで少女は来ませんよ」
「少女の気持ちがわからない……」
女性社員に社長はうなだれながら答えた。ちなみに従業員は三人しかいない寂しいレジャー施設である。
頭を抱えているとなんとなくつけていたテレビからひときわ楽しそうな番組が流れた。
『ブンバボーレ・アミーという神様はこの民族にはとても大切な神様です。ブンバボーレ・アミーに感謝するためいつもお祭りを開催中!陽気な民族を取材!』
楽しい楽曲とともにどこかの民族が愉快に踊っている。
「あ……」
社長含め社員三人は同時に声をあげた。
「これだ!!!」


※※

「なーにが『これだ!!』だよ」
『お人形ランド!』の展示物を抜けた先で謎の鳥居が建っていた。ひとりの青年が鳥居に背を預けながら悪態をついた。
青年の風貌は明らかにゆめかわなこの施設とはかけ離れている。
「俺はこんなてきとーな人間の祈りから生まれてしまったのか!ちきしょー!!」
どこか南の島の神様にいそうな格好をしている青年はうなだれながら叫んだ。
鳥居横にかわいいポップな看板。
そこには『お人形ランド!の守り神!ブンバボンバだよ!皆よろしくね!ちなみに縁結びだよ!気になる子の恋愛を占っちゃお!おみくじはこちら!』
と書いてある。
「俺はロックな方面にいきたかった!なんだよ!ぶんばぼんばって意味わかんねーよ!鳥居のイメージとかけ離れてるし、もっとこう……大和な神の名前が良かったよ!うえーん」
ちなみにこんなに叫んでいるのにまばらにいるお客さんは見向きもしない。
彼は神だ。神は通常人間の目には映らない。
しかし、人間の祈りで神は簡単に出現する。つまり、彼は客を呼び込むために従業員、社長から祈られた欲まみれな神様なのだった。
「あーあ。なんでどっかの神様のパクりみたいな風貌なんだろね。しかも少女向けゆめかわ施設なら女神を想像しろよ。なんでたまたまテレビに映った民族の男のイメージなんだよ」
男の文句は終わらない。
神は人間のイメージのまま生まれる。ここに鳥居を建て人間達が神の風貌をイメージした時からそこに神は現れる。
そして知っている者がいなくなれば神は消えるのだ。
彼は従業員と社長の経営回復の祈りから造られ生まれた神様だった。かなり邪である。
だが、人間達に悪気はない。本当に助けてほしかったのだ。
ならば守り神としてやることはここに最強の神がいることを知らしめて信仰を増やすことなのだ。
それでお客さんを増やす。
「なんだけどなあー。変な効果がプラスされてやがる……。なんで突然縁結びにしたのかわからん。縁結びなんてやったことないぞ……」
「ブンバボンバ様、本日の書類でございます」
「あ……」
目線を声のした方に向けると手のひらサイズのかわいらしい三つあみの少女人形が大量のデータ情報を男、ブンバボンバの頭に流していた。
少女人形はメイドさんの格好をしており、名前を宮子さんと言う。
文字通り彼のメイドさんであった。
「というか秘書だな。あんたは」
「しっかり目を通しておいてくださいね。大量のデータを送りましたから」
宮子さんはブンバボンバの言葉を軽く流すと神社内の掃除を始めた。神社といっても従業員達がプラスチックやら段ボールやらで作った小屋があるだけだ。
後、木を組み合わせ従業員がショッキングピンクに塗った鳥居。
「はあー……意外におみくじ作戦は成功ってか?最近は女の子が増えた気がするな」
「増えてくれないと困ります。私達、人形も人間の心を映す鏡であり拠り所なのです」
宮子さんは雑巾かけをしながら鼻息荒く頷いた。
「しかし、こんなに叶えられるかよ……。俺は正当に生まれてないから神力はそんなにないし……。あ!そーだ!!おい、宮子さん、叶えられそうなやつはあんたらドール達がやってくれないか?」
ブンバボンバは手を合わせて宮子さんに頭を下げた。
「神様が人形に祈るとはどういう心境なんでしょうか……。花子さんに見られていたら笑われてましたよ」
宮子さんが呆れた声をあげた時、突然笑い声が聞こえた。
「あっはははー!おもしろいわ!さいっこう!!」
「見られていたな……はあ……」
ブンバボンバがため息をつくと宮子さんと同じくらいの大きさの金髪蒼眼の少女が大笑いしながら鳥居の影から顔を出した。
「花子さん、ブンバボンバ様がお困りのようですが……」
「もうそのブンバボンバがウケる!変な名前!ブンちゃんでいいよね?」
花子さんは勝手に彼をブンちゃんと命名した。
「なんでもいいが……お願いだからこの半分の処理をしてくれ。頼む!もうこの際だからお前らの他に雪子とか桜子とか友達のきぅ、りぅ、じぅだとか誰でもいい。ドールを総動員してなんとかするんだ!いいな!」
「他の神には頼らないの?縁結びなら他の縁結びの神に頼るとかは?」
花子さんの発言にブンバボンバ、ブンちゃんは頭を抱えた。
「プライドが許さない。絶対バカにされる……。ブンバボンバ之神とかカッコよく言ってもカッコ良くないもん……」
ブンちゃんはしゅんと顔を曇らせると膝小僧を抱えて隅っこに行ってしまった。
「あちゃー……こりゃけっこう重症だわね」
「わかりました。私達で解決を目指します。ブンバボンバ様は難しい信仰の処理をお願いします」
呆れた花子さんの声に被せるように宮子さんが了承した。
「おう。それでも俺、がんばる……」
ブンちゃんは半泣きで頷くと社内の霊的空間に帰っていった。
一応、社内は霊的空間が開けた。人間から見ると普通の小屋だが神が開くと生活居住区域になる。
ブンちゃんの部屋は畳のワンルーム、キッチン付きであった。
「ブンバボンバ様に代わり私達ドールがなんとかしましょう。皆を集めてください」
宮子さんは花子さんにため息混じりに命じた。
「はーい。じゃあとりあえず集めるね」
花子さんは楽しそうに返事をした。

霊的空間内、ブンちゃんの神社内。畳にちゃぶ台がちょこんとある部屋でブンちゃんは頭を抱えていた。
「ブン様、カムハカリには行きますかぁ?十月のやつー。縁結びじゃん?」
ちゃぶ台に手のひらサイズの銀髪のお人形がひとり。耳あたりから髪を伸ばしている。ちょうど連獅子の髪のようだ。着物を着ているため余計にそう見える。
きょとんとした男の子の人形だ。
「あー?行かねーよ。ありゃあ日本神話にガッツリ入り込んでる神が行くんだろ?俺達みたいな神は関係ないさ……たぶん」
「そんなこと言って行きたくないんでしょー?」
銀髪の人形はちゃぶ台で緑茶を飲むブンちゃんをイタズラっぽい顔で見据えた。
「喧嘩売ってんのか?ロク!だいたい今は冬だ!十月はとうに過ぎたんだよ。あれ?お前、兄貴のイチはどうした?」
ブンちゃんは緑茶を乱暴に飲み干した後、ロクの対になっていたドール、イチがいないことに気がついた。
「兄貴は宮子さんに召集されてたよ?」
「お前も行けよ……」
平然とちゃぶ台に座っているロクにブンちゃんはため息をついた。
「あー、ブン様、僕、お茶飲みたい。ミニチュア家具の茶器取ってきてよ」
「俺はこれから忙しいんだよ!自分でなんとかしてくれー!」
呑気なロクにブンちゃんは悲痛な叫びと共にちゃぶ台に突っ伏した。
ちなみにここに出入りしている動くドール達は『お人形ランド!』の展示品ではなく、どこかから勝手に遊びに来ている魂宿った九十九(つくも)神的なドール達である。
人間の心に深く作用し神格化したものだと思われる。
ブンちゃんにとっては助け船でもあり厄介者でもあった。

※※

一方社外では宮子さんがドール達を召集中であった。
「皆集まりましたか?」
「おーい!ロクがいねーぞ!」
宮子さんの言葉に真っ先に反応したのはロクの対になっているイチである。イチは短く切った銀髪と羽織袴が特徴的なドールでロクと並べると良い感じにまとまる。ただし口が悪い。
「え?弟さんいらっしゃらない?先ほど言葉を交わしましたけど」
「いねーよ。のんびり茶でも飲んでんじゃねーの?」
イチが頭を抱えた時、社内からブンちゃんが疲れた顔を出した。
「イチ、忘れてんぞ……こいつ」
ブンちゃんの指で着物の襟首を摘ままれているロクがニコニコ笑顔を向けながらぶら下がっていた。
「おー、兄貴ー、今茶を飲むとこでー」
「ほらな」
イチはロクの言葉を最後まで聞く前に宮子さんに得意気な顔を向けた。
「と、とにかくブンバボンバ様をお助けするために厄除けの方面のお手伝いを……」
「待て待て!縁結びじゃないのか!厄除けなんてあったか?」
ブンちゃんが焦った声で宮子さんに尋ねた。
「効果が従業員によって付け加えられたようです。こちらの書類を……」
「うわあ……もう見る気も失せる……」
宮子さんが差し出した大量のデータファイルにブンちゃんは自分の通信をOFFにした。神々達はテレパシーでデータ情報の交換をする事もある。
文字通り通信をOFFにしたのだ。
「ブンバボンバ様、これでは送れません」
「送るな!送らなくていいわっ!もうじゃあそっちなんとかして!!」
ブンちゃんは半泣きのまま社内に引っ込んで行った。
「と、いうことで、人々の厄を取っていきましょう!届いた情報の中で住所を教えてくれた人間から行くのが簡単かもしれません。夢や霊魂の世界『弐』に入り対象の人間の心に入り込む、そして厄の根本を叩いてください!」
「おお!なんか面白そー!!」
宮子さんの宣言にドール達は嬉々とした声をあげた。
「えーと……まずは……このお年玉の子供の厄を……」
宮子さんがもごもごとデータを見ながらつぶやく。データはパソコンもないのに目の前に写し出されている。
「お年玉の厄って何よ?」
花子さんが半分笑いながら尋ねた。
「お年玉がもらえなかったからお年玉くださいと願いに来た子供の気持ちが沈んで厄になったみたいですね」
「はあ?ちっさいわね。そんなんで厄になるわけ?」
「相当ショックだったみたいですね。夢の世界の方で、もやもやと大きくなってるみたいです」
宮子さんと花子さんが話していると黒い髪を短く切り揃えた少女人形桜子さんが話に入ってきた。
「宮子と花子ふたりで行くの?私も入れてよ!三人一組にしない?」
白いベレー帽を被り直して赤いドレスをなびかせた桜子さんは宮子さんと花子さんの間に入り込んできた。
「三人一組ですか。それはいいですね。他のドールも人数が合います」
「桜子!さっさと行きましょ!腕がなるわ!!」
花子さんはやる気満々で宮子さんと桜子さんを引っ張った。
「ああ!待ってください!では夢の世界へ行きましょう」
宮子さんは慌てて手を広げた。
手を広げた刹那、モヤモヤとモザイクがかかったような空間が出現した。
他のドールも同様にチームを作り同じ空間を作っている。
「あ!そうだわ!これ作らなきゃね!」
この空間は夢の世界や霊魂の世界とくくられる事が多い弐の世界である。
現世を壱の世界と呼ぶためこちらの世界を弐と呼ぶようになったのか。理由はわからないが想像物や妄想物なんかは楽々と弐の世界に入り込める。つまり、動く人形は弐の世界のものと言っても良い。
故に彼女達は弐の世界をこうも簡単に出せ、抵抗なく中に入れる。
「では、この子供の夢の中へ」
宮子さんが軽く息を吐くと花子さんと桜子さんも足を空間へ向けた。
「せーのっ!」
花子さんがふたりの手を掴み空間へ飛び込んだ。
世界が反転し、気がつくとロボットが沢山うごめいている機械的空間に宮子さん達は立っていた。
「おー!機械だ!かっこいー!男の子なの?その子は」
桜子さんが目を輝かせながらメタリックなドラゴンが羽ばたいていくのを見つめる。
「はい。男の子ですね。お姉さんと『お人形ランド!』に遊びに来た時にブン様の神社で手を合わせたようです」
宮子さんがデータでもう一度確認した。
「なんでお年玉もらえなかったのかしらね?」
花子さんがメタリックな建物を眺めながらため息をついた。
「それを解明しなければ厄を消せませんね……ん?」
宮子さんが辺りを見回していると巨大なドラゴンがこちらに飛んできていた。金属でできており、あちこちに歯車が見える。どこかのアニメの影響だろうかやたらとかっこいい。だが、敵意をむき出しにしているのでヒーローではなさそうだ。
「あいつ、襲ってくるよ!」
桜子さんの叫びに宮子さん、花子さんはすばやく手から魔法の杖を出現させた。この世界は弐の世界なのでなんでもありの夢の世界だ。
「あのドラゴンが少年のアバターだわよ。たぶん」
「では、聞き出しましょう!戦いつつですが……」
杖を構えた三人はドラゴンが吹いた炎を結界のようなシールドで防いだ。
「どうやるの!?」
「話しかけましょう!相手は当たり前ですが相当怒っています!」
桜子さんに宮子さんは必死に答えた。
『ウガー!!なんでお年玉ないんだよ!!じぃちゃん、ばぁちゃんちにいけないなんてありえねーし!』
少年の声のドラゴンがご丁寧に話してくれた。
「ああー……祖父母のお宅に行けなかったのですか……」
「おじいちゃん達はお年玉じゃないわよ!!」
花子さんがドラゴンに向かって怒鳴りつつ電撃の魔法を放ってみた。しかし、飛んでいった電撃の玉はドラゴンにさっと吸収されてしまった。
「あ……吸い込まれた!!じゃあ次は……」
「待ってください、まだなんか話してます」
杖を構えた花子さんを宮子さんが止め、ドラゴンを指差した。
ドラゴンはボソボソとなんか言っていた。
『わかってるよー!雪でじぃちゃんちに行けなかったんだ!じぃちゃん達に会いたかった!』
ドラゴンは暴れて再び火を吹き始めた。
「祖父母に会いたかっただけのようですが、大雪で行けなかったみたいですね」
宮子さんはシールドで炎を抑えながら残りのふたりに説明した。
「とにかく攻撃をやめてもらう!」
桜子さんは水流を杖から発してドラゴンに攻撃した。
「電気がダメで炎を使うなら水に弱いっしょ!少し大人しくさせたる!サビにも弱いはずだし」
水流はドラゴンの腹部を直撃した。機械ドラゴンの動きがゆっくりになった。
と同時に黒いモヤが水蒸気のようにのぼり、煙のように消えていった。
「あ!厄が出た!」
「あの厄は厄除けの神が処理するとして……少し怒りが飛んだでしょうか……」
三人が見守っていると少年と思われるドラゴンがゆっくりうなだれた。
『皆でワイワイする正月が良かったのに……最後にお年玉もらってじいちゃん、ばぁちゃんと一緒にオモチャ買いにいく予定だったのに……なんでかわりに人形見に行かなきゃならないんだ!』
少年の怒りに宮子さん達は「あれ?」となった。
「なんか怒りが私達に向いてません?」
「なんか違う怒りになったわね……」
「でもこれは好機!だってブンちゃんの神社は縁結び!お人形ランドに来たからお年玉も祖父母にも会えたってシナリオにしたらいいっしょ!」
桜子さんの言葉に宮子さん、花子さんも「おー!」と拍手をした。
「とりあえず怒りの根元と厄が出ていったので後は結びつけるだけですね。戻りましょうか」
宮子さんは軽く微笑むとモザイク空間を再び出し、さっさと空間に足を入れた。
あっけなく壱の世界、現世に戻り
なんにも変わっていない「お人形ランド!」の鳥居前に帰ってきた。
目の前に建つブンちゃんの社前に立った三人はブンちゃんを呼んだ。
「ブン様!」
「ブンちゃん!」
「なーんだよ!忙しいっての!」
ブンちゃんはすぐに返事をしてきた。
「ブン様!縁結びのお仕事です!この少年の厄を払いましたのでお年玉とおじいちゃん、おばあちゃんがこちらに来るように縁を結んどいてください」
宮子さんがやや雑にデータをブンちゃんに送る。
「……わかったよー……。頑張るよー……だから縁結びなんてやったことがないんだよ……」
ブンちゃんは渋々納得した。
「これでひとまず私達の仕事は終わりました。今回はちょろかったですね」
「まあ、なんか荒い気もするけど……」
宮子さんに花子さんがため息混じりに呟いた。
「まだまだ沢山あるんだからこんなもんで次に行こうよー!」
桜子さんはやる気満々でにんまり笑った。

※※

朝、変な夢を見た。人形が自分の話を聞いてる夢だ。
あんなわけわからない人形が展示されている施設なんて行ったからだ。実際に少し不気味で怖かった。歩いて行ける場所にあるのは知ってたけど小三じゃあ行かないよ。しかし、あの人形にねぇちゃんは喜んでたな。
変な神社まであったし、俺はなんであんなわけわからん神社にお参りしたんだろうか?
しかもあれが初詣になってしまった……。
そもそも、雪が降らないこの地方で雪が降ったことが問題だ。雪が降らなければいつも通りのお正月だったんだ!
まあ、パパとママが雪道の運転ができなかったから仕方ないんだけど……。
でも……なんか……。
「まさゆきー!って、え?なんで泣いてんのよ?」
「うるせー!!ノックしろよ!!」
なんか三つ上のねぇちゃんが部屋に入ってきた。最悪だ。見られた……。
「じぃじ、ばぁばがうちに来たよ?」
「うるせーよ!!」
って……
ん?
「ねぇちゃん……今何て言った?」
「はあ?だからじぃじ、ばぁばが来たよ。正月遅れちゃったけど雪が溶けたからタクシーでうちに来たんだってさ」
「え!マジ!!ぃやったー!!」
こんなことがあるのか!!
喜びの間でお年玉に掠れて縁結びという文字が浮かんできた。
あ……。
まさか、あの神社でお参りしたから……。
嘘だ!
なんか気持ち悪っ!
まあ、なんだかんだ言って最高のずれた正月になった。
とりあえずあそこの神様にお礼言っとく。
「ありがと」

二話

二月。
今年はあまり寒くないが乾燥が激しいと思う。風は冷たいがひなたは暖かいという不思議な季節である。
人気のないエンタメ施設『お人形ランド!』はいつも通り閑散としているがなんだかちまちまお客さんが入っているようだ。
けっこう高価なお人形が飾ってあるからかマニアはニヨニヨ微笑みながら写真を撮っている。
「……SNSにあげろー……イ○スタにあげろー……」
従業員がお客さんを呼び込むべく施設内に思い付きで建てた神社に住み始めた神、ブンちゃんは写真を撮っているメガネの男性のそばで呪文のようにささやいていた。
ちなみにブンちゃんがどんだけ叫んでも声も聞こえないし姿も見えない。神は通常、人間には見えないのだ。
「ねー、それでいいわけー?」
近くで着物を着た小さな人形がクスクス笑っていた。
「『りぅ』か……。だってよ、今はネットだろ?」
「だからってさー、ここ少女向けの施設じゃーん。夢の施設じゃーん。そっち取り込みなよー。あの人、人形分解したり改造したりする方の人じゃん……。ほら、関節みてるー。……ねー、広める人はそっちじゃないと思うんだけどぉー」
着物の少女人形りぅはやれやれと呆れた顔をブンちゃんに向けていた。
「もうなんでもいいぜ!いねーじゃん!少女!どこいんだよ!少女!いますぐ来いよー!少女!」
「……なんか変態みたくなってますけど……?」
叫ぶブンちゃんを心配そうに眺めていたのはりぅと同じく着物を着た少女人形だった。
「あ、『きぅ』おねぇさまだわ……めんどくさい……」
りぅはあからさまに嫌な顔をしていた。
「りぅ、なぜブンちゃんは変態みたいな発言をしてるのですか?」
りぅの姉、きぅは不思議そうにりぅを見ていた。
「なんか……まあ、このレジャー施設を見ればわかるでしょ?」
「なんでしょう?」
「だから、少女が全然いないでしょ?少女を呼び込みたいんだってさー」
「だから変態じゃないですか?」
「ま、まあ変態と言えばそうっぽいけど」
「うるせーな!変態じゃねーよ!!さっきからなんだ!お前ら!」
きぅとりぅの会話にブンちゃんが割り込んで叫んだ。
「ブンちゃん。そういえば寒くないのですか?そんなコシミノ一枚で」
きぅが上半身裸のブンちゃんを不思議そうに眺めた。ブンちゃんがこんな格好をしている理由は従業員にある。この『お人形ランド!』の守り神を設定する時に皆が一斉に想像した神が南の島あたりにいそうな民族の男だった。
施設活性化のための話し合い時にテレビで民族特集がやっており、一同の目に映ったものが今のブンちゃんを形作っている。
「不思議と寒くないんだ。……これ、俺の着物なんかな……。って、嘘だ!!嫌だ!!これが霊的着物なんて俺は嫌だ!!」
神々の着物は人々が着る着物より軽く、機能的な着物であり霊的着物と呼ばれている。日本神ならば和服になるようだがブンちゃんは別のようだ。
「傷に塩ぬったんじゃない?お姉様……」
「うう……それはしみますね」
「いや、あんたの発言だけどね?」
斜め上に天然なきぅにりぅはため息をついた。
「ああ!それより、ブンちゃん、こんなお便りが届いてますよ?」
きぅは唐突に自分が来た理由を思い出したようだ。紙切れを一枚ブンちゃんに渡した。
「あ?なんだぁ?こりゃ」
ブンちゃんは唸りながら紙を受け取った。紙を見ると汚いひらがなで『お願い』が書いてあった。
内容は、
「……おねがい。
そろそろ『せつぶん』です。
おにさんがきませんように。
それと、びしゃもんてんさまにあわせてください。」
節分の事で子供が神社に参拝し、置き手紙まで用意したようだ。
汚い字に悪戦苦闘しながらなんとか読み終えたブンちゃんは頭を抱えた。
「突然毘沙門天!?鬼が来ないようにだけでよくねぇか!?あんな格式高い神呼べねぇよ!ませたガキだな!オイ!……だいたい人間には見えねーし、どんな願いをこんなメルヘンな神社にしてんだよ……。困るぜ……」
ブンちゃんはブツブツ文句を言った後、きぅとりぅに目を向ける。
「なんですか?」
「なんとかしろとか言うつもり?」
きぅは首を傾げていたがりぅはなんとなくわかったようだ。
「ご名答!ありがとう!なんとかしてくれ!こいつの心の世界に行ってなんとかしてくれ」
「はーあ……めんどくさいなー……。節分で豆まきは確か鬼を追い出すために豆をまいて毘沙門天様を呼んで鬼を退治したというお話からきてるんでしょ?それを聞いてこの子は会いたくなったんじゃない?」
りぅが呆れた顔をきぅに向けた。
「しかし……毘沙門天様も沢山いらっしゃいますよね。末廣七福神とか日本橋七福神とか、仏神の四天王様とか……ほら多聞天様とか別名で存在している毘沙門天様もいらっしゃるでしょう?どなた様を言っているのでしょうか?」
きぅは首を傾げた。
「誰でもいいんじゃない?夢で毘沙門天様に会えればいいんでしょ?どうせ人間には元がわかってないんだからその子の心に鬼を出現させてそれをカッコよく私達が倒せばいいっしょ!そんで毘沙門天様だ!助けに来てくれた!ってストーリで」
りぅはどこぞの戦隊もののようにパンチを繰り出しポーズをとった。
「それはうまくいきそうですね!」
「なんでもいいからなんとかしといてくれ!てか、この願いは何に分類される?縁結びなのか?」
ブンちゃんは頭がショート寸前でプチパニックを起こしているようだ。
「ま、まあ……私達が頑張りますから……りぅ、行きましょう!あと、妹のじぅは……?」
「あー、めんどくさい。じぅはそこそこ強いからつれていきたいわね。じぅ!どこにいるの?」
きぅとりぅは妹のじぅを探した。
「キャハハハ!」
「うひぃ!?」
ふと甲高い少女の声が響いたと思ったらブンちゃんが軽い悲鳴をあげた。
声の方を見るとブンちゃんのコシミノから笑いながら手を振っている少女がいた。
ちりめん布でできているテンガロンハットを被り、きぅ、りぅとは髪の色がだいぶん明るく西洋風にも見える。しかし、きぅ、りぅと同じく着物を着ているため、三人でまとまっている日本の人形だ。
「じぅ!そんなとこにいないで行くわよ!」
「キャハハハ!」
りぅの言葉にじぅは心底楽しそうに笑うとブンちゃんのコシミノから華麗に飛び降りてこちらに来た。
「いつからコシミノ内部にいたんだ……こいつ。まあとにかく……よろしくな」
ブンちゃんは寒気を抑えつつ社内へ帰っていった。
「じゃあ、行くわよ!このレターの持ち主の心に!めんどくさいけど!」
「おー!」
りぅがなんとなくまとめた後、手を横に広げ弐の世界、精神、霊魂の世界を開いた。


「……で、ここがそうなの?メルヘンな感じだわねー」
「キャハハハ!」
りぅはじぅの笑い声を聞きつつ辺りを見回してため息をついた。まわりは花畑で蝶や鳥、小川が流れているきれいな世界だった。
「女の子でしたか。毘沙門天様に会いたいのは……」
きぅはピンクの花を触りながら微笑んだ。
「メルヘン少女?がなんで毘沙門天様?」
りぅは考えた。このきれいな世界に想像した「鬼」を出現させるのはなんだかかわいそうだ。きっと今は良い夢を見ているに違いない。
違う方法を考えていると隣にいたじぅが突然動き出した。
「え!?じぅ?どうしたの!?」
りぅが叫んだ刹那、重い金属音が響いた。
「ひぃい!?」
きぅは腰を抜かしている。
りぅはじぅが飛び上がった方向に目を向けた。
目の前に巨大な鬼がいた。誰もが想像する赤い鬼だ。
その鬼が振るった巨大金棒をじぅがつまようじで弾き返していた。
ドール達が使う物はなぜか硬度が増したり不思議な力を使えるようになったりとイレギュラーが起きるためつまようじが金棒を弾き返しても驚くことはない。
「てか、おにー!!」
りぅは反応遅く悲鳴を上げた。
「なんで鬼がこのきれいな世界に!?」
きぅは半泣きでりぅの後ろに隠れ、りぅはさらにきぅの後ろに回った。クルクル無限を描きながら徐々に鬼から遠ざかっている。
「てゆーか、じぅ!がんばりなさい!」
丸投げしたりぅは戦っているじぅを応援し始めた。
じぅは戦闘になると真顔で強力な技を軽く出す。かなり強いのだ。
「普段はずっと笑っているのにこの変わり様……妹ながら不思議ですね……」
きぅは震えながら形だけつまようじを構える。
「どうすんの?じぅにあれを倒させとく?」
りぅははじめから何もする気がないらしい。完全に傍観体勢だ。
じぅはつまようじを軽く振るっては鬼が持つ巨大金棒を弾いている。なぜ、拮抗しているか不思議だ。きれいな花の世界は鬼が暴れているせいで花が散ってしまい、鳥達は皆、世界から逃げてしまった。
「応援しましょう!がんばれー!じぅ!」
きぅが応援していると突然鬼が真っ二つになりホログラムのように消えていった。強烈な風がきぅ達を襲う。
「きゃああ!」
「ひいい!?今度は何!?じぅは倒してないわよ!」
りぅは目を丸くしてさらに顔を青くした。
「大丈夫か?人形……」
鬼が消えた場所から渋い男の声とともに甲冑姿の男が現れた。
手のひらサイズのきぅ達には巨人に見えたが人間の男性より少し大きい男だった。
「え……」
「弐の世界に落ちてしまい帰れなくて困っている。現世に返してくれ。『人の心に影響を与える』人形ならばできるだろう?」
「で、できます……けど?えーと……どちらさま?」
きぅは恐る恐る尋ねた。
「私はある地域の日本人が想像した毘沙門天だ」
「びしゃっ……」
男の発言にきぅ達は言葉を失った。
「ところで早く現世に帰してくれないか?かれこれ一週間近く神社に帰ってないのだよ。高天原の竜宮で七福神の会合後に弐の世界について調べていたら入り込んでしまい元に戻れなくなってしまった」
「そ、そうでしたか。こちらの世界は心毎に世界が違いますし、心に住み、生きた魂を導く霊魂達は姿形を変えて心を行き来して楽しんでますからね……。指標も目印も何もないです。私達のようにすでに想像物ならば感覚でこちらの世界のデータを読めますから対象の弐の世界、入りたい心に入れるのです」
きぅが自慢げに胸を張った。
「そういう機密をペラペラしゃべらない!お姉さま、なんだかわからないけどストーリー通りになったわ!さっさと帰りましょ」
りぅがきぅをピシッと叱り、手を横に広げた。すると世界を裂くように空間が割れ、『お人形ランド!』の床が奥に見えはじめた。
「キャハハハ!キャハハハ!」
じぅは戦闘が終わり、元の陽気に戻った。ケラケラ楽しそうに笑っている。
毘沙門天の男はりぅが出したホログラムのような空間を興味深そうに眺めていた。

「ブンちゃんー。終わったわよ」
りぅが疲れた声でブンちゃんを呼んだ。
『お人形ランド!』の神社前に戻ってきたきぅ達は鳥居前で居眠りしていたブンちゃんを叩き起こした。
「うぐっ!ねてねーよぉ……」
ブンちゃんは目を擦りながら目覚めた。完璧に寝ていたようだ。
「終わりましたよ。後の縁結びはよろしくお願いします」
「おう……って……ええ!?」
きぅにてきとうに答えたブンちゃんはきぅの横にいた男に目を向け、腰が抜けるほどに驚いていた。
「まさか……びびび……毘沙門天!?」
「そうだが?戻ってこれたか。ありがとう。人形達。では神社へ戻らせていただく」
腰を抜かしたブンちゃんに首を傾げた毘沙門天は一礼をすると去っていった。
「ちょっ!ちょっ!お前ら!マジで……マジで呼んだのか!?」
「呼んだっていうかたまたま?」
「そうですね」
「キャハハハ!キャハハハ!」
ブンちゃんの問いかけに三姉妹はそれぞれてきとうに答えた。

※※

「う、うーん……」
私は目を覚ました。朝日が窓から入ってきていた。
もう朝か。
隣ではお母さんとお父さんが寝ている。私は八歳なので川の字の真ん中が一番心地がいい。
実は一週間くらい前にお父さんに節分について詳しく聞いた。
それから私の夢に毎回鬼が出てくるようになった。夜になると怖くて鬼のことばかり考えてるからきっと夢に出るんだ。
そこで、お父さんから聞いた、『びしゃもんてんさまが守ってくれる』というのを思い出して夢の鬼をなんとかしてもらうことを思い付いた。
でも、『びしゃもんてんさま』にどうやって伝えたらいいかわからない。お父さんは『びしゃもんてんさま』は神様だと言っていた。
神社にお願いにいけば節分前だけど鬼を倒してくれるかも。
たまたま家族で行ったお人形さんがいっぱいいる施設で神社があったからうさんくさかったけど『お願い』をしてみた。色々不安だったのでメモにも残しておいた。
「……ホントに鬼を倒してくれた……」
私はぼうっとした頭でお父さんの寝顔を見る。しばらく頭を整理してたら目が覚めた。
「ほんとだ!ほんとに倒してくれたんだ!!」
私は思わず叫んだ。
「うわあっ!」
お父さんが悲鳴をあげて飛び起きた。
「お父さん!『びしゃもんてんさま』が来てくれた!」
「へ?なんだ?なんだ?いきなり大声をあげるな!びっくりした……。で?毘沙門天様が来てくれたって何?」
お父さんは不思議な顔をして戸惑っていた。
「寝ぼけているんでしょ?ふーちゃん、節分は明後日よ。明後日に豆まきと恵方巻食べようね?」
お母さんも起きてきて私にそう言った。
違うんだよ。お母さん!
寝ぼけてないよ!
と言おうと思ったがやめた。
八歳にもなって鬼を怖がったり急に叫んだりしてたらなんか自分が恥ずかしいことに気がついたからだ。
「なんか夢見てたみたい。びっくりさせてごめんね」
私は変な夢を見ていたことにした。
「ふーちゃん、今日はお父さんと豆買いにいくか!」
「ふーちゃん、恵方巻少し奮発しておいしいのにしようか」
なんだか気を使わせてしまったのかお父さんとお母さんは節分に話を持っていく。
私の考えは筒抜けみたいだ。
現実の鬼はお父さんとお母さんが節分の時に倒してくれるみたい。
よかった!
あれから少し日にちが経ったけど鬼が出てくることはなかったよ。
一応あの神社にお礼しとくね。
「ありがと」

三話

「ブンちゃん、三月だねー」
銀髪のきれいな長い髪を持つ、手のひらサイズのドールはーちゃんがほのぼのつぶやいた。
「あー、そうだな」
コシミノに下駄というアンバランスな格好の男、ブンちゃんははーちゃんを手のひらに乗せてつまんなそうに答えた。
このブンちゃんという男はここ、『お人形ランド!』というレジャー施設で人間に祈られてうまれた神である。一応、日本神で鳥居もあるがなぜかブンバボンバという名前で南の島にいそうな民族風の格好をしていた。
ちなみに目の前には雛人形の七段飾りが豪華に飾ってある。
『お人形ランド!』では三月になると雛人形を飾る。むしろ、これが『お人形ランド』のメインであり、お客さんは少女を中心になんとなく盛り上がるのだった。
「あかりをつけましょ、ぼんぼりにー、お花をあげましょ、ももの花ーってか?ん?これ、ももじゃなくて梅じゃね?」
ブンちゃんがひな祭りの歌を歌いながら七段飾りの下に飾られていた梅の花を指差した。
「花がきれいだったから従業員がこっちにしたらしいよー。気合い入れてたー」
はーちゃんはのんびり答えた。
「はあ……まあ、いいけどな。雛人形はいいが、問題はこれだ」
ブンちゃんははーちゃんを下に降ろすと空間を指でつつき、アンドロイド画面を出した。データファイルからは大量のお願い事が出てきた。
「俺は神だが……無理な要求が多過ぎて叶えられーん!!これ、見ろよ。十万体以上の雛人形がほしいだのひなあられを腹一杯食いたいだのあげくのはてには宇宙でひな祭りしたいとか……アホか……」
「あー……子供の要求ってたまに酷だねー」
画面に流れるデータを見ながらはーちゃんは軽く笑った。
「てきとーに賽銭入れやがってもうー!!」
「全部叶えるのは現実だと無理だけどー、夢にしといたらー?」
「あ!なるほど!夢で叶えてやりゃあいいか!後で人形達に頼んどこ。はい。これはぜーんぶ終わりっと。あと、これな」
ブンちゃんはさっさとファイルを更新すると新しいデータを表示した。
「初節句で雛人形買ったんだと。で、なぜか俺のとこで嫁入りまで妹を守ってくださいと。妹?よくわからんがまあ、なんにせよ、娘を守るのは雛人形だぜ……。厄を被ってくれんだから……放っておいていいか?これ?」
「はあー、初節句……かー。ドールの出番が多いですなあー。注目されてるー。わーいー!」
「あのな……お前らは雛人形からかけ離れた西洋ドールだぞ……」
のんきに喜ぶはーちゃんにブンちゃんがため息をついた。
「まあまあー。それよりこの子、母親じゃなさそうだよー?妹って言ってるからお姉さんー?」
「だよな……どういうこった?」
ふたりが頭を悩ませているとやたらと元気な少女の声がした。
「ん?」
「はーい!!はーい!!私!その人知ってまーす!!!」
「あー、メイちゃんかー」
やたらと元気な少女ドールはメイちゃんというらしい。
身長ははーちゃんと同じ手のひらサイズ。明るい茶色の髪とくりくりな目が特徴のかわいい感じのドールだ。
「ビックリマークだらけなハイだな……。で?謎を教えてくれ」
「はーい!!実は!ここ、父子家庭なのです!!お父様が一生懸命働いていますが二人の娘を養うのでやっと!上のお姉ちゃんは高校生!下の子は現在小学生みたいです!」
「ちょい待て!声がでかすぎてあんまり入ってこねーが……小学生なら初節句じゃねーだろ」
気分が上がっているメイちゃんにブンちゃんが突っ込んだ。
「初節句なのです!!はい!今まで雛人形買ってあげられなかったみたいです!!だから初節句なのです!!初の雛人形節句なのです!!わかりましたか!!」
「だー!うるせー!わかった!わかったつーの!」
無理やり押し通したメイちゃんにブンちゃんはとりあえず頷いた。
「お父様もこんなちっちゃいのでごめんねってうう……。お守りのパワーが足りないかなってうう……。なんて素敵な家族なんでしょう!!おーん!おーん!!!」
メイちゃんは今度は大声で泣きはじめた。
「う、うるせー!!泣くな!あー、なんかわかったぜ。お守りのパワーが足らないかなと親父が言ったから七段飾りあるうちで祈ったんだな」
「そぉなんですよ!!」
メイちゃんがつかみかかるようにブンちゃんに言った。
「わ、わかったから!……しかし、父子家庭か……大変だな……。上の姉が母親代わりか」
「じゃあさー、ちゃんと守れるお人形か見に行くー?まあー、どんなお人形でも想いがあれば守るしー、身代わりになるけどねー。夢でお姉ちゃんにお人形さんに会わせてあげるーとかー」
はーちゃんがほのぼの言った言葉にメイちゃんとブンちゃんは大きな声で叫んだ。
「それだぁ!!」

とりあえず、意気込んだがブンちゃんはメイちゃんとはーちゃんに丸投げした。
「ま、まあ……こういうのは人形のがいいだろ!……じゃ」
ブンちゃんは手を振り、社に帰っていった。
「おーいー」
はーちゃんはのんびり声をかけるがブンちゃんは手をあげただけだった。
「もー……」
「じゃあ!行きましょうか!!」
ため息をつくはーちゃんを置いといてメイちゃんは目を輝かせつつ、手を横に広げた。
ゆっくりと心の世界が現れる。
心の世界には個人個人の想像の世界とその内部に住む霊達がいる。まあ、想像物ならばなんでもこちらの世界に住める。
つまり、『話す人形』も簡単に入れるのだ。
現世を壱(いち)の世界と呼んでおり、心の世界は弐(に)の世界と呼ばれている。
別名は視界(しかい)だ。
なぜなのかはわからない。
もしかしたら死後世界、死界からきているのかもしれない。
メイちゃんが開いた心の世界、弐(に)はもやがかかっていた。
「高校生の心だからかクリアじゃないねー」
「素直に世界観が作れない子なんです!!部外者が入り込むのが恥ずかしいんでしょう!早く入りますよ!」
メイちゃんははーちゃんを引っ張り、もやがかかっている世界へ足を踏み入れた。
「あー、ほんとだー。ちゃんと世界あるー」
少女の心に入り込んだ後、すぐにはーちゃんがつぶやいた。
もやがかかっていた世界は入り込んだら鮮明になった。
高校生だが世界は幼子のような世界だった。アニメっぽい二次元なウサギが二本足で通りすぎ、お菓子の家やシャボン玉がなっている木などメルヘンな世界観が広がっている。
「意外にこっち系なんですね!!」
「どっち系かわかんないけどー。じゃあー、彼女の目に映ったはずの雛人形ちゃんをさがそーかー」
「一度見てなにか感じてれば!!たぶん!この心にいるでしょう!!想像物として!!」
はーちゃんにメイちゃんは人差し指を天に向け叫んだ。
「もし……」
誰かが意気込むふたりに声をかけてきた。
「誰でしょうか!!」
メイちゃんは勢いよく振り向いた。振り向いた先に戸惑いの表情を浮かべたドール達が立っていた。皆、着物を着ており頭に烏帽子を被っていたりなかなかお洒落だ。それよりも……
「ああ……もしかしてー」
はーちゃんは呑気に声を上げた。
「お雛さんですね!!」
メイちゃんはがっついて叫んだ。
「一体あなた達は何者ですか?『彼女』の心には呼ばれていないはずですが……はっ!侵入者!」
お雛様が薙刀を構えて突如攻撃体勢に入った。お内裏様も刀を抜き、三人官女も五人囃子も皆それぞれの道具やら楽器やらを構えてこちらを睨み付けていた。
「うわわ!!無断で入ったけど理由がありまして……!」
「よわそーだねー?ちっちゃいし有名なメーカーのじゃないねー。全部セットになってる置物みたいな雛人形でしょー?」
「ははははーちゃん!?」
はーちゃんの火に油な発言にメイちゃんは蒼白な顔をしていた。
「バカにしおって……曲者!」
雛人形達は恐ろしい形相で怒り襲ってきた。ふつうは優しそうな顔をしているのだが触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。
「さっさとやっつけちゃおー」
「し、仕方ありません!」
はーちゃんは楽しそうにメイちゃんは怯えながら魔法のステッキ風な棒を取り出した。
はーちゃんはステッキから炎を放った。
「えーいー!えーいー!」
雛人形達は臆することなく炎の中を突っ込んできた。
メイちゃんにはお琴の攻撃が飛んできた。五人囃子のひとりが琴を弾くと不思議な事に五線譜が現れ音符が飛び出してきてメイちゃんを攻撃しはじめた。
「なにこれ!!こわいこわい!!四分音符が噛みついてきますよ!!」
メイちゃんはステッキでバリアを張ると悲鳴をあげながら防御した。
刀や薙刀を危なげにかわして謎のビームを放ったはーちゃんだったがあっけなく三人官女のボンボリと梅の花攻撃にやられ、その場に目を回して倒れた。
「つ、強すぎるー……うー」
「はぁーちゃあん!?ひとりにしないでくださいよ!!」
メイちゃんは半泣きでステッキから雷を出して応戦したがすぐに後ろから飛んできたひなあられ爆弾と菱餅にこっぴどくやられ悲鳴をあげたまま倒れた。
「う、うきゅー!!」
我ながら変な悲鳴だとメイちゃんは思った。
「さっさと出ていけ!我らの想いは強いのだ」
お内裏様は威圧感満載の声音でメイちゃんとはーちゃんを威嚇した。
「ひぃい!!ごめんなさぁい!!」
メイちゃんは震えながらあやまったがはーちゃんはなんだか満足そうだった。
「ほら!あやまりなさい!はーちゃん!」
「ごめんなさーいー」
メイちゃんに強要され、はーちゃんはひれ伏してあやまっておいた。
「と、とにかく帰りましょう!恐ろしい!すんごく強いし怖いじゃないですか!!」
「だーよーねー」
メイちゃんはさっさと元の世界の空間を出した。
「ばーいばーい!」
「バイバイじゃないです!変な刺激しない!」
「あれだねー。そんだけ強ければ大丈夫だねー」
「あっ!」
はーちゃんの意図にメイちゃんは気がつき、声をあげたところで『お人形ランド!』に戻ってきた。
「ちゃっかり目的達成しました!!お姉さんには見せられませんでしたがお姉さんの心なので伝わったはずです!!」
戻るなりメイちゃんは目を輝かせてはーちゃんに詰め寄った。
「ねー。今頃あのお雛様達は頭がハテナになってるよー。あいつら何しにきたんだろーみたいなー?まあ、ただの侵入者で終わってるかもだけどー」
「わざとふっかけたんですか!危ないじゃないですか!!」
のほほんとしているはーちゃんにメイちゃんは厳しい顔で声を荒げた。
「まあまあー」
「おい!うるせーぞ!こっちは昼寝してんだよー」
はーちゃんが苦笑いをしているとブンちゃんが不機嫌に社から現れた。
「あー、ブンちゃんー。雛人形なんだけどー」
「すっごい強かった!!!」
寝ぼけているブンちゃんにメイちゃんとはーちゃんは興奮ぎみに叫んだ。

※※

ころん……カン!
「はっ!」
私はシャープペンシルが落ちる音で目が覚めた。
ああ……最悪……授業中に寝ちゃった。今は確か数学だった。
数学で寝るなんて最悪……。さらについていけなくなるよ。
今日は起きてるつもりだったんだけどな。
しかし……なんか雛人形がいっぱい出て来て悪者をやっつけてる変な夢だったなあ。しかも妹の雛人形だったし。あれはお父さんとお金を出しあって買ったんだ。あの子喜んでたなー。
バイトしてきた甲斐があるわ。
今日はひな祭りだしちらし寿司とかでパァッとやるか!
でもなんで雛人形が出てきたんだろ?
ふと神社でお願いした事を思い出した。
まさか……『お人形ランド!』の神様があんたらが買った雛人形はこんなに守る力があるぞって教えてくれたとか……。
いやー……ないない。
なんか正規の神様じゃなさそうだし……想像力豊かだな……自分。
まあでも……そう信じてお礼言っとこう。
「ありがと」

四話

桜の開花発表がされて一週間。世間はお花見する人間達で溢れていた。レジャー施設、『お人形ランド!』では桜が咲いているわけではなく、しかも室内なためお客さんはほとんどいない。しかし、展示されているお人形のまわりは造花の桜で彩られていた。
本日も暖かく晴天なためお客さんはほぼいない。
この施設の職員から施設活性化のために祈られて現れた神、ブンちゃんは職員が建てた神社内でやたらと明るい声をあげていた。
「いえーい!リスナーの皆さんからのお便りを紹介するコーナー!」
相変わらずのコシミノ一枚でちゃぶ台に紙を並べてひとりで話している。
「えーと、東京都にお住まいのユカちゃん七歳から!友達百人作りたいですがクラスが百人いません。友達百人作らせてください……。なるほど、お兄さんはね、浅い付き合いの友達百人作るよりもほんとに仲良しな友達を二、三人作る方がいいと思うなあ!」
「……というか、なにしてんのよさ?」
ちゃぶ台にちょこんと座っていた桃色の髪をした学生服の少女人形があきれた顔でブンちゃんを見ていた。
「あー、雪子さんか。あんたは桜みたいな髪で春にピッタリだな!」
「春が待ち遠しくて作られた人形だからよねー。名前雪子だけんど。……で?なにしてんのよさ」
ピンクな少女人形雪子さんはやたらと明るいブンちゃんを気味悪そうに見据えながら尋ねた。
「みてわかるだろ?ラジオだ!少しは仕事が楽しくなるかなと……」
「ほんとにやってたわけじゃなかったのよね……」
「ほんともなにも人間に見えないし声も伝えられねーんだから……」
ブンちゃんは肩を落とした。
「じゃあ読み上げたやつはどうしてるのよさ?」
「ど、どうしよう!?」
ブンちゃんは突然に戸惑った顔に変わった。
「困ったよのさ……」
「とりあえず、ユカちゃんのは自力でなんとかしてもらって……」
「まあ、友達は作ろうと思わなきゃ作れないよのさ……他には……」
雪子さんはうんうんと頷くとちゃぶ台に散らかっている紙をめくり始めた。
「ああ、それ、ラジオのおたより感出すためにここの手作りパンフレットを散らしただけだ」
「……オイ!」
雪子さんは絶妙なタイミングで突っ込みを入れた。
「ああ、そういえば電子データの中におもしろい参拝客が……」
ブンちゃんはひらめいた顔をして頭の回線からあるデータを引き抜いてきた。
「ん?」
「谷地畑(やちはた)勘十郎(かんじゅうろう)さん五十二才からで……」
「ここはメルヘンな子供のための人形館なのよさ……」
「まあまあ、いいじゃないか。お客さんだから」
呆れる雪子さんをブンちゃんがなだめながら先を続けた。
「会社でお花見の席取り係になったらしいんだが朝が苦手で起きられる自信がないんだと。で、起きられますようにって……」
「……しょうもないのよさ……。大人なんだから目覚まし十個くらいいっきにかければ起きられるのよさ……。てかなんでこのマイナーな神社に……」
「そう思うだろ?なんでだって思うだろ?子供と一緒に来たんじゃねーかな?」
怪しむ雪子さんにブンちゃんは楽しそうに答えた。春だからかブンちゃんは陽気になっているようだ。
「まさかと思うけどユカちゃんの名字は……」
「谷地畑だな」
「……」
しばらく沈黙が訪れた後、ブンちゃんが派手に声を上げた。
「親子だ!!!」
「まあ、だからなんなのよさって感じよのさ……」
「じゃあ二人まとめて叶えてやるか!」
ブンちゃんは意気込んで拳を高く上げた。
「頑張るよのさ」
「ちょっ……なんとかしてよー!」
小さな雪子さんを強引にすくい上げてブンちゃんは頭を下げた。
「なんとかって何すりゃあいいのよさー……」
「なにすりゃあって……そ、そうだ!父親と娘の夢をつないで運動会とか!」
「相変わらず発想がぶっとんでるよのさ……。なぜ運動会?」
雪子さんはため息をつくとブンちゃんの手のひらに座った。
「早く起こすなら焦らせること、焦るといえば運動会!友達ができるのも運動会だ!!」
「わけわからないよのさ……」
雪子さんが頭を抱えているとひときわ元気な少女の声が響いた。
「うんどーかい!!やりたい!!あたし、うんどーかいする!!」
「ああ……この声は……」
さらに頭を抱えた雪子さんの横で金色の髪を肩先で切りそろえている元気そうな少女が顔を出した。
ブンちゃんの腕を知らぬ間によじ登ったらしい。
瞳に光が多く入っており目が大きく見える。
「うるこ……」
「うるちゃんか!ちょうどいい!ふたりで親子の願いを叶えてあげてくれ」
「あのねー、運動会してもユカちゃんのリアル友達はできないよのさー」
「俺がさっき言った内容がユカちゃんに伝わればいいなと……」
「ああ、浅い付き合いよりもーってやつよのね?」
「そうそう」
ブンちゃんはなんだかんだ言って優しい。なんでも叶えてあげようとする。
まあ、ほぼ動いているのは人形達だが。
「仕方ないよのさ……でも、最近九十九神化……意思を持ったらしいドールうること二人はまだ怖いよのさ……。私も最近意思を持ったし、新人コンビは危険よのさ」
雪子さんはやる気にはなったが不安のようだ。
「やってくれんならひとりベテランをつけよう!いつよしくん!」
ブンちゃんが人形の名前を呼ぶとシルクハットにスーツ姿の男性ドールが現れた。
「いつよしくんだ」
ブンちゃんは楽しそうに紹介した。
「……彼はモデル人形よのさ?」
男性ドールいつよしくんは観賞用ドールのような華やかさはない。
「モデル人形というか、マンガとかデッサン用のアクションドールのが近いかな」
ブンちゃんはいつよしくんに目を向けた。身長は二十七センチだ。一般的な男性のモデル人形のようだ。特にムキムキだったりということはない。
「いつよしです。なんかパパになったみたいですなあ」
いつよしくんは表情があまりないが照れているようだった。
「彼を保護者にするからよろしく!」
ブンちゃんは笑顔で頷いた。

※※

とりあえずブンちゃんの社から外に出た雪子さん、うるこ、いつよしくん。
「で?ぶっつけで行くよのさ?」
「うんどーかいってこと!?やりたいよー!!」
うるこは飛び上がって喜んでいた。
「では僕は保護者でございますねぇ!パパ!あーパパ!パパよしくんなんちゃって」
いつよしくんはなぜかノリノリだ。
「パパはどうでもいいよのさ。じゃあぶっつけで親子の夢にダイブだわよ!」
雪子さんはさっさと手を横に広げて世界への扉を開いた。
足を踏み入れるといつの間にか運動会になっていた。
運動場で子供が走っている光景だ。
「あら?なにもしなくても運動会じゃないのよさ」
「運動会というよりマラソンみたいですがね?」
走っている子供の距離は長い。
運動会ではなくマラソン大会のようだ。
おかしなことは人形である雪子さん達と子供達の身長が同じという事だ。
「私達が巨大化したか子供らが小さくなったのかわからないよのさー」
「走るぞー!おー!」
うるこは素早くスタートラインに立っていた。
「オーイ!待つよのさ!!やる気なのー!?」
雪子さんが止めようとした刹那、なぜか運動場を囲うネットについていた電工掲示板が『走らないと爆発します』と打ち出してきた。
「なにー!?なんで爆発するのよさ!?」
「夢だからわけわからんですね。とりあえず僕は保護者として参加しますよぉ!」
「オーイ!いつよしー!!」
去っていくいつよしくんを仕方なく見つめ、雪子さんはうるこを追っていった。
スタートの合図はかなり簡単に発せられた。皆がいっせいに走り出す。
いまの段階では誰かユカちゃんなのか勘十郎なのかわからない。
というより大人の男性はいつよしくんくらいしか見当たらない。
いつよしくんは保護者として観戦するのかと思いきや普通に楽しそうにスタートラインに立っていた。
「あんたも出るんかいな……」
雪子さんは呆れた声を上げながら走り出した。
「うるこ、まっけないぞー!一番だぞー!」
うるこは一気に先頭に躍り出た。
「はやい!」
雪子さんがそう思ったのもつかの間、うるこは何かに当たり雪子さんのところまですっ飛ばされてきた。
「うるこ!?どうしたのよさ!」
「わからないー!なんか強力なゴムみたいなのにバチーン!!痛くなかったけど」
「ゴム!?」
「あれみてください!」
いつよしくんが先頭を走る少女が持っているものを指差した。
少女はオモチャの魔法のステッキのようなものを持っていた。
「あ、あれは!少女に流行りのアニメ『まじょーんマジョールノ』のステッキよのさ!!」
「詳しいですねぇ。なんか魔法のようなものを使ったようですが」
「なるほど!やっていいならあたしも!!」
うるこは手から光の球体を出現させバレーボールのように一番前の女の子を狙って放った。
「ちょっ!」
雪子さんは叫んだが一番前の女の子は軽く避けた。
女の子はかわいく舌を出して挑発してきた。
「……んむぅ!」
うるこはだんだんむきになってきて声を荒げながらすごい速さで前の女の子に突進していった。
「うおおおー!」
「あー!うるこ!!あの子は意思を持ってから一年経ってないよのさ!!追いかけるよのさ!保護者!」
雪子さんはいつよしくんに早く前に行けと背中を叩いて促した。
「ええ!?あ、はい!では!」
いつよしくんがスピードを出そうとした刹那、辺りがなぜか桜並木に変わり頭にハチマキをまいた体操服の男の子がバトンを持って前を走っていた。
マラソン大会だったはずで世界観がよくわからないがまわりは変わらずに走っている。ただその男の子だけ異質だ。
桜が舞う中、赤いバトンを片手にかなりの速さで走っている。
「速い!まるで何かに追われて……はっ!」
いつよしくんが言い終わる前に男の子のバトンから強風が発せられた。
「うわわ!ち、近付けませーん!」
いつよしくんが戸惑っていると今度はバトンから空気砲が飛んできた。
なぜか重たい音がして気がつくと地面がえぐられていた。
「うわあっ!……あの子、勘十郎だわよ!!たぶん!夢だから子供の姿でもおかしくないよのさ!勘十郎の前を走ってるのはユカちゃんよのさ!!」
雪子さんが空気砲を危なげにかわしながら叫んだ。
「では、勘十郎さんを思い切り焦らせて早く起こしてあげましょ!」
「よーし!私もハチマキよのさ!」
「あ、雪子さんは頭に被るものによって能力が変わるんでした!すごいですね!」
ハチマキをした雪子さんは突然に身体能力が上がった。空気砲を軽々避け、空を舞うように走り始める。それを見た男の子は慌てて逃げはじめ、空気を矢のように鋭くさせ吹き矢のようにバトンから放った。
風をきって飛んできた実態のある空気の吹き矢を雪子さんは走りながら避け男の子のすぐ後ろ辺りまで迫った。
不思議とまわりを走っている子供はリアクションもなければ男の子の攻撃も当たらない。まるで風景のようだ。
「魔女っこ帽子よのさ!」
雪子さんはハチマキの上からツバの広い魔女帽子を被った。
「風のお返しよのさー!」
雪子さんは人差し指を男の子に向け竜巻のような風を発生させた。
男の子は冷や汗をかきながら目をつぶった。
「あぶなーい!バリア!」
その時、少女の声が響いた。おそらく先程の女の子、ユカちゃんだ。
ユカちゃんは少し前を走っていた。魔法のステッキをかざしている。
「嫌な予感が……」
雪子さんがつぶやいた刹那、男の子の前にオブラートのようなガラスのような透明な盾が現れ、雪子さんの竜巻を弾いた。
竜巻はそのまま跳ね返り雪子さんを襲った。
「やっぱりぃー!!」
「雪子さん!!」
吹っ飛ばされた雪子さんは涙目で回転しながら飛んでいったが咄嗟に飛び上がったいつよしくんに助けられた。
「いつよしー!ナイスよのさ!」
「それより、みてくださいよ」
いつよしくんは華麗に地面に着地するとユカちゃんと男の子を指差した。
「ん?」
よく見るとユカちゃんと男の子……たぶん『勘十郎』の横で腕を組んだ少女がふんぞり返っていた。
どことなく仲間の雰囲気を纏っている少女はうるこだった。
「あんた……なんで……仲間雰囲気……なんかやな予感が……」
「一位をとるのは『あたしたち』だ!!」
「おー!!」
うるこのかけ声にユカちゃんと勘十郎は同時に拳を上げる。
「ちょ、ちょっ……ええ!?」
「僕を見られてもぉ……」
戸惑った雪子さんに睨み付けられたいつよしくんは頬を赤くしてクネクネ動いていた。
「そらー!やっつけろー!」
うるこは満面の笑みで大量の桜吹雪を操り雪子さん達に飛ばしてきた。桜の花びらはまるで凶器のように強風で纏まり襲ってくる。
「なーにやってるよのさ!!うるこぉ!」
雪子さんは手を前にかざして風を巻き起こし桜吹雪を跳ね返した。
「ユカちゃん、勘十郎!すすめー!」
「わーっ!」
雪子さんが桜吹雪を跳ね返している間にユカちゃん、勘十郎、うるこは素早く走り出した。
辺りは桜並木の一本道に変わった。桜はどこまでも続いている。
うるこはなんだか爽快な気分になった。
「やっぱ春だよね!!ユカちゃん!」
「う、うん!お友達、いっぱい作ろうと思ったんだけど楽しい友達だけでいいのかも!」
「楽しい友達だったらいっぱい作ればいいじゃん!いなかったら探せばいいじゃん!一緒に遊べる友達は多くても少なくても関係ないよ!一緒にいて楽しければそれでいーよ!!あははは!」
うるこは豪快に笑っていた。
「じゃあ、私とうるちゃんは友達だね!あ、君も……」
ユカちゃんは隣を走る勘十郎をちらりと見た。
「ん?うん!お友達だね!僕は一番で桜並木を駆け抜けるよ!」
勘十郎がさらに足に力を込めた。
「あー!待って!!」
ユカちゃんもさらに足を前へと出しはじめた。
「うるこー!!やったよのねー!!なんでそっちについてるのよさー!!」
雪子さんが消防士の帽子をかぶり手から水流を飛ばしてきた。
「皆!水が襲ってくるよ!やっつけよう!」
うるこの掛け声でユカちゃんがステッキを勘十郎がバトンを構え、うるこが得たいの知れない光の球体を沢山出現させた。
爆音やら爆風やら色んなものが飛び交い白熱した戦いだったがうるこ達はゲラゲラと笑っていた。
子供は何が楽しいかわからない。
「これは一体保護者の僕はどうすれば……」
ひとりおどおどしながらついてきていたのはいつよしくんだった。
しばらくして突然に少年と少女は消えてしまった。
「あれ?消えちゃったね?なんでー?」
うるこは首を傾げて寂しそうな顔をしていた。
「夢から覚めたに決まってるよのさ……。はあ……長かったさぁ……」
雪子さんはヘニャヘニャとへたりこんだ。周りには先程まで使用していた帽子達が散乱している。
「そっかあ……夢だから……楽しかったのになあ」
「てか、うるこ!収集つかなくなっちゃったよのさ!!夢をかき混ぜただけになっちゃったのよさ!」
しんみりしているうるこを雪子さんがガミガミ叱った。
「まあまあ、そんな怒らずに……」
「一番なんもしてないいつよしに言われたくないのよさ!!」
「あれ?僕、いつから呼び捨て!?」
「最初からよのさ!だいたいあんたは……」
雪子さんのお叱りはいつよしくんに飛び火した。
「あーあ……楽しかったのになあ……」
うるこはいつの間にか終わったマラソン大会をしんみり思いながら桜と青空を仰いだ。

「……なんだかなあなあで戻っちゃったよのさ……」
雪子さんはなんだか落ち込んでいた。雪子さん、うるこ、いつよしくんはブンちゃんの社前に戻ってきていた。
「まあまあ……。なんだかわかんなくなっちゃいましたが刺激になったかもー……」
いつよしくんも収集のつかなかった今回の願いを自信なくつぶやいた。
「あー!私がうること争わなければ良かったよのさー!」
雪子さんは頭に手を当ててうなだれた。
すると、音を聞き付けたブンちゃんが上機嫌で社から出てきた。
「お?お前らー、なんかいい方向に進んでくれたなー!」
「えー?」
「うまくいかなかったよのさ……」
雪子さんは不機嫌そうにブンちゃんを仰ぐ。
しかしブンちゃんは興奮ぎみにこう話した。
「俺がなんもしなくてもふたりの夢がいい方向に行ったんだよ!」
「ん?」
雪子さん、いつよしくん、うるこは同時に首を傾げた。
それから
「なにかしたっけ?」
と三人で頭を抱えた。

※※

私は朝から晴れやかに目が覚めた。友達はいっぱいいた方がいいと思ったけど昨日の夢で少し変わった。なんだかすごく楽しい夢だった。不思議な女の子とパパに似た男の子と一緒に走っている夢。
なんだかわからないけどすごく笑ったの。
大人はなんでもかんでも友達友達って言うけど友達って誰でもいいわけじゃないんだ。
昨日みたいに一緒に笑いあえてまた明日も遊びたいなって思う気の合う人が友達なんだ。
無理に友達をつくる必要はないし、大人達に無理にくっつけられる必要もない。
もちろん、社会生活のために一緒に遊ぶことがあったとしても向こうもこちらも友達だと思わなければ付き合いになるよね。
私はパパやママを見てなんとなくは感じでたんだけど。
「おはよー!パパ!朝だよ!」
とりあえず私は隣のベッドで寝ているパパを起こした。

※※

娘に揺すられてやっと目覚めた。
「んあー……ユカちゃん。なんか今日は気分いい目覚めだなあ」
「パパ!お寝坊ー!」
と走り去っていったユカが昨夜夢に出てきた。不思議な夢だったが子供の頃を唐突に思い出した。会社の付き合いとかそんなこと考えずにバカみたいに友達と遊んで時間守らずに帰って怒られて……そんな時期はどれくらい前だっただろうか?
僕は昔から時間をキッチリ守るのが苦手だ。
花見の席取りなんて自分になんの利益もないし、会社の付き合いだって当たり前だけど友達じゃないからどうしても億劫なんだよなあ。
なーんて、社会に出て嘘で固められた接待を何度もやってる僕らには今更な話。
でも根本的には友達同士でばか騒ぎしていたあの頃に戻りたいって気持ちがあったりして。
ああ……そうか。
ふと気がついた。
接待だったとしても付き合いでもどうせやるなら楽しくやらないと本当に楽しくないじゃないか。
人が花見をするのはこれからもよろしく!という繋がりの気持ちもある。友達とはまた違うけど『縁を切りたくない関係』という微妙な部分も人間にはあるんだな。
そう思えたら花見の席取りも『僕は使われた』と思わなくていいのかもしれない。
全然出世しないダメダメな五十代会社員だけど少しやる気出てきた。
今日はユカと朝早くから外に出るか。気分いいし。
ちなみにユカは靴下をせっせと履いていた。
「ユカちゃん、昨日、ユカちゃんが夢に出てきたよ。花見の席取り、ちゃんとできるかなと心配してたらユカちゃんが一緒にお花見ポイントまで走ってくれたんだ。それでちゃんと起きられたよ」
「ふーん。あ、私もね、パパみたいな男の子が夢に出てきたよ。友達ってなにか教えてくれたの。友達はね、百人も作らなくていいのよ」
「……友達……」
勘十郎はユカの言葉に少し衝撃を受けた。
「そういえば……あの人形館で小さな願いを書いたね……。なんだか二人ともちゃんと解決したような……」
「あー!そうだね!」
勘十郎の言葉にユカも声をあげた。
「じゃあ、とりあえず」
「とりあえず?」
ユカはペコリと頭を下げた。
「ありがと!」
「ああ、そうだね。ありがと!」
二人はとりあえず感謝を述べた。

TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』(H31執筆)

TOKIの庶民記『つくもドール・ワールド』(H31執筆)

短編で12話で終わります。 お人形ランド!という盛り上がりがないレジャー施設があった。文字通り人形を展示しているだけの工夫もなにもない寂しい施設。そこで人間達は鳥居を建てて神様を祭りレジャー施設の活性化を試みた!縁結びの神、ブンバボンバだよ!という看板を建てたら本当に縁結びの神様が住みはじめた!その人間には見えない神様と九十九神化したドール達のドタバタなコメディ。 人間達の信仰を集め、お人形ランド!の活性化を頑張るよ。主にドールが。 他の短編や長編などで出てきた登場人物もいますがこの短編から読んでも大丈夫です。 関連性とか気になったら他の短編もどうぞ!

  • 小説
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  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-12-04

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