能無しの家

 赤い家があった、彼はその家でただ一人いすわっていて、毎日絵をかいていた。

「なぜ僕はここにいるんだろう」
 手洗い場には鏡がない、風呂場には安らぎはない、ベッドには生活感がない、きれいすぎるほどきれいで、それゆえに彼はそこに自分の居場所を見いだせない、むしろこけむしていて、ひびわれていて、ひどく自分に汚染されたように見えるときもある、それはたまの来訪者がくるときだ、来訪者の中には、何度もくるものもいて、確かに年を取る、だが彼は年をとらない。

「なぜ僕はここにいるんだろう」
そこはその場所にいるその人間にこそ理由があるのだ、そこは廃墟だ、鏡は割れている。そこにくるのは彼を茶化しにくるものだろう、彼は亡霊だ、そのことに彼は気づかない、だからこそ、彼は自分が能無しになった理由に気づかない、彼は成長しない、その代わりに、年老いるという事もしらない。

能無しの家

能無しの家

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-22

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