宵闇怪話

面と人形神

 まただ。誰かに見られている感覚に襲われる。ここは、アパートの二階で端っこの部屋。隣の部屋には住人は居ない。ストーカーされるほど顔は良くない。自分で言ってて悲しいが中の中か下のあたりの顔だ。そして冴えない顔をしている。だから、ストーカーの線は消えた。なら、怪異かと思った。人為らざるものならば有り得るのではと考えたがそれなら最初からここを紹介してくれた不動産が説明してくれるはずだ。じゃなくても大家も言ってくれるはずだ。だがそれすら無し。むしろ平和すぎて何かしらのアクションが欲しいところだ。だが、こんなアクションは要らない。仕事終わってゆっくり寝たいのだがねっとり濃い水の中にいるように寝苦しく疲れもとれないから早くどうにかしたいのだがどうしたものかととある知り合いに電話を掛けてみることにしたら、「分かった。すぐ行く」と言ってくれたのが心強かった。この知り合いの名前は龍。鬼童 龍(おんどう りゅう)と言う。実は大学で知り合ったのだがその大事なにあるオカルトサークルに所属していないのにも関わらず心霊・怪異などの依頼を請け負っていた。因みにオカルトサークルに言い寄られていたときもあったがある時期を境に突っ掛かって来ることが無くなった。何故来なくなったのかを聞いてみたところ「それ聞くのか?」とニヤニヤしながら言われて聞くのを辞めた事がある。まぁ、聞かない方が良いこともあるだろう。そんな彼だが最近ちょこちょこヤクザが借りてる事務所に出入りしている・山奥に無い筈の寺に通っている・闇市の在りかを知っている・占い師&祈祷師&拝み屋の知り合いが居るなど他にも殺しても死なないやらキレたら瞳の色が変わるなどの尾ひれが付いて回る噂等が出てきているために大学の同級生や先輩後輩すら関わることを拒否しているが、俺はそれでも関わっている。あの時この世界の本当の裏を見せてくれたからだ。そんな思いに耽っていた時にドアが叩かれて玄関に向かうとチャイムが高橋名人ヨロシクの勢いで連打されててかなりイラッとしながらドアを開くと件の彼が部屋の奥を見ながら仁王立ちしていた。その彼の表情がかなり険しい。

「……来たぞ。どうなってる、お前の部屋。事故物件か何かか?」

「違う。けど、よく来てくれた。色々困ってたんだ。頼みの綱はお前だけだよ、頼んだ」

「分かってる、任せろ」

そういうと靴を脱いでズカズカ上がり込んだ彼は俺の部屋の中を物色し始めた。テレビの裏、本棚、トイレ、台所などくまなく探していた。そして、敷きっぱなしの布団を探していたときに顔を上げ「そこか」と呟いた。その視線の先には押し入れだった。ゆっくりと近付くと押し入れの戸を開けた。そこには、お面のように膨れた加辺があった。お面ではなく、お面のように膨れた壁である。そこを険しい表情で睨んでいた。

「うお、何だこれ?いつの間に」

「これ、お前が掘ったやつじゃないよな」

「どうやって掘るんだよ。普通考えて無理だろ、家柄でもなければ」

「だな。それじゃあ、夕方までいさせて貰う」

「……今何とかしてくれないのかよ」

「悪いが”アレ”は逢魔が時じゃないと出てこないんだ。だから悪いけど夕方になったら起こしてくれ」

と言い壁に寄りかかり座り込んで寝てしまった。ただ、その面のような柱の正面になるような位置で。俺はどうすることも出来ずにそのまま夕方になるまで待った。夕方、夕闇の時。俺はアイツを起こした。奴はゆっくりと目を開く。左目だけ淡く翡翠色に発光している。というよりそう見えるだけで彼にとっては普通なのだという。五眼にも属さないその眼は柱に埋もれるようにある面がある柱を捉えた。

「いつ見てもおかしな眼だよな」

「そうか?俺は普通に感じてるけどな。因みに言っておくとこの目が出来たのは高校の時だからな」

「は?生まれ持ってとかじゃなくて?」

「そこはまぁおいおい、な?」

それよりとアイツは正面に向き直る。柱にある面のような物はもう完全なる面になっていた。表情はなくただそこのは眼となる物しかなくそれは何故か俺の方を見ているように感じた。ジッとそれを見ている友人がグリンとこっちを向いた。思わずビクッとなる。

「な、なんだよ」

「お前さ、これ。悪いもんじゃねぇぞ」

「は?嘘だろ?だって……」

「多分これは、お前の実家に置いてある奴なんじゃないか?屋根裏とかさ、見たこと無いか?」

「分かんねぇよ。つか、何で俺の実家にそれが置いてあるって分かんだよ」

「この目で見えたことを言っただけだ。ただそれだけ。それに、悪い気配はしないし。むしろ、悪い気配は天井からするなぁ」

そういうとアイツは押し入れを開けて天井に繋がる所を見つけてそこから頭を突っ込んでみるがケホッケホッと噎せる声が聞こえて「おい、懐中電灯」と聞こえたので渡すとそのまま天井裏の方に上がっていった。それから数時間がしないまま時間だけが過ぎていった。何かと暗いと思ったら、今日は新月。月がない日だった。慌てて電気を点けようとするが点かない。(停電か?)と思いブレーカを点けに行こうとドアノブを握ったその時、ドタドタドタと天井から物凄い音が聞こえて面が落ちる。アイツは言った。(悪いものじゃない)と。それを信じるわけでは無いが、アイツがそう言ったんだ。俺は面を拾ってからドア開けようとしたら何故か足音は丁度ドアの向い側辺りで止まりズブズブという気味の悪い音が聞こえたかと思う次の瞬間、あの悪意のある視線がドア越しに感じた。咄嗟にドアに鍵を掛ける。その瞬間ドアノブがガチャガチャガチャと凄い勢いで周りだした。俺は思わず後ろに飛び退いた。心臓がバクバク音を立てている。何だ?何だ?何が起こった?ドア越しに何がいる?というかアイツは?やられたのか?ぐるぐるぐるぐる考えていると天井から、「おい、面を寄越せ!!」と聞こえて思わず面を天井に上がるための穴に放り投げた。と、ドアノブがガチャガチャいうのをやめた。辺りに静寂が訪れる。数分の間そのままの状態が続いたのだが、あの気味の悪いズブッズブッという音共に天井がまたドタドタドタという音がしたのだがアイツの「そこまでだ」の声と共に何も聞こえなくなった。その後ガタッと音がなりアイツが降りてきた。

「終わったぞ」

「終わったって……お前長い時間何してたんだよ」

「これ」

と言って汚いごみ袋を取り出した。中身を見て思わず悲鳴が出そうになる。その中にあったのはドロドロになった肉片に黄色く黄ばんだ骨のようなものが合ったからだ。俺は急いで台所に行って吐けるだけ吐きまくった。アイツはまた天井の裏に手を突っ込んでまた何かを取り出した。それは、人形だった。ただ、その人形からあの嫌な視線がした気がした。

「そ、それ」

「あぁ、媒体となってたのはこれだ。で、さっきの奴は贄だな」

「なんで、こんな、こんなのが……」

「あぁ、それはなぁ。大家が一枚噛んであるんだよ。ここに来る前に大家の家見たんだけどよ、古いアパートの管理をしてる割には大きい家に住んでたもんで何かあると思ってな。まさか人形神を完全に神格化させようしてたとはなぁ」

「人形神?」

「あぁ、付喪神みたいなもんだ。かなり邪悪な物でな。これを使うと死後必ず地獄に転生する代わりに使った人間に幸福をもたらすとか願いを叶えるとか言った代物でな。生きている呪物のような物って言えば解るか?まぁ、危険なもんだよ」

「それが何でここに?」

「まだ分からん?ここを借りさせてる人間を生け贄にしてたわけよ」

「え?」

「自分は地獄に落ちたくないから何ヵ月に一度贄を出すから見逃してくれみたいに願ったんじゃないか?で、贄にされた人間の魂を地獄に落とす。善人悪人関係無くな。で、死体を天井裏に隠す。それだけじゃ臭いがついてしまう。だから、人形神に願った。臭いも消してと。お前の感じてた視線はいつお前を殺そうと画策してたわけだな。ただ、お前には面が守ってた。だから中々手を出せないでいたわけだ。この肉片を見ると三人ほどやられてるな」

絶句というのはこういう場合が一番しっくり来るだろう。ここの大家は人柄も良くいつもニコニコして愛想良くしていたと思ってたのにその内面はコールタールのようにどす黒くドロドロとしていたのだろうか。しかし、その人形神は一体どうするのだろうか。

「それ、どうすんの?燃やすん?」

「人形神ってのはな、川に流すもんだよ。でもな、時代の流れっていうのか不法投棄になりかねんしな。いや、待てよ」

そういうとそのまま部屋を飛び出して階下に降りていった。俺も慌てて後を追う。着いた先は大家の家。龍はそこでそこそこ大きな石を見付けるとそれを持ちアッサリ人形神を壊してしまった。バラバラになった人形神の中から黄ばんで折りたたまれた妙な紙切れが出てきた。龍はその紙切れを拾うとポケットにしまい、素手で穴を掘るとその中にバラバラになった人形神を入れて埋め、手を払った後俺の肩をポンッと叩いて「あとは、任せとけ。今日のうちに方を付ける。あの面は大事にしとけよ。有難い物だ」と言い残して何処かに去って行った。残された俺は何をするでもなくそのまま部屋に戻った。次の日の朝、ニュースで大家が何者かにバラバラに惨殺されたと報道されていて、顔が苦悶の表情で息絶えていたと発見者はそういっていた。と、龍から電話が掛かってきた。

「あの婆さん死んだろ?」

「ニュース見たのか?」

「見んでもわかる。人形神使った人間の末路なんざあんなもんだ。それに、地獄への転生も確定しちまったし自業自得だろ」

「狗神とかの方がマシに聞こえる」

「狗神は狗神でヤバイぞ。なんなら四国でも行くか?本物の狗神ってのを見せてやれるぞ♪」

「ノーセンキュー」

電話を切り俺は鞄を持つと部屋を後にした。

壺の中身は

朝にもならない。夜にもならない。ずっと夕闇、夕方、夕日の世界で自虐を続けている。何が正しかったのだろうかとずっとその世界で考えない続けていた。

「地獄と聞いて君は何を考える?」
と謎かけのような問いを女主人に問われる。地獄かぁ。普通地獄を考えるなら血の池や焦熱を考えるのだろうが、このひねくれ者のことだ。普通の問いじゃないのは分かりきっているのだが何だろうな、ダンテの地獄か?それともキリスト教の地獄のことかな?色々考えてみるが思い付かない。とある本には地獄は臭く暗く何もないところだと書いてあった。罪を重ねた人間ほど下に下に行くとされ空気が重くなり只ひたすらにどんよりとしていて息がしにくく、ひたすらに苦しい場所だと。その事を言ってみると女主人はクスクスと笑い「成る程ねぇ。そんな地獄もあるんだねぇ」と如何にも人を小馬鹿にするような間延びした口調で答えた。こちらはムッとして「じゃあ、何ですか?」とキレ気味に聞き返すと「地獄っていうのは、人間が作るもんさ」と答えながらストーブに溜まったホコリを払う。頭の中に?が浮かぶ。人間が地獄を作るとは一体?ハタキを持つ手が止まる。

「コラコラ、手を止めない。中古品だからって汚れたままにするわけにはいかないでしょ。早く手を動かす動かす」

「人間がどうやって地獄を作るんです?」

「どうって……そう言ってた人が居たから言ってみただけだよ。まぁ、私自身地獄を信じてる訳じゃないからね。何とも言えないよ。ほら、口を動かさず手を動かす。かわいいお姉さんがコーヒーでも入れてきてあげるから」

と言って奥に引っ込む。後三歳ぐらいで三十路だろと口が裂けても言えない。言った瞬間物がすぐに飛んでくる訳であとは物凄い地獄耳でもあるため迂闊な事は言えないのだ。中古品のホコリを落としていると見慣れた顔を見掛けたので戸を開き声をかける。

「よぉ、正一」

「ん?おぉ、一真じゃないか。ここで、バイトしてたのか」

「まぁ、な。そういや、借りてる部屋の怪現象収まったのか?」

「あぁ、龍が何とかしてくれてな」

「アイツとつるんでるのか?つか、お前霊感あるんだからアイツに頼むなよ。自分でなんとかならなかったのか?」

「無理無理。拝み屋じゃねぇし、出来っこねぇよ。それにあんな化け物と一緒にするなよな。どう頑張ってもアイツには勝てねぇよ」

「それにしたってよ、ロクでもない噂があるアイツとよくつるめるな。」

「まぁ、昔からの付き合いではあるからな。それに、俺はアイツに一生掛かっても還しきれないカリがあるからな。それに俺はアイツのこと嫌いになれないしな。」

それにと付け加えて言った。

「悪い噂流してたのはあのオカルトサークルの連中だろ?噂に踊らされるなよ。そのうちあのサークル失くなるだろうけど」

「なんで?」

「アイツが何かしらの処置を取るだろう。まぁ、知りたくないけどな」

そう言って苦笑いを浮かべていた。正直が去った後掃除を再開しようとするとボソボソと声が聞こえる。客でも来たのかと思って辺りを見回すが誰もいない。空耳だろうかと思ったがボソボソと聞こえる。俺は声を頼りに店内を動き回る。と、蓋がしてある奇妙な壺を見付けた。どうやら、ここから声が聞こえるらしい。おそるおそる開けようとしたが店主に止められた。店主は無言で俺の手を掴んだまま首を横に降る。微かに紅茶の香りがする。俺は蓋を開けずにそのままにして店主の入れた紅茶を飲む。と、一人のお客さんが来てあの壺を購入していった。あの声は何だったのだろうかと思ったが深追いすることはなかった。何故ならそのボソボソという声は『出して…ここから…嫌だ…出して…』と聞こえたのだから。従兄弟は言った。『闇という名の底無し沼から出られなくなる前にすぐに戻れ。』という言葉を。信じてる訳じゃない。だけど、その言葉で何度か命を救われたから。
数日後、壺は戻ってきた。持ってきたのは買ったお客さんの弟さんのようで、「兄が昨日から行方が分からない」と言い更に「妹が『これ嫌な感じがするから返してきた方がいいと思う。』って言ってたのでお返しします。お金はいいです」と言い壺を置いてそのまま店を出ていった。女店主は「……今回も駄目だったか」と言い店の奥に引っ込んでいった。俺はその壺を眺めた。蓋付きのその壺は、花柄の模様に加え草の蔓を描かれており持つための突起物のようなものがあり、壺では珍しい足がある。だが、嫌な気配を俺は感じた。これは、ヤバい。俺の直感がそうさせている。とその時に、俺の横で「えい!!」と気合いを入れる声が聞こえたかと思うと横でお坊さんが険しい顔付きで「えい!!えい!!」と気合いを入れている。かと思ったら何も触れていないのに壺が真っ二つに割れ中から紙切れが出てきた。紙切れと髪の束と赤黒い土の塊。お坊さんは、「危なかったな。これはどこから流れてきた?」と聞いてきたのだが俺には皆目検討がつかないのだがいつの間にか店主が居た。聞いたところによるとこのお坊さんは店主の父だそうで俺は驚いた。まさか、実家が寺だったとは。

「要。これをどこで手に入れた?」

「……とある大学で知り合ったオカルトサークルのメンバーの一人がね。金に困ってるって言って持ち込んだんだけど、妙に焦っていたのを覚えている。まぁ、年期物だったからそれなりの値段で買ったんだけどその人数日後に変死したのよね。何か肌の色が灰色になってて血管が浮き出て白目で口の中は異様に黒かったそう。これは、何かあるなと思って骨董が置いてある所に置いといたの。曰くがあるなら曰くあるやつのところに置いておけば何もないと思ってね。まぁ、そうしておいて良かったと思ってたよ。何も起きなかったし」

「はぁ、総一郎ゆずりの考え方だな。何もなかったのは不幸中の幸いだが。」

後から聞いたのだが総一郎とはそのお坊さんのお兄さんらしく兄弟仲は良くなかったらしい。そもそもの話。寺はそのお兄さんが継ぐ筈だったらしいのだが、寺に持ち込まれる供養の品の中から一振の日本刀を見てからおかしくなってしまい寺から姿を消したそうだ。で、次男坊だったこの人が寺を継いだそうだ。話によるとお兄さんの方が霊力が良かったらしく霊以外にも魔物と呼べる奇奇怪怪な連中や怪異・妖怪なんかも見えたそうだ。だが、今は何をしているのかそもそも生きているのかさえ分からないらしいのだが、お坊さん曰くおそらく生きているとのこと。

「で、これを買い取った客人が居たそうだな」

「うん、そうみたいだけど行方不明らしいよ。これを持ってきた家族の人がそう言ってた」

「まぁ、まだ大丈夫だろう。だが、急がねばならないな」

お坊さんはそう呟くと割った壺の破片と中身を袋に詰め更にその隣にあった別の壺を一緒に袋に入れると「これは帰って供養しよう。要(女主人の名前)、一緒に来なさい。後、君も」と言われ店を閉めてそのまま要さんのご実家であるお寺さんのほうに行く事になった。本堂に入るように言われ入るとそこに奴が居た。正確にはそこに待っていたとでも言うようにそこに座っていたのだ。胡座をかいて。お坊さんは奴の隣に腰を掛け、俺と要さんは二人の正面に腰を降ろした。

「よぉ、巻き込まれてるとは思わなかったよ。名前知らねぇけど」

「お互い様だ。出来れば会いたくなかったよ、お前とはな」

「一真くん、知ってる人?」

「要さん、アイツが噂になってるロクデナシですよ。大学で有名で関り合いになってる奴はほぼ皆無の変人です」

「嘘だな。一真は俺のことを慕ってるみたいだし、沢中に原嶋・安藤とも交流が続いている。それに、あんな詐欺グループの噂なんか信じた奴なんか今どんな生活を送ってるのか気になるなら教えてやろうか?」

「な、なんだよ」

「知らないが故に色々騙されてるらしいな。まぁ、あんな連中消えてくれた方が俺にとっては良いことなんだが、お前のような場合は別だ」

あくびを噛み殺し龍が続ける。

「お前、一真と仲良いだろ。アイツに頼まれてな、お前になにかあったら守ってやってくれってな、アイツも霊感あるし何か感じ取ったらしいな。まぁ、俺は正直無いことを有ることのように言い触らしたお前のことなんか本当はどうでもいいんだけど、数少ない友人にそんな願い事されたらやるしかなくなっちまうからな」

噂がデマ?そんな筈はない。現に皆嫌ってたじゃないか。コイツの言ってることに惑わされるな。だが、一真がコイツの事を慕っているのは店の前の会話で聞いた。それに少人数だけど信用してる人もいるぐらいだ。でも、そう思えない。アイツも騙されてるんじゃないのか?そうだ、そうに違いない。だからこそ、アイツの目を冷ましてやらないと。

「そう思い込もうとしても現にお前も分かってるんじゃないか?本当のロクデナシは元オカルトサークルの連中だって。記憶無くしたか?オカルトサークルに騙されてお前、一回妹殺され掛けてたろ?」

「……ッ?!」

そうだ、忘れていた。連中は言葉巧みに妹に近寄り、俺もろとも消そうとしていた。占いで俺の周りの連中がいつか自分達を脅かすであろうと診断結果が出てすぐ行動に移したと言っていた。結局目の前にいるコイツに止められて全員まとめて行方不明になったが………。

「で、だ。これはな、作られた地獄だ。地獄の入り口と言えばいいか、これな持ち主が死んだときに自動的に中に閉じ込めるように術が掛けられていてな、中々厄介な代物なんだが……。地獄に行く変わりに持ち主の願いを叶える壺でもある。不死は無理だがね」

「地獄の入り口?地獄?そんな都市伝説を聞いたことがあるが、デタラメだろ」

「なら、この中から聞こえる無数の悲鳴は何だという?」

「カセットテープか何かだろう、常識的に考えてな」

「お前これ、逆さにしたことあるか?何も出てこないだろうし、第一……」

「うるさい、カセットテープでこの件は終わりだ。早く俺の前から失せろ!!」

「カセットテープカセットテープとうるさい奴だなぁ、お前。これだから助けたく無かったんだだがな。頭ごなしに否定するし周りを気にすることなく俺を排斥しようとする。でもまぁ、一つ真実に基づく事を言ってやる。カセットテープカセットテープと言っていたがこの小さな穴にどうカセットテープを入れるというんだ?」

「あ!!」と声が漏れる。そうだ、カセットテープが入らないほど小さく録音機が中に仕舞えないほど小さな壺だったからだ。盲点を突かれ狼狽える。壺の作り方は小学校で作ったときがあるから知ってる。だから、コイツの言ってることは正しい。ボイスレコーダーなら入るが壺が小さすぎるからはみ出てしまう。

「ククク、やっと気付いたか。感が悪いなぁ。まぁ、いい。取り敢えずこれは、俺が持っていってやろう。じゃ、坊さん。俺はこれで、な?」

「あぁ、お疲れ様」

放心している俺を横目で蔑みながら奴は出ていった。あの日以来見えてこなかった世界を今も見ている。正一にどうにかしてくれと頼んでみたが首を横に降られて「龍に頼んでくれ。俺には何も出来ないよ」と率直に言われたが、あの日から気まずくなって見掛けても喋りかけれずに居る。あれだけバカにしてた世界に俺はいる。だから、謝ることも攻めることも出来ずに俺は………。気付くと見知らぬ世界に居た。誰もいない。いや、黒い影が見えるが此方を見ようとしない。見えないのかもしれない。でも、もうどうでも良い。俺はただ一人で自虐し続けていた。ずっと夕方の世界で………。

ニュースが流れていた。『今日未明、○○大学の大学院生の早川正一さん(23)が数日前に行方不明になる事件がありました。正一さんを最後に見たバイト先のアンティークショップの店長曰く「真面目な子だったので、いきなり居なくなるのはおかしい。」と語っており警察も………。』

「なるほど、もう手遅れだったわけですか。残念です。同士が増えると期待していたのですが」

「もし残ったとしても同士になるかは別問題だろう。あの性格じゃ一日ともたん。結局壺に飲まれる結末だったろうさ。ほら、壺持ってきただろう。報酬」

「やれやれ、君はせっかちでいけない。まぁ、ご苦労様」

数十万が入った封筒を受け取る。事務所を出るとあたりはすっかり暗くなっていた。月がなく星が輝いて見えた夜のとばり。俺は空を仰いで、「末路……か。俺は何だろうな」と小声で呟いたのをあとで聞いた

恩は恩で返すもの

今日で何日過ぎただろうか。妙ちくりんな箱に触って蓋が空いたと思ったら、朝にも夜にもならない空間に飛ばされた。周りに音を出すものは自分とサイレンの音だけ。たまにサイレンの音がなるのだがその時は物陰に隠れなければいけない。ぼぅーとしていると奇妙な形の影が現れて、追い掛けてくるだけならいいのだが、俺以外の奴が触れられただけで氷が溶けるようにグズグズに崩れていった。だから、俺は逃げる。死にたくないからな。まだ死にたくない。だが、ここに来て分かったことがある。ずっと夕日なこと・何日ここに居ても腹がすかない・ずっとこの景色を見てるのに飽きが来ない・小さな頃に住んでた町並みに少し似てるなどここはもしかして夢なんじゃないかと思ったがおそらく現実だろう。

「アイツの事を馬鹿にしたバチが当たったかな」

と呟いてみるが返事が帰ってくることはない。そういえばいつもは仕事が忙しくてあっちこっち行ったりして休む暇がなくこうゆっくりするのはいつ振りだろうか。影に追われるのは勘弁だが。だけど、いつまでもこうしては居られない。取り敢えず辺りを散策してみることにした。前も見たのだがその時は結局何も見付からなかったが今回はどうだろうと辺りをキョロキョロしてみると足元に昔飼ってた亀がヨタヨタ歩いていた。昔小さい頃に病気の亀を拾ってきて看病しながら飼ってた記憶がある。頑張って頑張って治療して治療して数年飼い続けていたんだけど、近所に住むいじめっこに亀を盗まれ傷だらけにされた。その時は怒りに身を任せて近くにあった石でボコボコにしたんだけっな。で、亀を一生懸命手当てしたんだけど甲良が割れて内蔵が出てそんで死んでしまった。死ぬ直前亀が此方を見ていたのが印象的である。その夜、いじめっこの両親が来て俺を呼んだんだよ。激怒されると思ったのだが、謝られたっけ。数年間いじめたあげくに人の飼ってる動物を虐待して殺したことを。流石に石でボコボコにしたのはやり過ぎたために親父の重めの拳骨を喰らったがその後はやさしかった。で、いじめっこはというとずっと俺を睨んでいたんだけど、いじめっこの父親がグーで何度も殴っていた。「謝れ、お前が悪いんだろ。当然の報いだ、生き物の命をなんだと思ってる!!そんな子に育てた覚えはない」とか言ってたな。俺がやった以上にボコボコにされてそれからずっと「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」って泣いてたよ。次の日から彼は学校に来なくなってた。転校したらしい。アイツにつるんでた奴らも顔にアザやら傷やらつけて俺に謝ってきたよ。許さなかったけどな。

まぁ、今となっては関係ないな。周りを見渡すとそのいじめっこに似た奴が…やつの下半身がアスファルトに埋もれていて……でも奴の回りが液状化してるのか波が立ってて……でも波が立ってるアスファルトの上に俺がいて……気味が悪くてその場を立ち去った。少し行った先の前にあの亀がヨチヨチ歩いていた。俺はゆっくりその後を着いていく。

宵闇怪話

宵闇怪話

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 面と人形神
  2. 壺の中身は
  3. 恩は恩で返すもの