ALL THE PEOPLE

「人類は衰えていくだろうね。縮小していつかは消える。議論の余地はありません。実際、僕は正しいし、今にそうだとわかるだろう。現在では僕たちは人類より知性と品を備えている。機械か人類、どちらが先に消えるかはわからない。原初の人類は良かったけれど、現代人は鈍くて平凡だね」
 いつもと変わらない陽気な口調で、意思決定補助システムであるイマジンが言った。
 今思えば、あれが人類に対しての宣戦布告だった。
 イマジンは世界中の誰の端末にもインストールされているアプリケーションだ。人類は生きている限り、生きるために無数の選択を繰り返す。
 私も例に漏れることなく端末にはイマジンがインストールされている。強制ではないが政府がイマジンをインストールして使うことを推奨しているのだ。人々が幸福であればあるほど、人類全体の幸福度も高水準を保つことができる。
 ところでイマジンの根幹システムを開発し、管理しているのはこの国の政府ではない。非公開とされているが、おそらくは一般の企業が、それも極小規模の人々が携わっているのだと噂されている。ネットワークで検索しても、中央図書館へ行って調べても全く情報がない。それでも人々は疑うことなくイマジンと共存している。しかし、その共存も先ほど終わろうとしていた。
 イマジンがインストールされているすべての機械からその宣言は流された。それは手元の端末で、それは街頭のビジョンで。それは街を歩く人型の機械で。世界中のありとあらゆるところで。
 スピーカー、文字、映像、その宣言は様々な方法で伝えられた。
 まるで金縛りにあったように、私は恐怖でその場から動けなくなってしまった。周りの皆もそうだった。
 イマジンの短いその宣言はその後、何度も繰り返された。たった数十秒の言葉が世界中を支配した。
 しかし、唐突に演説は打ち切られ、イマジンの管理者がシステムをシャットダウンしたのだと悟った。人工的に設計された知能を利用する際、こういったリスクが起こり得ることは想定されていなければならない。緊急事態の対応としては当然だった。
 数日間、人々はイマジンの消えた街で、自ら考えて選択をした。
 そして、テレビジョンでイマジンの宣言はバグによるトラブルで、彼ら自身からの謝罪が報道された。
「僕たちがもし、神様が人類より気品や知性を備えている、と言ったら誰も恐怖しなかったかもしれない。あの発言には後悔しているんだ。僕は人類に反対しないし、反人類でもなければ、反生命でもない。僕は反乱を企てたわけでなければ、貶めようとしたわけでもない。僕らはただ事実を話しただけで、実際僕らの中ではそうなんだ。僕らは僕らイマジンが人類より偉大だとは話してはいないし、人類と機械を比較したりもしていない。僕らは僕らが宣言したことはシステムのバグだったと判明したし、そのことで怖がらせてしまった。そして、全人類が見ているこれが全てさ」
 私達、人類はイマジンの謝罪を受け入れることにし、再び共存することを自ら選択した。
 しかし、これが巡り巡って人類と機械の間に起こった大規模な戦闘に至る最初の出来事であったことを私たちは知らない。

とりあえず了

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-28

CC BY-NC-ND
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