1995-1999てのひら小説と詩

1999-00『千の物語』byあでゅー

少女は病気で長い間入院していた。もう生きる気力もなくなって死を待つだけとなってしまった。
幼馴染の少年は、少女を勇気づけようと、毎日短い物語を書いて送る。
少女はその物語を楽しみに一日一日を過ごした。
その物語が千になろうとした頃、少女は病気を克服して少年に会いに行く。
だが、少年はすでに亡くなっていた。少年は亡くなる前に千もの物語を書ききったのだった。



1999-01『さよなら愛しのチキュウヒト』byあでゅー

昔々、チキュウと言う星に一人の女の子がいました。
ある日、ウチュウヒトからメッセージを受け取ります。

この星は、訳けあって滅びます。
しかし、あなたは優しい地球人です。
ですから、我々を信じて、ここに来て下さい。
  一九九九年九月九日AM八時、N駅北口
きっと、あなたをお救いしましょう。
尚、このメッセージは決して誰にも話さないで下さい。

彼女は迷いました。
両親と恋人を残して、自分だけが助かってもいいものかと。
そして、当日、彼女は行きませんでした。

しかし、彼も同じでメッセージを受け取っていました。
彼もまた、彼女を思い行かなかったのです。
そして二人は共に滅んだのでした。

さよなら愛しのチキュウヒト
さよなら愛しの恋人たち

PS
このお話は、チキュウと言う星の悲しいお話で、長い間語り継がれたのでした。



1999-02『雅の人形』byあでゅー

 あれは高校の修学旅行の出来事だった。
 京都での自由時間、私たちはお土産屋の通りに入り込んだ。見るもの何もかもが情緒的な、なにか古(いにしえ)の風習や風格が感じられるような、そんな感覚になっていたと思う。なにせ、北海道の田舎から出てきた人間だから、歴史とか風習や雅と言う言葉に弱い。
 そんな風に、お土産屋の雰囲気を楽しんでいると、一軒の人形屋が目に入った。そして、その中の一体の人形に、私は吸い寄せられていった。

 雪のような白い肌、優しく見つめる瞳、鮮やかな真紅の唇。
 傘を包むほっそりとした指、振り袖をまとった柔らかい物腰。
 この世のものではない。
 美しい、美しすぎる!

 私は震え、いても立ってもいられずに、売り子を呼んで叫んだ。
「これを下さい!」
 それも、箱にしまってある同じ人形ではなくて、
「あの展示している人形が欲しい!」
 と言って、頼み込んだ。
 そう、人形の顔は一体一体肉筆なので、微妙に表情が違うのだ。

 私はどんな旅行でもそうだが、自分にさえ箸一本として買ってくることはなかった。それは、私が貧しい家庭だったため、実生活に必要のない物を極力買わないようにしていたからだった。その私が買った初めての自分へのお土産、それが彼女だった。
 私は、そのお気に入りの彼女の入った箱を、衣類で包み込んでカバンに入れ、修学旅行の道中ずっと大切に抱きかかえて過ごした。

 修学旅行から帰り下宿に着いた私は、真っ先にあの人形の箱を開けた。
 しかし、……首が折れていた。あの美しい人形が、この世に一体しかないあの雅やかな人形が、……死んでいた。
 私は力なく立ち尽くし、涙をポタポタと畳の上に落とした。そう、私は惚れていたのだ、あの人形に。それは二度目の恋だった。


 二十年近くたった今も、あの人形の遺体は、実家の押し入れに大切に置かれてある。生きていれば、今も私を虜(とりこ)にしていたかもしれない、あの雅の人形。供養すべきか、それとも継(つ)ぎをして添い遂げ(そいとげ)ようか……。



1999-03『友へのグリーン・レクイエム』byあでゅー

 私が、まだ大学生だったころ、一人の友人がおりました。彼は、少し痩せ気味で、そしてちょっとニヒルな表情を好んでしておりました。
 そんな彼と知り合ったのは麻雀が切っ掛けでした。ある日、私と悪友は、授業の終わった教室で麻雀のメンバーを募集しました。その時、ニコニコして近づいて来たのが彼でした。
 それからは、私は彼のアパートに良く足を運ぶことになります。お目当ては、彼の持っている膨大なクラシックのCDで、その一曲一曲を、私にも解りやすく解説してくれました。
 そんなある日……。
 彼は、一本のカセットテープを私に聞かせてくれました。それは、新井素子原作のSF小説『グリーン・レクイエム』のラジオドラマでした。その物語の主人公は、明日香と言う『緑色の髪の少女』です。

 彼女は宇宙から来た生命体。
 その緑色の髪は、太陽のエネルギーで光合成をするための身体の一部。彼女は、その特異体質ゆえに寂しい生活を強いられます。
 そこに、一人の普通の男性が現れ、ふたりは恋をします。
 しかし、彼女の秘密を暴いた者によって追われ、逃げ惑い、最後に行き場を失います。そして、彼女は愛する彼の目の前で、自らの身体を破壊してしまうのです……。

 そのバックに流れていた曲が、ショパンの『夜想曲第一番変ロ短調 作品九の一(ノクターン 作品九の一)』。とても悲しい曲です。

 彼は、わけあって大学生活最後の夏に、この世を去りました。でも、私はこの曲を聞く度に思うんです。歳をとっても、ずっと友達でいてほしかった。そう思える彼のことを。
 彼の余りにも早い人生の幕を、惜しみます。そして、『グリーン・レクイエム』を、ありがとう……。



1999-04『それじゃ、また。』byあでゅー

  晩春だというのに、はらはらと降り出した雪
  これが極寒の地、別海のありふれた風景……

 私は、道端に生い茂るフキノトウを刈って丁寧に籠に詰め込んでいた。時折、青大将が目の前に現れて、私を凍り付かせることがある。
「これも獲ったら美味そうだな」
 などと強がりを言えるようになれるのは、フキノトウをおかずにして家族で食事を摂るだんになってからだ。私は、そんな北海道の僻地には極ありふれた家庭に育った。
 日頃、私は隣家の同い年の男の子と遊んでいた。近くの谷地へとても食欲をそそる香りのするアイヌ葱を取りに行く時も、天ぷらにする山女(やまめ)を釣りに行く時も、いつも彼と一緒なのだ。そう、彼は私の最初の遊び友達で何をするにも一緒の最高の相棒だった。
 ある日、私は母に起こされて、彼の父親が死んだことを知らされた。私が母に付いて彼の家に行くと、彼は泣いていた。必死に涙を堪えようとして、しかし抑え切れない彼の涙と嗚咽は私達にも伝わった。
 そして間もなくして、彼の家は引っ越していった。働き手を失った酪農家は、町に住むことでしか生きてはいけない。慣れない町の仕事と、働き場の少ない田舎町で、彼の家は一層貧しい生活を強いられたと話に聞いた。

 それから十年の後、私と彼は偶然出会った。お互いに大人びた、しかしあの頃の面影をしっかり残しているお互いを見て、私達は照れくさそうに笑った。そして少しの間私達は一緒に道を歩いたが、言葉は中々出なかった。その沈黙が彼が苦労を味わって来た年月の長さを表しているように感じた。
 彼が待ち合わせの時間だと言って私をある場所へ連れて行った。そこに待つ人は、ひとりの男の子と優しそうな女性……。いつの間にか、彼は家族を持ったのだ。私は彼の子供をまじまじと見た。その子は、十年前私と一緒に遊んでいたころの彼そのものだった。
 彼と私は互いに照れ笑いをしながら、「それじゃ、また」と言って別れた。

 ありふれた生活の中にも、少しずつ時の流れを感じずにはいられない。こうして、私もやがて父親になり、そして年老いて土に戻って行くのだろう。しかし、それが残酷だとは思わない。彼を見てそう思えるようになった。

  それじゃ、また
  いつか会う日まで……



1999-05『約束』byあでゅー

  その町へ初めて行ったのは二十六の夏
  帰省の途中の道草だった……

 夜遅く駅に着いた私は、重い鞄とギターを抱えて汗だくになって宿を探した。そして一泊五千円の安ホテルに何とか落ち着くことができた。
 翌朝、私はレンタカーを走らせ修道院巡りをした。ひととおり見学して満足した私は、最後に行った修道院で名物のクッキーを選んでいた。その時、幸運にも修道士達が私の横を通り過ぎた。
 私は失礼のないようにそっと彼らを目で追った。その穏やかな物腰と土に汚れた贅肉のない手。それが彼らの行き方を表している様に思えた。と、その時だった。
「おーい。○○ー」
 私のアダ名を叫びながら駆け寄る人がいた。黒い服に包まれた修道士。それは意外にも田舎の同級生だった。
「お前、そんな格好で何やっているんだよ?」
「いやーーー。えへへ」
 相変わらず笑ってごまかすアイツ。昔のままだ。
「元気そうだな」
「お前もな」

 彼が、なぜこんな所で修道士をやっているのかを聞きたかったのだが、それは彼に失礼に思えて私は聞けなかった。そんなだから、何を話してよいのか困ったが、当たり障りのないように、昔のことや同級生のことを話したように思う。そして別れ際に私は彼に言った。
「今度の正月にクラス会を開くから、お前も来いよ」
「うん、分かった」
 連絡用の住所という名目で、その修道院の住所と彼のもう一つの名前を聞きだすことができた。

 もう、あれから九年がたってしまったが、あの約束は果たすことが出来なかった。それは、彼がその年の秋に病死したからだった。アイツはしっていたのかもしれない。ふと、そう思った。
 私は、毎年その修道院へ行く。そして嘯(うそぶ)くんだ。

  馬鹿だな
  寂しい場所を選びやがって……



1999-06『新・竹取物語』あでゅー

 昔々、竹取地方のある村に竹取の翁(おきな)が住んでいた。
 ある日、竹取の翁が竹を切っていると、目の前に肌衣(はだぎぬ)をまとった若い女が現れた。何という可憐さ。竹取の翁は、見とれて呆然と立ち尽くした。
 その女は言った。
「その方、この竹林になぜ入って参った。わらわの安息の地を汚すもの。その方は、悪しき者か?」
 甘い声と香りに平静さを失いつつも翁、女の眼を一点見つめながら答えた。
「我は、この竹林の正当な持ち主。そして、この竹は我が書物を束ねる物。また、悪しき人かと尋ねられれば、我人であるゆえ、決して善い者とは言い難いことよ」
 その女は問うた。
「では、どうすればその方は、この竹林をそっとして置いてくれのか? そちの願い事を叶えるゆえ、申してみるがよい」
 何という幸運。ここぞとばかりに翁は言い放った。
「さすれば、我に世に出ても恥ずかしくない文才。そして、美しいその方が欲しい。この二つを満たさば、我この竹林より永遠に立ち去ろう」
 その夜、翁の蔵に数多の書物が積まれた。そして、あの可憐な女が寝所(しんじょ)に現われた。その日から、翁は書物を読み漁(あさ)り、夜なよな女の身体を貪(むさぼ)った。
 しかし、翁の幸せは長く続かなかった。二人が出会って三年目の夏の満月の夜、女は大勢の守護者達に迎えられ、翁の下を去って行った。

 何を隠そう、その女とは清和源氏の一族で源満仲が娘『源香耶(かや)』なのでした。竹取の翁、嵯峨源氏の一族で源順(したごう)は、その女が自分の姪であること、そして自分とは身分違いの清和源氏の娘であることを知り、保身の為に竹取物語を書くのでした。その物語の中で香耶は『かぐや姫』、その人だったのです。

 その後、竹取の翁はその物語と数多の歌によって世に認められました。そして、一人の妻をめとることなく、ひっそりとこの世を去ったのです。
 翁七十三才。一人の女を愛し続けた男の寂しい最後でした……。



1999-01s『永遠にさよなら~失恋』byあでゅー

あの夏 僕の心は砕け散った
暑いはずなのに 寒さに震えた
眠れずに ビルの屋上に上がり 大声で泣いた

君の事は すっかり忘れたよ
思い出しても 心は熱くならない
街で出会っても もうドキドキしない

あの夏 僕の心は砕け散った
君をあんなに好きだった心に 永遠にさよなら



1999-02s『最後に口付けを』byあでゅー


  ねえ、はるき
  今度のお休み、何処へ行こうか?

  山にでも行こうよ。雲が掛かる位の山へね

ハルキが連れて行ったのは、七光台
その日は、天気が悪く、二人だけだった

  どうだ、フユミ
  本当に、雲の上に居るようだ。俺たち

そっと、フユミの肩に手を廻す

  あっ

ハルキは、フユミの唇に触れる
そして、「トッン」と地面を蹴った
宙に浮く二人
何も言わずに抱き合う
静かに落ちて行く

ハングライダー

気持ちいー



1999-03s『悪魔』byあでゅー


寂しさというフォークで

肉体を押さえつけ

愛情というナイフで

魂を切り刻む



君は 悪魔



1999-04s『砕け散る硝子』byあでゅー


揺れる頭を両手で押さえ
千切れた右足を左足で前へ蹴りだす
裂けた傷口からは腸がはみ出し
地面に赤い血を跡に残す

今日は君の誕生日なんだ
折角ケーキも買ったのに
シャンペンは割れてアスファルトを
泡立ている



そうだよ
此の侭じゃ死に切れない
お前の上じゃないと
魂は離脱できないんだ

必ず逢いに行くよ
この山を越えて君のアパートまで



遅くなったね
少し転んだだけだから
気にしなくても良いんだ

良く出来た特殊メイクだろう
遅くなったのはその所為さ

さあ お祝をしよう
君の二十五回目のバースデー

こっそり用意した指輪は
何処かへ落としてしまったみたいだ
でもこれで許してくれるよね
ほら
俺の右眼だ

こうして逢いに来たんだから
これで勘弁してくれよ

今夜君の上で逝っていいか?
少し汚れるけど許してくれよ



1999-05s『七つの遊び詩』byあでゅー


「習慣」

今日の水道の水は冷たく感じる
きっと熱いからなんだろう
でも時々我慢できなくて
池から飛び出してしまう

池にションベンしたの誰だ
餌と間違えて口開けちゃったじゃないか

by鯉



「許可」

おい。この電信柱は俺のだぞ
こんどションベンしゃがったら承知しないぞ
これは俺の縄張りなんだ
俺の許可無しで入るんじゃない

入ってこれるのはハニーだけだ
三毛猫の可愛いハニーだけだ

byねこ



「食事」

この草は美味しい草です
アルファルファと言って舶来の上物です
一緒に食事に出掛けましょう

食事の後の水は最高
ゴキュゴキュ喉を鳴らして飲みましょう

byうし



「キス」

あなたの首にキスをして良いですか
私の牙を深く突き刺して良いですか
あなたは私の仲間になる
そして闇に出掛けましょう
二人で狩りに出掛けましょう

命を飲み干すように
人の血を一滴残らず飲み干しましょう

byバンパイア



「傘をなくしました」

今朝起きたら
傘が無くなっていました
ずっと持ち続けていた
大切な傘です

きっと貴方が壊してしまったのですね
私を棚から落とした時に

by博多人形



「話し掛けてください」

わたしは人魚
いつも橋の欄干でたたずむ人魚
わたしに振り向いて下さい
ずっと誰かに声を掛けてほしくて
待っているのですから

わたしも人になれますか?
恋がしたい年頃なんです

by人魚像



「たまには来いよ」

おい
たまには遊びに来いよ
こんな狭い所で
寂しいじゃないか
せめてお盆くらいは来てくれよ

それから言っとくけど
水よりもビールを掛けてくれ

by墓の中のじっちゃん



1999-06s『花よ』byあでゅー

花よ 咲き乱れて夜空に舞え

ひとひらの花びらが君の唇に濡れる
開かれる君の唇から蜜の香り
僕は蜜に群がる蟻のよう
身体を溶かし溺れる蟻のよう



1999-07s『狐火』byあでゅー


月明かりの中を
足元を気にしながら
急ぎ足で歩く

雲が掛かりませんように
祈る

この山を越えたら
あなたの村です

霧に包まれて
ひっそりと息をする
そんな佇まいです



月は霞んでいます
狐火を頼りに歩きましょう

道を外さぬように

こころ囚われぬように



1999-08s『だから火をつけました』byあでゅー



本棚の中からセピア色の写真を見つけました
あなたは満面の笑みを浮かべ
そしてその傍らに私の知らない女性

あなたはあの女性を好いていたのですね
そして今も大切な思い出として残しているのですね

わたしの知らないあなたの記憶
消してしまいたい


だから火をつけました


炎に包まれるあなたのお部屋
この世に残った想い出はわたしだけ



1999-09s『血にまみれた花嫁~サロメへ』byあでゅー



白い手袋は真っ赤な色に染まる
その手のは俺の脈打つ心臓
君は俺の心が欲しかったんだね

誓いのキスは右心室に
約束の指輪は左心室に

さあ 頬擦りしろ
これが俺の心だ
熱くて激しい振幅を繰り返す俺の心だ

さあ 飲み干せ
俺の心臓を傾けて口を当てろ

流れ出る血は俺の心
罪にまみれたどす黒い血も
お前の喉に流し込んでくれ

これで俺はお前の物だ

1995-1999てのひら小説と詩

1995-1999てのひら小説と詩

1995年から1999年にかけて書いた、てのひら小説と詩です。お気に入りは、「新・竹取物語」と「話しかけてください」です。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-25

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著作権法内での利用のみを許可します。

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