第6話ー1

《別のオムニバースに属する宇宙》

【ホウ・ゴウとアンナ・ゲジュマン、前世の記憶】

この宇宙には巨大な星間国家ジェザノヴァが勢力を拡大していた。顔にクリスタルが埋め込まれたモハンリアンが主として生息するジェザノヴァは、クリスタルを主原料とし、反重力エンジン、ワープ航法などの技術力と圧倒的な兵力動員数で、各星系、惑星、衛星、国家を属国にし、あるいは焼野原にしていた。
長い歴史の中で堅実なる80代国王ン・ドフが収める国家は豊かであった。
国王には信頼する2人の娘、ン・メハ執政官、ン・トハ軍省総官がいた。2人はジェザノヴァ国の双璧となり政治と軍事を取り仕切っていた。
ところが原生生物の細胞を変化させ、増殖し、転送装置と思しき黒い渦から現れる謎の生物群が戦況を一変させた。拡大した前線は崩され、これに便乗した北の蛮族星間国家バジャラハ国が南下を始めたのである。
前線で戦っていたトハ総官は首星バエウから標準時間で2週間の位置まで逃げ延びたが、反重力エンジンの故障で標準時間通りにしか首星へは航行できず、首星では国王ドフが最後の守備である近衛軍団までも前線へ投入することを勅命として発令するのだった。

《王家の物語2》

 アイカイア銀河を中心とした宇宙全域に広がるジェザノヴァの勢力は今、揺らぎつつあった。
 首都グンタロスのクリスタルの都の中心にあるタワーワートのテラスから、王族、交換が見つめる中、近衛軍団のきらびやかな軍艦が30億隻出撃していく。これは首星バエウと首都グンタロスを守る最後の軍勢であった。ワートのテラスに居並ぶ国王と王妃。そしれ執政官で長女のン・メハは、その圧倒的なクリスタルの艦隊が起こす風に髪をなびかせ、無重力エンジンの独特の甲高い音が、どこか国の瓦解の音にも聞こえた。
 テラスの下には大勢の国民も集まり、艦隊の出撃を歓声で見送る。自分たちの剣と盾が去っていくことも気付かずに。
 宇宙空間へ進出した近衛軍団の艦隊は、さらに宇宙空間で待機していた他の艦隊とも合流すると、各方面へと遊撃軍団として発進していった。
 執政官は軍団の出撃を見送るとただちに首星を守る対策を講じた。まだジェザノヴァ側についている各国の代表を一室に集め、バジャラハ国の軍隊が宙域を通過した際の迎撃を依頼した。
 星間国家ジェザノヴァとそれに属する国々、惑星、衛星の間には、属国という言葉はあまりふさわしくなく、どちらかというと連邦に近かった。ジャザノヴァから命令という形で迎撃を発令することはできず、あくまでも依頼という形でしかなく、受けるか受けないかも相手国家の自由であるのだ。
 中には軍事力を持たない、中立国もあるためその宙域をバジャラハ国の艦隊が通過しても、迎撃する手段はなかった。
 それでもメハは各国代表に正式依頼を行い、少しでも自らの足元を守ることを選んだ。
 次に軍省参謀本部の方針を聞いた。参謀本部も自らの周辺の盾を外されたことに動揺は隠せず、軍省も混乱していた。各方面軍団とのやりとり、そして新しい戦況の確認、戦況を判断しての命令と、バケツをひっくり返した騒ぎである。
 参謀本部としては惑星周辺に機雷、迎撃衛星配備などあらゆる迎撃兵器の配備を急いでいた。
 執政官としても防衛として今できる最善の方法だとして、これは参謀本部へ任せた。
 あと彼女ができることは、バジャラハ国との間で揺れ動いていると思われる各国代表との交渉である。ここで敵国を作ってしまえば、それだけ敵軍の進軍を早めることになるからだ。
 執政官としての権限を最大に生かし、国王への報告は事後報告としてメハは揺れ動く各国へ、貿易関税の免除など特別待遇を約束してジェザノヴァへつなぎとめた。
 事態が動いたのはしかしそれから惑星バエウ標準時間で2日後のことであった。

 まだ執務室のソファで仮眠をとっていたメハは、激動するこの2日間の間のようやく見つけた隙間の時間、本当に僅かな時間の眠りの間であった。突如としてデスクの緊急回線が開き、髭ずらの参謀が姿を現した。
 それと同時に緊急警報がクリスタルタワー、ワート全域に鳴り響いた。
 慌て浮遊するソファからとび起きた彼女は、転げ落ちそうになりながら立ち上がり、クリスタルのヒールをはくのも忘れ、白く細い素足でデスクへ駆け寄った。
「ただいま機雷地帯が爆発を起こし、敵の艦隊を確認いたしました」
 参謀は冷静な口調だが、その額には冷たい汗がにじんでいる。
 この文明の特徴として、クリスタルのエネルギー機雷とプロトンビーム衛生は、クリスタルの惑星をおおいかこむように配備され、外界からの船舶侵入は、決められた進路での侵入が決められております、交易を目的とする船舶も、侵入進路へ入る前に、徹底的に船内、船外を調査されている。
 だから間違えて機雷が爆発し、溶解エネルギーが放射されることはない。
 デスクを操作して宇宙空間のホログラムを出すと、そこには溶解エネルギーが放射され、次々と爆発の連鎖が起こるのが見えた。
 黒塗りの鋼鉄の塊。つなぎ目にはサビが浮いた全長が100キロはある大型戦艦。それが惑星をとり囲むように首星宙域へ迫り、機雷の波に突入していく。
 その軍艦の形状と禍々しいクロ塗りと錆びた軍艦は、バジャラハ国の艦船そのものである。
「何故、侵入前に探知できなかった!」
 苛立ちで参謀にメハは迫った。
「そ、それが探査装置は正常を示しており、なんの気配もありませんでした」
 ついに最悪の悪夢が現実化した、とメハはデスクを手のひらで叩き、奥歯を歯ぎしりするのだった。
「国民に避難命令を。防衛可能組織に敵との交戦準備を。惑星全域に警戒令を発令だ」
 国を守る戦いの始まりだった。

ENDLESS MYTH第6話ー2へ続く
 

第6話ー1

第6話ー1

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted