未来予知能力

 僕には前世の記憶がある、といっても自分の前世の記憶ではない、妙な言い方をしたが、近くで不幸にも亡くなった人間のたましいが時にとりついて、その一瞬に自分に記憶を流し込むのだ。だから僕はあまり霊と接触しないようにしている、が見えてしまうし、触れてしまうのは仕方がない、そんなことが馬鹿げてる、ありえないといいってもあるものはあるのだから仕方がないのだ。といっても僕も普通の高校生で日常生活があるので、普通に通学して踏切のひとつや二つくらい見る、そのうちの、先に通る踏切の一つで近頃事故がおきたんだ。

 今朝は5日前に起きた当時の——踏切事故の映像をみた。そして、彼女が……踏切に飛びこんでなくなった高校生の女性がとある特殊能力を持っていたことがわかった、未来予知能力だ。ここで不思議に思う方もいるだろう。未来が予想できるなぜ彼女はなくなったのか?分からない人のために、このメモを書いているといってもいい。
 たしかに彼女は日常に苦痛を感じていたようだ、まがりなりにも自殺、彼女は苦しんだ。未来予知能力ですべてがわかるから、という事ではない。自分の時間が、人の何倍も速く感じるからだ。実際早かったのだ、だからこそ少しだけ未来を見る事ができたのだ、彼女の魂は人が溜息をつく間に、常人の一日に体験する出来事を全て終える事ができるほど体感時間を伴って、肉体を置き去りに、魂、意識だけが常人の何倍もの速度で働いていた。魂だけが先にいくので、肉体は後からついてくる、肉体は高速で動くわけではない、その限度を分かっている、わかっているのに、あるいはだからこそ……かもしれない。

 踏切を通る間際、彼女の声をきいて、彼女は一瞬僕にふれた、その瞬間、記憶と経験が共有される。僕は見た。前世の記憶の中、自殺―—とおもわれた寸前―—彼女がとある少女を救ってしまったのを。

 誰も気づかない彼女の死の本当の理由。救われた少女さえ、その母親さえ、そのことに気がつかなかった。むしろ、事件をみて野次馬になり、自殺なんていやね、なんてつぶやいたのだ。だが彼女は救った。踏切に置き去りにされた5歳児を、救った。母親が野次馬になりかわり手を引いていたその少女を。
 彼女には未来は見えていた、だが変えることはできなかった。彼女の世界は高速で動いていたが、それほど遠くの未来を見渡せるわけではなかった、ただ孤独で、恐ろしかったのだ。家族に打ち明けようと思ったこともあるが、彼女はまだ若すぎた、あの朝、踏切事故の朝、普通の時間に通学し、駅へと急いでいた、踏切にたどり着き、彼女は一息をついた、鞄の中の小説をとりだし、余裕がありすぎる魂と精神の体だけで、それを一冊よみおえた、降りていく遮断機。前をみる、直後、彼女の目にはいった小さな少女、すぐに気がついた、母親とはぐれたのだ、周りの大人は気づいていない。遮断機はおりかけている、だから彼女は気がついた、踏切の中の少女を救うためには時間が残されていない事に。そして肉体は、とっさに動いた、その肉体を動かす間に、常人の何倍も、何十倍もの時間をすごし、彼女は悩み、苦しんだ、しかし肉体は踏切の中にはいった、彼女がしぬなら、少女を救わなくてはいけない、肉体の限界は、すでにさとっていたのだ、どちらかが必ず死ぬという事を。だから彼女は、踏切の中に自分の肉体を招き入れ、初めてそこで、遅れて死を覚悟したのだ。

 彼女は自分の超能力を恨んでいた。しかし、人の役にたつ事ができれば、少しは楽になった。悔いが残った事は、その事件の事ではない、彼女が成仏できないのは、誰かにその能力を打ち明けることもせず、亡くなってしまったという事だ。だから僕は、これを自分の前世として記憶してこうして書き留めることを選んだんだ。だから憧れを持つ人に警告しておきたい。霊能力や超能力なんて、あてになったり役に立つものばかりじゃない。

未来予知能力

未来予知能力

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-26

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