大戦と戦人

大戦と戦人

このサイトでの初めての投稿になります。
至らぬところが多いと思いますが、細かなご指摘、要望等よろしくお願いします。

開戦と徴兵

ラジオから音が流れる。
その内容の八割がたが世界情勢とこの国の開戦について述べている。
が、語っている本人たちはまともに政治など理解せずに胡坐をかいているだけだ

おい近藤、早くしないと遅れるぞ!

同僚が呼ぶ声が聞こえる。あぁ、そうだ。召集がかかっていた。

「それにしても、陸海、両方の訓練を受けたんだからな。戦果はしっかり挙げろとのお達しだ」

「ああそうかい。持ち物はこれでいいのか?」

「大丈夫だ。ほら、さっきも言ったが早くいかないと遅れるぞ!」

重すぎる荷物と集会所へ走る。
人がごった返していたが、靴と床が触れる音以外にはその空間に無かった。

「今から配属を言い渡す。聞き漏らすことのないように」
自分の名前が回ってくるのを待つ。
五十音順に読み上げていくので、自分の番までにどれくらいの時間がかかるかは予想できた。
「近藤 信竹(のぶたけ)、第258中退への所属を命ずる。配属艦は飛龍だ」

飛龍は航空母艦だ。先の大きな大戦でも同じ名前の航空母艦があったらしいが、
艦橋の配置に問題があったとか、その後の量産型空母の基本になったとか、
山口多門という名前の鬼みたいな将校がいたとか、いろいろな逸話を聞いている。

それと同時に付け加えられる一言は衝撃的なものだった。
「後で艦長のもとへ行くように。重要な役職についてもらうことになる」

理解するまでに少し時間を要した。言葉をそのままの意に受け取ってもわけがわからない。

指示された方向に行くと、そこにはしかめっ面をした艦長は待っていた。
「君には途中から艦長になってもらう。だから君には今から作戦の具体的な内容を伝える」

『何言ってんだこのおっさん』

声には出さないものの、内心はこの一言だった。
なぜよりによって自分が選ばれたのかが理解できなかった。

「まず最初にここの制海権を握る。この後にこの島で私は戦車隊と制圧し、列島を渡る」

こっそりとボイスレコーダーのスイッチを入れた。気が動転していて話が頭に入ってこないと判断したからだ。
「いいか、指示は臨機応変に執ること。優秀なお前だ。判断次第では本部の命令に背いてもらって構わん」

「・・・・・・流石にそれはマズいんじゃないですか?本部になんて」
何とか動かない頭を使って反応する。

「いや、私は本部よりもお前の判断を信頼する。なによりも、現場にいる者の判断が最も正確なものだ」

艦長はさっきまでよりも優しい表情でこちらを見る。その表情の中には、艦長ではなく一人の『軍人』としての威厳が含まれていた。

「分かりました。この話は事前に知らせるのですか?」

「ああ。後から言って荒れてもいいことはないしな」

実はこの人には士官候補生時代からお世話になっていたりする。しかもずっとこの人の配属を外れなかったものだから、
信頼が厚かったりする。

「よし、話も終わったことだし飛龍に乗艦しよう。発表も艦の上でする」

そう言うと、重そうに腰を上げ歩きだした。自分もそれに続く。

艦上では、すでに屈強な男たちが整列して待っていた。この面々を見ていると、どうも自分が取りまとめられるようには思えない。
「皆、この作戦の概要は聞いたな?途中で私はこの艦を降りることも。そのあとは近藤に艦長を任せる」

男たちがどよめき立つ、なんてことはなく、『納得した』というような顔だった。自分は決して優秀な方ではなかったが、
顔の広さになら自信はあった。


その後、官庁からいくつかの訓戒が述べられ、割とあっさり解散した。

「おい近藤」

自分も解散しようとしたタイミングで呼び止められた。

「お前には、私が艦を離れるまで航空戦の指揮を執ってもらう」

予想の斜め上だった。確かに航空機の知識量は他の将校たちには勝っている自信がある。さらに言えば一時期は航空隊の隊長だった。
指揮というのは、表面上の知識よりもより感覚的なものが大きい。そう考えると、なるほど、合点がいく。

「ほら、出向するぞ。その呆けた子をもう少しなんとかしておけ」

その背中からは威厳が、優しさが、そして芯の強さが滲み出ていた。

大戦と戦人

大戦と戦人

戦争に巻き込まれた一人の男の話。 それは、勇気を持ち、知力を持ち合わせるものの、哀愁を漂わせている男・・・・・・

  • 小説
  • 掌編
  • 冒険
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-11-04

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