第8話-4

 ミザンが宇宙空間を移動する際に使用するのは、水で構築された亜光速通路ではない。あの道はティーフェ族の生存権だけで構築された水路であり、他の文明圏、恒星系へは水路を使って移動することはできず、そうした場合ティーフェ族は移動する巨大なクラゲを使用していた。

 正確にはクラゲに近い存在の巨大な生命体で、名をターミナズという。内部が空洞になっておりそこに水を貯え、調査、観光に出かけるのである。

 今回、ミザンは海洋調査として助手であるヌーク、ヤダス、ラエアの3名を引き連れていた。

 ヌークは口数が少なく人間でいうと21歳になるまだまだ若い女性だ。ヤダスは人間で32歳になり、ミザンとはもっとも古くから海洋学者の助手として研究を共にしてきた女性で、ミザンを常に補佐してくれていた。ラエアは人間の年齢に換算すると43歳。ヌークよりは早くにミザンと知り合い、ミザンの研究を手伝っていた。ちょっと抜けたところがあるが、知識は豊富、ミザンも頼りにしていた。

 4人は惑星ダゴルトから450光年離れたドワイア星系の15個ある惑星ならびに衛星の全海洋調査を、ドワイア星系連邦に依頼、快く受諾してもらったので、超空間を移動するクラゲのような、彼女たちはザンバと呼ぶ水分でほとんどが恒星された巨大生物の体内に入ったまま移動し、首星である第4惑星ビタニカ、フェルデ国首都ハリエナへ着陸した。

 ザンバは空気中でも生存がかのうで、どんな環境にも耐えられる一種の汎用生物であった。

 ドワイア連邦の本部が置かれている都市ハリエナは、周囲を真っ赤な木々で覆われ、首都自体も地表の地下に建設されている、地中で生活を営む種族サウエリアンが連邦の主な種族であった。

 クラゲ型の巨大生物が円形のコンクリートで塗り固められたかのような、直径50キロほどの、岩場に作られた人工物の上空に到着すると、コンクリートの中央に小さい穴が開く。そして15人程度の人物たちが姿を現した。

「ヌーク、着陸して」

 水中の中で白く真っ白な腕を広げるヌークは、クラゲのようなこの生物と水を介して意思疎通し、クラゲを操作していた。

 空中を漂うクラゲはゆっくりとコンクリートの人影のある中央へ降りていく。

 着陸と同時にクラゲは1つの水の塊を地上へと吐き出した。それは粘着物質で覆った水の塊であった。その中に空気中では生存できないミザンが入っており、地上を歩くと水も一緒に移動できる仕組みになっていた。

 ミザンの前には15人の人影が立つ。

 これがドワイア星系連邦の15人の議会。心の中でそうつぶやいた。

 ドワイア星系連連邦は、代表者を選出し15人ですべてを決議する。そこに民意は繁栄されず、サウエリアンはそれに従う。民主制といういう者はなく、上の物に下の者がしたがうという社会構造が構築されていた。

 緑色の皮膚、角ばった骨格と太く長い尾。ヒューマノイド型の種族であり、爬虫類から進化したと思われる容姿には、服を着るという習慣はなく、ただこの15人だけはすべてのサウエリアンを代表する人物ということで、灰色の宝石がちりばめられた鎧のような衣服を着用していた。

 ワニのように鋭い牙がある裂けた口を開き、長い舌を出してしゃべる独特の言語を、ティーフェ族の頭は理解した。ミザンだけではなく、ティーフェ族の124の種族はあらゆる宇宙文明の言語を学習する義務があり、幼少期より言語的、数学的知識が蓄積されていく。その結果、ミザンも当然のようにサウエリアン語を理解し、また口走ることができた。

 ところがティーフェ族には空気を振るわせる発声という器官がその割っておらず、口頭での交渉はできない。

 そこで彼女は水のまくに指先で文字を描いた。それは凄まじい早さであり、文字を書くというよりも入力するかのような速度であった。

 サウエリアンの文字で挨拶と今回の調査依頼を受けてくれたことへの感謝を書く。

 すると15人の議会の代表が口早に何かを伝えると、ミザンの顔色がゆっくりと紫色に変化した。ティーフェ族が不審に思った時の顔色である。

 サウエリアン語で謝意と代表が伝えた言葉への対応する文字を書くと、調査へ向かうことを文字で告げ、ミザンはクラゲのような巨大生命体の下部から内部へと戻り、サウエリアンの15人の議会もまた、出てきたトンネルからコンクリートの内部の都市へと戻っていった。

 空中に舞い上がったクラゲのような生物の内部で、ヤダスが両手を広げ、クラゲのような生物と意識を通わせる横に立ち、ミザンを見た。

「15の議会はなんていってたの?」

 水の中では流暢に言葉が通じるティーフェ族。

「水中で何かが起こっているらしいわ。ゴトフたちが水面が変だと言ってると。元々この編の水中には巨大生物が多く生息しているから、サウエリアンや、わたし達の種族だと大きさが違いすぎて水中生物が少し水面に顔を出しただけでも、命の危険があるのよ。それに以前の調査でドワイア星系の水中生物は原始的で危険性が高いことが解ってるから」

 ゴトフとはティーフェ族の言葉で漁師を意味していた。

 するとラエアが水中に言葉を吐き出す。

「調査はこの惑星から始めると聞いたので調べたところ、水中に生息する生物は全部で568フェザ種類。だけどベストライ海溝には未だに調査しきれていない海域があるから、まだまだ種類が増える可能性が高いわね」

 568フェザ種類。人間の言葉に言い直すと568万種類となる。それだけの生物が惑星ビタニカの海には生息していた。が、サウエリアンには海洋学という物が発展していなかったせいもあり、未だ、大海にどんな生物が生息しているのか、海底地図、海底の隆起、海底火山の位置など、まだまだ調査することは山積していた。

「とりあえず15の議会が言っていたベストライ海溝に向かいましょう。あそこで異変があったといっていたから」

 ミザンは最初の調査海域を支持した。
  


終わりなき神話第8話-5へ続く

第8話-4

第8話-4

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-13

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted