黒魔術の方法

 鏡の中の自分に、晴れた日にサンサンサンと唱える、これはたった一度しかやってはいけない魔術で、それも自分が考えたもの、やりすぎるとゲシュタルト崩壊をおかすし。術には特殊なアイテムが必要なのだが、たいていの人間はこれをもっていないのできっと実践できないだろう。

 ところで、それによって何がおこったか、さかのぼる事3か月前、僕はこの魔術が本当に存在する事をこの身をもって証明している。かといって何か役にたつ魔術なのかとか、それによって自分の生活の何がかわったのか、影響があったかと言われると、さほど日常生活に影響を及ぼしてはいないように思う。悪い事はないし、唯一自分にとって良かったと思うことは、近頃心がとても静かな事だ。

 その魔術の効果、それはパラレルワールドにいるといわれる他の自分と接触できること。まず僕は、あらゆる情報を駆使しして霊界と接触するツールが何がいいかと考え抜いた結果、糸電話が一番いいことにきがついた。糸電話に数滴の水をたらす、霧吹きが一番いいが、なければ少したらすくらいでいい。それを毎晩まくらもとにおいておくと、ごくたまに向こう側の世界からうめき声がきこえる事があった、それはほとんど意味のないうめきだったが。2度だけ異世界の自分と接触ができた。3か月前声がきこえてきた、僕に聞こえたのはこんな声だった。

「もう、女は嫌だあ」
「もしもし」
「ん?」
「もしもし」
「わあ!!」
「わあ!!!」

 初めに交信したのは、あまりに声量が大きい男で、独り言の多い男だった、初めのうちこそ、幻聴だなんだといわれたが、次第に彼は一人ごとのふりをして、僕と会話をしてくれるようになった。彼にきいたその顔かたちや、家族構成などは間違いなく自分そっくりだった、その男に、自分の未来や、地球の未来、起こりうる事件や起こった事件など、世の中の流れやニュースを全て話してもらったのだが、ほとんど一致しなかった、それから彼の性格は……女好き。あまり知的ではないのでめんどくさくなってきた、せっかく異世界の自分に生きるヒントでも貰おうと思ったのに。何より毎日女の話ばかりするのでうんざりした。こっちは毎晩、ベッドにもぐりながら限られた時間を浪費して人と話すのに、そいつはあまりに不真面目で、異性にもてすぎる自分だった。しかも相手は僕を神様だとおもっているらしく、どうすれば女とうまくいくかとひたすら訴えてくるし、毎日毎日ハーレムが作りたいと僕に相談してくるのだ。次第にいやになってきた。一週間ほどでいやになったので、風呂に入り、ベッドにもぐった11時半ごろ、接続をした直後に呪文を唱えた。

「キアータキアータ」
 
 これが接続をきる呪文。それから4日ほど何の変化もおこらなかった。彼からの連絡もなく、接続をきることに成功したらしい。それから1ヵ月ほどなにもなかった。
次に現れたのは生まれてから何の苦労もしたことがないという富豪の息子の自分だった。夜中3時に、ベッドと一体の頭側のテーブルの上に、糸電話の片側から声がひびく。
「もしもし、暇してる?だれか、僕は友達が欲しいんだ」
こいつとはなぜか気が合った、理由は後で説明するが、この男は、どうやらお金にものを言わせてなんでもいうことを聞く友人がいて、今回接続可能になったのもどうやら向こうからも同じ魔術を使ったかららしいことがわかった、しかも糸電話まで同じ。彼との会話はすべてメモにとり、重要な事を確認していく、身の回りの事、ニュース、未来や過去について推測でもいいから、お互いの考え、それによってこの魔術の一定の法則を探りあてる事に成功した。それは、彼の仮説によると、1身の回りの情報や、歴史、ニュースなども似ているものがほとんどない事から、どうやら自分に近い次元の存在とは交信することが出来ないという事。2一度交信をきったり途絶えたりすると二度と同じ世界と交信する事が出来ない事。3間違いなく異世界の“自分”と交信できること、
彼は非常に頭がいいらしく、それも家庭教師が優秀らしいことが関係しているようだった。金にものを言わせた結果なのだと自分でいうから僕は、さっぱりとした性格に、異次元の自分とはいえ、自分の事を少し好きになった。といっても1週間で自然と交信が途絶えてしまったが……。次の日ベッドの上で体をおこしたら、糸電話から相手の声がつたわってこなくなっていた。

 まさか本当に魔術が成功するなんて、これが初めての成功例だった、まあ、ただ単に頭がおかしくなったといわれればそれまで、ここまで読んでくれた人に、おまけで最後に秘密を一つ話そう、これは交信相手にも言っていない事だが、僕はまだ10歳だ。交信相手は両方とも20は超えていた。おかげで妙な倦怠感や貴重な経験はできたものの、10歳には刺激が強すぎる話だった。この3ヵ月で知らない事を知りすぎて、少し大人になりすぎた気がしている。これも術の効果か……。それから、初めに僕がいっていた、この魔術にどうしても必要な最後のひとつのものとは……物分かりの良すぎる友達、だ、試せるかどうかは、物分かりの良さの度合いによる、全ては自発的につくす人でなくてはいけない、いじめや、命令ですると、術の使用者に、不幸な出来事がおこる、たまたま僕には、なぜか僕の事が好きすぎる親友がいる。皆の身の回りにもいるといいけど。

黒魔術の方法

黒魔術の方法

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-26

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