*星空文庫

人狼ジャッジメント 病院パロ アナザーストーリー

メイロラ 作

人狼ジャッジメント 病院パロの来世 ローラのみ記録がある設定です

私はとある病院で看護師をしている。
まだまだ見習いで、日々勉強って感じではあるけど。

「おはようローラ」

アンナはこの病院の医者で、私の友人。

「おはよう、アンナ。今日はミカの通院の日ね?」
「そうそう、もはや、通院というより、エリック先生の苦情受付日みたいになっているけど」
「え、また何か言われたの?」
「ロディの枕がね……いや、とても口に出せないようなことを。ロディは真っ赤になって怒ってたし」
 ロディはアンナの恋人だ。アンナより7歳も若いけど、アンナにぞっこんで人目をはばからない愛情表現にときに目のやり場に困るほどだが、エリックにかかるとたじたじらしい。
「ふふふ。想像つくわ」
「他人事じゃないわよ! あなたも、恋人ができたら言われるわよ。夜の事情についてあれこれと」
「……そうね」

 とりあえず濁しておく。
 私に恋人はいない。その理由は実にくだらなくて、誰に言っても信じてはもらえないだろうから、アンナにも言ってない。
 でも、アンナはなんとなく気がついているような気もする。
 気のせいだったら怖いから、言えずにいるけれど。
 
 看護師をしていれば、きっと彼にまた会える。

 ……そう信じているなんて。


 そう私は信じてた。

 でもこんな結末を望んでいたわけじゃない。
 
「マイク、マイク先生よね!? 嘘! 目を開けて、ねえ!」
「だめだローラ、離れるんだ!」

 彼が緊急搬送されてきたとき、彼の背中にはまだナイフが刺さったままだった。その出血ですぐに助からないと普段の私ならわかったはずだった。血の気のない顔、でもすぐに彼だとわかった。

 気がつけば、私は病室で応急処置を済ませた彼の手を握っていた。
 家族でもないただの看護師が許されるはずのない行為だが、おそらく誰かが手を回したらしいと思ったのは、かなり後になってからだった。

「マイク先生……」

 思わずつぶやけば、かすかなうめき声が聞こえた。

「……なんで、俺の名前……」
「マイク先生! 目が覚めたのね、マイク先生!」
「……どこだ、ここ……先生?」
「動かないでください! 傷が開きますから! 待っててください、今先生を呼んできます!」

 駆け出そうとした私の背中を弱々しい声が呼び止めた。

「待って……いくな……」

 青ざめて苦しげな息遣いながら、彼は必死に私を見つめていた。

「マイク、さん」

 呼び方を変える。そう、彼はマイク先生ではない。私は彼にとってたまたま運び込まれた病院にいた看護師にすぎない。
 ……それでも。

「あなたは、もう……きっとまた無茶をしたんでしょう! こんなぼろぼろになって! だめじゃない!」
「……しかた、ない……だろ、女の子が、絡まれて……たから」

 それはもしかして、マイクと一緒に運ばれてきた女の子の事だろうか? 私と同じ桃色の髪の子だった。
 複数の人間に殴られた後があって、ショック状態だから今は睡眠薬で眠っている。命には別状ない。

「まさか……あなたは、本当に、優しいところも、正義感が強いところも変わってない……」

 思わず、ぼろぼろと涙がこぼれた。手を握るけど、当然握り返しては来ない。

「なんの、はなし? ……おれは、あなたを……しらない、けど」 
「そう、ですよね、わかってます。その、あなたがあまりにも、ある人に似ていたから。その……古い、知り合い、なんです」
「そうなんですね……どんな人だったんですか……もしかして恋人?」
「しゃべらないで、傷が開くから!」

 突然マイクが、苦しんでうめき声を上げた。

「ぐつ……!」
「マイク!」
「はは、俺、死ぬんだな……わかるよ、なんとなく」
「しゃべらないで! 死なせません! 私が私が助けます! どんなことをしても!」
「いいんです。いいんですよ、看護師さん……人はいつか死ぬんですから……泣かないでください。俺のために」
「そんなこと言わないで! やっと、やっと会えたのに!」
「少し、頼めますか?」
「なに、マイク?」
「抱きしめていてもらってもいいでしょうか?」
「……はい」

マイクの体に腕を回す。傷が開かないようにそっとただ触れるだけの抱擁。

「あり、がと」
「いやよ、置いていかないで! あなたが居ないと私は、私は……!」
「最後にあなたに会えてよかった……」
「嫌よ! 許さない! ずっとずっと待ってたのに! 諦めないで、泣いてばかりでしょーがないやつだなって言ってよ!」
「ははは、しょうがねーなおまえ、は……」

 最後の力を振り絞って私の頬に伸ばされた手が落ちる。
 ……そしてその手は、二度と、上がることはなかった。



目を開けると私はそこは病室だった。どれくらい眠っていたのだろう。
多分、恐慌状態になって、誰かに眠らされたのだろう、おそらく、彼あたりに。

「おや目が覚めましたか、ローラさん」
「エリック先生」

 目だけを動かしてエリックを見る。いつもどおり腹が立つほど心のうちを見せない完璧ににこやかな笑顔。

「気分はどうですか? っていいわけないですよね、失礼しました」
「夢を見てました」
「は?」
「……エリック先生とミカと、ダブルデートしてました。ミカ、歩けるようになって、嬉しそうに笑ってた。でも、エリック先生が私と彼の関係をからかってばかりいるから、ミカにめちゃくちゃ怒られているんです、エリック先生が。変ですよね。私、相手なんていないのに」
「そう、ですね……それと関係あるかはわかりませんが、これ」

 ベッドサイドのテーブルにコトンと何か置かれる。
 私は目を見張った。

「あの、マイクとかいう患者さんの病室に落ちていたものです。でも名前書いてないし、もらっていいと思いますよ?」
「……そんな馬鹿な」

 その指輪のデザインには見覚えがあった。忘れるはずがない。くれた人の照れた笑顔も、受け取ってどんなに嬉しかったかも。

「じゃあ、そういうことで……」

なにがそう言うことなのかわからないが、エリック先生は行ってしまった。
おそらく、エリック先生は私を見張りに来たのだ。私がショーン先生のところにでも行くんじゃないかって、想像したのだろう。
でもそれは違う。
……私は。


「おはようございます。ご迷惑おかけしました。申し送りよろしくお願いしますね! 今日も元気に行きましょうね」

翌日、出勤してきた私を見て病院の誰もが驚いた顔をしていた。
よほど私は、狂ったように暴れたらしい。
そう思うと恥ずかしい。
さっそく、アンナがすっ飛んできた。

「ちょっとローラ! だめよもうちょっと寝てないと!」
「ううん、大丈夫よ」
「無理しちゃだめよ! ローラはしばらく休むって私から連絡してあるから大丈夫だって!」
「ううん、働きたいの。ごめんね、心配かけて」

 口に手を当てて笑うとアンナが驚いた顔をした。薬指の指輪に気がついたのかもしれない。

「さ、今日もがんばろう! 患者さんが待ってる!」

 笑顔で私はナースステーションに入る。
 ……これが私が出した答え。

 だって、私は正しかった。
 看護師をしていればきっと会えるって。
 


あれから20数年の月日が流れた。
 救急搬送されて亡くなった患者が居たことなど、覚えている人はいないだろう。
 私以外は。

 私はすっかりベテラン看護師となり、主に新人ナースの教育に当たっている。
 ナースステーションにいるとひっきりなしに呼び出しがかかるから、お昼は屋上で食べることが多い。
 この屋上に入れることを知っている人は少ないから、あまり人もこない。
 しかし今日は先客がいた。アンナだ。
 
「あら、ローラ、ここでお昼?」
「あらアンナ、いいの院長がこんなところにいて」
「いいのいいの! ほとんどロディがやってくれてるし!」
「君のためなら朝飯前さ!なんてね、本当にうらやましい」
「恥ずかしいんだけどなあ……いい年して」

 アンナの幸せそうな顔を見ているのが私はなにより好きだ。
 私たちの友情は、アンナが院長。私が看護師長になり、お互い白髪が目立つようになっても変わらないと思っている。

 アンナの座っているベンチの横に腰掛けると、今日のランチを広げた。
 
「そうだ。 今日から研修医が一人増えるからね。 ローラよろしく。」
「そうなんだ。 そうだね、確かに患者さん増えて忙しいもんね。いい人だといいね」
「ほーんと。ちょっと休みほしいわ。 ……って言ってる傍から呼び出しだ。またねローラ」


アンナを見送って、ランチを食べ始めたところで、屋上のドアが開く音がした。
今日は一人になれそうにないな、とため息を付きかけたその時。

「ローラ」

その声。真新しい白衣。短く切りそろえた金色の髪。切れ長の目。少し唇の端を上げる笑い方。
思わず立ち上がると、サンドイッチが地面に落ちた。

「わりぃ。待たせた」



【完】

『人狼ジャッジメント 病院パロ アナザーストーリー』

『人狼ジャッジメント 病院パロ アナザーストーリー』 メイロラ 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-10-12
Copyrighted

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