壊れるアンドロイド

 広く長い、錆びた匂いのする鉄の滑り台を超えると、その先に廃棄場がある。廃棄場は波の音と潮の香りがする。それはわくわくする瞬間のようで、同時に、鈍い、生きていた命をすりつぶす音に、ひどく嫌悪感を覚えるのだった。そんな事を、もう何か月も繰り返している。僕らは一人なのに……。

 僕らは、みなアルテミス社製の鋼鉄人形「アンドロイド」兄弟たちにはこう話す。
「波打ち際はきれいだよ、そこからの眺めは素敵だよ」
それはそうだろう、たとえば僕らが人間で、たとえば男女のどちらかで、それならば、そばをとおる住宅のはざまを通る路地をぬけて、香る潮風をたよりに海をめざして、開けた空を見た瞬間に、手元の携帯端末があればカメラのシャッターを下ろしたくなるはずだ。だけど僕らの機能は人間と一緒でなければ役には立たなかった。どんなに努力をしても、アンドロイドは人間を超える事ができない、人間の感情を超える事ができない。

 だけど創造主は、スクラップでは決して消えないブラックボックスを残した、僕らの兄妹―—レム・シリーズは―—皆同じ夢をみて、そこで毎日を共有するのだ、そこには人間との思いでがたくさんある、僕らの創造主は、ブラックボックスに探知機をつけている、夜な夜な従業員が僕らの残骸を探しにくる、だから僕らは兄弟にいうんだ。

「波打ち際はきれいだよ、きっといつか、僕らも人間のように、素晴らしい人生を送る事ができるようになるはずだと」

壊れるアンドロイド

壊れるアンドロイド

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-24

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