求めていた俺 sequel

第五部 「東西学園闘争編」

三十一話 死へのカウントダウン


朝霧雄馬率いる火天焔学園と『浪速のドッチボール大会』で戦うべく、大阪へと旅立つ事になった聖川東学園選手団一同。 しかしその途中で、東京・大阪間を飛行する大型旅客機、『スカイフェニックス810便』にてハイジャックが発生。 事態があらぬ方向へと難航し、桐生達が頭を悩ませている一方で。




辺り一面大量のコンテナが積まれた東京都内某所の工業地帯のアスファルトの上には、全身に大怪我を負って夥(おびただ)しい量の血を流している男たち5、6人の死体が散らばっていた。 その死体に囲まれて、白髪セミロングの男がポケットに両手を突っ込んだまま無傷で立っている。

男の首にかかったシルバーのネックレスが、太陽光に反射して煌びやかに輝く。


「ワタシの子飼いをよくも可愛がってくれたな」

コンテナの陰から、20代後半の青スーツの男が白髪の男の前に現れた。

「人聞き悪いな。喧嘩を売って来たのはそこに転がってるヤツらの方だぜ?」

白髪の男が答える。

「それにしても・・」

青スーツの男はあちこちに転がってる手下達の死体に目を移してみる。 見ると、全ての死体に共通点があることに気付く。

「見たところ君は手ぶらのようだが・・。一体何をしたらそんな ”一度に巨大な切り傷 “ を体に刻む事ができるのかね?」

青スーツの男が目の前で転がっている死体を顎で指しながら白髪の男に訊ねた。


しかし、白髪の男には”容赦“ という概念が無かった。

「論より証拠。 そんなに知りてーんなら、直接テメーの身体に教えてやれば良いだけの話だ」

「なっ・・」

青スーツの男に発言をする猶予は与えられなかった。

白髪の男がすでにアスファルトを走り抜けていたからである。

青スーツの男が咄嗟に反撃にかかろうとしたが後の祭り。彼の視界は、白髪の男が斜め上から高速で振り落とした『手刀』で埋まっていた。 否、視認している暇もなかった。


シャッ。


たった一瞬静かな音だけが青スーツの男の耳朶を打った気がした。

気がついたら、まるで点と点を結ぶ線のように青スーツの男の右目尻から左脇腹までが斜め一直線に斬り裂かれていた。


「グ・・・ガ・・ァァアッ!!」


青スーツの男が『ブシャア!!』というグロテスクな音を立てて、血液を流しながら膝から崩れ落ちる。


「ハッ、まだ生きてるのか。しぶといじゃねーか」

右手を血で染めた白髪セミロングの男が、うつ伏せに倒れている青スーツの男の頭の上に靴底をグリグリ押し付ける。

青スーツの男は瀕死状態にも拘らず、自分の頭を踏みつける白髪セミロングの男を睨みつけながら必死に口を紡いだ。

「そんな・・・大層な力を持ってして・・何が目的だ・・?」

白髪はポケットに両手を突っ込み相手の頭を踏みつけたまま告げた。

「もうじき死ぬテメーにゃ関係のないこった」

「この・・・ ”能力者殺し“ が・・」

青スーツの男の全身から次第に力が抜けていく。 そして、白髪セミロングの男は嗜虐的な笑みを浮かべて言った。

「おいおい、勝手にダッサいあだ名付けんなよ・・。俺様には ”祠堂流星” って名前があんだからさぁ」

男の頭を踏んでいた右足を、膝が直角になる高さまで上げる祠堂。

「や、やめっ、ワタシには妻と幼い娘が・・」


ゴシャッ


「あーばよ♪」

祠堂は高く振り上げた右足をそのまま落とし、頭蓋骨に叩きつけた。 今度こそ青スーツ男の息の根が止まる。


「俺様はそういうクソダサセンス嫌いなの」



・・・場面は大阪へと向かう『スカイフェニックス810便』に再び戻る。

「ファーストクラス」と「ビジネスクラス」のちょうど間の右側通路には、丈の長い真っ黒なワンピースを着用し、真っ黒なブーツを履いた20代後半くらいの若い美人女性がいた。

右手には何やら武器を持っているようだ。

若い女性は乗客全員にはっきり聞こえるくらいの大声で脅迫する。

「全員聞け!私の要求は金だ。一人ずつ私に金を渡せ!!金額は5千円だ! この要求を拒んだものはその場で撃つ!繰り返し言う。一人ずつ金を渡せ!!」


ハイジャック犯の女から最も近い座席に座っているサファイは、女が右手に持っている“武器”に注目する。同時に、ある事に気づく。

「(あれは拳銃じゃない。・・・水鉄砲?)」

そう。女が手に握っているのは実弾を射出する拳銃ではなく、一見なんの変哲も無い透明な『水鉄砲』だった。しかしそれでは脅しにならないのではないか?そんな事を思っていたサファイだったが、女が次に発した言葉によって疑問が解消された。

「これは確かに普通の水鉄砲だ。・・しかしだ! もしも、水道水がたっぷり入ったコイツに私が ”電流“ を流したら?」

「ま、まさか!」

女の言葉にサファイが・・・否、機内にいる乗客全員がもれなくが戦慄する。

「念のためもう一度言うが、この水鉄砲の中に溜まってるのは “水道水”よ。 そして水道水には電解質が含まれているの。みんなも中学の時、理科の授業で習ったはずよね?あとはそこに電気を流せば、ただの水鉄砲も立派な殺人兵器になるってワケ」


つまり簡潔にまとめると、電気を良く通す水道水の入った水鉄砲に直接電流を流し込んで、水を発射すれば一発で人間を感電させる事が出来ると言う事だ。 ただ問題なのは、水鉄砲に流し込む肝心な “電源” だが・・

「(まさか、電気系統の能力者か!)」


サファイの予想は見事に的中していた。 ハイジャック犯の女の右手の周囲には青白い光がバチバチと音を立てて弾けているのが見える。
ただこれまでの戦いで様々な能力者を数多く見てきたサファイや桐生などとは違って、他の一般客達には 『異能の力』という概念すら定着していないので彼らからは焦りの様子がうかがえる。


「コレなら、空港の保安検査や銃刀法に引っかからない武器として機内に持ち込めるわ。さぁて、そろそろ本格的におっぱじめようかしらね。これから私が全席を回るから全員私に5千円ずつ黙って渡しなさい。いいわね?抵抗すれば、撃つわよ」


女はもう片方の手に持ったスーツケースをガラガラと引きずりながら、一旦エコノミークラスの一番後ろの席付近の通路まで移動した後に、乗客一人一人の頭に水鉄砲を突き付けながら金を巻き上げ始める。 スーツケースは奪った金をぶち込む為に用意したものだ。

乗客達は恐怖と緊張混じりで不本意な態度を見せながらも『たった5千円で命が救われるなら安いものじゃないか』と、財布のがま口の紐を緩めていく。


その頃桐生は思っていた。この『スカイフェニックス810便』の全乗客約1200人から5千円ずつ奪っていったら合計およそ600万円も稼げるじゃないか、と。
さらに機内では電話などの通信機器は使えない為、外部に助けを求めることは不可能だ。 つまり、例の女はこのような『逃げ場のない大型旅客機でのハイジャック』という形で乗客達から選択肢を奪うという、大掛かりで尚且つ銀行強盗よりもタチの悪い巧妙な手口を用いて金を稼ぐ計画を企てて実行したという事だ。


「(そこまでして金を手に入れてアイツはどうするつもりなんだ)」



そしてとうとうその時はやってきた。


「おい」


女の声が聞こえたと同時に、桐生のこめかみには当たったら恐らくタダじゃ済まない水鉄砲の銃口が突きつけられる。

求めていた俺 sequel

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-11-12

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