ドロぼえもん

 その日は社から持ち帰った資料をもとに新製品の構造に関する二三の付属部品の複雑なシミュレーションを行っていた。気が付くと深夜である。数値の度合いなど勘案しながら強度的な微調整を行っている最中であった。ゴソゴソと後ろから音がする。
 部屋の奥のタンスからであった。タンスには特に変わった点もなく、疲労が極致に達したものと思って嘆息した。台所で冷蔵庫を開けて飲み物を飲みながら一息ついた。天井の照明をぼんやりと見詰めていたが、隣の部屋のタンスの引き出しが独りでに開いたのに気付いた。朦朧としてなんとなく夢見心地でその様子を見ていたが、開いた引き出しからひょこっと半球状のものが隆起した。緑地に白い唐草模様の丸い物体。周囲を窺うようにくるくるっと動いている。卵ほどの大きさの楕円の中に黒い丸があって右に寄ったり左に寄ったりする点から、あれは目なのでは、とその時思った。決心したようにこいつは立ち上がった。
 立ち上がると全貌が明らかになった。極度に肥大した頭部、両腕の先に伸びた手は簡略化され大福餅のよう、頭部と同じ大きさの腹部、ひどく扁平で大きい足。紛れもない二頭身である。全体が唐草模様に覆われ、この物体は足音を忍ばせて部屋の物色を始めた。
 他の引き出しも開け、封筒など見つけると中を覗き、箱を見つけると振って音を確かめていた。腹部にポケットが付いていてあり得ないほど物が入るらしかった。こいつはその際限のないポケットに手当たり次第に物を詰め込んでいた。
「おい!待て!」
 こう叫んだとき、あいつはその際限のないポケットから筒状のものを取り出し、それを口に持ってくるとヒュッと息を吹き出した。吹き矢である。

 しばらくして気付いたときにはそこにあいつの姿はなかった。荒らされ物色された室内は高価な物ばかりが綺麗になくなっていた。タンスの引き出しはほとんどが開いて荒らされているのに、たった一つだけが閉まっている。ひどく扁平の足跡が残っていて最後にそのタンスの前で消失しているのだった。警察に通報すると、ドロぼえもんの手口に酷似している、と刑事は耳打ちした。何者ですか、と問うと、未来の猫型ロボットで泥棒猫だと声をひそめて刑事はこう言った。神出鬼没で、引き出しがあれば何処からでも入ってくるから手をこまねいている、何しろ未来から来るからね、と刑事は頭を振った。
 その時ハッとした。猫型ロボットと聞いて思い当たる節があったのだ。奇しくも、我が社の新製品は猫型ロボットだった。

ドロぼえもん

ドロぼえもん

緑地に白い唐草模様の猫型ロボットが書きたかった。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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