ガラスの世界と空想美人

こんな夏の終わり

台風の朝

僕らが願った 平和の世界


部屋の窓に 雫がへばりついてしまって

それがなんとも言えなく 綺麗だと思ったから

君のようだな なんて


この時代に生きていることに違和感を感じてしまう

なに不自由なく

それでもって普遍的でありながら

僕はもっと苦労の多い時代に生まれるべきだったかなあ

こんなにもありふれた家庭に

こんなにもありふれた友人たち

君はそういう 当たり前の幸せを望んでいたんだろうけど


泣き声が あまりにもうるさくて

世界は誰かのために涙を流しているようだ

庭に繕った 綺麗な花たちも

一夜にして一瞬で なくなってしまうのだから

悲しい なんて


花は まるで少年のようだ

この世に命を授かり 花咲く時を待っては

危機に晒されたり そのまま命を吸い取られたり

それでも生き残った者だけが

美しくこの世界にご挨拶できる

綺麗だな 綺麗だな

そんな風に僕たちが思ってしまえば

花たちは いつの間にか

大人になって

老いぼれて

とても少年らしい花


君の幸せとはなんだったんだろう

花を育てること

最も子供らしく 雷なんかを怖がることだろうか

そのどれもが正解で

君は生きているうちに そのどれもを

実現することができなかったんだ

でも 君を過去に残したまま

未だに 雨風や雷を怖がっている僕だから

君の幸せは まだ叶えられるかもしれない

もうここにはいない君の幸せなんて

僕が願っていいものでもないのだけれど


君がいればいいのに

君がいればいいのに

僕にこんな日が来るなんて

いつだって自分のことばっかりで

君になにもしてあげられなかったな

君のわがまま一つぐらい聞いてやればよかった

君の生きる意味になりたかった


君がいればいいのに

今すぐにでも君が僕のそばに来て

また あの頃のように

なんでもない小さなことを話せるような

そんな日常を

そう願ってしまえば

僕はたまらなかった



こんな秋の始まり

台風の過ぎ去った夕方

君はまだここにはいない

ガラスの世界と空想美人

ガラスの世界と空想美人

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-04

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